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07,入学式、しれっと建てられし校舎死亡フラグ。


 ……一瞬「イケバナ初ログイン時のように空高くから落とされるのでは」とひやっとしたが、さすがにそれは無く。意識が戻ると、ワシはランドセルを抱えたまま状態で――壇上に立っておった。


「……は?」


 青空の下。砂地を固めて造られた広場、運動場グラウンドと言う奴か、そこに設置された小高い台。……どこぞの国の断頭台を彷彿とさせる配置じゃな。高所恐怖症的にちょっと足に来る高さじゃ。ギリギリ平静は保てるライン。


 眼下には、色とりどりのランドセルを背負った者たちがわんさか。数百――いや、数千はおる。何人……いや、何柱かはなんとなく彫刻や絵画で見覚えがある気もする。神々の群れ、か……あの豪快な髭面の厳ついのとか、つい先日ギルジア大使が彫刻を持ってきたギルジア神話の主神ではないか……?


 え、主神クラスまで参加するようなイベントになっとるの?


 妙に威圧感を覚える無数の視線を浴びながら、改めて馬鹿げた話じゃと息を呑む。


 思わず一歩後退しそうになったワシに、横から影が差す。

 察知して身構えようとしたが、もう遅い。


「ア~リ~スちゅぁ~~~~~ん!!」

「むぎゅふっ」


 ぎゅっと抱き寄せられ、腕と乳に挟まれる。この感覚、そして今の声には覚えがある。


「フレアか!」

「おひさ!!」


 見上げれば、見慣れた顔――いや、ちょっと違うな。

 イケバナにいた頃よりもかなり髪が長いし、纏っているのも天衣? と言うのじゃろうか。動き易さは余り考慮されていない、いかにも女神っぽい衣装じゃ。ウワサ通り縫い目が見当たらぬ。そして正直フレアには微妙に似合っておらぬ気がする。当のフレアも自覚があるのか「すぐにでも脱ぎ捨てたい」と言う意思を示すように着崩した形跡がある。

 まぁ、見ておるだけで気が抜ける陽気な笑顔は変わらずじゃ。


「はぁ~……ようやくナマアリスちゃんを抱っこできる日がきたよ~。うへへ~、相変わらずチョコ餅みたいなホッペすなぁ~。よっ、食べちゃいたい系幼女!! 一口だけ良いかな!? 合法かな!?」

「却下じゃ。違法じゃ。食べるな」


 多少、見た目が女神っぽくなってもフレアはフレアか。妙な安心感すら覚える。あとそろそろさすがに鬱陶しいから頬ずりやめれ。


「今回は来てくれて本当にありがとう!! ……無理はしてない?」


 不意に、フレアの声色と表情が不安げなそれに変わった。


「安心せい。確かに前かがみではないが、厭々でもない。オッディとの交渉の末、納得ずくじゃ」


 まぁ、結果的に半ば拉致のような形にはなったがな。ファナンたちが変に騒ぐ前に天啓とやらを下ろしてもらいたい。


 ワシの返答に胸を撫でおろしたフレアの表情に、再び笑顔が戻る。


「そっか。良かった! それじゃあ、早速だけど入学式を進めていこう!」


 そう言って、フレアはゆっくりとワシを下ろすと、その手に光を集めて紅いハート柄が入った拡声器を出現させた。


「はいは~い! 当学園・理事長を務めさせていただく美とか愛とか黄金とかの女神・フーレイアで~す!! ニャー!! お集まりの皆さま! お待たせしました、主役のアリスちゃんが到着したので――神立・ラグナロク学園の入学式を始めていっっっ……くぞ~~~~~!!」


 フレアがぐー!! と拳を天に掲げたのと同時、腹底から突き上げられるような大歓声が上がった。

 頭上を泳いでおった白雲が衝撃で霧散し、ワシとフレアが立つ台が声圧だけで物理的に揺れておる……そりゃあ主神クラスも混ざった無数の神々が一斉に吠えればこうもなるか……いや、これだけで済んでおる辺り、この台はかなり頑丈に造られておるなと感心する所か?


「まずは説明から!! 本校のコンセプトは【神でも死ぬくらい刺激的な学園生活】!!」


 うむ、改めて聞いても物騒過ぎる。


「なのでごちゃましい校則はありません!! 遵守して欲しいのは一点、『誰かが悲しむような事はしない』! このイベントの主旨は楽しい学園生活だからね! 感動の涙はアリだけど、笑えないのは絶対ナーシ!! なので廊下を走ったり攻撃的な権能を誰かに向けてぶっ放す等の危険行為は全面NG!! 違反者は主神クラスだろうと、我が校の風紀を護るべく特別に選出されたポリス集団【正義ジャスティス執行委員会】がオシオキしちゃうから!! やらかすつもりならお尻とお別れする覚悟をしておいてにゃ!!」


 ……まぁ、屋内で走り回るのは確かに危険じゃが、権能の使用と並ぶ辺りに天界のスケールを感じるな。


「そしてそして、ただ漠然と楽しい学園生活を掲げてもあれなので、皆さまには課題(クエスト)を設定しました! あ、アリスちゃんも当然参加できるからね!」

「クエスト?」

「うん。それはね――【青春を極める事】!! 具体的には、【友達一〇〇柱できるかな!?】!!」


 なんじゃそら。


「この遊戯結界領域(ゲームパーク)では一定の条件シチュになるとバラエティー豊かな青春課題アオハルクエストが発生する設定が組まれているんだ! そのクエストを一緒にクリアした者たちは友達認定! 友達メダルが発行されます。そうして友達メダルを一〇〇枚、つまり友達の数を一〇〇柱まで増やすとぉ~~~~」


 妙な溜めを作り、フレアがパチンと指を鳴らした。

 すると、フレアの頭頂部にぽわっと火の玉が灯る。


「我らスカンディナヴァ・クラン秘蔵の宝剣【終炎放つ巨神の剣(レーヴァティン)】をゲットできちゃいます!! って言っても、イベント期間中限定の【貸し出し】だけどに」


 そう補足を加えて、フレアは続ける。


「クエスト達成者の発生と同時に、この運動場中心に現れる木組みの祭壇。そこに青春の炎を灯し、みんなで囲んでキャンプファイヤーをする!! それがこの学園生活体験型遊戯結界領域(ゲームパーク)、神立・ラグナロク学園の最終目標だよ!! ルールを守って楽しくクエスト攻略してね☆」

「……秘蔵の宝剣をこんな催しに引っ張り出して良いのか?」


 あと何か、名前からとんでもない超兵器感を感じるのじゃが。

 こんな不特定多数が入手できかねない景品扱いで大丈夫か?


 疑問に思っておると、ランドセルの蓋を開けて翡翠のフクロウ・ククミスルーズがもふっと顔を出した。


「ご安心を、アリスさま。【終炎放つ巨神の剣(レーヴァティン)】は身も蓋も無い言い方をしてしまうと『何かを燃やすだけの剣』です」

「そんなものが宝剣扱いされておるのもどうなんじゃ……?」

「まぁ、かの宝剣は『原初はじまりの頃、星を満たしていた火』を凝縮して鋳造された代物ですので……最大火力であれば天界・下界まとめて灰燼に帰す事が可能と言われる至極ヤバみの剣でもあります。つまり、『何かを燃やすだけ』の究極系ですね」

「やっぱヤバい奴ではないか!!」


 ダメじゃろんなモン引っ張り出しては!!


「ですが、スカンディナヴァ・クランの主神オーデンさま及び管理を請け負っているシェモーラさまとスルトンさま御夫妻、以上三柱から許可が下りなければ完全解放はできません。基本的には剣の形をした火打ち石と言う感覚の代物です。ただ歴史のある代物ですし、三柱の合意さえあれば強力な防衛兵器として活用できるので、宝剣と言う位置づけで管理されているのです。それに今回の賞品設定は他ならぬオーデンさま直々の考案ですし、安全面は充分以上の配慮を為されているかと」


 なるほどな……まぁ、外部に持ち出してもオッディたちがきちんと制御できるならば問題は無いじゃろう。

 いや、それにしたって何でわざわざそんな代物をチョイスしたのか感は否めぬが……。


「さぁ、説明は以上だよ!!」


 そう言って、勢い良くフレアが振り返り、その手をある方向へと差し出した。

 ワシも合わせて振り返り、その手が指し示す方を見る。


 そこに在ったのは、巨大な木造校舎。スカンディナヴァ・クランのシンボルなのか、巨大な樹を象ったシンボルマークが刻まれた巨大旗が風に揺らめいておる。


「これが――ラグナロク学園か」


 これから、ワシが通う事になる学び舎。

 果たして、神々との学園生活……どんな事になるやら、想像もできぬな。

 目的通り、勇者の学園創立に役立てられる何かを得られると良いが……。


「どう? アリスちゃん。スカンディナヴァが誇る星戒樹ウグドラから切り出した木材で造られた校舎!」

「うむ、立派なものじゃな……ウグドラ?」

「校舎の向こうにでっかい木がぼんやり見えるでしょ? あれ!」


 言われて目を凝らすと、確かに……向こうはやや曇っておるのか霞がかっておるが、巨大な樹木のようなシルエットが天まで伸びておるな。なるほど、あれだけ立派ならばクランのランドマークのようなものになるか。


「うむうむ。木も校舎も立派じゃ」

「何か炎剣の話をした後だと、よく燃えそうだって思うよね!! にゃんつって」

「良い笑顔でいきなり不吉な冗談を」


 炎に纏わる神と関わる時は注意しよう。


○●天界豆知識●○



星戒樹ウグドラ

まだ【善】と【悪】の概念すら無かった開闢かいびゃくの頃。

ただの『興味』で星を滅ぼそうとした原初の破界神【破星滅神メテオラング】が現れた。

オーデンを始め各クランの主神たちによって討ち果たされたそれの残骸を封印するため、【蓋】のような役割で植えられたパワーある樹木がウグドラである。

星が滅びかけた大事件を忘れないための戒め。

まぁ、そのモニュメント的な樹から普通に木材を切り出している辺りが神々。

変なんが染み着いてても知らんぞ。



終炎放つ巨神の剣(レーヴァティン)

スカンディナヴァ・クランが管理する宝剣のひとつ。

星の素材もととなった原初の創造神【創星母神グレイトママン】。

彼女の『肉』は『大地』に、『血』は『海』に……と言った具合に形を変え、そして『声』は『雷』と『火』になった。

原初の雷と火は星を満たしており、このままでは住み辛いと感じた神々は「必要以上に在る雷と火を封じる」事にした。そうしてオーデンが火の対処を請け負い、剣形に凝縮加工したのがこの宝剣である。

加工者であるオーデン、管理者であるシェモーラとスルトン、以上三柱の完全合意が無ければ出力を全開放する事はできない。

……もし、三柱の許可無しに完全解放できる者がいるとすれば。

それは素材もとになった【創星母神グレイトママン】か、もしくは彼女に等しい原初の何かだろう。

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