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22,家政婦は今朝から見ていた。

 ……まぁ、要するに「青春クエストをやって友達メダルを交換しよう」と言うお誘いじゃろう。特に断る理由も思い付かぬし、ワシはアシャワシャの申し出に応じる事にした。

 じゃが、都合良く青春クエストが発生するものじゃろうか?


『青春クエスト発生条件が満たされました! これよりクエスト開始だにゃあ!!』


「……どこにでも仕込まれとるなぁ、青春クエスト」

「話によると、『この遊戯結界領域ゲームパーク内にて友達になりたいと言う意思を持った複数名が集っている』状況であれば、その場所に応じてクエストが自動生成される仕組みになっているそうだ。更に内容のジャンルに応じて妨害役の御使い自動選定・自動召喚されるらしい」

「そうなのか」

「そうなのだ」


 アシャワシャはそう言って眼鏡をくいっとした。実に知性的な動きじゃな。


 で、出された課題は『協力して、飼育小屋をお掃除しよう!』との事。

 課題発表と同時に、ワシとアシャワシャの頭にお子様ランチってる旗が生え、飼育小屋の前に掃除用具入れが召喚された。


「ふむ。で、今回の妨害役を務める御使いと言うのはまだ召喚されぬのか?」


 サイノカガワやゼノンノスケ……今までの妨害役は、その能力だけを鑑みればクエスト攻略においてとてつもなく強大な壁となる者たちじゃった。

 今回は一体、どんな御使いが来るのか……。

 ランドセルを下ろし、掃除用具入れから枯草を集めるための竹製熊手っぽいのを取り出して、少し身構える。


「ぴょんぴょんぴょんぴょん……『まだ召喚されぬのか?』ってぇ? お嬢ちゃんのお目目は怠け者なのかなぁ!!」

「ぬ!?」


 いつの間にか、ヴィゾブニルに蹴りを入れておったウサギさんたちが横一列に並んで仁王立ちしておるカワイイ!!


「まさか……妨害役の御使いは既に、召喚されておったのか!」

「その通り! 我々はペヨーティブ・クランの御使い群【ジャッカルローパーズ】! そして俺はリーダーのジャァァアアアアック!!」


 ジャックと名乗ったのは、ウサギさんの中でもひときわ大きな体と角を持つウサギさん。

 短いあんよで、たしっ! と地面を叩いてどや顔カワイイ!!


「俺たちが絶え間なく排出するコロコロウンチ……! 果たして捌き切れるかな!?」

「ぬぅ……カワイイが地味に難易度高そうじゃな!?」

「問題無い」


 そう言って、アシャワシャはその手に握っておった紅い天秤を構えた。


「ぬ、待て貴様。貴様たしかその天秤に鎖で繋がれた皿をさながら鎖鎌のように使うと聞いたぞ? まさかウサギさんたちを攻撃するつもりでは……」

「ルールは把握している。この学園内で誰かを不当に傷付けるのは正義ジャスティスではない。よって危害は加えない」


 ふむ、では一体、どうするつもりじゃと言うのか。


「分担作業としよう。当方はあのウサギさんたちを止める。アリス。お前はその間に掃除を遂行してくれ」

「うむ、分担に異論は無いが……止める手法によっては看過できぬぞ?」

「当方の名は【天の法】を示す。【善神の勢力(アンシャ・スプンタ)】に配属された際、後天的に付与された神性は【法廷の統括者】。当方の天秤は、対象を無理やり当方が展開する裁判所に出廷させる事ができる」


 ……要するに、強力な閉鎖系フィールド展開に相手を幽閉できると言う事かのう?


「さぁ、当方アシャワシャの名の元に、お前たちを訴える! 罪状は……特に無い! まぁ何かしら覚悟の準備をするが良い。開廷――【天焔法廷(アシャ・ワヒシュド)】」


 何かすごいふわっとした糾弾の声を合図に、紅い天秤の先端が急速回転。鎖に繋がれた皿が遠心力に導かれ水平角度で回転し、やがて猛烈な炎を周囲に撒き散らす。炎はアシャワシャとウサギさんたちを取り囲み――そして、フッ……と消えた。


 アシャワシャの言っておった裁判所とやらに転送されたのじゃろう。


「うむ……では、先に言われた分担通り、ワシは掃除を始めるかのう」


 …………ヴィゾブニル、大きくて邪魔じゃなぁ。

 と言うか、それを抜きにしても割と小屋は広いな。安易に引き受けてしまったが、これは少々、骨が折れるやも知れぬ……まぁ、やるしかないか。そう気合を入れ直そうと竹の熊手を構え直した。


 瞬間、その熊手を穏やかな手つきで取り上げられた。


「ぬ?」


 ワシから熊手を取り上げたのは――メイド服に身を包んだ、竜系魔人の女性。


「って、貴様は……クリアス!?」


 見間違うはずも無い。その魔人は、下界にて魔人国家ピースフル首相官邸メイド隊の隊長にして、元は魔王軍きっての隠密部隊の隊長を務めた歴戦の猛者!!

 ワシが労働を禁止されてからは、ワシが働こうとするとどこからともなく現れてそれを阻止する専属メイド!!


 特別選抜メイド隊【メイド・イン・ヘルブレイズ】所属――クリアスではないか!


「な、何故に貴様が天界ここに!?」


 ワシの疑問に、クリアスは困ったような笑みを浮かべて事情を説明し始めた。

 話によると――


「ワシがオッディの手で天界に転送された時、一緒に来たぁ……?」


 つまり、オッディですらクリアスの存在を認識できず、ワシの転送に巻き込む形で天界に連れて来てしまったと言う事か……!?


 一応、クリアスの補足によれば。

 ワシが天界に転送される直前、妙な光に包まれ始めたワシを救出するため、咄嗟にクリアスもその光に飛び込んだ結果であり、オッディのヘマと言う訳では無いと。


「オーデンさまですら転送術式への介入を見過ごしてしまうとは……何と言う隠密能力でしょう!」


 ククミスルーズが戦慄の声を上げる。

 ワシもそれなって思う。そりゃあ下界では無類の隠密を誇る訳じゃよ。


「それで……さすがに入学式前の控室空間ではオッディに気付かれてしまい、今まではオッディの所にいた、と?」


 クリアスはこくりと頷いて、次は今日になってワシと合流できる事になった経緯を説明し始めた。

 当然ながらオッディはクリアスを下界に送り返すべく準備を進めておったが……先日の黒尻尾少女の件もあり、ワシの周辺警護を強化すると言う観点から、クリアスとワシの合流を許可すると言う運びになったそうじゃ。

 確かに、クリアスの隠密能力なら一家団欒に影響せずにワシの周辺を警護できるじゃろうな。


「何かこう……色々と、すまぬな」


 いきなり天界に召喚されて、クリアスとしても混乱したじゃろう。

 ワシが頭を下げようとすると、クリアスは慌ててそれを制止した。

 ああ、すまぬ……自らが仕える相手に頭を下げられては、メイドとしては気まずいか。


 顔をあげると、クリアスは微笑を浮かべて、ワシから取り上げた熊手を軽く振った。

 お掃除はメイドに任せてください、と言う事じゃろう。


「うむ、ありがたい申し出じゃが……あくまで手伝いで頼む。これはワシのクエストじゃからな」


 ワシの言葉にクリアスは一瞬だけ判断に迷ったようじゃが、小さく頷いて熊手を返してくれた。そして掃除用具入れから別の熊手を取り出す。


「では、頼むぞクリアス。一緒に飼育小屋を掃除しようなのじゃ!」

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