第50話 最悪の世界への序章
プロローグ&50話にして文字数の感覚が狂ってきた者です。自分でもよく書き続けられるなーなんて思ってます。
「何も聞こえない。まるで無の世界だ……」
斬れた空間の中──世界の狭間を真っ直ぐ進むレン。
世界の狭間は世界と世界を繋ぐ通路のようなもの。その通路に異物が入り込めば元々いた世界に戻そうとする。つまり、本来ならばこの空間に入って中を進んでも開いた空間から外に出そうとする。
なら何故、レンとアスカはこの通路を歩けているのか。勿論、転移者だからなんて理由ではない。それならば殆どの人がここを歩くはずだ。
「……にしても、アスカさん。大丈夫ですか?」
「……辛うじて、意識はある。でも、すげぇ眠たい」
世界の狭間を歩くレンは、息を荒くして今にも死んでしまいそうな程体調が悪いアスカを気にしていた。
何故ここまで急に体調を崩したのか。本人は倒れる前に風邪だと疑っていたようだが、どうにもレンにはそれだけの理由で倒れたようには見えなかった。
「……ん?」
もうどれくらい歩いたのだろうか。もいうか、そもそもどこに向かえばいいのかがレンにはわかっていない。
すると、途方に暮れていたレンに応えるように、シロウから渡された刀が突然薄い水色の光を放つ。とは言っても、ほんの少し微量の光だが。
「光……」
この光を見た時、レンはシロウの言っていたことを思い出す。
──ざっくり説明すると、光、斬る……。
「光がこれだとして、斬るってどこを?」
恐らく、シロウの言っていた光とは今刀から出ている光のことだ。それならこの場所を斬るのかと言われれば、レンは少し違う気がした。
何故ならば、その光はレンが向く方向によって光の強さが変わる。レンからして前に突き出せば強く。後ろに出せばうっすらと弱くなる。
つまりこの光はレーダーの様なものなのだ。光が強くなったところをシロウと同じように空間を斬れば、この空間から出られる。そうレンは推測した。
レンは刀の光が最大まで強くなる場所を目指して歩いて行く。
しばらく歩き、これ以上強くならないほどに光る刀を見て、この辺りかと刀を構える。そして、子供の頃に棒切れを思いっきり振り回す遊びの時と同じ感覚で横に一振する。
すると、シロウが助けに来た時と同じように空間がスパッと開く。そこから外に出てみると、そこは先程までいた森の中ではなく見覚えのある宿の一室であった。
「ここは……ナチュランの宿の……」
見間違えるはずがない。ナチュランの村には宿がたった2つしかなく、この村に滞在していた時にレンもこの宿に泊まっていたのだ。
──何故こんなところに出たのか……。
しばらく考えたレンだが、その答えは案外早く出た。
「……なるほど。この鞘か」
宿の一室にあったこの刀の鞘であろうものがシロウから渡された刀と呼応していた。その証拠に、刀を近付けると光は強くなった。
「……って、そうじゃないだろ僕。今はアスカさんを運ばないと」
レンはこの刀について知りたい気持ちをぐっと抑え込み、取り敢えず汗による体温低下を防ぐためにコートと手袋を外した後、この部屋にあるベッドに寝かした。
恐らく、この刀の鞘があるということはシロウが泊まっている部屋に違いない。だったら、別に勝手に使ったところで何とかいえば問題ないだろう。
「そろそろ着く頃だと思っていたぞ」
「っ!?」
取り敢えず水を持ってこようとレンが動こうとした瞬間に宿の扉が開く。そして入って来たのは、ほんの数分前に時間を稼ぐと言って1人ローブを着た謎の集団と戦っていたはずのシロウであった。
「どうしてここに? ていうか、流石に早すぎませんか?」
「逆だ逆。俺が早いんじゃなくて、お前らが遅いんだ」
「はい?」
「わからないんだったら、取り敢えずそこの窓の外を見てみろ」
まだ気になることがあるが、その気になることを理解するにはシロウの言ったことを試した方が早い。
そう考えたレンは、自分の後ろにある窓に掛るカーテンを退けて窓の外を見てみる。
──そこにあったのは、自分が世界の狭間に入る前に見た青空ではなく、星が見える夜空であった。
「その刀で開けた空間──世界の狭間って言うんだが、そこは少し時間の流れが違くてな。そっちで数分でもこっちでは数時間だ」
「そうなんですか……」
「ちょっと……待って……」
「アスカさん?」
レンがシロウの言うことに納得した瞬間、辛うじて意識がアスカはシロウに声をかけた。
「だったら何で、お前が使った時は……時間の経過が遅い……?」
アスカは以前シロウの言っていたことを思い出す。
確かにシロウは、世界の狭間の5分はこっちの世界の5秒だと。しかし、今現状を見てみよう。
入る前は昼だったのに、出た時は夜だ。明らかにシロウの言ったこととは違う。
それに、シロウは自身が持つ剣と融合しないと何故か上手くいかないとも言った。しかし、空間を斬ること自体はこの刀のみでも行えた。
色々とシロウの言ったこととは違う現象が起こっている。
「……いつもとは違う現象というのは、いつもと違う行動をすることによって起こる。今回のもそうだ」
「……そのいつもと違うというのはどういうことですか?」
「俺は本来、この刀と剣を融合して空間を開ける。何故なら成功しないから。そして、ここの成功だが、空間を開けること自体を失敗するということではない。この刀だけでも十分に開けられる」
「その成功しないの意味は何なんですか?」
「そうだな、この刀だけでは発動しない能力があると言ったところだ」
「それが、時間のコントロールですか?」
「正確には世界の狭間に影響を与えない能力だ」
それは同時に、この刀だけでは世界の狭間に何かしらの影響を与えてしまうということだ。その内の一つが、レン達が経験した時間の流れなのだろう。
「何故剣と融合すると影響を与えなくなるのかはわからないが、とにかく言えることは、その刀──世継刀だけを使って世界の狭間には入らない方がいいということだ」
「この刀そんな名前をしているのですか」
「そうだ。それじゃあ、その刀は返してもらうぞ。ついでにそこの鞘も取ってくれ」
「了解です」
下手に使われると迷惑なので、シロウはレンにすぐ様刀を返してもらう。もしも、これが先程のローブを着た集団達に限らず、誰しにでも奪われれば大変なことになる。
「そう言えば、あの集団はどうしたんですか?」
「数人は仕留めた。残りには逃げられた」
「……仕留めたって、殺したんですか?」
「当然だ。それくらいしなければ逆にこっちが殺られる」
「抵抗とかないんですか?」
「とっくに慣れた。……嫌という程人を殺したからな」
「……………」
──不穏な空気。
シロウの言う人を殺すということに、レンはただ単に「最低なヤツだな」とは思わず、その奥に何か深い理由があると思った。
現時点ではシロウの存在は不明な点が多い。例えば、空間を斬って他世界との狭間に続く道を作る刀。レンやアスカよりも少し年上くらいなのに、とてもそうには見えない程に成長している精神。
──一体この男は何者なのだろうか。
「アスカちゃん無事!?」
そんな中、扉をバタンと開けて不穏な空気を一瞬にして相殺したのは、レンとアスカを逃す際に1人で時間を稼ぎのために炎狼と1体1で戦ったソニアであった。
所々に火傷の痕があるが、特に問題はなさそうであった。
「ソニア……さん……?」
「よかった……。頑張って1人で討伐した甲斐があったわ」
「え、1人で討伐したんですか?」
「勿論。少ししくじっちゃったけど無事に爆破蹴りで終了よ」
「……何だろ、俺お前みたいな直で殴ったり蹴ったりする人を知っている気がする」
「って、シロウじゃん。何、パーティーから追い出されたの?」
「んなわけあるか。気分転換だ……っと、連絡か」
ソニアとの会話中に、突然シロウが持つ緑色の結晶が点滅と小さめの音量でアラームが鳴り響く。その結晶を取り出し、ピッとスイッチを入れるとアラームは止まった。
『シロウ、聞こえるか?』
「聞こえてる。それで、何か用か?」
結晶から聞こえてきた声はユノスの者であった。どうやら、アスカがいた世界で言う携帯電話というのはこっちの世界ではあの結晶のようだ。
どういう原理で会話を可能にしているのかはわからない。しかし、アスカが持つ料金支払い結晶と形はそっくりだったので似たようなものなのだろう。
『そこにアイツらもいるんだろ? だったら一緒に伝えてくれ』
「りょーかい。んで、何をだ?」
『以前の泥について何かわかったことがあるらしい。近いうちに来てくれと今さっきギルドマスターから連絡があった』
その言葉を聞いて、シロウだけでなくアスカ達も反応する。
以前の泥というのは、変異種のゴブリンキングから取れた正体不明の泥のことだ。
「1人行くには辛い状況のやつがいるんだが?」
『通話結晶でも渡しとけ』
「了解」
そしてシロウは通話を切った。
しかし、泥のことについてで何かわかったことがあるということは、変異種についても何か分かったということだ。
「てことだ。明日の朝にこの村を出るぞ」
「ちょっと待って。アスカちゃんはどうするの?」
「ここに置いていく。体調が悪いというのに動くってことは悪化させるだけだしな。だからこれと同じ結晶を1つ渡す。それで話も聞けるし意見も出せる」
そう言ってシロウは、先程ユノスと会話していた結晶と同じ結晶をもう1つ取り出してアスカに向かって放り投げる。そして軽く使い方を説明すると、シロウは準備をするために部屋を出ようとする。
「おっと、そう言えば伝え忘れたことがあるんだった」
扉のドアノブを握ったところで、あの時村に向かっていた足を再び森の方へと変えた理由を思い出す。これを伝え忘れていては、シロウが態々あの場所に行ったのも、レンにとっては意味のある行動だったかもしれないが、シロウ自身意味のある行動ではない。
目的はきちんと果たさなければ。
「アスカのその体調不良は力の使い過ぎだ。体がまだ完全に慣れていないのに一気に使うのはやめておけ」
「貴方……一体何を言っているの?」
「お前には関係ない。俺とアスカの話だ」
そして今度こそ部屋を出ようと、シロウは扉の方に体を向ける。
しかしその途中、運命なのかはたまた偶然なのかはよくわからないが、シロウは見てしまった。
「あの痣は……」
レンがアスカの手袋を外したことによって見えるようになったアスカの右手の甲──アスカ以外には、ただの怪我としてしか見えないその甲にある痣をシロウは見た。
一瞬ただの怪我だと思ったが、よく見てみると鮮紅色の何かを表した痣がある。
「……まさか、もうここまで進んでいたとは」
「扉開けて結局部屋出ないの?」
「……いや、もう出る」
何故他の人には見えないはずの痣がシロウには見えたのか。
その答えは特に意識せずに見えたシロウと、ただの怪我にしか見えていない他の人を比べても決してわかることはない。
「少し、不味い状況になったな……」
部屋を出たシロウは宿の廊下を歩きながら、そう呟いた。
いつもと変わらない世界。
ただクエストを受けて達成する冒険者。
物を売って商売をする商人──など。
誰がどう見ても変わらずいつも通りの世界だ。しかしその裏では、とてつもなく大きな何かが最悪の進路に向けて動いているのだ。
そきてそれを知るものは、現時点ではたった1人しかいない。
──最悪の世界へのシナリオはもう既に序章へと入っているのだ。




