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【第一章】オノイェッドゥヌープの少女1 白霧の森

旧題:【フカルウェト・オクェ】オノイェッドゥヌープヴ・ジトン オクェ

【第一章】オノイェッドゥヌープの少女1がそのまま和訳となります



 ……

 …………

 ………………


「いッ――」


 痛みで目を覚ました。

 全身がバラバラになったのではないかと思うほどの痛みがあるが、痛いということはちぎれていないということだ。


「くそ、いてぇ……」


 自分の身体を見るが、痛みの割には外傷が見られない。

 こんな不自然な事、あるのだろうか?

 それに、自分は一体どうしたのだったか。

 確か――


「いつもの場所で眠っちまって、それで……」


 そこから記憶がなかった。

 痛みが治まるのを待ちながら視線を巡らせると、すぐに異常に気が付いた。


「凄い霧だな……それに、森の雰囲気が違うような……?」


 どこがどう違うのかと問われると即答できないが――

 まず第一におかしいのは、ダンボールの上で寝っ転がっていたはずの俺は、草の上に寝っ転がっているということ。

 当のダンボールは霧のせいか、あるいはもっと別の要因か、周囲に見つけることはできなかった。

 それに、聞きなれない虫の鳴き声が聞こえてくる。

 痛みをおしてなんとか立ち上がると、自分の家へ向かう方へと歩き始める為、目印を探す。

 が――


「目印すらなくなってるな……っていうか、どう考えても違う場所、だよな……?」


 目印とは簡単に秘密基地(と呼べるほど上等なものではないが)と家を往復できるよう木につけた傷だ。

 場所が動いてしまっている理由を考えるが、有力な回答を導き出せない。

 ストレスのせいでついに俺は夢遊病になってしまったのだろうか。

 或いは寝てる間に誰かに運ばれたか。

 それとももっと別の何かか。

 答えは出そうにない。

 何度も入りなれた森。

 迷子になるはずなんてなかった。

 寝てる間に知らぬ場所へと移動してしまうなんて事態、想定しているはずがない。

 おまけにこの濃霧だ、方向感覚を狂わされ、今自分がどちらを向いているかもわからない。

 ポケットに突っ込んでいたコンパスを取り出す。


「あ、あれ?」


 しかし、コンパスはうんともすんとも言わない。

 いくら自分が向きを変えても針は動かなかった。


「磁針の磁力がダメになったのか……?くそ……磁石、持ってきてたっけ……?」


 リュックを漁ろうと思って、自分がリュックを持っていない事に気づく。


「どっかで落とした……?」


 サァーっと血の気が引く。

 あの中にはせっかくとった野草はもちろん、草を刈ったり目印をつけたりする為のナイフや、水筒だって入っていた。

 もちろん磁石だって。


「いや、そういえば――」


 今朝、リュックに磁石を詰め忘れたのに気づいて、面倒くさくなって反対側のポケットに突っ込んだような覚えがある。


「頼む――!」


 祈るような気持ちで反対側のポケットを漁ると、手に固い感触が返ってくる。

 慌ててそれを取り出した。


「あった……!!」


 早速磁針のN極側に磁石のS極をあててやる。

 しっかりと磁針のNが磁石のS極の方角を指し示す。

 これで磁力が回復した。

 俺はポケットに磁石をなおすと、再びコンパスを構えた。


「よし、向こうが北か」


 俺は磁針が指し示す方角を頼りに自分の向きを変える。

 が――


「は?」


 磁針はさっぱり向きを変えなかった。


「おいおいおい、どうなってんだ……?地磁気がなくなりでもしたのか……?」


 自分で言っておきながらなんだが、地球から重力がなくなるくらいあり得ないバカバカしい話であるのを自覚しているので、すぐにその可能性を切り捨てる。

 地磁気がなくなったら少なくともなんか大災害とか起こる気がする。

 学が無いので具体的にどうなるかはわからないが。

 SFではポールシフトとかでえらいことになる作品もあるぐらいだしな。


「この一瞬で磁針の磁力が消失したと考える方がまだ現実的か。それもあり得るとは思えないけど……」


 無駄とは知りつつも再び磁石を取り出して磁針にあてがう。


「うーん、きっちり磁石には反応するんだけどなあ……」


 磁石を磁針から離すと、とたんに磁針は何の反応も示さなくなった。


「あー……どうすんだよ、これ……」


 霧で視界は無いに等しい、方角も解らない。


「くそ、霧が収まるまで大人しくしたほうが良さそうだな……」


 いったん腰を下ろす。


「ん?」


 ふと視界に入った植物が気になった。


「これは……よもぎ、じゃないよな……」


 よもぎのようにも見えるが、それにしては巨大だし、色もなんだか紫が強い。

 ほかにも生えていないかと視線を巡らせてみれば、この辺りでは見た覚えのない良くわからない植物ばかりだった。

 肉厚のぜんまいもどき、巨大ちょろぎもどき、それにシソによく似ているが、非常に小ぶりな葉をいくつもつけた草。

 地面に敷き詰められているかのように生い茂る、芝のように小ぶりながらシダ科にみえる植物群。

 明らかに植生がおかしい。


「なんだ、ここ……」


 もしかして、ここは俺の知る場所ではないのではないか。


「そんなバカなこと……」


 あるわけない、そう言いたかったが、このよくわからない濃霧に、見覚えのない植生。

 不安は募る。


(帰れるのか……?)


 決して楽しい人生ではなかったが、だからといって死にたくはない。

 というか、餓死とか、脱水での死とか、相当苦しいって聞くし嫌だ。

 家が恋しいわけではないが、水の補給はしたい。


「……この霧で、しかも夜。動いても無駄に体力を消耗するだけだよな」


 ひとまず体力の温存の為、俺は眠ることに決めた。





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