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32,進め、母神胎宮!


 宣言を終え、ラフムラハムが地面から拳を引き抜いた。


「貴様……自分が何を言ったか、わかっておるか?」

「…………………………」


 ワシの問いに、ラフムラハムはただ苦しそうに俯いた。


 こやつは今――天界全体に、宣戦布告をした。

 しかも、ワシが人質じゃと? おのれ……!

 そう聞いて、おとなしくしておるワシじゃと思っておるのか!?


 聞くに、ワシらさえこの【母神胎宮ぼしんたいきゅう】とやらからいなくなればオッディたちが力づくでここに突入できるらしい。ならば、ワシが目指すべきはラフムラハムとその弟たちウスムガギル&ムシュルマガルチュの手から逃れこの空間から脱出する事じゃろう。


 まったく……また脱出か!

 日に二度も妙な空間に拉致・監禁されるとは思わなんじゃ!!


 ともかく、ここは逃げる算段を――ぬおっ、と。クリアスがワシを抱っこした。頼もしいパワーに満ちた腕じゃ。ワシを抱えて走る気マンマンじゃな。

 幸い、ここにはアキレイナとパーレスもおる。こやつらの足の速さはよく知る所。

 逃げに徹すれば、そう難しい事は――


「…………………………」


 ――ラフムラハムと、目が合った。


「――!」


 苦しそうに揺れる瞳。

 当然じゃ。まともな心があれば、世界を滅ぼす罪なぞ耐えられるはずがない。

 呵責に苦しみもがくのは当然。アシャワシャも罪の意識に苛まれ、瞳が揺れておった。


 じゃが、ラフムラハムとアシャワシャには決定的な違いがあった。


「何じゃ、その目は……!」


 ワシは、あの目を見た事がある。


 かつてイケメン・ニルヴァーナで対峙した美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の一人、ダンダリィ。

 広大な闇の中で独り、あんな瞳で佇んでいた。


 ――こんなはずじゃなかった。

 ――こんな風にはなりたくなかった。

 ――誰か、助けてくれよ。


 そんな目で、貴様は――


「……っ」


 不意に、ラフムラハムがびくっと反応し、片手で耳を押さえた。

 少し過呼吸の兆候を見せながら、ラフムラハムは何度も「うん、わかった。うん。わかったよ」とつぶやきながら頷くと、


「弟たち……母さんからお告げが来た。おれは母さんの元にレ~ヴァティンを運ぶ。封印の解除を進めるんだ。お前たちは……こいつらを、母神胎宮から逃がすな」


 ラフムラハムの指示に、ライオンヘアの大男・ウスムガギルが拳を鳴らしながら「承知」と応えた。

 ヘビ舌をちろちろさせる細身長身の男・ムシュルマガルチュはゴキゴキと背骨を鳴らして「あいあーい」と間延びした返事をする。


 ラフムラハムは身を翻すと、レーヴァティンを抱えて母神胎宮の奥、闇の中へと去っていった。


「っ、待て! ラフムラハム!」


 あやつを……あのまま行かせる訳には!

 ぬぐ! クリアスよ放せ! ああんもう相変わらずの腕力じゃな!


「アリスさま!? 一体なにを!? ここは奥へ進むのではなく出入口へ逃げるべきですよ!?」


 ククミスルーズよ、分かる、分っておる!

 この状況でラフムラハムを追いかけるのが愚策である事くらい!

 じゃが、ワシは――


「おう、ンだよアリス。てっきりこの場から逃げる算段をしてンのかと思ったンだが……良いねェ。さっすが俺のマブダチだ!!」


 そう元気良く叫び、ワシとクリアスの横に出たのは――右手で三又槍をを構え直し、左手で腰に下げておった丸盾を取ったセーラー金色ツインテ男子・アキレイナ。


「やァっぱあの兄サンの様子は放っとけねェよなァ!!」

「……どっちも正気の沙汰じゃあないんだよなぁ」


 そんなアキレイナに並び立ったのは、小弓に光の矢をあてがって構えた銀色キノコ頭男子・パーレス。


 ギルジアの半神二柱が、メシュタミアの獣神二柱と対峙する。


「さァて!」


 アキレイナが吠え、大きく三又槍を振りかぶった。


「いざと言う時にさっさと脱出するための道は、俺とパー坊で確保しておくぜ。アリス、テメェらはちゃっちゃとあの兄サンの所に行きな。あの面は、独りにしちゃあダメな奴だって俺の直感が言ってらァ!!」

「あんな危ない奴、放っとけば良いのに……まぁ、それができるような性分なら、例のゲームを終わらせられるようなタマじゃあないか」


 パーレスは呆れた半目でワシとアキレイナを交互に見たが、観念したように首を振った。


「キミは人質らしいからヘタな事はされないだろうけど……あの様子じゃ冷静な判断は期待できない。ほんの少しでも身の危険を感じたら、すぐに戻ってきなよ?」

「貴様ら……!」


 クリアスとククミスルーズの顔を見上げる。両者とも少し渋い顔をしたが、やがて意を決したように頷いた。

 クリアスは「少しでも危険を感じたら、問答無用で離脱します」と念押し。

 ククミスルーズは「こうなればどこまでだってガイドいたします!」と激しく翼を振った。


「皆、ありがとうなのじゃ!」


 ワシの礼を合図に、クリアスがワシを抱えたまま走り出す。

 ウスムガギルもムシュルマガルチュも、止めに入る様子は無し。


「所詮は下界の生物二匹に御使い一機。兄者の邪魔などできる訳も無し」


 擦れ違い様、ウスムガギルがそうつぶやいたのが聞こえた。

 ラフムラハムの指示はワシらをこの母神胎宮から逃がさぬ事、奥に進む分には止めぬ、と。

 まぁ、こちらとしては都合が良いのじゃ!


「すまぬが頼んだぞ、アキレイナ! パーレス!」

「合点だァ!! 任せとけ!!」

「はいはい。なるだけキミ好み――できるだけ穏便に片づけておくよ」


 助かる!


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