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28,友達なら亜光速で引きずり回しても問題無いよね!


 ――決まった。


 眼が眩んだアシャワシャが大きく背を曲げた瞬間に、クリアスがメイドモードへと移行。

 隙だらけになったアシャワシャの手から、天秤とレーヴァティンを奪取してみせた。


 すると、周囲の景色が揺らぎ――刹那の内に、元の飼育小屋と畑へと戻った。

 先ほどアシャワシャが言っておった通り、天秤があやつの手を離れたためフィールド展開が解除されたのじゃろう。


「くっ……誠実に認めよう。読み負けたと」


 心の底から悔しそうに呟いて、アシャワシャが膝を突いた。

 かなり激しい光が直撃したはずじゃが、その目は既にワシらの姿を捉えておるようじゃ。回復が早いな。やはり神か。


 クリアスはアシャワシャの動きを警戒しつつ、天秤とレーヴァティンを手にワシの傍らまで戻って来る。


「どう、動くべきだ……当方は……誰も傷付けず、天秤とレーヴァティンを取り戻す算段は――」


 目の色も口ぶりも、まったく諦めておらぬな。

 負けを認めたのは先の攻防についてのみか。


「クリアス、ヴィゾブニルの背に乗せてもらえ! ヴィゾブニル、逃げるぞ! 頼めるか!?」

「承知の鶏」


 天秤とレーヴァティンは奪取した、これをオッディかフレアに届ければアシャワシャはもうどうしようも無いじゃろう。

 ここでこれ以上あやつと揉める必要は無い!


「誠実に逃がすものか……!」


 アシャワシャがフラつきながら立ち上がり、何かアクションを起こそうとした――その時。


「アリスゥ、見ッけェ!!」


 ハツラツとした雄叫びのような声を上げ、ワシらとアシャワシャの間に凄まじい勢いで滑り込んできたのは――


「アキレイナ!? ――と、アンリマン!?」


 金髪ツインテールを風に躍らせながら現れたセーラー服の恵体男児、半神・アキレイナ。

 そしてその小脇に抱えられておるのは、乗り物酔いっぽい顔色で口元を抑える真っ黒少年、悪神大将・アンリマン。


「僕もいるよ」


 そして矢に乗って空中移動しておったらしいキノコ頭の学ラン青年、半神・パーレスがすたっと着地。


 突然乱入してきた三柱に、ワシ以外の皆も驚愕――って、アシャワシャに至っては完全に固まっておるな。いくら何でも目を剥き過ぎでは……? そんなに信じられないものを見るような目で……。


「よォ、アリス! 何か見た事ねェ姉サンとおもしれー生き物に乗ってんな!」

「アキレイナ、貴様いきなり何故こんな所に……あ、そう言えば貴様の御母堂が心配しておったらしいぞ!?」


 さっきフレアが言っておった。


「おォう! 実はよォ。この悪神の大将サマと迷宮を攻略する系の青春クエストをやってたんだが、それですんげェ時間を食っちまってなァ! まさか日付が変わってるたァよ!! 母ちゃんにゃあ後で連絡しとくわ!!」


 かんらかんらと笑うアキレイナ。

 一方、隣のパーレスは「本当、勘弁して欲しいよ……まさかアリアデの糸も無しにミノスの大迷宮にぶち込まれるとか。頭おかしいよこのイベントまじで」と遠い目で頭を抱えておった。


 何かすごく大変なクエストじゃったらしいな。


「で、だ。クエスト終わった途端によォ。大将サマが『放課後はアリスと会う約束をしてたのにー!!』って騒ぎ出したから、ご覧の通り連れて来たぜェ!!」


 運んで来たの間違いでは?

 そしておそらく貴様、アンリマンに無許可で運んで来たじゃろ。アンリマン完全に暴れ馬に引きずり回されてグロッキーになった系の顔しておるじゃん。顔面蒼白でほぼほぼ白眼じゃん。


「と言うか、ワシがここにおるとよくわかったな……」

「直感!」


 この野生児よ。


 って、待て。今は呑気に漫才をやっておる場合では……。


 ……アシャワシャ、未だに固まっておるな。

 ようやく動いたと思ったら、レンズが弾け飛んだ眼鏡を外して目をこすってから、アキレイナの方――と言うか、グロッキーになっておるアンリマンを凝視。


「おン? そこにいンのは昨日の灼熱お灸の旦那じゃあねェか! そう言や、この大将はあんたの上司に当たるンだっけか?」

「レイナ。同じゼロアスターでも悪神と善神は管轄が完全に別らしいから。お隣のお偉いさんって感じだと思うよ」

「……誠実に、質問したい。構わないか」


 呆然とした表情のまま口を開いたアシャワシャに、アキレイナは「おう!」と元気に頷いて返す。


「アンリマンさまと、青春クエストを受けた……つまり、アンリマンさまは、お前たちと友達になる事を承認したのか?」

「ああ、悪神の体裁が何だと色々とゴネてたが、結局『半神はグレーゾーン』って事で納得したみたいだぜ!!」

「あれは納得したんじゃなくて納得させただよ」


 パーレスの補足で、アキレイナとアンリマンの間にどういうやり取りがあったかなんとなく想像できるな。完全に勢いで押し切るわんぱく交渉術と言った所か。


 呆れ顔をしておると、不意に――アシャワシャが声を上げて笑い始めた。

 高笑い、と言うか、ヤケクソ笑いと言うか、どんでん返しを見せつけられて「そんな事が起きるのか!!」と大笑いしておるような、そんな笑い方。


「ああ、ああ! 半神……そうか、原初はじまりには無かった概念ルール! 当方たちゼロアスターには未だ存在しない概念ルール!! 焼かずとも、消さずとも、『付け足す事』で解決できたのか! こんな……こんな簡単に! はは、ははははははははははははははははははははは!!」

「……お灸の旦那、どっかに頭でもぶつけたのか?」

「もしや、増幅された我の光が何か良からぬ影響を……?」

「うおッ、そのデケェ鶏って喋るのかよ! そろそろ起きろ大将! お望みのアリスと、何かおもしれー鶏がいンぞ!!」


 いや、もうアンリマンはそっとしておいてやれ。完全に白眼剥いておるし。


 と言うか、アシャワシャは一体どうしたのじゃ……?

 狂ったように笑い続けて……あ、止まった。急に落ち着きおった。不気味じゃな。


「……誠実に、認めよう。当方は感情的になり過ぎて、視野が狭く、考えが浅くなっていたのだと。既成のルール、固定の概念に縛られていたのは当方の方か……」


 未だに微笑が残るその顔に、先ほどまでの悲愴な覚悟は面影も無い。


「終わりだ。アリス。当方はもう、世界を焼く理由が無くなった。正義ジャスティスやり方(アプローチ)を今、教えてもらった」

「!」


 何じゃかよくわからぬが……誠実を徹底し、アホみたいに不利な状況でも一切ワシらに反撃しなかった男じゃ。その言葉に疑う余地は無いじゃろう。

 それに、あの憑き物の落ちたような微笑――もう、バカげた真似はするまい。


「すまない。騒がせてしまった。迷惑をかけた。謝って済む事ではないのは承知している。この埋め合わせは、いずれ必ず……今は、正義ジャスティス執行委員会へ自首――」


 言葉の途中でアシャワシャはふらりと体勢を崩し、ずしゃあと糸の切れた人形の如く倒れてしまった。


「アシャワシャ!?」

「ウサギさんたちから受けたダメージが……」


 ああ、ボディは後から来るからな……。

 しかもウサギさんたちにボッコボコにされた後、あれだけ激しく走り回って体力を消耗した訳じゃし……そりゃあ倒れるのも無理は無いか。


 何はともあれ、一件落着……で、良いんじゃよな?


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