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13,神々の算数教室。


 神立・ラグナロク学園……!

 星戒樹ウグドラの根っこから切り出した木材で作られた巨大校舎の廊下を、純白の天衣をなびかせながら闊歩する女神が一柱!!


 彼女の名は女神フーレイア!

 美とか愛とかを中心に色々と司っている女神である!!

 ラグナロク学園においては理事長の役職を与えられているが……知った事かとフーレイアはある場所へと向かった!!


 そこは、一年A組!!


「ニャー!! おはよう諸君!! このクラスの担任はボクが倒した(じゃんけんで)!! よって今日からこのクラスの担任、と言うかアリスちゃんの担任はボクだーーー!!」


 女神の全力オープンにより教室のドアは即・粉砕!!

 そしてその破壊音に負けない元気な声で、暴君のような発言!!


 エネルギッシュにもほどがある入室をかましたニッコニコ女神スマイルは、直後、素に戻る。


「……あり? いない?」


 もう始業の鐘は鳴り響いた後。

 だが、教室にお目当ての幼女――アリスの姿は無い!!

 学ランやセーラー服に身を包んだ厳つい神々が威圧感と静けさを放ってただ座すのみ……!

 あまりの神密度に、ここから新たな神話が始まりそうな勢いすらある!!


 しかしそんな事はフーレイアに取って些事!!

 今、この女神の興味はアリス以外に向いていない!!


「アリスちゃんが遅刻? 妙だにゃ……って、ああ、でもまぁ、それも仕方無いかにゃあ」


 オーデンの計らいによって、アリスは両親と再会、共に暮らせる事になった。

 フーレイアは前もってそれを聞かされていたので、「一〇〇〇年ぶりの再会だもんにゃあ。朝の時間だって惜しくなっちゃっても仕方無いに!」と納得。

 ……まぁ、実際の所は公園でうどん化の危機に晒されているだけなのだが。


「それはそれ、これはこれ。アリスちゃんがいないから盛り上がりには欠けるけど、一応授業を始めるにゃ~」


 無数の神々の視線を集める……常神ならさすがに怯んでしまう状況でも、主神に匹敵する女神たるフーレイアは涼しい顔で教壇に立った。さすがに、そこから見下ろす神々の姿は壮観である。中には別クランの主神までいる。「本当に神々って娯楽にガチだよに~」と呆れながら、フーレイアは教卓の上に置かれていた書を手に取った。


「……さんすう?」


 見間違いかにゃ? とお目目をぱちくりさせてみるが――どれだけ目に神パワーを込めて見ても、そこにあるのは紛れもなく「よいこのさんすう」!!


「………………」


 ラグナロク学園のカリキュラム作成は、オーデンの担当である。

 オッディ……とフーレイアは眉間を押さえながら溜息。


 アリスに学園生活を体験させる事、が主目的。授業として教え学ぶ内容についてはさほど重要ではない……それはわかるが。いくら何でも、だ。


「えぇっと……生徒の皆さん、何かこれ、すごいアレな授業っぽいんだけど……始めて大丈夫かにゃあ?」


 フーレイアがテキストを持ち上げて生徒である神々に見せると、軽いざわめきが起きた。

 しかし、どこからか「私は一向に構わん」と言う声が上がり、それに異議は出なかった。


「あー……じゃあ、一限目を始めるにゃあ。起立、気を付けー、礼」


 他クランの主神も混ざった神々がボクの号令ひとつで動くのって何かすごい違和感あるにゃあ……と、ようやくこの状況の異質さに気付き始めるフーレイア。

 しかし、もうここまで来て踵を返すと言う選択肢は無い。

 とりあえず、軽い気持ちでテキストを開いた。


「じゃあ、まずは足し算の概念からだね。例題から挙げていこう」


 テキスト通りの授業を進めるべく、フーレイアは黒板へと振り返り、白い石灰で作られたチョークを手に取った。かっかっと音を鳴らしながら、黒板に二つの円を描き、更にその円の内にひとつずつ、簡素なリンゴを描く。


「さて、この円はお皿だと考えてね。ここで質問だよ。えぇーと、じゃあまずはボクの真ん前に着席しているキミ。ギルジア・クランのアキレイナくん」

「おうよ。なんだ、女神の姉御」


 フーレイアが指名したのは、教室の中央最前列に堂々と座していたセーラー服姿の生徒。

 長い金髪を乱暴にツインテールとしてまとめており、鋭い目つきに不敵に上がった口角、筋肉質な体つきと常に傍らから離さない厳つい三又槍と丸盾から『ザ・荒ぶる戦士系の神』と言う印象を受ける。


「姉御じゃなくてセンセーね。右のお皿に乗っているリンゴはいくつ?」

「へへっ……良いぜ、教えてやるよセンセー。答えは『ひとつ』だ!! 指して数えるまでも無ぇぜ!!」

「そりゃあね」


 逆に指差しで数え始めたらビックリだよ? と言うツッコミはさておき、フーレイアは続ける。


「と言う事は、同じように左の皿に乗っているリンゴもひとつだね。じゃあ、この二枚の皿の上に乗っているリンゴはいくつかな? 次はー……じゃあ、アキレイナくんの後ろ、クバシルちゃん」


 フーレイアが次に指名したのは、彼女と同じくスカンディナヴァ・クランに所属する女神・クバシル。

 ……頭に水瓶を被ったその姿は本来ならば異様だが、フーレイアは見慣れたもの。

 頭にすっぽり水瓶、そしてセーラー服と言うとんでもないコーデだが、スカンディナヴァ・クラン内ではオーデンに匹敵する智慧の神だ。「クバシルに答えられぬ質問は皆無である」とする武勇伝を持つ女神でもある。


 どうせ誰に聞いても答えられる問題だし、誰でも良いよねと言う適当な神選だったのだが……。


「……難しい質問ですね」

「むずかしい!?」


 水瓶頭から響いたのは予想外過ぎる言葉だった。


「う、嘘だよに? クバシルちゃん?」

「ガチです。何故ならば、条件が不透明過ぎるのです、女神センセー・フーレイアよ」

「じょ、条件んん……?」

「【観測者】を誰とするか、まずそこから設定していただきたい。それは私でよろしいのですか?」

「ボクにはキミが何を言っているのかがわからない……!」


 フーレイアの頭上で?が躍り狂う中、教室の後方から「その通りだ」と圧のある渋い声が響いた。

 声の主は、芸術彫刻めいた剛毛の神。学ランが筋肉によってぱつんぱつん。その周囲では小さな雷霆がバチバチと絶えず散り続けている。

 ギルジア・クランの主神――ウルトラ・デーウスだ。


 デーウスは立派な髭を蓄えた顎に手をやって続ける。


「皿とは、食事を乗せるもの。そしてその形状は円環を示す……食の糧、即ち生命の根源(アムブロシア)に縁深い側面を持ち、理の循環をも示唆すると捉えられるアイテムだ。儀式に用いる触媒としては充分以上の概念を有しているだろう」

「ちょっと待って欲しいにゃあデーウス総統閣下」

「この教室と言う空間においては貴様の方が身分は上だ。適した呼び方をすべきだぞ、センセー・フーレイア」

「……じゃあデーウスくん。ちょっと待って欲しいにゃあ」

「承知しかねる」

「この場ではボクの方が身分上だのに!?」

「吾輩はワガママなのだ」


 それを裏付けるように、デーウスのワガママボディに耐えかねた学ランのボタンがひとつ弾けた。


「続ける。皿が有する儀式的側面は大きい。そしてその上に乗せられたものは何だ? リンゴだ。この星で最初に創造された果実であり、叡智を示す。皿の上に乗せられたリンゴ……生命の根源たる円環の上に在る叡智の果実――観測する者が有する神パワー次第では、【奇跡】を起こす事が容易である」

「えぇっと……つまり……」

「観測者によって、リンゴは無限に増殖する」


 フーレイアは教卓に肘を突いて頭を抱える。


 そして、オーデンが何故よいこのさんすうなんてカリキュラムに組み込んだのかを思い知った。


 足し算ひとつですら、神々の思考はとんでもない方向へと駆け抜けてしまうのだ。

 その思考をひとつひとつ論破して、テキスト的正解に導く必要がある。


「これってもしかして……センセー役、めちゃくちゃ重労働では……!?」


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