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14,神速の女装男子・アキレイナ!!


 ワシは今、大量のリンゴをベッドにして青空を見上げておる。

 ごつごつ果実が敷き詰められたベッドに背を預けて、寝心地など好い訳が無い……はずなのじゃが、割と良質なお昼寝ができそうな気配を感じる。おそらくこのリンゴは神由来の何かなのじゃろう。

 神々と言う存在は腹立たしいが、そのエネルギーは好き嫌いに関わらず生体に良い影響を与える。


 ……さて、何故ワシはこんな状況に在るのか。

 少し記憶を遡ってみよう。


 アンリマンと友達になった後――無事にラグナロク学園に辿り着くも完全に遅刻。

 ひとまず校舎の外からワシが配属される教室の方へ周り、中の様子を窓からこっそり伺ってみた。

 すると、フレアと他の神々が何やら甲論乙駁としており、


「いやだから、このリンゴは絶対に増えないリンゴなの!! そう言う設定で考えるのー!!」

「吠えたなセンセー・フーレイアよ。我がほぼ全能っぽい雷霆に不可能などあんまり無い!! このウルトラ・デーウスを前にして、増やせぬリンゴなど存在しないのだっ!!」

「だーかーらー……設定!! 思考実験的な話で、理科だと『摩擦は考えないものとする』的なあれ!! リンゴは増えないものと――」

「強情だな、よかろう。では示すまでだ!! 絵に描いたリンゴすら我が権能の前ではただのリンゴと変わらんぞ!! はああああああああ!!」


 響き渡ったのは、彫刻めいた厳つい神の咆哮と雷鳴。


 青白い光に一瞬、視界を奪われた。

 直後、教室の壁や窓が崩壊する音と共に、ワシはリンゴの雪崩に呑み込まれ……今に至る。

 意識の暗転は一瞬じゃったが、しばらく気絶しておったらしいな。太陽の位置的に時刻は昼前と言った所か。砂の匂いがするし、場所的には運動場かのう。教室からかなり流されたな。


「やァ~っぱ、デーウスの旦那が創ったリンゴとなると美味ェなァ!」


 ふと、荒っぽい印象を受ける男の声が聞こえた。


「やめなよ。拾い食いなんて……いくら総統が創ったリンゴとは言え、ばっちぃな」


 荒っぽい男の声に続いたのは、それに呆れるテンション低めな男の声。

 こちらに近づいて来ておるな。身を起こして、声の方を確認すると、声の主らしい二柱と目が合った。


 片方は、手入れ不足な金髪を雑なツインテールでまとめたセーラー服の小娘……いや、小娘と呼ぶには筋肉量が凄まじいな。見てくれは細マッスル系統じゃが……圧縮されておる。かなりの筋圧を秘めておるとわかる。背には三又槍、後ろ腰には丸盾を引っさげて――歴戦の勇士と言った風格じゃな。戦神の類か?

 ハムスターか何かのようにリンゴを頬張っておる。厳めしい戦いの神と言うより、食いしん坊で暴れん坊なやんちゃ者と言われた方が納得できるな。


 もう片方は、キノコのような形状で綺麗に揃えられた銀髪の優男。学ランとやらのボタンが全開じゃが……纏っておるオシャレ男子的雰囲気のせいか、着崩しと言うよりはファッションのひとつのように感じる。隣を歩く金髪ツインテールが武装しているのに合わせてか、こちらは背に小ぶりな弓を背負っておる。矢は持ち歩いておらぬようじゃが、矢の代わりに魔力や筋力、神パワーと言ったものを放つタイプの弓使いかのう?

 リンゴを拾い食いする相方に辟易としておる表情じゃな。それでも隣を離れる素振りは無い辺り、仲は良さそうじゃ。


「おン? 見ねェ面だな。よう! テメェはどこのクランの何て神だ?」


 金髪ツインテールは口周りの果汁を舐め取り、齧り痕のついたリンゴを掌で跳ねさせながらワシに声をかけてきた。髪型やセーラー服からやたら恵体のお姉さんかと思ったが……声は完全に男じゃな。女装趣味か。


「ワシは――」

「あ、ごめん。ちょっとタンマ」


 ぬ、何じゃ、銀色キノコヘアの優男。

 誰かの名乗りを止めるのは神とは言え無礼ではないのか。


「もしもいくさ関連の逸話を持つ神なら、その辺は伏せて適当な偽名を使ってくれ」

「おいパー坊! 何言ってンだテメェ!!」

「このバカは見境が無くてね。『ギルジアのアキレイナ』、と言えば有名だろう?」

「無視すンなや!!」


 今にも噛みつきそうな金髪ツインテールに対し、銀色キノコは「うっさいな」と言わんばかりに片耳を指で塞いで溜息。何じゃか慣れたような対応じゃな。この二柱は随分と付き合いが長いらしい。


 それにしても――


「ギルジアのアキレイナ……」


 確かに、その名はワシでも知っておる。身体の一部……足の腱を「アキレス腱」と呼ぶ由来にもなった世界的に有名な神じゃし、さすがにな。筋トレのために身体の知識を蓄えておった時期に、雑学として聞いた話でもある。

 じゃが、ワシが知っておるのはその名と「パーレスと言う神によって踵を撃ち抜かれ敗北し、その後に死に至った。故に足の腱や『致命的な弱点』をアキレス腱と呼ぶようになった」と言う話だけ。アキレイナと言う神そのものは余り詳しく知らぬ。


 そんなワシの思考を受信したのか「解説しましょう!」と、元気な声と共にリンゴを押し退けてククミスルーズが顔を出した。ワシと同じくリンゴの雪崩に呑まれて今まで気を失っておったらしい。


「アキレイナさまはギルジア・クランきっての戦神! 女神・チーティスさまがある人間に産ませた【半神】に該当する神です。生後しばらくは下界で暮らしておられましたが……」

「聞いた事はある。そのような半神は神話の時代には下界に多くいたが、その全員がことごとく戦で猛威を振るったため、神々は下界の秩序のため回収を決意。【アトロイ戦争】と呼ばれる大戦争を誘発し、半神たちをそこで戦死させ、まとめて天界に召し上げたという話じゃろう?」


 神々の気まぐれで創り出された大英雄たち。例のゲームで言う勇者、そのプロトタイプじゃな。

 それも、最期は神の一存で大戦争の末に皆殺し……奥歯が軋むような話じゃよ。


「それは神話用に脚色したエピソードですね」


 ん? ああ、そう言えば……。

 神話のエピソードは神々の歴史を脚色して下界に下ろしたもの、じゃったか。


「実際は違ったのか?」

「そこも解説しましょう!」


 お任せあれ、とククミスルーズは気合を入れるように翼をばさばさと振る。


「当時、天界では半神こどもを下界で暴れさせるのが一大ブームになっていました」


 神話の時代、遥か昔からやっとる事が余り変わらんな神々……。


「更に、自らの半神こどものため直接干渉する神も多く――その影響で下界の神気濃度が増してしまい、神々の手が入っていない……即ちイレギュラーな半神や神獣が誕生し始めたので、さぁ大変」

「神々が下界に直接干渉、じゃと?」

「当時はまだ、神々の下界干渉に関わる法律がほとんど無かった時代で……と言うか、このイレギュラーな神獣や半神の誕生が、神々の下界干渉を規制するきっかけとなったのです」


 成程な。アトロイ戦争へ至った経緯は、天界にとってもさすがに大事であったと。


「神々は急ぎ、半神たちの緊急回収を決定……しかし一部の半神は反抗期からか『まだ暴れ足りねぇ!!』と天界行きを拒否。その反抗期勢の半神たちを、素直な半神たちが拘束して連れ帰るべく起きた小競り合い――を、下界に下ろす神話用に盛って盛って壮大にしたエピソードがアトロイ戦争です」


 実際は戦争と言う規模の話でもなければ、半神たちを皆殺しにして召し上げたと言う凄惨な話でもない、と。少しだけ安心した。


「アトロイ戦争は脚色多めですが、それ以前のアキレイナさまの伝承は本物ですよ。まさに神速の脚で戦場を縦横無尽に駆け回り、その超圧縮筋肉で構成された究極の肉体は戦略級術式の直撃にすら耐え、比類無く強烈な膂力から放たれる槍の一撃で敵軍を要塞ごと砕いて吹き飛ばす……戦神以上に似合う称号は無いでしょう」


 戦の神、戦う事を是とする者か。仲良くなれる気がせん、と言うのが第一印象じゃな。

 銀色キノコの方が警告してくる辺り、血気もかなり盛んなようじゃし。


 ……じゃが、勇者のプロトタイプである半神――即ち、神々の遊興のため、そう言う荒々しい存在に仕立て上げられた被害者でもある……か。


 ワシの中で、どう扱うべきか難しい存在じゃな……まぁ、愛想を振りまく義理も無ければ、積極的に拒絶する相手でも無い……と言う所かのう?

 とりあえず、普通に対応しておくか。


「ワシは神ではない。アゼルヴァリウス……ああいや、アリスじゃ。下界の魔人じゃよ」

「おっ、テメェが千年筋肉かよ」


 向こうもワシの事は知っておるようじゃな。


「俺はアキレイナ! こっちのキノコ頭はパーレスだ。よろしくな!」

「キノコじゃないマッシュだよ。で、アリスちゃんと言えば今回のイベントの主役だよね。よろしく」


 パーレス……確か、アキレイナの踵を撃ち抜いて打倒した神の名じゃよな?

 神話と実際の史実はかなり違うと言っておったが……そう言う神話になっておると言う事は、モチーフになる衝突があったのでは……?

 それにしては、二柱とも何じゃか「腐れ縁の幼馴染」感が半端無い距離感に見えるのじゃが。


「パーレスさまも半神、そして弓の名神です。必中必殺にして百発千破の神業と謳われておりますね。アトロイ戦争のモチーフである小競り合いにおいては、反抗期軍を連れ戻す素直軍に所属。『まだまだ俺は下界で戦いてェ奴がいるんだよォ!』としぶとく戦場を駆け回り続けたアキレイナさまの踵を撃ち抜いて拘束し、神々に引き渡した功労者。ちなみにアキレイナさまとパーレスさまは幼馴染です」


 ああ、成程。

 しっかり者が聞き分けの悪い幼馴染をシバき倒したと言う感じじゃったか。


「まぁ、昔話はどうでも良い。俺は今と未来を突っ走る! そして今、俺はテメェに興味があるッ!」


 と、ここでアキレイナが声を張った。

 とても楽しそうに笑っておる。まるで好物を前にした幼子のようじゃ。


「神々のちょっかいに一〇〇〇年以上も抵抗し続けた不撓不屈のロリジジィ!! ちょォいと俺と勝負しようぜ!!」


 勝負て……ワシは既に筋力も魔力も失っておると、聞いておらぬのか?

 いや、筋力や魔力があっても荒事なぞ断固としてお断りじゃが。


「レイナ、いい加減にしなよ……」


 パーレスは「まったくこいつは……」と忌々し気なつぶやき。


「さっきから出会う戦神や軍神に片っ端から突っかかりやがるからその度に何度も何度も何度も言ってるけど、そもそもこのラグナロク学園ではシステム的に物騒な勝負はできないんだってば」

「わァーってるってパー坊! さすがに俺もそろそろ薄っすらとだが理解したさ!!」

「いやさ、こんだけ言ってるんだから完全に理解してくれよ」


 パーレスの冷ややかな言葉を無視したアキレイナが「だからァ!!」と威勢よく吠え、満面の笑みを浮かべた。


「千年筋肉! 何でも良いからとりあえず、勝敗のあるモンで勝負しようぜ!!」


 ふわっとしとるなぁ……。

 こやつマジで、荒々しい戦神と言うよりただただ元気で活発な小僧なのでは?


○●天界豆知識●○



◆アキレイナの女装◆

事実上の母である女神・チーティスの趣味。

アキレイナは服や髪型に無頓着なので「別に俺は裸でも良いけど、女装してっと母ちゃんが喜ぶからな!」と普通に受け入れている。



◆半神◆

神々が下界の生物へ神パワーを送り付けて生ませた系の神々。

感覚としては「子供を遊戯結界(ゲーム)にログインさせて、楽しそうに遊んでいる様を見守る」と言う企画。

基本的に半神が生まれる際には神々が天啓を下ろし、人間たちに便宜を図らせていた。

しかし、神々の過干渉により、下界ではある時期から神々の予期せぬイレギュラーな半神が生まれるようになってしまう。当然、その場合は天啓は下りてこない。そうして天啓無しで生まれてきた半神は『神に望まれていない、生まれるべきで無かった異常』――『厄災の子』や『怪物』として疎まれ、半ば迫害の対象になっていた。



◆アキレイナとパーレス◆

腐れ縁の幼馴染。

ある王家から生まれてしまった『厄災の子』として幽閉生活を強いられていた幼きパーレス。

そんな彼を、偶然に王城へ忍び込んだ幼きアキレイナが「何かよくわかんねェけど、引き籠ってる暇があンなら俺と勝負しようぜ!!」と外の世界へ連れ出した事で腐れ縁が始まった。

パーレスはこの世の誰よりアキレイナが好き。なので、パーレスが「僕は天界に行くよ」と表明しても変わらず「まだこっちで色んな奴と勝負してェ!!」と天界行きを拒否り続けていたアキレイナに割とマジギレ。渾身の踵ショットに至った。


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