第64話 謎の襲撃者
お久しぶりの更新、ごめんね
町を出てからしばらくの時間が経過し、アスカも町から少し離れていた。
「……ねぇ、邪竜さん」
──ああ、尾行されているぞ。
森に入ってすぐのこと。アスカは何者かに尾行されているような気配を感じていた。気のせいかとも思っていたが、邪竜も同じような気配を感じていることから気のせいではないようだ。
──目的は知らんが、どうする。これ以上つけられればあのレジェンドドラゴンの存在が知られるぞ。
「……仕方ないか」
これ以上の尾行はレジェンドドラゴンの存在を知られる可能性しかないと考えたアスカは歩くのをやめて足を止める。そして、銃を手に持ち戦闘態勢に入る。
「私をつけている者。何が目的だ?」
率直な質問を周りに響き渡るくらいの声量で言う。しかし、それと言った反応がない。
──この気配は気のせいではない。油断するな。
「わかってる」
全体に視野を広げて何処から来ても対応出来るようにする。集中を欠かさないようにじっと待つ。
そして、その時が来た。
「バレちゃあ仕方ねぇなぁ!」
「ッ!」
アスカへ向けての声と共に1人の青年が片手に4弾ロケットランチャーのM202 FLASHを構えて突っ込んでくる。そして、そのまま引き金を引いて弾を放つ。
「あの武器は……!」
M202 FLASHに装填された弾が焼夷弾であることを思い出し、アスカは飛んでくる弾をもう1つの武装であるベレッタ92で撃ち落とす。
元々ハンドガンがそこそこ扱えるアスカは、飛んでくる4発の弾を何とか撃ち落とすことに成功する。ここでスナイパーライフルを使うのは間に合わない。
「たくっ、こんな森の中で焼夷弾なんて撃つなよ!」
「おらおら、第2波だ!」
魔力による自動装填でリロードされたロケットランチャーを再び構えて発射する。その度にアスカはハンドガンでロケット弾を撃ち落とす。
何とか全ての撃ち落とせているが、こんなことをずっと繰り返せばいずれは外す。そうなってしまえば、ただでさえ撃ち落とした時の爆発で森の木が燃えているのに、その火災がさらに悪化してしまう。いや、今思えばもう既に手遅れだ。
「火だけの破壊とかできないの!?」
──そんな器用なことはできん。破壊するならここら一体だ。
「この不器用!」
──悪かったな不器用で。
「開き直るな!」
「何1人でブツブツ言ってやがんだぁ!」
「チッ……!」
邪竜に対して文句を言ったところでこのロケラン魔を止めなければこの森は確実に燃えてなくなってしまう。早々に決着を付けなければならない。
アスカはベレッタ92でロケットランチャーの弾が装填されるほんの少しの間に狙い撃つ。しかしその射撃は読まれたのか撃つ直前で横へと移動され回避されてしまう。
「そんな丸見えの射撃なんて当たるわけねぇだろ!」
「知ってるよそんなことは!」
まるで挑発するかのような口調で青年はアスカへ向けて叫ぶ。そして、その挑発に乗るかのようにアスカはハンドガンを連射する。魔力によるリロードを行わなくても人相手ならば簡単に負傷させることは可能だ。
「そこだ!」
1度射撃をやめ、再び青年がロケットランチャーを発射しようとした瞬間にハンドガンを撃つ。しかしまたも同じように回避されてしまう。
「だから、当たるわけ……っ!」
横へと回避しアスカへ視線を向けると、そこにはアスカがサバイバルナイフを構えて突っ込んできている姿が映っていた。
当たるわけないと油断していたところを突いて、アスカはあえて遠距離での戦闘ではなく近接戦へと持ち込んだのだ。
「くっ、間に合わない!」
近接武器を持たない青年はロケットランチャーを構えるが、既にアスカは間合いに入っている。ロケットランチャーを撃つ前に仕留めることが可能なのだ。
「一撃!」
アスカは青年に向けてサバイバルナイフを振り下ろす。
しかしその直前で青年とはまた別の何者かが発砲しナイフを弾いた。
「っ!?」
1人じゃなかったことに気が付き、完全にがら空きになってしまった胴体に青年はロケットランチャーを構える。その表情は価値を確信したようなニヤけたものだった。
「まだ終わっちゃいない!」
サバイバルナイフを弾かれた反動を利用し、そのままアスカは左足を上げて思いっきり青年の顔をキックをぶちかます。クリーンヒットしたそのキックは青年をぶっ飛ばし、そのままダウンさせた。
「まだいるんでしょ。出てこいよ」
先程発砲音が聞こえた方にハンドガンを構えてアスカは言う。すると、見ている方向の森の奥から銃を構えた少女が歩いてくる。
「流石は閃光のSさんだ。こっちの世界でも適応してる」
「目的は何?」
「勿論、貴方の抹殺」
その言葉を聞いて、アスカはハンドガンの引き金に指をかける。
沈黙した空気がしばらく流れると、突然目の前にいる少女が笑いをこぼした。
「なーんてね。抹殺なんてするわけないよ。殺し屋じゃあるまいし。それに、元々戦うために尾行したんじゃないしね」
少女は銃を消し、そのまま蹴り飛ばされた青年に近づいて行く。その間アスカはずっと警戒を解かずに銃口を向ける。
「これはまた派手にやられたねルナウェイ」
「バチくそ痛てぇよ。銃撃戦なのに蹴りなんてありなのか?」
「……何勝手に話し始めてるんだあいつら」
こっちは銃口を構えているというのに、それを全く気にせずに少女はルナウェイと呼ばれた青年と話し始める。もう少し彼女らには恐怖心というものがないのだろうか。
「セツナー、そろそろ来ていいよ」
「了解」
少女がそう言うと木の上から1人の青年が降りてくる。その青年は2本のブレードに2本のダガーを腰に付けるという、なんとも近接戦に特化した武装をしていた。
「3人もいたのか……」
──人気者だな。
「嬉しくない」
こんな人気者でも襲われる人気者だなんて誰も嬉しがらない。嬉しがるのはドMの人くらいだ。
「さてと、それじゃあ目的教えてくれない? 敵対してないって言うんなら」
「だったらまずはその警戒を解け。そんなものを構えられたまま話すことはできない」
「………」
近接特化装備の青年にそう言われ、ゆっくり銃口を下ろす。その際に警戒心は解かずにいたが、どうも本当に敵対するつもりは無いのか攻撃してくるような気配はない。
「……これでいい?」
「ああ」
「それじゃあ本題……の前に確認」
「確認?」
「そう、貴方が本当にあの『閃光の狙撃手』なのかってこと」
「閃光の狙撃手」という言葉を聞いてほんの少しだけアスカは反応する。
その名前はかなり前に、この世界に来る前にアスカがゲーム内で呼ばれていた名だ。そんな名前を態々ここで出すということは相当アスカの正体についての自信があるらしい。
「もしもここで、ノーと答えたら?」
「ただの見当違いだったってだけ。まあでも、そんな腕をお持ちで見当違いなわけないよね?」
「…………」
答えるべきなのか、それとも答えないべきなのかに迷い言葉に詰まる。だが、相手には先程の戦闘から確信を得ているらしく、今更隠しても意味がなさそうではある。
「どうなの? 閃光さん、いえ、アスカさん?」
「……合ってる。そう、私がその閃光の狙撃手。今じゃ大罪人だけどね」
少し考えたが結局話した方がいいと判断し、アスカは正体を明かした。逆にこれ以上誤魔化すというのも無理がある。
「やった! 5回目のトライにしてヒット!」
「……ん?」
「まったく、もう少し効率的にできなかったのかイノン」
「このバカが突っ込むから時間がかかったの。本当は話し合いで突き止めたかったなー」
「誰がバカだてめぇ!」
「バカでしょ、格上相手に突っ込むんだから」
「……カマかけられてたのか、さっきまで」
──まんまとはめられたみたいだな。
確信を得ているような話し方をしていたのに、まさかのそれがフリであったということにアスカは驚きを隠せずにいた。
本気で話しているように見えていたのに、それが演技だと気が付かない辺りまだまだ甘いなとアスカは実感する。このままじゃあ同じ感じで質問された時についつい答えてしまう。
「あ、そうそう。本題なんだけど」
「何? 変なことだったらすぐに断るけど」
「なーに安心して、面白いことだから」
そういうとイノンと呼ばれた少女とルナウェイはセツナを真ん中にして左右に立つ。まるで集団のヒーロー系アニメのような並び方だ。
そして真ん中にいたセツナは、アスカへ向けて手を伸ばして一言、
「アスカ・ハクノ。お前を我々の組織── エラディケイションオブコンフリクトに加入して欲しい」
なんとも長い英語の組織名の組織に加入して欲しいという勧誘であった。




