【第二章】銀色の髪の少女1 関所2
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「はぁ、はぁ……やっと、見えて、きたか……」
前回と違って重い荷車を運んでいないので身体的にはずいぶん楽なはずだった。
だが、思っていたより薬草が歩くのに邪魔だったからか、勝手に飛び出してきた負い目からか、話し相手のいない喪失感からか、イティークの手作り弁当がなかったからか。
あるいはそのすべてが原因だろう、前回とあまり変わらないくらい時間がかかったうえ、より疲れが溜まっている気がした。
しかし、それももうすぐ終わる。
「こいつで通してくれればいいんだけどな……」
言いながら、薬草を担ぎなおす。
ヴェイータッブは直訳すると『ノコギリ草』という感じになるようだ。
葉がノコギリ状だからだろう。
すりつぶし、ほかの薬草と組み合わせて塗り薬として使うらしい。
が、それ以上のことは解らない。
例えばどの程度の価値があるのかとか、関所を通る際の税として有効なのか、とか。
「当たって砕けるしかない、よなぁ……」
例えば関所を通れても全部の薬草を持っていかれてしまっては換金もできない。
関所を通れない、あるいは薬草をすべて持っていかれる、いずれの場合でも詰む可能性が高い。
(頼むぞ……)
そう胸中で呟きながら列に並ぶ俺。
そんな折、列の前のほうから騒ぎが聞こえてくる。
「ヴウォアー!テニェーヴェ!!(やめろ!離せ!!)」
「ヴクゥーウル!(黙れ!)」
列から顔を伸ばして何が起きているのか見てみると、関所で誰かが取り押さえられ、どこかへ連れていかれるところだった。
何か問題を起こしたのだろうか。
前回、俺はイティークに助けられた。
でも今回、俺は一人だ。
不安がじわりじわりとせり上がってくる。
(逃げ出したい……あぁ、逃げ出したい……でも、行くしかない……くそっ!)
本当は逃げ出したい。
でも不審に思われたくもない。
結局、現実逃避して流れに身を任せることしか俺にはできなかった。
やがて、自分の番がくる。
「ワズ・ルテヴェクーアウィオック(税の提示を)」
俺は薬草の束を片方提示した。
「ふむ……ヴェイータッブ……(ふむ……ノコギリソウか……)」
そうつぶやいた兵士は、別の兵士に薬草を渡し、
「ルニェーヴェ・イェイークゥキヴ(こいつの重さを計ってくれ)」
と、何事か指示を出す。
「ヒクセグティグ・ヴィゼク・ファタゥ(560ファタゥ(2,8kg))」
「イウィヴ・スイウェ・オ・スアクウィウ(なかなかの量だな)」
なにやらアイコンタクトをする門番達。
「イケーテ・アテ・アイ・フォペート(貴様、何処から来た?)」
「ぼうーけっくらとぅ」
「ほぅ……ヴォウーケック・ラトゥ……エイ・ファクォウ・ヴェー・イゥ?(ほう……南部からね……そうは見えんが?)」
「ほていぜくと」
「ふむ……イヴァイル・クァペ・アラト?(ふむ、貴様の名はアラトか?)」
そう言われてドキリとする。
前回の時の話が情報共有されていたことは間違いないようだが、こちらにとって都合が良いように伝わっているのか、それともその逆か……そこが問題だ。
しかし、公的機関相手に誤魔化すのは得策ではないだろう。
どうせ隠しきることも出来ない。
俺は素直に首肯した。
「べぶ」
その返答を聞いて、門番二人は再度何事かアイコンタクトを行った。
「ジョ・ウクトウイク(通ってよし)」
どうやらこちらにとって都合がいい感じで伝わっていたようだ。
俺は門番達の気が変わらないうちに、そそくさと街の中に入っていった。
「ふぅ……」
俺は門番が見えない場所までたどり着いたところで、ようやく一息をついた。
(さて、これからどうしようか……)
薬草は半分を納税した。
残った半分をなんとか買い取ってもらって、ひとまずの生活費にしたいところだが、どこで売ればいいのかが解らない。
(ひとまず薬屋を探すか……)
識字率の関係か、看板は目で見てわかりやすい感じになっている。
店の名前を見ても読めないので、看板でなんとなく何の店か解るようになっているのは助かる。
しかし問題はこの世界の薬がどんな形をしているかだ。
日本だったら錠剤やカプセルの看板を見れば薬だとわかるが、恐らくそういう形はしていないだろう。
ファンタジー世界でありがちなのはガラス容器に入った薬だ。
しかし、イティークとの生活でガラスや鏡を見た覚えがない。
存在しないか、高級品に違いない。
となると、薬が瓶詰めされているとは思えない。
(どんな看板を探せばいいのかも解らないのは、なかなか敷居が高いな……)
とりあえず看板を手あたり次第見て回る。
立派な店構えで、服の看板なのは服屋だろう。
屋台でステーキ肉の看板は肉屋。
同じく屋台で種のようなマークがあったのでこれか?と思ってしばらく遠巻きに観察していたが、どうやら香辛料のようだ。
しかも多分、結構な高額で取引されている。
服屋と同じくらいに立派で看板に文字が書いてある店もあった。
こちらは本屋のようだ。
やはりどれも高いのだろう。
客の出入りは身なりのいいものが多い。
次に目に入ったのは、トマトのような看板を出している屋台だ。
こっちも多く植物が並べられていたので少し期待したが、どうやら八百屋らしい。
次に目に入ったのはツボのような看板だ。
ツボというよりは口が広く平らに描かれている。
(ああ、そうか、大釜か!)
調剤の為に大釜を使うのはありうることだ。
これは期待できそうだ。
窓からのぞきたかったが、残念ながら閉じられている。
ガラス窓ではなく、木製の窓だ。
あれでは当然採光量は0だろう。
昼間から薄暗い店内に明かりをともす形で営業しているのかもしれない。
薬屋にしては不健康そうな感じだが、薬品類に直射日光がよくないから避けているのかもしれない。
戸建て型の店なので、入店しないと店内の様子がよくわからないのが難点だったが、しばらく様子を見ていると、調子の悪そうな人や、軽いけがをしている人なども来店しているのが分かった。
ますます期待できそうだ。
俺は意を決して入店することにした。
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