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20,ぬちょっと巻き毛ボンバイェイ。


 水を求めて倒れておった巻き毛ボンバー。

 至急、ククミスルーズに野菜召喚スコップへと変形してもらい、フクロキュウリを召喚。

 その上部をククミスコップの先端で叩き割る。


「水は用意できたぞ! 飲めるか?」


 ククミスコップで蔦を操り起こすか――そう考えた時、巻き毛ボンバーは「ぶ、ぶっかけてくれないか……」と呻くように言った。少々抵抗はあったが、一刻を争う容態っぽいし、今はとにかく当人……当神? の言う通りにしよう。


「せい!」


 と言う訳で、フクロキュウリの水を巻き毛ボンバーへとぶちまける。

 すると何やら、もしゃもしゃと音を立てて、巻き毛ボンバーの巻き毛ボンバーヘアが揺れ始め――ぼふっ、と言う膨張音と共に、ボンバー具合が一段階は増した。


「ひっ……!?」


 余りにも予想外な出来事に、ワシ自身らしくないと思う上ずった声をあげてしまう。


「ふぅ~~~~……」


 戦慄するワシが見守る中、巻き毛ボンバーはゆっくりと息を吐きながら体を起こした。


「ああ~~~~、助かったよ。ありがとう」


 褐色の肌に土色の瞳、常に口角が上向いた口で構成された微笑。

 うむ……髪以外は、割と普通の容姿じゃな……。


「あ、ああ……助かったのなら、何よりじゃ……」

「おや~? 何か、引いてる?」

「すまぬ……ちょっと、貴様の髪の挙動が予想外すぎてな。びっくりしてしまったのじゃ」

「そっか。特徴的だよね~。おれの巻き毛」


 うんうんと納得したように頷き、巻き毛ボンバーは自らのボンバーヘアにぼすっと拳を差し込んだ。


「おれはラフムラハム。メシュタミア・クランの神さ~」

「そうか。ワシはアリス。下界から来たのじゃ」

「あ~、キミが例の。ウワサ通りカワイイ子だね」

「それはともかく……何故にこんな所で、しかも神が水に飢えて倒れておったのじゃ?」


 確かにここは公園の端。最寄りの水道も少し距離がありはするが、砂漠の真ん中でもあるまいし。

 しかも、神が脱水症状で倒れるなぞ……。


「解説しましょう!」


 とここで声を上げたのはククミスコップ。


「ラフムラハムさまは【泥】に纏わる神性や権能を盛っている御方! 大事なのです、【潤い】が!」

「潤い?」

「泥から水分が無くなったら土か砂ですので!」

「うんうん。そのスコップの言う通り。おれの名が示すのは【海底の泥】、常に濡れ濡れビチョビチョピッチピチの泥なのさ」


 言い方が何かヤじゃな。


「だからおれに取ってはちょっと喉が渇いたレベルでも致命傷。普段はこまめに頭から塩素配合の特別製ロ~ションを被ってるんだけど……少し、夢中になり過ぎたみたいだ。ロ~ション切れに気付くのが遅れた」


 だから助かったよ~、とラフムラハムが手を差し出してきた。

 感謝の握手、か。まぁ、拒絶するほどの忌避感は無いし、応じてやるとするか。


 そんな軽い気持ちでラフムラハムの手を握り、ぞわっと身震いしながら「あひゃ」と上ずった声をあげてしまう。


「にゃ、なななななななな……な、何か貴様、手、ぬちょっとる……?」

「そのスコップが言っただろ? 潤いが大事だって。ナメクジとかカタツムリみたいなモンだよ~」


 ああ、体表に薄い体液膜を広げて保湿しておる訳か。

 ……先に言って欲しかったのう。ラフムラハムの粘液まみれになったマイお手々を見てそう思う。

 いや、それでも拒否はしなかったが……心の準備はしたかったのじゃ。自分以外の体液に触れるって割と覚悟の要る行為じゃぞ。あ、潮の匂いがする。海の泥がどうとか言っておったもんな。


 まぁ、過ぎた事はもう良い。

 それよりも気になる事がまだある。


「質問の連続で悪いが、夢中になっておった、とは?」

「ん~? そりゃあまぁ、メダル集めさ」


 メダル……ああ、友達メダルか。

 神々はイベント事が好きじゃと言うし、夢中になってゲームの攻略に勤しむのはまぁ珍しくないのか。


 ……ふむ?

 しかしでは何故、神々の集中しておる学園ではなくこんな閑散とした公園に独りでおるのじゃ……?

 クエストの一環で学園を離れる必要があった、のかのう?


「まだ三〇枚しか集まってないけれど~……反省だね。今日はこの辺りで切り上げるとしようかな」

「三〇!? とんでもないハイペースでございますね!?」


 ククミスコップが驚きの声をあげるのも無理は無い。

 話によれば、友達メダルは一〇〇枚集めれば良い代物。それを開催期間の終わりが明言されておらぬこのイベントの初日で三分の一近く集めておるとは……これがウワサに聞くガチ勢と言う奴か。


「おれよりもすごい集め方してる奴はいたけどね~。ゼロアスターの紅いの。アシャワシャだっけ?」


 アシャワシャ……確か、アキレイナとパーレスとゼノンノスケの尻に燃え盛るお灸(物理)を据えた神として名を聞いたな。正義ジャスティス執行委員会と言う治安維持組織の業務をこなしつつ、初日から推定三〇枚以上のメダルを集めておるのか……それもまたガチ勢、と。


「どんなモチベ~ションかは知らないけれど、おれも負けられない。母さんには、あの剣が必要なんだ……だから、負けちゃいけない」

「…………?」


 何じゃ、今、一瞬……ラフムラハムの表情が、とても悲し気に見えたような……それに、母さん?


「どうしたのじゃ? 急に険しい顔をして……それに母親がどうかしたのか?」

「……そんな顔してた~?」


 おやおやとつぶやきながら自らを律するように、ラフムラハムは口角に指を当てて押し上げる。


「まぁ、家庭の事情さ~。母さんがあの炎の剣を欲しがっているから、親孝行でプレゼントしなくちゃ~って感じ」

「ほう、それは良い心掛けではないか!」

「うん……今までおれ、親孝行なんて出来てなかったから。今回は頑張りたい」


 決意を固めるように、ラフムラハムはぬっちょと拳を握りしめた。

 しかし……どうにも、その目は悲し気に見える。


「良い心掛けではあるのじゃが……貴様はどうにも具合が悪そうじゃ。余り根を詰めぬ方が良いと思うぞ。御母堂とて、貴様に無理はして欲しくはないじゃろうし……」


 ワシの言葉に、ラフムラハムは「……そう、だよな」と苦々しい笑み。

 疲労を隠せておらぬ感じじゃな……相当、母のために頑張っておるのじゃろう。


「……うん。今日はロ~ションを補充するついでにもう帰るよ。ロ~ションは大事だ。それじゃあ、また会う機会があれば」

「うむ。またな」


 ワシも母を持つ身として、奴の気持ちは充分に理解する。じゃが無理は良くない。

 もし明日、都合があったなら、共にクエストを回るとしよう。


「……んー?」

「む? どうしたのじゃ、ククミスルーズ」


 ラフムラハムの背を見送っておると、ククミスコップが何やら怪訝そうな声をあげた。


「いえ、ラフムラハムさまの御母様……と言うと、【創星母神グレイトママン】ことティアーマット・イェーミルさまになるはずですが」

「何やら厳つい異名じゃな……?」

「天地開闢の時、まだ星の海しかなかったこの世界で、『母なる惑星の素材もとになった』と言う神ですので、それはもう異名に負けぬグレイトな神ですよ」

「それはまた何とスケールの大きな…………ん?」


 惑星の、素材もとになった?


「ティアーマットさまは、世界の始まりに誕生した神々の中でも群を抜いて早熟された御方で、母性爆裂系のまさしく母神だったそうです。原初の神々に血の繋がりはありませんが、ティアーマットさまはすべての神々を実の子のように愛したとか。故に、星の海にたゆたって暇をしていた他の神々のため、己がその身を割いてこの星、『我が子のように可愛い神々が楽しく暮らせる場所』へと変容したのです。肉は土に、血は海に――と言った具合で」


 我が子が楽しく暮らせるように、と自らの身を割く事すらいとわぬとは……。

 母性と言うより、半ば狂気のようなものを感じる逸話じゃな。


「そしてティアーマットさまが星に変容する前に産み落とした子供たち。その中にはアリスさまに購買で接触してきたイシュルナンナさまや、ラフムラハムさま……メシュタミア・クランの神々の大半が含まれると言う訳です」


 つまり、イシュルナンナの姉であるエレシュルカルラもティアーマットの直系の子と言う訳か。


「しかし、それでは母が欲しがっておる……と言うのは一体」


 話によると、ティアーマットとやらはこの星となるために身を分割したのじゃろう?

 その状態でも、生きて、息子に語り掛けておる……と言う事か?


「ティアーマットさまの声は『火と雷に変わった』と言われておりますが……その御声を聞く術があるとは聞き覚えが無く……なので、どういう事なのだろうとクゥは不思議に思ったのです」

「ふむ……推測できる範囲じゃと、義母の話か、それとも墓前に供えるようなニュアンスか……なんにせよ、部外者が踏み込んで良い範疇では無い気がするのう」


 ……下界ではワシも、親の亡き身の上じゃったからな。

 その辺りのデリケートさは、身に染みて知っておるつもりじゃ。


「そうですね。出過ぎた疑問でした」

「まぁ、気になるのは仕方無いじゃろう」


 それは知識があるからこそじゃ。

 相手に直接訊くのを踏みとどまったのであれば、それはちゃんと心があるからじゃ。

 であれば、問題はあるまいよ。


 ……さて、母の話をしたからか、ワシも母上が恋しくなってきた。

 早いところアンリマンにメッセージを残して、今日は帰るとしよう。


友神一〇〇柱できるかな!?編、読了いただきありがとうございます!


天地開闢の時、それぞれの神々が抱いた感情。その選択とは――な幕間を挟み、

次々回より「神史焼却極焔識-スプンタ・レーヴァティン-編」となります。



神々との学園生活は今日も続く――

朝イチでアリスに声をかけてきたのは、

天秤の使い方を間違えている神ランキング第一位、アシャワシャ。

アリスとのクエストで一〇〇枚目のメダルを獲得し、炎剣を手に入れたアシャワシャは――あるとんでもない野望を語り出す。


入学式を含めても開校三日目、天界を揺るがす大事件が勃発!?

フレアに嫌なフラグを建てられた校舎は生き残る事ができるのか!?

どうなるラグナロク学園!! な第二章!!



乞うご期待!!


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