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第60話 町を守る騎士

 レジェンドドラゴンに乗りセヴィオルナの街から南に向けて進むアスカはセヴィオルナにて襲われたあの男について思考を巡らせていた。


「……あの人って一体誰のこと?」


 男が言った「あの人」のことについて、アスカはずっと気になっていた。その人がもはや世界の中心と呼ばれているのならば、そこらで信仰を促す連中が少しだけでもいるはずだ。だが、そんな連中をアスカはあの町全域にて見てもいないし聞いてもいない。


「一部の人しか知らないお偉いさん、って感じだとしても少しおかしいし……」


 ──深く考えるな。それでわからないのなら時間の無駄だ。


「そんな試験対策の時に先生が言うようなこと言わないでよ」


 ──少し先に町が見える。少し大きめだ。


「ちょっとは聞いてよ!?」


 アスカがレジェンドドラゴンに乗って移動し始めてから既に1週間程度は経過している。かなり進んだが中々町がないことに驚いてはいたが、邪悪なる竜の発言により町がある事が発覚する。

 残りの食料はあったとしても今日1日分。そろそろ補充をしておかないと、今後別の町に行く際や長期に渡る魔獣の討伐時に餓死なんてつまらない死に方をしてしまう。


「とりあえずその町に行こ。そろそろ食料が尽きそう」


 ──それを我に言ったところで我に選択肢なんてないのだろう?


「そりゃ勿論」


 ニヒヒっと笑いながらアスカは言う。そしてある程度その町に近づいたところでレジェンドドラゴンを森へと降ろす。そして見つからないようにと言い聞かせた後にその町へと向かって歩き始めた。


 町の周辺に着いたが、町には外部からの侵入を防ぐためか30メートル程の壁が町を囲っていた。入口を探すがこの町の大きさから見つかっても運がいい程度だ。逆に運が悪ければ夜になっても見つからないだろう。


「すみませーん、誰かいらっしゃいませんかぁ!」


 そうアスカは町に向かって叫ぶが特にそれと言った反応は何も無い。それに、それなりに大きい町だというのにやけに辺りが静かだ。


 ──妙だな。


 この現象についてはアスカだけでなく邪悪なる竜も不気味だと感じていた。しかし深く考えるのはとりあえず中に入ってからと判断し、アスカは引き続き入口を探し始めた。

 その瞬間、突然風が吹いた。ただの風かとアスカは思ったが少し奇妙な吹き方をしていることに気がついた。普通は横に、又は回転するかのように吹く風だが、この時だけは何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう、まるでアスカのいる場所が風を切っているかのように。

 それに気が付いた瞬間とてつもなく嫌な予感がし、アスカはその場から少し離れる。するとその予感は的中し、突然アスカのいた場所に向かって何者かが落ちてきた。


「『デュランダル』──!」


 その物はそう言葉を放ち、その手に握る剣の剣先を地面に向けていた。


 ──アスカ!


「わかってる!」


 敵意があるのかはわからないが、とにかくここからは距離を取ろうとアスカは更に後ろへ下がった。

 そしてその者が地面に着地すると同時に、持っていた剣が地面へと突き刺さる。すると、剣が突き刺さった場所を中心に地面にスパンッと切れ目が入る。それも、その切れ目は普通に切るにしてはおかしなくらいに綺麗だった。


「ほお、我が一撃を見極め地面が切れない所にまで逃れるとは。貴様、一体何者だ。そして何が目的だ?」


 落ちた際に舞った砂埃が晴れると、そこには銀色の鎧を纏った騎士のような男がいた。そしてその手には先程地面を切ったであろう白銀の剣が握られている。


「いきなり攻撃なんて、中々酷いことするね」


「ここは我々ガルメット領だ。見かけない顔から察するに貴様は他領の者。そんな奴が一体何の用かと聞いている」


「食料が尽きそうだから補充しようと思って立ち寄っただけ」


「うむ、そうか。だが残念だったな。この町に入るには資格がいる。王が民達に与える資格がな」


 どうやら、この町はアスカの元いた世界で言う会員制らしい。その資格とは一体どう言ったものなのかはわからない。そして、アスカの目の前にいるこの男の目からは、ただでは逃さないと言う気持ちがアスカには感じ取れている。


「……それで、私を急に襲った理由は何?」


「王による資格の選定は朝から昼にかけてだ。その時間外に来た者は排除しろと命じられている故」


 何故その時間限定なのかはわからないが、とりあえず現時点ではアスカに対して敵意しかないらしい。それに、先程の攻撃から簡単に逃がしてくれるほど甘い相手ではないというのも把握済み。


 ──やるのか?


「他に選択肢ある?」


 ──……あの日以来の強敵らしいな。時が来れば力を貸してやろう。


「えー、ケチ」


 そこから邪悪なる竜の声は途絶える。クロの時は簡単に力を貸してもらえたが、この竜に限っては向こう側の力が強過ぎるせいで勝手に使えば前みたいに暴走しかねない。


「何をごちゃごちゃ言っている」


「一人悲しく作戦会議ってやつだから気にしないで」


「そうか」


 ガチャッと鎧を揺らし男はアスカに向けて剣を構える。地面をあれだけ綺麗に切る剣だ。その切れ味は計り知れないが、少なくともまともに受ければ即死するくらいの切れ味はあるだろう。


「斬の騎士キルア・ガルメル。我が聖剣デュランダルと共に参る!」


 その掛け声と共に男──斬の騎士キルアはアスカに向かって接近する。その速度はまるで鎧なんか着ていないんじゃないかという程に素早く、何とか反応できるくらいであった。


「早々に決めさせてもらう!」


 瞬間的に接近したキルアはアスカに向けてデュランダルを振り下ろす。ぎりぎり反応できたアスカは振り下ろされるデュランダルを完全に避けるが、何故か自分が着ているローブの一部が切れる。


「我が聖剣デュランダルが切るのは刃が通った場所だけでない。その周囲をも切り裂くのだ」


「なるほど、流石は切れることで有名なデュランダルだ」


「ほぉ、我が聖剣を存じているのか」 


「そこまで有名なら尚更ね」


 聖剣デュランダル──アスカのいた世界においてその剣はフランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄ローランが持つ聖剣として知られている。有名なエピソードと言えば、デュランダルが敵の手に渡ることを恐れた英雄ローランがデュランダルの刃を大岩にぶつけて叩き折ろうとしたところ、その圧倒的な切れ味から折るどころかその岩を真っ二つにしたという話だ。

 それを何故キルアが持っているのかはわからない。転移者である特典によるものなのか、それとも元々この世界のものをただ持っているだけなのか。どちらにせよ、少しでも気を抜けば殺されるということに変わりはない。


 アスカは次にキルアが接近した瞬間にベレッタ92を数発だけ発砲する。しかし、その全てがデュランダルの切ればその周りをも切り裂くという能力のせいでキルアがデュランダルを適当に振り回すだけで軽くあしらわれた。これでは正面からの発砲は無意味だ。


「でやぁ!」


「邪竜!」


 ──早いぞ貴様!


 デュランダルが振り下ろされる瞬間にアスカは邪悪なる竜に呼びかける。そして邪悪なる竜の力を借り、その力を即座に取り出したコンバットナイフに付与する。


「そんなちっぽけなもので、我が聖剣の一撃を受け止めきれるか!」


 そんなものがどうしたと言わんばかりに何の反応もせずデュランダルを振り下ろす。そしてその攻撃をアスカはコンバットナイフで受ける。


「あぐぁっ……!」


 デュランダルとコンバットナイフがぶつかった瞬間、アスカの腕には普通の剣を受けた時よりも遥かに大きな衝撃が走る。受け止めることはできたが、ジリジリとコンバットナイフの刃を切っていくような音が聞こえる。長くは持ちそうにない。


「まさか、そんなもので我が聖剣の一撃を受けるとは」


「生憎、私にもその聖剣に勝る力を持っているんでね」


 ──自信満々に言えるような事なのかそれは。


「もう少し自信持ってよ!?」


 なぜそこは否定的なのかと疑問を抱くアスカだが、腕に来る重さから意外とすぐに我に返る。そこからアスカは受け止めているデュランダルの刃を受け流し、そこからベレッタ92の銃口を向ける。


「あまいぞ!」


 アスカはが引き金を引く瞬間にキルアは右足でアスカの銃を持つ手を蹴り上げる。そこまでグッと握っていなかったこともあり、蹴り上げられた時に銃を手放してしまう。そしてその後アスカにできてしまった隙を狙って、キルアは地面に突き刺さるデュランダルの柄から手を離し、アスカに向かって八極拳に近い構えから左胸に向かって肘打ちを食らわせる。


「カハッ!」


「まだまだ!」


「ぐっ……!」


 キルアはアスカが怯んだところでデュランダルを使って腹を切ろうとする。アスカはその寸前でM24を取り出し地面に向けて発砲し、その反動で少し後ろへと下がりギリギリのところでデュランダルの刃を避ける。しかしギリギリ避けてもデュランダルの能力がアスカの腹に切り傷を与える。その後の追撃を警戒したアスカはとりあえず距離を取って離れる。


「どうやら貴様の武器は遠距離または中距離型のようだな」


「そのお陰でそっちのデュランダルの能力で当たる前に切れちゃうけどね。まったく、相性最悪だ」


 本来縦断を切るなんて荒業は目の良さと反応速度、そしてそれなりの技量が必要だ。しかし、キルアの場合はデュランダルを適当に振るだけで銃弾のような中距離遠距離の攻撃を弾ける。メインが銃のアスカにとって、これ程相性が悪い相手はいない。


「……いける?」


 ──体が壊れないほどには貸してやろう。


「ありがと」


 距離を離したことによりスナイパーライフルを使う時間がほんの僅かだができた。アスカはそのタイミングを見逃さずに先程持ったM24をキルアに向けて構える。


「なんだ、またその何かを撃つのか?」


「……なんだ、近づいて来ないんだ」


「その表情から察するに、その武器に対して相当自信があるようだ」


「それで、この攻撃を防いで私が勝てないってことを証明したいわけ?」


「いえ、そんな慢心は騎士にとって恥ずべき行為。だから私も、それに負けないような大技を使わせていただきます」


 アスカが銃を構えた直後にキルアはデュランダルを振り上げそのまま上段の構えに入る。


「我が聖剣デュランダル、今こそその切れ味の限界を超えろ『ファーストリミットブレイク』」


 キルアが呪文のようにそう言うと構えていたデュランダルが辺りの空気を吸収していく。否、デュランダルが吸い込んでいるのは空気ではない。自身の能力である『周囲をも切り裂く切れ味』をその刃に纏っているのだ。


「「──行くぞ!」」


 キルアがデュランダルの強化を終える瞬間、一歩早くにアスカはM24の引き金を引く。放たれた銃弾はいつものような普通の銃弾ではない。予め自身の魔力で強化された物を精製し装填しておいた銃弾だ。それに加えて……。


「斬れ、『ドゥリンダナ』──!」


 アスカが引き金を引き銃声が聞こえた瞬間にキルアはデュランダルを振り下ろす。

 アスカの放った銃弾とキルアのデュランダルがぶつかり火花が散る。そしてその勝負は息を吸うように一瞬で着いた。


「な、バカな!」


 切れるはずの銃弾が何故か切れなず、キルアの腹部へと命中する。この戦いにおける大技同士の一撃の勝敗はアスカの勝利で終わった。

デュランダルの別名がドゥリンダナって知ってる人がいると嬉しい


というか、最近スナイパーライフルを使う機会が減っている気がします。だから今後はもう少し増やせるようにします。

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