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第7話 村に戻って──

「それで、どうしてこんなところにいるんだ?」


 アスカは単刀直入に質問する。


「どうしてって、タイラノの討伐ですよ」


「タイラノ?」


「さっきの恐竜みたいな魔獣ですよ。僕はそいつの討伐クエストを受けていたんです」


 先程の魔獣──タイラノはどうやらレンが受注したクエストの標的であったらしい。しかしそうなると、本来倒すべき標的を失ったレンはクエストをクリアすることはできなくなる。


「えっと……ごめん」


「別に気にしてませんよ。元々リタイアしようとしていたクエストなので」


 それは一体どういうことだろうか。転移者であるのならば弱くともそこそこの強さはあるはずだ。しかし何故かレンはそのクエストのリタイアを選んだ。


「何か理由があるのか?」


「それが、僕としたことが魔力消費について全く考えませんでしてね。ほら、僕はこの二丁拳銃じゃないですか。1発1発の消費魔力は低いんですけども大量に撃てば結局は大きく消費するんですよ」


「塵も積もれば山となる、か」


「まさにそれです。それに、一応マガジンはありますけど何故かリロードは不必要ですしね」


 レンの二丁拳銃のマガジンチェンジが必要ないのは、アスカと同様と考えると撃った後に魔力が消費され銃弾がマガジンに自動装填されるからだろう。

 そして、レンが撃ちすぎてしまう原因もリロードが不必要だからだ。リロードが必要ならば何発撃ち込んだかの計算が楽だ。それに、銃弾の残りには制限があるため慎重な立ち回りが必要とされる。

 しかしレンの場合は、ゴリ押しのレンと言われていることからとにかく撃ちまくる戦法なのだろう。そんな奴が今のリロードが必要ない二丁拳銃を使えば消費魔力が大きくなるのも当たり前だ。


「それで、銃を撃つ魔力が少なくなったからリタイアしようと」


「その通りです。そういえば、アスカさんはどうしてここに?」


「俺はゴブリンの討伐クエスト。転移したのが今日の朝なんでな。試し撃ちってところだ」


「えっ、僕が転移したの5日前なんですけど……」


「……え?」


 レンの話によると、レンがこの世界に転移してきたのは今日から5日前の昼だそうだ。どうやら転移する時にランダムなのは場所だけでなく時間もらしい。

 しかしそうなると、転移者75人の全員が同じ時間に転移していないということだ。もしかしたら今から数百年前に転移したという人もいれば、これから三日後に転移される人もいるのだろう。


「まあそれはともかく、村に戻りませんか?」


「生憎だが、俺は帰り道はわからない。適当に走って来たからな」


「安心してください。僕は知ってるので」


「グッド」


 残りの話は村に帰ってからということで話を済ませ、アスカとレンはタイラノを討伐した場所から村に向かって真っ直ぐ歩いて行った。



***



 レンの案内でアスカは無事にナチュランの村にたどり着いた。そして、到着してすぐに向かったのが冒険者ギルドだった。


「すみません。このクエストについてなんですけど……」


「はい、どうかしましたか?」


「彼女が討伐してしまいましてね。この場合どうなるのかを尋ねたいのですが」


 冒険者ギルドにて、レンは標的であるタイラノを自分以外の冒険者に討伐された際にどうなるのかを尋ねていた。

 アスカ達がいた世界のゲームではこういう自分の標的を他の人に倒された場合は、倒した人にその報酬が支払われるかそもそもクエストを受けていないから報酬はなしというパターンがほとんどだ。


「それなら、討伐された方に報酬が支払われます。しかし、もしも横取りによる討伐であれば無効となります」


「横取りではないということは僕自身が保証します。完全に自己防衛のための討伐のように見えましたしね」


「それならば、アスカ様にゴブリン10匹の討伐クエストとレン様が受注されていたタイラノの討伐クエストの報酬の合計5万5千コルをお受け取りください」


「高っ!」


「タイラノの討伐クエストの難易度は6ある内の4です。これくらいが普通です」


 あれくらい凶暴性を持った肉食の魔獣だ。それくらいの難易度でなければ逆におかしい。今回はアスカのような転移者だったから良かったものの、もしも本当に戦闘というものを一切知らないアマちゃんだったら確実に死んでいた。


「てかコルって?」


「この世界の通貨ですよ。札が硬貨という点以外基本は日本の円と変わらないので単位を間違えなければ問題はないです」


 受付の人から金で作られた硬貨である金貨と、それよりも一回り大きいサイズの金貨が5枚渡された。

 つまり、この一回り大きいサイズの金貨──ここでは大金貨(だいきんか)とでも呼ぼうか。大金貨は日本で言う1万円で金貨は千円の価値があるという事だ。そして、レンの言うことが正しければ他にも500円、100円、10円、1円の価値を表す硬貨があるのだろう。


「アスカさん、報酬も受け取ったということで晩御飯にしませんか?」


「ん、あぁ、もうこんな時間だったのか」


 アスカがこの世界の通貨について考えていると今がもう夜であることに気がついた。どうやら、クエストや移動などで忙しかったために時間の経過を把握しきれていなかったようだ。


「どうです? ここには一応食堂的なものもありますので」


「──食堂ですレン様」


「……しょ、食堂もありますので食べて行きませんか?」


 受け付けの女性からの謎の威圧でレンが怯む。ここだけの話、アスカもそれなりに怯んでいた。


 ──恐るべし受け付けの女性。


 それはともかく、アスカはここで食事をしようかと迷っていた。一応昨日のあの男には冒険者になることを知らせているので帰りが遅くなることは伝えている。

 しかし、問題なのはそこではない。食事をするということは伝えていないのだ。もしかすると新婚の妻のように晩御飯を作って待っているかもしれない。


「………んー」


 じっとレンの方を見る。レンはアスカよりも前に転移してきた人間だ。何かとこの世界のこともレンの方が詳しい。それに、今回遭遇したのも偶然のことだ。

 もう一度運良く遭遇するという可能性は低い。ならば、ここはこの世界について話す機会を作る必要がある。


「わかった」


「よかったです。それでは、食堂t……食堂はこっちですよ」


「食堂的って言わないのは何か理由があるのか?」


「行けばわかります」


「──?」


 何かと疑問を抱くアスカであったがここで聞いても同じ返答が来ると察し、静かに食堂へと向かうレンについて行くのであった。

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