表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/67

第55話 全てを破壊する力

 辺りには殺気が満ち溢れ、並大抵の獣や魔獣はそばを通るだけで泡を吹いて気絶する。

 気絶とまではいかなかったが、ローブを着た人達も恐怖によって心拍数が跳ね上がっていた。中には腰が抜けてしまっている人もいる。


「……何だアレは」


「お前は知らないだろうな。まあ俺も、力の存在には気付いていたが、まさか契約していたとは思わなかった」


 漂う殺気は、今までにシロウが感じたことの無いほどのもの。正直言うと、シロウ自身も少々ビビっている。


 アスカは虚ろだった目で、村の人達を殺したローブを着た人達をギロっと睨む。


「っ、殺れ! 殺らなければ先に殺られるのはこちらだ!」


 そう言うと、行動可能のローブを着た人達は持っていた武器を構え、一斉にアスカへと接近する。ボウガンを持っていた人達はこちらを睨むアスカに狙いを定めるが、恐怖による震えでまともに狙えずやけくそになっていた。


「お前達は、殺されるべき存在……」


 剣や短剣などを持って接近してくる者や狙いは雑だが飛んでくるボウガンの矢に動揺することなく、マガジンにいつも装填する時とは違い、新しく銃弾を作り出した銃弾を、空になったマガジンに装填していく。

 ボウガンの矢が当たることは無いという確信があったのか、その行動に一切の焦りはない。


 装填が完了すると、すぐ様M24を1番前にいるローブを着た人に向ける。

 スコープから見える顔は骨格からして男性のもので、まだ濃いヒゲが生えていないことからまだ若い。


 今までのアスカならば、こういう自分に近い歳の人間を殺すことには抵抗があった。それに、先程まで容赦なく脳天をぶち抜いていたアスカだが、村の人達を守るためという理由からのもので仕方なくやっていた。

 だが、今のアスカにはそんな生易しい気持ちは全くない。


 アスカは1発で仕留められる頭部ではなく足元を狙って撃つ。そしてその銃弾は狙い通りにら接近してくる男の脹脛に命中し、痛みによる悲鳴を上げて倒れ込む。

 そして、すかさず次の標的を狙って撃つ。



「アスカのやつ、結構えげつないことしやがるな」


 アスカがローブを着た人達を行動不能にさせている最中、シロウはクロの力を奪おうとする男と対峙していた。


「お前! 私を無視するな!」


「いいじゃねぇかよ。2人でゆっくり観察しとこうぜ」


「断る。私はあの竜の力を吸うまでは……」


 しかし、そこにクロの姿はなかった。

 一瞬森に逃げたのかと男は思ったが、足跡1つない。


「お前、あの竜をどこにやった……?」


「さあな。いつまでも付きまとってくる奴がいるもんで怒って帰ったのかもな」


 実際は、男が目を離していた隙に世界の狭間の中に逃がしていた。


「ふざけるのも大概に──」


 その瞬間、シロウと男は突然別方向から殺気を感じ、お互いに距離を離し殺気を感じた方に目を向ける。

 そこには全員足を抑えて倒れているローブを着た人達と、次なる標的であるシロウが対峙しているこの男に銃を向けていた。


「そんな武器で私を殺せるとでも?」


「……死んでしまえばいい、お前みたいな奴は」


「口だけではなんとでも言える。ほら、私を殺すんじゃないのか?」


「言われずとも、殺す」


 その言葉と同時に、既に狙いを定めていたアスカは引き金を引く。先程と同じ展開だ。

 既にアスカの癖や考え方を見切っている男は余裕の表情で銃弾を避ける。


「どうした? 先程と全く結果は変わらんではないか」


「もう既に、お前の中に入った」


「──? なんの事だ」


 銃弾は確かに避けた。持ち前の高速移動でしっかりと銃弾を見切り、完璧に避けた。

 しかし、男にはアスカの言うことの意味がわからなかった。入ったとは一体何が入ったのであろうか。


「いや待て。確か、邪悪なる竜が持つ力は……」


 シロウにはアスカの言ったことに少し引っかかった。それと同時に、邪悪なる竜が持つ力を思い出す。

 そして、シロウが完全に思い出した時にはアスカは次なる行動に映っていた。


 アスカは構えていたM24を肩に担ぎ……、


「『ディストラク(破壊)ション』」


 まるで呪文のような単語を言った。

 一体何が起こるのか。それはアスカにも知り得なかったし、ましてやあの男達にもわからなかった。

 ただ1人、シロウだけにはその言葉が意味することと今から起こることがわかっていた。


 ──ほんの少しの静寂に包まれた後に、銃弾を撃ち込まれたローブを着た人達が一瞬のうちに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、体がバラバラになるほどの爆発はしなかったものの同じように体内で爆発が起き、血塗れで床に倒れ込んでいた。


「──破壊の能力。それが今お前が使った能力の正体だ、アスカ」


「…………」


「破壊の能力はあらゆるものを好きな時、好きな場所、好きな範囲で破壊できる。そしてお前は今、人間を破壊した」


 血の雨が降り注ぐ中、シロウは丁寧に説明する。これは、この能力の恐ろしさを教えるためだ。


 破壊は消滅とは違う。消滅ならば存在そのものが塵すら残さず消える。

 しかし破壊とは、原型を残さない程に打ち壊すことを言う。実際に爆発した人達の四肢は原型を留めておらず肉片として辺りに転がっている。


 生臭い臭いと鉄の臭いが辺りを漂わせていた。


「お前、自分がしたことをわかって」


「……フフ……アハハ……」


「………?」


 シロウは本来のアスカとは違う反応で少し困惑する。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


「っ!?」


「どう、苦しい? 怖い? 助けて欲しい?」


 アスカはシロウの言うことよりも、目の前で辛うじて息をしている男の方に歩いていく。

 そして、思いっきり右足で踏み付ける。そこからさらに馬乗りになり、コンバットナイフで殺さない程度に斬りつけていく。


「全てお前が悪い。この村を襲ったのも、この村の人達が死んだのも、私がいたからじゃない。全部全部、お前らが生きていたからだよね?」


「ぐっ……この……残虐野郎が……!」


「っ、お前が言うな!!」


「──ぁああ!!」


 『残虐野郎』という言葉を聞いて、アスカの怒りと憎悪の感情は限界を超える。


「残虐野郎はどっちだ! 私が要求を呑んだ瞬間にタイムオーバーだとかほざいて殺したのは誰だ!? そう指示したのはどこの誰だ!? お前らだろうが!」


「ゴバッ……私はっ……ここで……死ねないのだ!」


「あーそ。もっと苦しんで恐怖に歪む顔が見たかったけど……」


 アスカはコンバットナイフを抜くと、持っていたM24を至近距離で両腕と両足。そして胴体に1発ずつ撃ち込む。

 これだけ撃ち込めば、破壊の能力を発動させた際に消滅に近い程に散り散りにすることだってできる。


「くっ……!」


「睨んでも無駄。さっきと全く真逆ね。今度は私が貴方の命を握ってる。そして、これで終わり──」


 アスカが能力を発動させようとすると、アスカの腕をシロウが掴む。


「……邪魔する気?」


「邪魔はしない。だが、忠告はしておこうと思ってな」


「忠告?」


「その力、あまり使いすぎるなよ。いつか取り返しのつかないことになる」


「……何? 遠回しに使うなとでも言いたいの?」


「使うかどうかはお前の勝手だ。だが、場合によっては──俺はお前を敵と見なす」


「……あっそ」


 アスカはシロウの忠告を聞くと、男の上から退いて立ち上がる。


「『ディストラクション』」


「私は……こんな所で……」


 ある程度離れたところで能力を発動させ、男を跡形もなく破壊する。いや、肉片1つ残っていないこれは、破壊ではなくもはや消滅だ。


「シロウが私を敵と見なすなら、私もお前を敵と見る。いや、寧ろ敵として見るつもりだった」


 今のアスカには、自分をさらなる負の感情で支配する原因である「自分を悲しませ、苦しませる存在」を消そうとしている。つまり、敵なのだ。


 自分の知っている人が殺されれば、自分は悲しみ、悩み、苦しむ。だったら自分がその存在を殺せば、そんな気持ちを感じることは無い。

 それが今のアスカが持つ考えである。


「そうか。だったら、今ここで俺の役目を果たしてもいいということだな」


「言っておくけど、今の私は前とは違う。もう甘さは捨てた」


「その甘さこそが、お前の取り柄であり、生かしていた理由の1つでもあるんだがな。だが、今それをお前は捨てた。今のお前は、俺の世界にいたお前にそっくりだ」


 シロウがアスカに向けて刀を構える。その眼差しは、いつも「仲間」として見ていた優しい眼差しではなく、お互いに殺す気でいる「敵」として見る力強く鋭いものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ