イライラの解消は「牛乳」でどうぞ
何をやっても上手くいかない日。
下駄箱で上靴に履き替えていると、同じ組の女子、牧田が登校してきた。
人としての最低限の礼儀と思い、面倒臭いながらも挨拶する。
「早ぉ」
「馬場♪ おっ早う!」
無駄に明るい声。
にっこりした笑みを見せ、牧田は俺の隣で靴を履き替え始めた。
俺は静かに3歩退き、ゆっくりした動作で上靴のかかとの折れを直す。
牧田はしゃがみ込まず、膝を軽く曲げて靴を履き替えている。
見えそうで……見えない。
ちっ。
もぉ少しなんだけどなぁ。
朝のホームルーム、机から消しゴムが落下した。
拾おうと、椅子に座ったまま手を伸ばす。
プリント配布係りの牧田に指先を踏んづけられた。
っ痛……もぉ、こんちきしょう。
うぉ!? 足、近っ!
「あっ、ごめんね?」
見えそうで……見えない。
ちっ。
2限と3限の間の休憩時間、日直なので黒板を消そうと立ち上がる。
すれ違い様、牧田の肘鉄を脇にくらった。
「っ痛ぇな、もぉ……」
「あぁ、ごめん」
給食の時間、席の近い6人で机を寄せ合い、向かい合って食べる。
正面の席の牧田は隣の女子と楽しそうに喋っている……と、牧田が……味噌汁のお椀を倒した。
牧田の机は俺の机よりも幾らか高さがあったようだ。
上流から下流へ、味噌汁が俺の机に流れ込む。
「……味噌汁臭ぇな……もぉ……」
「うん、ごめんね」
給食が終わる頃、牧田が言った。
「馬場、さっきはごめんね? 私の牛乳あげるよ。ほら、カルシウム」
「要らねぇー。もぉ自分の飲んだわ」
欠席の奴の余りも1本飲んだわ。
「遠慮しないの。イライラは良くないよ? はい、カルシウム」
「要らねぇーって。誰のせいだっつの」
「うーん、私?」
「だろうな」
「そか。じゃあ……ごめん……」
申し訳無いと思わせたいわけじゃない。
謝らせたいわけじゃない。
しゅん、とさせたいわけじゃない。
……何をやっても上手くいかない日。
「……でもさぁ、馬場。やっぱりほら、カルシウム!」
「自分が飲みたくないだけじゃん。押し付けんなよ」
「好きだよ? 牛乳。でも今日は……馬場に、あげたいなぁって、思っただけ」
「……そりゃ……どうもぉ」
「うん! どういたしまして♪」
牛乳を更にもぉ1本飲んで、お腹たぷたぷな俺。
牛になった気分だ。
頑張れば乳が出るかもしれない。
5限目、熟睡中。
隣の席の牧田に頬をつつかれ起こされた。
もぉ、まだ眠いっつの。
「馬場ぁ、後で職員室来い」