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17,悪魔の尻尾。


 食事を終えてふと興味を持ったらしい当たり付きガムにわーわー騒ぎ始めたと思ったら「そうだ、これだぜ!!」と手で槌を打って早歩きで去って行ったアキレイナ、と当然のようにそれに付いて行ったパーレス。


 そんなニ柱の背中を見送って、呆れつつも微笑ましい気持ちになる。

 まるで小さな竜巻じゃったな。


「ほとほと、やんちゃじゃのう」


 テーブルに頬杖をついて、ふぅ、と小さく溜息を吐く。


「アキレイナさまはそう言う神性ですので」


 そんなワシの言葉に、ククミスルーズがフォローを入れた。


 やんちゃである事がアキレイナと言う神を象徴する要素、か。

 ああ、似合うな。変におとなびて欲しくない純粋さをそこに見出せる。


「さて、そろそろ昼休みとやらも終わりじゃろう」


 午前中はリンゴの雪崩で意識が飛んでおったせいで、授業を受けられなかったからのう。

 午後こそは――


「ねぇねぇ! あなたがもしかしてアリスちゃんだったりするんじゃない!?」

「む?」


 突然、ことわりも無くワシの向かいに腰かけた女神。

 勢いよく飛び込むように座ったので、椅子の足がガタンと床を突く。


 何じゃこやつ。初めて見る顔じゃな。

 夏の太陽めいて輝く金色の髪を飾るのは、豪勢な黄金や宝石の類がふんだんにあしらわれた膨大な髪飾りの群れ。どう考えても盛り過ぎ、よくその細首がもげぬなと感心してしまう。キラキラキラキラと喧しい髪飾りに帳尻を合わせるためか、セーラー服の上からは派手柄の布をパッチワークした外套を羽織っておる。


「何じゃ、貴様……」

「アタシはイシュルナンナ。メシュタミア・クランの女神よ! で、あなたはアリスちゃんなの?」


 髪飾りの黄金や宝石にも負けないキラキラの瞳でワシに顔を寄せる女神・イシュルナンナ。

 めっちゃグイグイくるなこやつ……。


「ああ、うむ。ワシはアリスじゃが……」

「やっぱりアリスちゃんなのね! フーちゃんの言っていた通りの外見だものね!」


 まるで憧れのパンダを目の前にした動物マニアのように、イシュルナンナは両頬に手を当てて「きゃー!!」と歓喜を帯びた声を上げる。


 そして、その声に呼び寄せられるようにそこらから神々が寄って来た……!?


「おうおう? 何だ何だ楽しい悲鳴が聞こえたぞ、何かおもしれーモンでもあったか?」

「アリスちゃんって言った? あのアリスちゃんきゃわわ教団が布教してる子?」

「あ、ほんとだ、教祖フーレイアが言ってたまんま!」

「ほほぉ、誠にチョコ饅頭の擬神化が如き姿であるなぁ」

「どれどれ……おぉ、精神干渉ができないようにしっかり防護されているときた」

「ああ、これはオーデンにフーレイアにプロテイオン……他にもいろんな神々の加護がついてるなぁ。残念」

「ぬふふふ、ナマで見ると輪をかけて可愛い子供ちびっこだぬぅ」

「本当に食べたい系の幼女~良き~」


 な、何じゃ……完全包囲で圧が、圧がすごい……!

 あと何かさらっとやべぇ事をしようとしてる神がおらんかったか!?


 オーデンの話じゃと、ワシに対して罪悪感を抱いて罪滅ぼしをしたいと考えておる神は多いと言う話じゃったが……これはどちらかと言うと好奇が強い気がするのじゃが!?


「とりあえずアレだわ! アタシはあなたのホッペをむにむにしてみたいのだけど!!」


 イシュルナンナが身を乗り出して、ついに鼻息がかかるくらいの距離に近い近い近い髪飾りのキラッッッキラッッッ具合が目に鬱陶しい!!

 そしてイシュルナンナの言葉に我も我もと神々包囲網が狭まって圧が上がってきた!?

 やばい、このままじゃと頬がもげ散るまでむにむにされそうなのじゃが!?


「こ、断るのじゃ!」

「そこをなんとか!! お願い! 髪飾りを分けてあげるから!」

「首がもげそうじゃから要らぬ!!」


 圧がすごい……!

 いやまぁわかる! 何かこう、幼児がおったら何か頬をむにっとしたい心理はわかるのじゃが!!

 それにしたってじゃが!!


「ちょっとだけ、ちょっとだけだから……!!」


 ダメじゃ、おそらくイシュルナンナは退く気が無い。

 はぁはぁと荒くなった息、緩んだ口元、そしてそのキラキラキラキラした瞳からこちらが根負けするまで粘ろうと言う確かな意志を感じる……!


 逃げ出す……にも、神々包囲網がギッチギチ過ぎるなこれ!

 唯一の逃げ道は頭上じゃが、今の幼女筋力で跳び越えるのは無理!


 ――と、軽い絶望と共に見上げた神々包囲網の上。


 黒くて細長い何かがひゅんっと風を切ってワシの元へ舞い込み、一瞬にして腰に巻き付いた。


「の、じゃあ!?」


 黒い何かに巻き取られる形で、ワシの小さな体は宙を舞ったのじゃった。



   ◆



「……はっ」


 いきなり勢い良く宙へ引き上げられたせいで、高所恐怖症が発動したらしい。

 少々意識がトんでおったようじゃ。


「こ、ここはどこじゃ……?」


 木造の壁に背をかける形で座らされて……これはラグナロク学園の校舎じゃな。

 枝葉の天井によって薄暗さに包まれた空間……見覚えが無い。舗装されておらぬ地面、放置気味な印象を受ける雑草や小石の散見される様からして、頻繁な出入りを想定しておるとは思えぬ。校舎の裏手側、と言った所かのう。


「お目覚めデスか?」

「む?」


 ワシの目の前で膝を曲げてしゃがみ込んだのは、小麦色の肌をした赤毛の少女。

 制服は着ておらぬな。つばの広い黒帽子を被り、黒いメッシュ生地で造られたゆったりめの外套に身を包んでおる。メリアッカ大陸南部あたりの文化圏の衣装に近い感じがするな。帽子の方はソンバーロ、外套の方はポンチョッツォと呼ばれておったか。


「あ、ああ、目覚めたが……」

「良かったデス」


 少女が牙を見せて「デススス!」と変わった笑い声をあげる。

 その背後、外套の裾を持ち上げて黒く細長い尻尾が宙をただよっておった。

 ふむ、肌の色に牙や尻尾……形質は魔人に近い神のようじゃな。帽子を取ったら角も生えておるやも知れん。

 察するに、先ほどワシを巻き上げたのはこやつの尻尾か。


「神々にたかられて困ってるみたいだったのデ、助けたつもりデスが、ごめーわく、でしタ?」

「そうか、いや、普通に助かった。ありがとうなのじゃ」


 助け方はもう一考して欲しかったがのう。


 礼を言われたのが嬉しかったのか、少女は満面の笑みでデススス!! と笑う。

 アキレイナと同じく、純粋な雰囲気を感じるな。見た目も少女じゃし。その笑顔を見ておるだけでこちらも頬が緩む。


「そう言えば質問なのデス。アナタ、アリスチャンって呼ばれてましたデスよネ? それってあの炎剣を担いだ女神が言っていた『魔族の王様・アリスチャン。通称【センネンキンニク】』なのデスか?」

「む? ああ、そうじゃが」


 炎剣を担いだ女神とやらに心当たりは無いが……まぁ、ワシの事を認知しておる神は少なくないじゃろうし、その内の誰かじゃろう。こやつはアンリマンと同じく、ワシの事を間接的にしか聞いておらぬ神々か御使いと言う事か。


「じゃあ、神々が嫌いなのデス?」

「……まぁ、そうじゃ」


 神々、そうでなくてもその眷属であろうこの少女に面と向かって言うのは、少々気が引けた。

 しかし、紛れも無い事実じゃ。ワシの経緯は薄らと知っておるようじゃし、ここは変に言葉を濁す方が失礼じゃろう。


「そうなのデスか」


 しょんぼりする……かと思いきや、


「期待通りなのデス」


 少女はむしろ二ィと笑みを濃くした。


「アリスチャン、良ければワタシと手を組みませんデスか?」



   ◆



 ――購買部。


「アリスさまーーー!?」


 アリスが俊敏な黒い尻尾によって一瞬で運びさられてしまった。

 アリスのガイド役であるククミスルーズは阿鼻叫喚、アリスが消えた方へ全速力で飛ぶ!!


「あらら、まったく誰よう。あとひと押しかふた押しでむにむにできそうだったのに」


 ちぇー、と不服そうにつぶやいて、イシュルナンナが立ち上がる。


「あの尻尾の奴、見た事の無い神だったな? どこのクランのだ?」

「さぁ? ウチではないな。まったく見覚えが無い」

「わたしも知らない子だったわぁ」


 そこからしばらく、神々の間で「知らない」の連鎖が続いていく。

 その様に、イシュルナンナは首を傾げた。


「これだけ神がいて誰も知らないなんて…………よっぽど地味でマイナーな子なのね」


 まぁ、どうでもいっか。


 そう結論付けて、神々は解散したのだった。


○●天界豆知識●○



◆イシュルナンナ◆

メシュタミア・クランの女神。【創星母神グレイトママン】の直系。

好奇心強め、ワガママな気まぐれ屋。素直にはなれないがお姉ちゃんっ子。

壊さなくて良いものをよく壊す。創らなくて良いものをよく創る。

要するに「やらなくて良い事をやって、やらかす」と言う神性を持っている。

かつて彼女をトリガーに発生、または深刻化した事件は数知れず。

糾弾されると「ふんだ、アタシは知らないもん」と強がるが、実は割と凹んでいた。

しかしある時を境に『何故か』トラブルが起きておらず「あれ? アタシもしかして神性をコントロールできるようになっちゃった? さっすがアタシ!!」と無邪気に喜んでいる。

美や愛など、司るものが被りがちなためかフーレイアと趣味が近く、魔王と勇者のゲームへの反対活動をしている時にフーレイアと知り合い、当然のように仲良くなった。

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