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23,理不尽な出廷。


『クエストクリア!! 友達メダルが抽出されるよ!! 忘れずに交換してね!!』


 こんなものか、と一息吐いた所でフレアの録音声が響き渡り、ワシの頭から生えておった旗が友達メダルへと変わった。


「お疲れ様です、アリスさま、クリアスさま」

「ふむ、好い仕事ぶりであった。強い鶏もこれには大賛辞」

「思ったよりも早く片付いたのう。クリアスのおかげじゃ」


 ふと気付けば、手に持っておったはずの塵取りが無い。

 クリアスがいつの間にか回収し、掃除用具入れに片付けてくれたらしい。 


「おっと、すまぬな。ありがとうなのじゃ」


 礼を言うと、どこからかすぅ~っと現れたクリアスが「勿体ない御言葉です」と一礼だけしてまたすぅ~っと姿を消した。貴様もう本当にどういう隠密性能しとるんじゃ。東洋のニンジャーと言うのは本来ああいう感じなのかのう、と、ござるニンござるニンやかましかったまったく忍ばない系イケメンニンジャーに思いを馳せる。


 下ろしておったランドセルを背負い直した、丁度その時。


「終わったか」


 ぶっきらぼうにも聞こえる平坦な声と共に、虚空からぼぁっと紅蓮の炎が噴き出した。

 炎を割いて、アシャワシャとウサギさんたちの群れが飛び出す。


 ……アシャワシャ、何か服や髪がボロボロじゃのう。


「貴様、大丈夫か?」

「ここから出せと吠え猛るウサギさんたちに四方八方から多彩な蹴り技を浴びせられた程度だ。特に問題はぐはっ」

「吐血!? ボディに良いのをもらったのか!?」


 ウサギさんたち容赦無ッ!?

 と言うかウサギさん側はこちらに危害を加えられるのか!?


「結局はウサギさんの攻撃。一撃一撃は大したものでは無かった。むしろ肉球の感触は良きですらあった。故に妨害行為のひとつとして許可されていたのだろうな……しかし、塵も積もればと言うもの」

「どんだけ無抵抗で蹴り倒され続けたんじゃ貴様……」

「誠実に答えよう。下手に攻撃を防げばウサギさんに怪我をさせる可能性があった。故に不可能だった。回避は試みたが、ぴょんぴょん包囲網からはまともに逃れられずこれもまた不可能。強行突破も怪我をさせてしまう可能性があったためこれもまたまた不可能だった。結果こうなった」


 ああ、うむ……律儀過ぎると言うか何と言うか……。

 理屈は分かるが、徹底しておるなぁこやつ。


 ウサギさんたちは「ちっ……クリアされちまったか。まぁ良い。次はこうはいかねぇぞぉ!!」と捨て台詞を吐いてどこかへぴょんぴょこ立ち去って行った。とんでもねぇウサギさんたちじゃな……立ち去る真ん丸おしりもカワイイが。


「とりあえず、保健室とやらに行くか?」

「いいや、それよりも……メダルを」


 アシャワシャが差し出してきたのは、デフォルメされたアシャワシャが彫刻された紅蓮のメダル。

 それと取り替える形で、ワシのメダルをアシャワシャに渡す。


『ぱんぱかぱぁぁ~~~ん!! おめでとう!! 友達一〇〇柱達成だぁ!!』


「……なに?」


 不意に響いたフレアの録音声。

 その声と共に、アシャワシャに渡したワシのメダルが光々しく輝き始めた。


「友達一〇〇柱達成……? まさか」

「ああ、このイベントはお前が主役だ。であれば、一〇〇枚目はお前で締めくくるべきだろうと考えていた」


 昨日、ラフムラハムが言っておった。アシャワシャはすごい勢いでメダルを集めておったと。

 しかしよもや……。


「二日目の朝にして一〇〇枚のメダルを……!?」


 ククミスルーズが驚愕、と言うか軽く引いておるな。

 ワシも正直「ぉお……」としか言葉が出ない。ガチ勢すごい。


 しかし……そうか。

 うむ、これちょっとワシとしては微妙な所じゃな。


 すごいな、おめでとう……そう祝うべきなのじゃろう。

 しかし、「母のために」と炎剣の獲得を目指しておったラフムラハムの事を考えると……いや、じゃがラフムラハムを応援したいからとアシャワシャの頑張りを否定したり邪魔するのも違う……。


 まぁ、賞品と言ってもフレアの口ぶりからして一時的な貸与じゃし。

 キャンプファイヤーとやらが終わってから、フレアやオッディに直談判でラフムラハムにも貸し出しできないか交渉してみるか……。


 ワシは見てくれこそ幼女じゃが一〇〇〇歳超えのジジィぞ。

 それなりに政治は見てきた。コネの力は遠慮無く使うぞ。


 よし、それで行こう。


 そう結論した丁度その時、メダルの光が弾け――刃に獄炎を纏った抜き身の大剣が、アシャワシャの前に顕現した。


「ほう……それが、レーヴァティンか」


 誰も筋力や魔力を供給しておらぬのに、ごうごうと無限に炎を生み出し続ける剣――炎の色合いと揺らめきは「美しい」と表現すべきもののはずじゃが……。


「………………?」


 ……不思議と、胸騒ぎを覚える。


 解放すれば世界を焼き払えるほどの潜在能力、と聞いておるが故の先入観……?

 いや、何か、違う気がするのう……。

 これは、この炎が、まるで何かを『訴えかけてきておる』ように感じる……?

 誰かの『鬼気迫る叫び声』が炎と言う形でここに在るような……。


 奇妙な感覚に小首を傾げておると、突然、


「コケ!? 何故その剣がここに!?」

「何じゃ、ヴィゾブニル」


 いきなり絞められた鳥のような声を上げおって……。


「何でも何も無いのである! それは我を襲ったサイコ女神が振りかざしていた武器! そして我が一度はそれを奪い取ったものの、ちょっと脚が滑って何かめっちゃ暗い谷みたいな所に落としちゃった剣である!! しかも心無しか、我が襲われた時より纏っている炎の勢いが凄まじい気がする!」

「はぁ?」


 何を言っておるのじゃ。

 話によればあれはスカンディナヴァ・クランの宝剣じゃぞ?

 サイコ女神とやらが何者か知らんが、私用で持ち出せるはずが無いし、ましてや野生の鶏に奪われて更に紛失なんてしておったらとんでもない大騒ぎになっておるはずじゃ。


 …………いや、しかし。

 ヴィゾブニルのあの目をガン剥きした表情。嘘を吐いておるようには見えぬな。

 何かの勘違い……であれば、あそこまで自信満々に言い切れるものじゃろうかと言う疑問がある。


「待てよ……」


 入学式の時から、そもそもな違和感はあった。

 どうして、宝剣をこんな催しの賞品にする必要があった?

 炎を起こす代物ならいくらでもあるじゃろう。そして、宝剣なんてものでないなら「一時的な貸与」と言う面倒な真似をせずとも済んだはず。それでもなお、「宝剣の一時的に借り受ける権利」を賞品にする必要があった?


 ――誰かに『メダルを一〇〇枚集めて、宝剣を手に入れてもらう必要』があった?


「何か、怪しいのう……」


 賞品を決めたのはオッディ……あやつが色々と策謀を巡らせるのが上手いのは、例のゲームを廃止に追い込んだ手腕や、例のゲームの後始末の際に垣間見た。

 少し、問い質す必要がありそうじゃな……。


 まぁ、それはひとまず置いておくとして。


「ふむ……驚いたが、おめでとうなのじゃ。アシャワシャ」

「………………」


 ……?

 何じゃ、アシャワシャは目の前で燃え盛る炎剣を見て、何か物憂げ。

 その柄に伸ばしかけた手を、途中でぴたっと止めておる。


「どうしたのじゃ? 事情は知らぬが、こんなにも早くメダルを集めるほど熱意があったのじゃろう?」

「……ああ、そうだ。当方は、この剣を手に入れて――」


 何かを決意したように口の端を結んで、アシャワシャは炎剣の柄を手に取った。

 アシャワシャが炎剣を軽く振りかざすと、ごうっと音を立てて刃に纏わりついた獄炎が尾を引いて陽炎を放つ。辺りが一瞬だけ朱色の光で満たされ、少し距離を取っておるのにワシの所までぶわっと熱波が伝わってきた……ククミスルーズが言うにはオッディたちの手でかなり性能を封印されているそうじゃが、それでもただ軽く振るだけでこれか……やはり宝剣と言うだけはあるのう。


「で、あとは校庭に現れると言う木組の祭壇にキャンプファイヤーを灯せば終わり、じゃったか?」

「………………………………」


 何を思ったか、アシャワシャは炎剣をその場に突き立て、天秤を振り上げた。

 その視線は――真っ直ぐにワシを捉えておる。


「……のじゃ?」

「アシャワシャの名の元に、お前たちを訴える」


 待て、その文言はさっきの――


「開廷――【天焔法廷(アシャ・ワヒシュド)】」


 疑問の声を上げる暇は無かった。


 必死の形相でこちらに手を伸ばすクリアスの姿が見える。


 次の瞬間、ワシの視界は紅蓮の焔で埋め尽くされたのじゃった。


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