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27,鶏と竜のエンハンス・サンシャイン。


 分からない。


 当方は、この胸の疼きの正体を理解しない。


 我らゼロアスター・クラン、悪神の軍勢が住まう【悪神群領域(ヴェンディ・ダンドー)】の視察にて……独り、砂山を均し続ける小さな背中を見つけた、あの時から。


 この胸の髄を貫き、ずくずくと疼き続ける何か。


 当方は、天の法(アシャワシャ)


 正義ジャスティスを是とする機構システムの具現。あらゆる事象に対し、我らが善の主神・アフラマスダさまが定めた善の法典を参照し、事務的に、最適な措置を講じる存在。


 故に、認めてはいけない。理解してはいけない。


 この疼きの正体を、言葉にする事は許されない。


 当方は正義ジャスティス機構システム

 天の法を示す善の神。


 ……許されるものか。

 許してなど、もらえるものか。


 ただ直感的に……「救われて欲しい」と思っただなんて。

 神性だの、善だの悪だの――「くだらない」、そう思ってしまっただなんて。


 悪神の大将である……いや、悪神の大将で在れと世界に決められてしまった貴方を見て。

 当方はただただ漠然と、「この世界の在り方(ルール)は間違っている」……そう思ってしまったのだ。




   ◆




 アシャワシャは眼鏡をくいっとして、肩越しに後方を見る。

 背後からドドドドドドと轟音を立てて追い立ててくる謎の鶏、その背には黒衣の幼女アリス、翡翠のスコップと化したスカンディナヴァ・クランの御使い、そして先ほど水晶の竜へと変身してみせたメイド服の竜系魔人。


「誠実に感心する」


 先ほどは完全に出し抜いたつもりだが、追跡者たちの目の輝きに陰りはない。


 アシャワシャは走りながらレーヴァティンの封印へ干渉。

 この手応えだとまだまだ時間が要るなと判断し、時間稼ぎのために思考を回す。


 焔の天秤が生み出した空間は【フロントロビー】【法廷】【東廊下】【西廊下】【証言者控室】【被告控室】【裁判官控室】【弁護側控室】【検察側控室】から構成されている。


 廊下は基本的に一本道。今は知っている東廊下はフロントロビーから弁護側控室への直線廊下で、その中腹に法廷へアクセスできる出入口があると言う構造だ。

 このまま真っ直ぐ進めば、弁護側控室……行き止まりの部屋。

 ここは途中の出入り口から法廷へ戻るのが最善だろう。法廷に入れば証言台の周りをぐるぐる回って逃げる事で時間も稼げる。


 理想は法廷で証言台ぐるぐるからのどちらかの廊下へ行きフロントロビーに抜けてから再法廷に突入してまた証言台をぐるぐる、廊下、ロビー、ぐるぐる、廊下……と言うループコースに入る事か。

 とにかく、証言台ぐるぐるを起点とした逃走ルートの構築がマストでベスト!


 さぁ、もうすぐ法廷への出入り口が見える――となれば、仕掛けてくるだろう!


 アシャワシャの予想通り、背後で動きがあった。

 先ほどと同じようにメイド服の竜系魔人が鶏から飛び降り、筋力と魔力のブーストで瞬間的超加速。アシャワシャへのタックルを試みる!


「何度でも誠実に賞賛しよう。有効な手だ」


 タックルを受ければ、倒されるしかない。変に耐えれば反動でメイド服の竜系魔人が怪我をしてしまう可能性があるためだ。故に必然、躱す事になるが、そうすれば先ほどと同様にドラゴンモードで道を塞がれ、法廷の出入り口は諦めざるを得ない。


 ならば、また切り返して今度は真っ直ぐ向こう、フロントロビーを目指すだけだ。

 ロビーからなら結局、法廷へアクセスできる!


 メイド服の竜系魔人のタックルを躱すと、予想通り。アシャワシャの前方を塞ぐ形で水晶竜へと変貌、その巨体で廊下を塞いだ。


 では予定通り切り返す。とアシャワシャはくるり反転。

 先ほどと同じように、やたら大きな謎の鶏の股の間を華麗に抜き去ってしまえば良い……などと、甘く見たりはしない。


 発生する、駆け引き!


 このままでは先の再現――それは、アリスたちも承知のはず。

 では、先ほどとは違う何かをここで仕掛けてくる!


 アシャワシャは眼鏡を、知性を象徴するアイテムをくいっくいっ!

 これにより何だか頭が冴える! 眼鏡とはそう言うものだ!!


 そして冴えたアシャワシャは読み切った!

 おそらく股の間を抜き去られないように、アシャワシャが抜こうとした瞬間に股を閉じる魂胆だろう、と! サッカーのゴールキーパーが股下を抜かれそうになった時、咄嗟に股を閉じながらしゃがみ込むファインプレーのように!!


 それを読んだならば、当然、鶏の脚のサイドから抜ける――と、ここまで考えるのはアリスたちも想定しているはず。ならばおそらく、アシャワシャがサイドに抜けようとした瞬間にアリスが翡翠のスコップを使って、アシャワシャの通行ルートに足を引っかけるための植物を生やすだろう!


「誠実に宣言する。読み切ったぞ」


 アシャワシャの結論は――上だッ!!

 神パワーを両足に集中。火花を散らすほどの踏み込みで、跳躍!!


「のじゃ!?」


 この狭い廊下で跳躍すれば……当然、天井に頭をぶつける!

 ゴッツンコだ! 痛い。だが構うものか。ぶつけた頭を擦りながら、アシャワシャは神パワーを噴射して空中滑走! アリスたちの頭上を抜け、鶏の尾羽すれすれを過ぎて着地――が、頭をぶつけた鈍痛により若干、体幹が崩れた。しかしただで転ぶなどと言う無様、善神には似合わない。ごろんと前転一回転倒立から受け身へと繋げ、立ち上がると共にスタートダッシュ!!


 ――だが、すぐに急ブレーキを踏む事になる!


「!!」


 廊下に焦げ付くブレーキ痕を残しながら、アシャワシャは僅かに目を剥いた。

 前方……蔦の壁が、廊下を完全に封鎖しているのだ!!


「なるほど。誠実に感心した。置き壁――当方の前方に壁を作るのが間に合わないのなら、後方に作ってから方向転換させれば良い、と」


 何ともシンプル、言葉にしてしまえば幼稚な手! 故に嵌められた!

 だが、まだまだ詰みには程遠い。蔦の壁と水晶の壁、その狭間の空間でひたすら鬼ごっこをすれば良いだけの話なのだから!


 当方は鬼ごっこで負けた事など無いぞ、とアシャワシャはアリスたちを見据える。

 すると、後方を水晶で塞いでいたドラゴンがメイド服の竜系魔人に戻り、鶏の前に立っているのが見えた。


「……何故、壁を解いた? 誠実に忠告するぞ。当方はお前たちの手を掻い潜る手段などいくらでもある。道の封鎖を解くのは悪手だ」

「道を封鎖しておっても、その封鎖された空間で永遠に逃げ回られては意味が無いじゃろう」


 見た目は幼女でも千年筋肉。

 アリスの的確な言葉に、アシャワシャは「確かに。それは誠実に肯定しよう」と頷いて返す。


「であれば、こうじゃ。頼んだぞ、クリアス! ヴィゾブニル!」


 アリスの号令を合図として、メイド服の竜系魔人が発光。三度、ドラゴンモードへ!!


「……?」


 アシャワシャが眉を顰めるのも無理は無い。

 位置関係としてはアシャワシャとメイド服の竜系魔人を挟んで鶏にRIDEしたアリスと言う形だった。そこでメイド服の竜系魔人がドラゴンモードになったら……アシャワシャとアリスたちの間に水晶の壁が発生する事になる!

 これでは、アリスたちはアシャワシャに何も仕掛けられない……否。


 水晶竜の透き通る巨体の向こう――アリスは自信満々。鶏も、水晶竜も狼狽える様子は無い……即ちこれはアリスたちの作戦の内。


 であればアシャワシャは眼鏡をくいっ。


「成程、地面したか」


 読み切った。

 水晶竜の壁を更に手前に寄せる事で封鎖領域を縮小、その狭めた範囲内に翡翠のスコップで遠隔蔦攻撃を仕掛ける算段と見た!


「だが、誠実に忠告する。その御使いのパワーがどこまで持つか、疑問視するべきだ」


 いくら御使いが神の眷属と言えど、所詮は眷属。そのパワーは有限。

 先ほどから何度も植物を召喚した上に、縮小したとは言え封鎖空間はそれなりの広さ。

 この空間を埋め尽くすほどの植物を召喚する余力が残っているのか、甚だ疑問である。


「ご忠告には感謝いたします。ですが、クゥの役目は既に終了。ご心配には及びません!」

「……なに?」


 翡翠のスコップ――植物を召喚する御使いの役目は既に終了している?

 つまり、今、アシャワシャの背後にある蔦の壁を形成した時点で?


 ……では、一体、どんな手を打つつもりだ?

 アシャワシャは眼鏡をくいっとして思考を回す。


 まだ自分が把握していない遠隔起動系のカードをアリスたちが持っている?

 その可能性を第一に据え、アシャワシャは警戒。周囲の光を集めてキラキラと煌めく水晶竜から透けるアリスと鶏を見据え――待て。


 アシャワシャが大きく目を開いたのは、ある組み合わせに気付いたから。


 キラキラキラキラと輝く水晶竜の美しいボディ……周囲の光を集めて増幅する――水晶体が持つ光量増幅エンハンサー性質だ。辺りで揺らめく炎の光を取り込み増幅しているのだろう。

 そして、水晶の向こうに透けて見える鶏――その鶏冠とさか。先ほど、アシャワシャの天界謹製・神サングラス(色無し・度付き)でも耐久ギリギリだった強烈閃光を放った部位。


「まさか――」


 気付き、後ろを向こうとしたが……一手、遅かった。


「今度こそ喰らうが良い。我が必殺の――モォォォニングゥ、フラァァァッシュッ!!」


 初日の出が如き光々しさで、鶏冠が光輝に満たされる。

 その輝きは前方、水晶竜の巨体に取り込まれ増幅エンハンス

 水晶竜が咆哮と共に口を広げ、光のブレスと言う形でアシャワシャへ照射された!!


「っ、が……こ、これは……!!」


 アシャワシャの眼鏡に、亀裂が走る!!

 天界技術の粋を集めた無色サングラスが、ビシビシピキィッッと悲鳴を上げる!!


 防げるはずがない。


 数え切れぬほどの年月、歴史と呼んで差し支えないほどの日々。朝が来る度にその光を誰よりも早く浴び続け、常に太陽と共に在った強い鶏が放つ光。その光が増幅・集束され、アシャワシャだけを狙撃する形で照射されたのだ!!


「ぐ、ぐああああああああああああああああああああああああああ!?!?!!」


 パリィンッッッ!!


 眼鏡サングラスが砕け散る!!

 瞼を塞いでも防ぎ切れはしない光の暴力が、アシャワシャの眼から一時的に光を奪う!!


 そして――


「今じゃ!!」


 響いたのじゃロリの声。


 視覚を潰され無防備になったアシャワシャの手から、天秤とレーヴァティンが――奪取された!!


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