33,半神コンビVS獣神兄弟!!
ギルジアの半神コンビ、アキレイナとパーレス。
メシュタミアの獣神兄弟、ウスムガギルとムシュルマガルチュ。
アリスたちが母神胎宮の奥へと消えた瞬間に、四柱は同時に動いた。
まずアキレイナとパーレスは考えた。
この戦闘に時間はかけるべきでない。一刻も早くこの獣神兄弟を撃破し、脱出経路を確保すべき。
二柱は各々の戦力と戦闘スタイルを完璧に把握している。
自分たちが組んで戦う場合、圧倒的制圧力を誇るアキレイナが突撃し、パーレスは後衛からサポートに徹する形になる。この陣形はお互いのコンビネーションもあって最強無敵に近い。隙など皆無――しかし、早期の決着を目指す場合は微妙。パーレスと言う本来主力級の神がサポートに徹するからだ。
敵が単体ならばこの作戦が最適だろうが、敵は二柱。
であれば、パーレスの補助を受けたアキレイナが一柱ずつ倒すより、各個撃破の方が早い!
そこでアキレイナとパーレスはアイコンタクト!
――やれるよなァ、パー坊!
――当然。あ、手当てが面倒だから、怪我しないでよ。
と言う訳で、アキレイナとパーレスは同時に左右へ跳んだ。
もしこの動きに獣神兄弟が応じなければ、アキレイナとパーレスは獣神兄弟を挟み撃ちにできる。更に言えば、獣神兄弟を無視してラフムラハムを叩きに一直線、なんて行動も取れる。アリスたちと違って、アキレイナとパーレスを通すほどウスムガギルとムシュルマガルチュも楽観的ではないだろう。
強制的に、相手戦力を二手に分けさせる一手!!
一方、ウスムガギルとムシュルマガルチュも考えた。
ギルジアのアキレイナとパーレス……天界でも有名な腐れ縁コンビだ。
それをまとめて相手取れば、どんな変態コンビネーション殺法がトんでくるか分かったものではない。
兄弟だけあってウスムガギルとムシュルマガルチュも互いの戦力や戦闘スタイルは完璧把握。兄弟テレパシーによる意思疎通により連携力はあるが――いかんせん、互いに支援向きの権能が皆無……コンビネーションの勝負になれば、不利は明白!
であれば、一対一の状況に持ち込むべきであろう!!
あとはどちらがどちらを相手するか。
ウスムガギルは近距離戦が得意だ。ムシュルマガルチュは広範囲攻撃が得意。
であれば、弓を得物とするパーレスとウスムガギルがマッチングするのは避けたい。
そこでウスムガギルとムシュルマガルチュはアイコンタクト!
――我、アキレイナまるかじり。
――おけ。自分はパーレスまるかじり。
故に兄弟は左右に跳んだ!!
ウスムガギルはアキレイナ側、ムシュルマガルチュはパーレス側!
この動きにアキレイナたちが応じなければ、ウスムガギルたちは彼らを挟み撃ちにできる!
なんならアキレイナたちの背後の闇の奥にある地上へ続く階段を破壊して塞いでしまうと言う行動も取れる!
そんな訳で、お互いに利害一致で即座にマッチング完了である!!
「ハッ!! そっちも各個撃破狙いか!!」
そりゃあ好い!! とアキレイナが吠え、加速。
俊足が火花と紫電を散らし、闇を斬り裂きながら旋回軌道でウスムガギルへと突撃する!
「ウワサ通りの疾さ! だがっ!!」
目にも止まらぬ金色の疾風――アキレイナの全速力突進軌道を読んで防げる者は、天界でも一握り!
ウスムガギルも今のままではアキレイナの残像しか追えない……今のままでは!
「神性顕現。メシュタミア・クラン所属、登録神名:ウスムガギル・ギルダクルール――GAOOOOOOOOOO!!」
咆哮と共に、ウスムガギルの全身に異変!!
筋肉と毛の膨張っ!! 骨格の大変形!! 瞬きの間に、ライオンのような大男はまさしく二足歩行の巨大ライオン怪獣へと変身した!!
「ネコ科的動体視力――そこだ!!」
アキレイナが光速に近い突撃から繰り出した三又槍の横薙ぎ払い。
ウスムガギルの獰猛な爪の束が、その穂先と衝突!! 轟音と共に、凄まじい閃光が散る!!
「っ、おいおい……パワータイプなのは見た目通りだが、俺の全速力に反応できンのかよ!」
アキレイナが槍を振ったのとウスムガギルが腕を振ったのは同時。
互いに互いを払い飛ばし、距離を取って構え直す。
「かァ~……! もっと勝負を楽しめる状況でやりたかったぜ、ライオンの旦那ァ!!」
「ギルジアのアキレイナ、その武勇は聞き及んでいる。我も武侠……純粋に戦いを楽しめる状況で貴様と爪牙を交えたかったのは、まったく以て同意だが――」
ウスムガギルの筋肉が、更に怒張!!
尻尾が膨らみ、全身の剛毛が硬質化してさながら黄金の鎧と化す!!
「我らが母のため、ここで貴様を仕留める!!」
「こっちはマブダチのためだ!! お互い、負けらんねェなァ!!」
「まったく、だ!!」
◆
一方、パーレスVSムシュルマガルチュ。
「神性顕現。メシュタミア・クラン所属、登録神名:ムシュルマガルチュ・バシュルッル――SYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
早速、ムシュルマガルチュが形態変化!
ヘビのような舌をちろちろさせていた細長男は、八つの頭とサソリの尾を持つ山のような大蛇へと変貌した!!
「まるでメドゥーサ・ゴルゴーンの頭かヒュードラだね……もしかして、石化能力とか理不尽な猛毒とか使ってきたり?」
「ヒヒヒヒ……そんな便利なものは使えないさ。ただ――」
そう言って、ムシュルマガルチュの八つのヘビ頭が同時に大口をカッ開いた。
途端、それぞれの口元に無数の神術陣が展開される。
「げっ」
「この頭ひとつひとつが」「完全独立した自分自身だ」「つまりキミはこれから」「八方向からの攻撃を」「同時に捌かなければならない」「って事だね」「ヒヒヒヒ」「と言う訳で――八連装頭砲撃陣!!」
八つの輝き。そして、放たれる色彩豊かな光の暴力。
属性のまったく異なる神パワーの塊が、八連装の大砲から連射されているようなもの!!
「あーもう、面倒なの引いた!」
パーレスは弓の名神である。その眼はタカの眼なんてものではない。
豪雨の如く降り注ぐ神パワーの光を躱しつつ、躱しきれないものは咄嗟に矢を放って相殺・または減速させる事で対処する。
「高火力で広範囲を焼き尽くすタイプか……!」
通りで簡単に二手に別れてくれる訳だ。連携もクソも無いゴリ押しタイプめ!
パーレスに取っては苦手と言うか、本当に面倒なスタイルの敵だ。
軽く舌打ちしつつ、パーレスは矢を弓にあてがって、神パワーと術式を込める。
「このタイプはさっさとブチ殺した方が楽なんだけど――アリスちゃんと約束しちゃったからね。幸い、ちょうど良い権能がある」
あの子、レイナと似てるとこあるんだよなぁ……なんてつぶやいて、パーレスは矢に込めた術式を起動。即座に構える。狙うは光の雨の中にできたほんの僅かな隙間。針の穴めいたその僅かな空白目掛け、パーレスは何の躊躇いも無く矢を放った。
「権能拝借――太陽神性:頭蓋割光」
バヂヂヂヂヂと帯電しながら、パーレスの矢が飛ぶ。
光の雨を縫って、縫って、まるで導かれるように僅かな隙間をするりと抜けて、その一矢はあっさりとムシュルマガルチュの一番右端の頭に直撃した。
瞬間、カッと山吹色の閃光が爆ぜる!
「SYA!?」
短い悲鳴を上げ、一番右端のムシュルマガルチュが白眼を剥いて崩れ落ちた。
「なっ……一撃で」「第一ヘッドが」「気絶した!?」
「当然。そう言う術式だ」
――頭に直撃した場合、問答無用で意識を刈り取る。
元はギルジアの太陽神が持つ円盤投げの逸話に由来する権能。
パーレスはその太陽神の寵愛を受けているため、いつでも気軽に権能を拝借し、矢に帯びさせる事ができる!
それがパーレスの【太陽神性:頭蓋割光】!
まぁ、相手の神パワーが自分より下でないと、術式を相殺・完全無効化されてしまう難点もあるのだが……。
「わざわざそっちから神パワーを八分割してくれてるんだもの。助かるよ」
頭はひとつ潰した。これで光の雨は弱まる。あとは繰り返しだ。
すべての頭を、ひとつひとつ――
「SYAAAAAAAAAA!!」
「え……!?」
白眼を剥いてだらりと垂れたはずの頭が――勢い良く跳ね起き、吠えた。
「そんなバカな……いくら何でも復活が早すぎるだろ!?」
驚いている余裕は無い。八つの頭による術式砲撃が勢いを取り戻した。
パーレスは回避行動を取りつつ、事態の把握に努める。
「っ……あの頭、矢が当たった痕跡まで綺麗さっぱり消えている……!?」
「ヒヒヒヒ……」「その通り」「ひとつひとつ頭を潰していけば」「良いとでも思ったかい?」「残念なお知らせだ」
ムシュルマガルチュの八つの頭が、術式砲撃の合間合間にヒヒヒと笑い声を上げる。
「自分の頭はねぇ」「すべてが【同期】しているのさ」「例え七つの頭が」「木端微塵に吹き飛んだとしても」「ひとつでも無事な頭があれば」「その頭の状態を」「他の頭に同期できる」「つまり――」
「八つ同時に潰さなきゃ、意味が無いって事か……!」
ギルジア・クランの多頭ヘビ型神獣・ヒュードラも似たような性質だが、あちらは「破壊された頭が即座に再生する」と言う能力。意識を奪うだけなら「破壊」の要件に引っかからず、発動しないと言う穴があるのだが……ムシュルマガルチュの能力に同じ穴は無いらしい。
本当に面倒だな!! とパーレスは心の底から舌打ちした。