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第62話 犠牲にせざるを得ないもの

 突然絶命したケルベロスを見てキルアは困惑する。

 一体何をしたのか、そう疑問を抱かずにはいられなかった。


「……ふぅ」


 ケルベロスとの戦闘が終わり、緊張が解ける。

 そこまで苦戦はしていないが、アスカの知るケルベロスとは3つ首の犬。最低でも今倒したケルベロスと同じような魔獣が今後2体は来ると考えられる。


「その力、やはり……」


「詮索はやめて。それと、あまり他言はしないで。一応これでも追われてる身なんだから」


「……了解した。それと、先程の活躍から聞かせてくれ」


「───」


「我が騎士団と共に、この町を守ってくれないか?」


 まあ、そう来るだろうな、と既に予想はできていた。

 だが、アスカ自身そこまで強いとは思っていない。

 取り柄を言えば高い狙撃スキルと邪竜の力を有しているということのみだ。邪竜の力に関しては使う事にリスクを伴うので不必要な使用は控えている。

 結論から言えば、時と場合によってはただの足でまといになってしまうような人間、ということだ。

 そんな人間がこの町を守る騎士の足でまといになって町を滅ぼしたなんてことが起これば、もっと面倒なことが起きるだろう。


「折角のお誘いだけど、断らせてもらう」


「……そうか。ならば、せめて貴殿の目的であった食料の補給についての話は上に通しておこう」


「わざわざありがとう」


「さ、町へは自由に入ってくれ。疲れを癒すためにも、私は歓迎しよう」


 そう言った後にキルアはアスカに一礼し、そのままとてつもない脚力でジャンプする。そして、例の壁の上に乗り街の中へと入って行った。

 入ると言われても、壁しかないこの町にどうやって入るのだ、という話ではある。そうアスカが思って間もなく、突然壁の一部ががジャリジャリという音を鳴らしながらこちらに向けて降りてくる。そして完全に壁が地面に着くと、そこには町への入口が出来ていた。


「カモフラージュってわけね」


 壁は鎖に繋げられており、それで開閉をコントロールしているようだ。

 アスカは開いた入口から町へと入り、目的の食料などを売っている店を探す。しかしその途中、町の様子を見ながらふと思った。


「人、少なくないか?」


 建物もあれば道もある。だが、圧倒的に建物と比べて生き物の数が割にあっていない。それなりに大きい町だと言うのに、妙なことだ。


「すみません、これとこれください」


「分かりました」


「……人、少ないですね」


 食料を売っている店を見つけ、物を買うついでにさり気なく質問してみる。だが、店の人は「そうですね」と言うだけで特に興味を示している様子はなかった。まるでそう、機械のように。


「1万5000コルです」


「了解。……少し高くないですか?」


「適正価格です」


「……あっそ」


 そこらでは半額以下だと言うのに明らかにぼったくりな値段を要求してくる。その事に批判の意思を見せるが店の人は、まるで最初から設定されているかのように即答する。その気味の悪さからアスカはそれ以上の文句は言わないことにする。

 お金を払い終えて品物を受け取ると、逃げるようにこの場を去る。考えれば考えるほど気味が悪く妙な町である。


 ──絶対的な安全故の犠牲、と言うやつだな。


 店から離れると、ずっと黙っていた邪竜がアスカに向けて言う。しかしその言葉の意味がアスカにはイマイチ理解できずにいた。


「何それ」


 ──高い石壁、強力な騎士団、町への出入り制限。確かにそれだけすれば、町の中には犯罪1つ起きないだろう。


「それの何が犠牲?」


 ──人間が望む平和。それを実現する為の手段が単純過ぎる。デメリットを考えていない。


 きっと腕を組みながら言ってるんだろうなーなんてことを考えながら、アスカは邪竜の言う言葉の意味を考える。


 ──この町にはなんの面白みもない。笑いを提供する人もいなければ建物もない。全て無難な物ばかりだ。


「……だからこの町の人は何事にも興味を示さないのか。それを知らないから」


 ──皆同じ考えをしている。そして、習慣なども全て同じように考えている。まるで人形のようにな。きっと、想定外のことが起きても対応できないだろう。


 人間が人間らしく生きるためには、何事にも感情というものが関わっている。面白いものを見て楽しむ。嬉しい時に出る喜び。誰かを思いやる気持ち。そして、感動や悲しみなど。それらがなければ、形は人間でもそいつらは機械も同然だ。

 もしもこの町に頭の冴える生き物が戦争をしかけた場合、生き残るのはあの騎士団のみであろう。何故ならば、決まった行動しかしないとなれば利用しやすいからだ。人質にするも殺すも簡単なのだ。


 ──まあ、我には知ったこっちゃないと言うやつだ。


「言うだけ言ってそれかよ」


 ──なら、お前がこの町のトップに言うがいい。今の政策をやめろっとな。


「……()に、そんな大きなことを言う権利はない」


 一瞬だけ素に戻る。白野飛鳥の精神が失われたとしても、ほんの少しだけは残っている。精神が入り交じり混沌としているが、アスカ自信、本当の自分というのはわかっていない。

 本当の自分とは何なのだろうか。昔の自分のことか。それとも今の自分のことなのか。はたまた或いは……。

 その答えは誰かに気づいてもらうものでは無い。自分で見つけるのだ。

 そして、そんな者に国がどうこう言う権利はない。そもそもアスカは現在においての扱いは大犯罪者。姿を変えているとしても、アスカ自身がそれを許さない。


「ここはここの問題。もう目的は完了したから町を出よう」


 ──いいのか?


「何度も言わせないで。この町の人達と変に関係を持つのは嫌」


 ──なら好きにしろ。


 わざわざ邪竜から了承なんて得る必要は無い。そんなことを言われずとも出てやる。

 そしてアスカは来た道を戻り、自分が入ってきた入口を目指そうと歩き始める。しかしその瞬間、突然地面が揺れた。


「何事!?」


 一定の感覚で揺れは起きる。初期微動や主要動がないことから地震でないことは確かだ。だが、その場合一体この揺れの正体は何なのだろか。

 そう考えていると、アスカの横を鎧を着た何者かが走り去って行く。その者の背中には美しい装飾された鞘と剣の柄が見えた。恐らく、キルアと同じ騎士団の一人なのだろう。


 ──どうした。ここはここの問題なのだろう? 早く町を出ればいい。そうすれば面倒事には巻き込まれないぞ?


「………」


 わかっている。わかっているさ。だが、心の中で何かがムズムズする。スッキリとしない。とてつもなく気分が悪い。

 町の様子はいつもとはさほど変わりない。たが、騎士団が動いているということはそれなりの事件が起こっているということ。何か力になりたいと思ってしまっている。

 アスカはただの人間だ。ただ少し強い力を持っているだけで、それ以外は全て人間と同じだ。行ったところで何も役には立たない。必死にそう言い聞かせる。

 ずっと、ずっと、ずっと、そう言い聞かせる。そうでもしなければ、自分を保てない気がした。

 そして次の瞬間、爆発のような大きな音共に町の壁の一部が破壊された。だが、その間でもずっとアスカは一人ブツブツ言っていた。


 ──おい!


「目立たない目立たない目立たない……」


 ──チッ、この臆病者が……!


 破壊された壁から様々な魔獣が侵入して来る。誰がどう見ても一大事だ。その状況に邪竜はアスカに声をかけるが、アスカからは何も応答がない。何かに怯えている子羊のような、それはもう情けない姿であった。


 ──しっかりしろ! 貴様が死ねば我も死ぬ! そんな情けない死に様を我に見せるな!


「……ハァ……ハァ……」


 自分を落ち着かせるために言い聞かせていたというのに、それが返ってアスカのトラウマを呼び起こすきっかけにもなってしまっている。人を救うという意思が人を殺すのだという1年前に嫌という程に思い知らされた出来事がフラッシュバックする。

 過呼吸は酷くなり、アスカは胸を抑える。心臓の鼓動が早くなる。一体どうしてこんなことになっているのか。


 ──精神の入り混じりの影響か……。全く、自分の選択だと言うのに戸惑うとは。


「……はっ、魔獣……!?」


 ようやく過呼吸から抜け出し魔獣の存在を認識する。そして同時に1匹の一角の魔獣がアスカの存在に気が付き、邪魔者になるだろうと鋭い角を前に向けて突進してくる。

 急いでライフルを取り出しいつものように構えるが、どうしてか手が震える。アスカが持ちうる冷静さが先程の過呼吸が原因で欠けているのだ。


「止まれ、止まれ!」


 震える手を止めようとするが、逆にその行為が更にアスカに焦りを与える。一か八かとできる限りしっかり狙って撃つが、その銃弾は運の悪いことに魔獣の硬い部位に当たり弾かれる。


「外した!?」


 アスカは滅多に銃弾を外さない。大体の銃弾は相手の有効部位に命中させてきた。外すとすれば、銃弾が見えるくらいに動体視力のいい生き物か勘がよく武器で弾ける生き物かだ。

 その絶対的な自信が先程外したことにより揺らぎ、ほんの一瞬だけ銃を構え直す動作が遅れる。それが仇となり、再び構え直す頃には、既に目の前に魔獣の顔があった。


「あ──」


 そして気がついた頃には、その角はアスカのお腹を貫いていた。

 勢いは止まらず魔獣はそのままの速さで建物へとぶつかる。その衝撃でお腹を貫通していた角が何とか抜ける。抜けたことは本当に偶然だ。


 ──所詮、貴様もその程度という事だな。


「……ぁ……」


 ──人は強くなくてはならない。だが、その強さを持つ者は何かを犠牲にする。その犠牲にしたものが悪かったな。貴様は。


「どう……いう……」


 ──もしも生き長らえたのならば考えるがいい。それが貴様ら人間が得意とすることだろう?


 その言葉を最後に、アスカの意識はうっすらと消えた。しかし邪竜は、今はアスカとの契約を解除することはなかった。まるで、この先に起きることがわかっているかのような、そんな考え方をしていた。

懐かしの投稿 2ヶ月ぶりです

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