私の液体
私はちょっと人と変わっているかもしれない。そう思い始めたのは、小学生の頃だ。
小学3年の秋、クラスの人気者アキラ君に私は初恋をした。
アキラ君はとてもカッコよく、クラスのリーダー的存在。一方私はというと、目立たず地味で友達も多くない眼鏡女子だったのを覚えている。
アキラ君の気を惹きたかった私は、色んな事をした。
最初にしたのは、アキラ君の持っている算数の教科書と私の算数の教科書を取り替えた。
「あれ、コレ俺の教科書じゃないじゃん。
瑞子、お前が俺の持ってない?」
「あれ?本当だ、ごめんね!」
「ん、全然いいよ」
3日でバレた。でもコレはバレる事に意味があった。アキラ君の頭の中に私の名前、顔、声が少しでも残ってくれたらと、そう考えただけで私は嬉しすぎて口いっぱいに涎が広がった。
次に私は、リコーダーの吹く部分をアキラ君のと入れ替えた。当然、アキラ君は私が吹いた部分を口に入れるわけで、私はアキラ君のを口に入れる。間接キスだ。
そして音楽の時間は、当時の私の日常において最も大切な時間だった。音楽の授業中にリコーダーを吹く、それはつまりアキラ君も同時に吹いているということ。その時だけは、本物のキスをしているようで、私はリコーダーの吹き口の中に涎を流し込むように吹いていた。
結局、リコーダーは気づかれなかった。
その日は偶然、アキラ君が筆箱を忘れて帰った。アキラ君の忘れ物、それは私に対するプレゼント。筆箱の中をみると、数本の鉛筆と使い古された消しゴムが一つ。
我慢できず、私は鉛筆を一本一本丁寧に舐めていった。涎を溜め、鉛筆を口に含んだ。口の中に広がる鉛の不味さ。けれども私は、舐めるのをやめられなかった。
そんな私の片思いが2年続いた。
小学5年生の秋、私はアキラ君と友達になっていた。アキラ君の笑顔を間近で見ることができ、アキラ君と会話することができて、友達になるということの素晴らしさを身をもって感じていた。
一方で、もっと近くにいたい触れていたいくっつきたいシタイヤリタイ付き合いたい愛し合いたいしたいしたいしたいしたいしたい
私の人と変わったところは、益々エスカレートしていった。
その時期は、私の唾液をアキラ君に飲ませることにハマっていた。
「アキラ君、今度のバスケの試合頑張ってね」
「おう!ありがとな」
「ちゃんと水分補給してね。ほらコレ、水」
「おっ、サンキュー」
アキラ君はそう言うと、私の唾液入りの水を飲んでくれた。私の口の中のドロドロが、アキラ君の中に入って一緒になっていく。それだけで私は妊娠できる妊娠できるするするするするしてやる。
結局、アキラ君とはそれ以上何もなく小学校を卒業してしまった。
アキラ君は中学生になってから少しぐれてしまったらしい。柄の悪い連中とつるむようになってしまった。
「チッ、くそだりぃ。」
道に唾を吐く一人の少年。
少年が通り過ぎたあと、ハイエナのように出てくる少女がまた一人。
「っはぁ、美味しい、おいしい。」
少年の唾が垂れたアスファルトと何度も舐め回す少女。舐め終わった後、彼女はポツリとこう言った。
「彼の、液体」