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25,神性が悪事に向いてない。


 アシャワシャを止める。なんとしてでも。


 とは言うが……さて、今のワシに何ができるか。

 筋力も無い、魔力も無い……余り褒められる手ではないが、ここはククミスルーズとクリアスをあてにするのが最善か……仮にこやつらを頼るとして、アシャワシャ――炎を操る神に対し、安全面に配慮しつつどう立ち回ってもらうのが正解か。


 そんな思考を巡らせ始めたその時、


「眼鏡の汝。この強い鶏がひとつ、問うのである」


 口を――いや、嘴を開いたのはヴィゾブニル。


「……良いだろう。誠実に答える」


 あ、今アシャワシャ頷く前にめっちゃ「……そう言えば冷静に考えて何だこの鶏」って感じの顔したな。確かに、アシャワシャからするとよくわからん生き物……ああ、いや、ワシからしてもよくわからぬ生き物じゃが。


「世界の在り方(ルール)を焼き払う――それはつまり、『朝になれば太陽が昇る』……その理すらも、焼失すると言う事か?」

「そうなる。また同じようなルールが定められる可能性もあるが、そのまま無くなるか、別の代替的ルールが創られる可能性も有り得なくは無いと考える」


 アシャワシャが回答した瞬間、法廷内の空気が変わった。


 ……これは、神パワーか!?

 ヴィゾブニルを中心に、とんでもない密度の神パワーが噴出。法廷内を満たしておる……!?


「単なる神々の内輪揉めであるならば下らぬと一笑に伏す所であるが……話が変わったのである」


 先ほどまでの訳のわからん鶏としか言いようの無い雰囲気はどこへやら。

 真っ直ぐにアシャワシャを見据えるヴィゾブニルの風格は、勇猛な獣――なるほど、神獣と呼ばれただけはある。


 一方、アシャワシャは眉ひとつ動かさず、ただただ眼鏡をくいっとした。

 反発は想定内、と言う事じゃろうな。


「ヴィゾブニル、理解はできんかったが貴様にもあやつを止める理由ができたのならば、手を貸してはくれぬか?」

「当然の鶏」

「ホウ! アリスさま、クゥにもできる事があれば何なりと!」


 ククミスルーズの声に続いて、クリアスもワシを見ながらこくりと頷いてくれた。

 頼れば応えてくれる者がおる……有り難い。


 あとは、手を考えるだけじゃな。


 まず、ワシらが達成すべき要件。「アシャワシャを止める」と言う目的の具体的手段。

 言葉での説得……は、難しい。あやつの動機が分からねば、交渉も何も無い。そして、動機については毛頭語るつもりが無い様子。


 であれば、実力行使しかあるまい。


 要するに、あやつがレーヴァティンの封印を解けない状態にすれば良いのじゃろう。

 ワシらを拘束してスカンディナヴァ・クランへの連絡を妨害しておると言う事は……スカンディナヴァ・クラン、オッディやフレアたちにこの事を伝えれば、あやつの目論見を頓挫させられるはず。


 故にワシらがやるべき事は二つ。


 一、この法廷から脱出し、オッディたちと接触を図る。

 二、可能であれば、一を達成しつつレーヴァティンを奪取する。


 方法の目途もついておる。

 アシャワシャの口ぶりからして、あやつが持つ天秤……あれがこの法廷を形成し、そしてこの空間への入退室を管理しておるはずじゃ。


 まずはあれを奪うか、破壊する!


「天秤狙いか」

「!」


 視線から狙いを読まれたか、アシャワシャが眼鏡をくいっとしながら見せつけるように天秤を掲げた。


「誠実に答えよう。中々の慧眼だ。肯定する。この天秤が当方の手を離れた時、この裁判所は閉廷し内部の者は釈放される」

「……余裕のつもりか」


 語った所で、ワシらではそれを達成する事など不可能じゃと。


「否。当方は誠実を信条とする。当方が言葉を以て回答できる質問には、すべて誠実に回答する。それが正義ジャスティスだ。他意は無い」

「何が正義ジャスティスであるか。世の理を踏みにじろうとする者が。強い鶏でも失笑である」

「その行為についての不当性は、先に説明した通りだ。故に、一切の申し開きを行わない」


 ……己が掲げた目的が間違っておる事は承知の上。

 それでも、誠実に対応できる事だけは誠実に対応するよう努める、と。


 何故、そんな真っ直ぐな意志を持っていながら凶行に走るのか。

 訊いた所で、「一切の申し開きを行わない」と繰り返されるだけなのじゃろうな。


 ……まぁ、良い。

 その辺りの事情を訊き出すのは、あやつの命を救ってからで遅くない!


「ククミスルーズ!」

「承知! 変身チェンジ!」


 空中でスコップへと変身したククミスコップをキャッチ。

 その先端をアシャワシャへと差し向ける。


 まず、あやつの手の内がわからねば奇襲奇策すべてが机上の空論!

 遠距離から小手先調べ、かつ、あわよくばこれで決まれ!!


梯子豆(ジャックビーンズ)!」


 アシャワシャが立つ裁判長デスク。その周囲の地面を穿ち、梯子豆(ジャックビーンズ)の太々しい蔦が無数に噴き出す!

 梯子豆(ジャックビーンズ)は、この無数の蔦が長い年月をかけて絡み合い巨大な幹を形成、天まで届く梯子が如き巨大樹を形成すると言われておる屈強植物。それが四方八方から大蛇のごとく襲い来る包囲網!

 サイノカガワの時は理不尽な防御術式で阻まれたが――貴様はどう防ぐ?

 狙いは、アシャワシャ自身の拘束・天秤の奪取・レーヴァティンの確保で三等分。


 さて、無難に推測するならば、天秤の皿から零れる炎を操って焼き払われるか――と思いきや。


 アシャワシャは冷静な面持ちで眼鏡をくいっ。

 レーヴァティンの鍔に踵を引っかけて上手いこと蹴り上げて蔦から逃がし、自身も残像を引くほどの素早い身のこなしで蔦の猛攻をくぐり抜ける。


「なるほど。それがその御使いの能力か」


 蔦を躱し切り、アシャワシャはたんっと横合いへ跳躍。

 空中でレーヴァティンの柄を掴みながら、裁判官デスクの上に着地する。


 ……すべて普通に躱された?

 いや、相手は神じゃし、躱されたこと自体に違和感は無いのじゃが……。

 今のように蔦を一本一本躱すより、何らかの術式で防ぐなり薙ぎ払なりした方が効率的じゃったのでは……?

 そう言う戦闘スタイルか……?


 そんな事を考えて折ると、いつの間にやら。

 アシャワシャの着地点、その背後に先回りしておった竜系魔人メイド――クリアス!

 さすがの隠密性! アシャワシャは背後を取られておるのに気付いて――


「誠実に宣言しよう。気付いていると」

「のじゃっ!?」


 バレていた!?

 まずい、アシャワシャが振り返り、クリアスと近距離で正面から対峙する形に……!


「どこの誰かは知らないが……神の目すらも欺くとは大した隠密能力だ。誠実に白状する、お前がアリスを庇おうとして自ら法廷に飛び込んで来なければ、当方はお前を取り逃していただろう。だが最早、この法廷内で当方の知覚から逃れる事は不可能だ」


 ぬかった……ここはアシャワシャの天秤が創り出した空間!

 この中に存在する者の動向は、アシャワシャにすべて筒抜けか!


「クリアス!」


 相手は神、いくらメイド隊の長とは言え、正面からぶつかってタダで済むはずがない!!

 ククミスコップで、何か支援できる野菜を――間に合うか!?


 一方、クリアスは頬の汗を振り切り、相討ち覚悟かそのままアシャワシャの天秤へと手を伸ばした。


 対するアシャワシャは――後退。クリアスの手をすり抜けるように後方へと跳躍する。


「……は?」


 ワシも、ククミスコップも、そして何よりクリアスも呆然。

 アシャワシャはとんとんと軽快なバックステップを踏みながら眼鏡をくいっ。


「コケェー!!」


 そこに、勢い良くヴィゾブニルの巨体が飛び掛かるが――アシャワシャはこれも回避……躱すだけ。


 ……何故、アシャワシャはここまで回避に徹する?

 さっきから、まるで防御や反撃を最初から捨てているような清々しい退きっぷりじゃぞ?


「まさか……この法廷を展開中は、他の術や能力を使えぬのか?」

「否。誠実に否定する。論理的に考えるべきだ。開廷により能力的な制約がついてしまったら、レーヴァティンの封印を解くのに支障が出るだろう」

「確かに……では、何故?」


 アシャワシャは「誠実に答えよう」と言って眼鏡をくいっくいっ。


「当方の目的は不義アンジャスティス。故に、それを達成する過程で『誰かを傷付ける事』を当方は良しとしない」

「…………………………」

「よって当方は――お前たちに一切、反撃を行わない。防いだ反動で怪我をする可能性もあるため防御術式の展開も同様に不可とする。つまり、当方はひたすらにお前たちの妨害を回避しつつ、隙あらばレーヴァティンの封印解除を進める。それがせめてもの正義ジャスティスだと考える」


 ……あー……うむ。なるほど。


「汝、悪い事するの向いてないぞ」


 ああ、ワシが言いたい事をヴィゾブニルが端的に伝えてくれた。


「当然だ。当方の神性は善神のそれなのだから」


 ……フレアが言っておったな。

 神性を付け足す事はできても、変えたり減らしたりはできぬと。


 潔癖なほどに善と正義ジャスティスを貫く。

 それが善神に生まれたアシャワシャの宿命。


 逆に言えば。


 その宿命すらも捻じ曲げるほどの意志を以て、アシャワシャは世界を焼こうとしておるのか。


「神性、か。なら、もうやめた方が良いのである」

「誠実に認めよう。その通りだ。謎の鶏、お前の言っている事は正しい。正義ジャスティスだ。だが断る」

「何故にであるか」

「先に結論は伝えた。この行動には、他者に説明できる論理が無いと」


 そう言って、アシャワシャはレーヴァティンを肩に担いで身を翻すと――裁判官席の後方にあった非常口を開けて、どこかへ飛び出した!


「なっ……この空間、法廷の外もあるのか!?」


 そう言えば、「裁判所」じゃと言っておったな!

 アシャワシャめ、マジでワシらから逃げ回りながら封印解除を進めるつもりらしい!!


「追うのである! 汝ら、この強い鶏にRideON(ライドオン)するが良い!」

「ヴィゾブニル! 助かる!」


 まぁ、アシャワシャがそのつもりなら好都合ではある。

 神との殴り合いより、神との追いかけっこの方がやり易い!


 あの頭でっかちな紅眼鏡を、なんとしても追い詰めるぞ!!


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