第45話 防具を着てみよう
昨日は申し訳ございません。モチベーションが上がらずサボってしまいました。
その分文字数は多いので許してくださいとはいいませんが満足していただければ幸いです。
明日も(出来れば)頑張ります。
アスカ達が馬車に乗ってから1日が経過し、無事にナチュランの村に到着した。到着時間は早朝の7時だ。
途中の賊が出る地帯は、通った時間帯がギリギリ賊が出没しない時間帯なので襲っては来なかった。そして、あの時アスカが見た謎の生き物も今回は来なかった。
ナチュランの村に着くと、まずはギルドに向かいダンジョンで得たものの換算を行った。ソニア曰く、こういうダンジョンの換算は朝早くからやっておかないと後々かなり長いこと待たされるらしい。
それもそうだ。ダンジョンが見つかったと言うだけであれだけの人数がこのギルド内に溢れかえった。それはつまり、その人数と同じだけ換算しに来るという事だ。
正直アスカ達は、そんなに待ってられるほど心の忍耐力は高くない。
「以上で、9万9000コルです」
「思ったより少ないな……」
「仕方ないですよ。ダンジョンなんて1回しか潜ってないんですから」
そんな10万や20万コルを稼ぐ人というのは、ダンジョンの奥深くまで潜っている冒険者か、1度ダンジョンから脱出した後にまた潜っている冒険者くらいだ。
まあ、アスカ達は既に大金を持っているので盗まれない限りはそこまで金はいらない。
「それにしても、流石にこれだけお金があるんだったら何かに使ってと言いと思うんだ」
「かと言って、何か買いたい物でもあるんですか?」
「ないんだなー、それが」
もしも、今持っているカスタムパーツ以外のスナイパーライフルのカスタムパーツなどがあれば買いたいところだが、そんなものが売っているわけがない。
ならば古代武器を買い取るのはどうだろうか。鑑定済みの古代武器なら、その性能で値段は変わってくるが今の所持金で買えない事はないだろう。
「古代武器って鑑定済みの場合いくらするのですか?」
「性能にもよるけど、前に見た性能が良い古代武器は1億ね。それよりも少し性能が低いものだと5000万コルだったわね」
「……今の所持金がおよそ90万コル……全然足りませんね」
「貸してあげよっか?」
「結構です。借りは作りたくないので」
借金なんてもっての外だ。アスカの世界では借金を作って返しきれずに自殺や自己破産などしている人を山ほどみている。作ったところで返しきれないのはわかっている。
だったら、そもそもの原因の借金なんて作りたくはない。
「じゃあその大金どうするの? 90万コルって結構な額よ?」
「……どうせ貯めても使わないと思います。それどころか存在する忘れる可能性も……」
「防具なんて買うのはどうですか?」
アスカがお金の使い道について考えていると、レンが武器ではなく身を守るための防具を買うことを提案する。
確かに、前回の刃翼竜のように腹を貫かれてしまうかもしれない。だったら防具を買って防御面をレベルアップさせる方が良いのではないか、ということが目的の提案だ。
「確かに、防具なら古代武器よりは安いわね」
「……買うのならば、遠距離専門ということなので、少し動きやすい防具があればいいのですが……」
「すこーし防御面では弱くなっちゃうけどそういう防具はあるわよ。最近は弓を使う人があまりいなかったせいで少なかったけど、最近になってアスカちゃんみたいな武器を使う人が増えてきたから需要が上がったみたい」
それならば、今持っている90万コルでギリギリ残るくらいまで支出して防具を揃えられるかもしれない。
それに、需要が上がったということは防具の数も多いはずだ。色々性能を見て慎重に考えて購入するとしよう。
ギルドから出てアスカ達は村にある唯一の防具屋に向かう。そして、ギルドから片道5分の場所にある防具屋に入る。
防具屋にはゴブリンの皮を使った防具や、ブヨーンという皮に伸縮性を持った間魔獣の皮を使用してどんな体型にも適応する全身タイツのような防具なんてものもある。
ブヨーンの防具に関しては、まるで何も着ていない状態のように動ける他、皮自体にそれなりの防御力がある。アスカのような遠距離専門の人にとっては相性ベストマッチな防具だ。
しかし、防具自体が着ると全身にピタッと密着するため体のラインが見えてしまう他、感度が高くなるという欠点がある。あまり買われないのもそれが原因だ。
「もう少しブヨーンの防具については考えないのでしょうか? 実用性自体はあるかと思うのですが……」
「ブヨーンの皮は他の素材と組合わないの。例えば鉄とかを付けて体のラインを隠そうとしても、鉄が体に触れているせいで一々反応しちゃうらしいの。そんなので集中できると思う?」
「無理、ですね」
「そう。そんな防具は言わばロマン溢れる防具。でも、ロマンを求めてるならこの死と隣り合わせである冒険者の仕事はやっていけない。私が使うとしてもあんなことやこんなことにしか使わないわ……」
「あの、こっち見て言わないでください。失礼ですが、視線の感じが気持ち悪いです」
ブヨーンの防具を説明し終えた時に、アスカはソニアから性的な視線を感じた。
前まではかなり頼りになる人だと思っていたが、残念なことに今では少し貞操喪失の危機を感じてしまう程要注意するべき人物という印象になってしまっている。昔の今日キャラ感を返して欲しい。
「アスカさん、こんなのはどうですか?」
そう言って案内されたのは、普通の服の上にあの刃翼竜の鱗を使い防御面と動きやすさを重視した防具だった。デザインは、マントのような黒い布が首元に付いており、上半身の服には肩から袖先にかけて鱗が付いている。半袖なのは動きやすさを重視した結果だろう。
腰には刃翼竜の皮を使ったベルト。ズボンに関しては何故か防具がない。動きとかそう言うのと何か関係しているのだろう。靴に関してはベルトと同じように、刃翼竜の皮が使われており靴底にはスパイクのように刃翼竜の翼を尖らしたものが付いていた。
流石にブヨーンの防具よりは動き辛さそうだが、デザイン的にはこっちの方がいい。というかブヨーンの防具は何がなんでも着たくない。
「えっと……値段が……20万コルか。案外安いな」
「アスカさん、20万コルなのは防具1つにつきです」
「防具なんて1つだけでいいだろ」
「……アスカさん。恐らく貴方は勘違いしています」
「勘違い?」
何が勘違いだというのだろうか。アスカの目には『1つ20万コル』とちゃんと書いてある。2、3回に渡って目を通したから間違いはない。
「1つ20万というのは、正確には“部位1つにつき’’15万コルです」
「部位って言ってもどれのことだ?」
「ほら、胴と腕、腰に靴ですよ」
「……合計すると?」
「80万コルです。そこにこの世界の税である7パーセントを加えると……」
「……金なくなるじゃん」
アスカは、防具を揃えるのにこれだけお金がかかるとは思いもしなかった。
よくあるゲームとかでは、防具自体の生産は安くて強化する時の要求金額が高いだけだ。しかし、この世界においての防具は既にレベルマックスだ。それに加え、防具に使われているのがあの刃翼竜の素材ということで、それくらいお金がかかるのも無理はない。
「でもどうせ使いませんよね?」
「それもそうだしな……」
これからのことを考えると、もしかするとお金が必要な時が来るかもしれない。しかし、今購入しなければ無くなるかもしれない。
それに、自分を1度殺した刃翼竜の素材を使った防具を着て身を守るなんて、なんとも皮肉なものだ。
「……よし、購入だ!」
「いいんですか?」
「いい! もう決めた! 買うぞ!」
「ご購入ありがとうございマース!」
「うわっ!?」
購入を決めた瞬間に突然背後から声がかかる。声の正体はこの防具屋の店主であり、店長の男であった。
やはり突然のことに慣れていないアスカは緊張のあまり過呼吸を起こしそうになるが、ゆっくり深呼吸をすることで心を落ち着かせる。
「ここで着ていきますか? それともお持ち帰りですか?」
「あ……えっと、ここで着ていきます」
「オウケーイ! そうと決まればこっちにいらしてくだサーイ!」
「あ、ちょっと、引っ張る必要ありますか!? てかそこの防具持ってかないんですか!?」
アスカは店長に店の奥まで連れて行かれる。何か犯罪臭がするが気の所為だろう。
あの時レンが必死になって止めてこないところを見ると、この防具屋ではこれが普通なのだろう。
「彼女のサイズを測ってそれに合うサイズのNo.59の防具を着せてあげるのです!」
「了解です店長」
店の奥に入ると、そこにいた明るめの女性店員がメジャーを持ってサイズを測りに来る。
なんというか、この防具屋の店員は何かと個性がある。
「さて、それではそのパーカーと靴、そして靴下を脱いでください」
「わ、わかりました」
アスカは、ソニアに色々とされたせいでこの指示もいけない方向に向かっているように錯覚してしまう。
サイズを測る女性店員にそんな気はなくても、アスカにはそう思ってしまうのだ。
「そこまで肩に力を入れないでください。ゆっくりリラックスして……はい、腕を上げてくださーい」
何かされないかと警戒しながらサイズ測定を受ける。しかし、結局は何も起こらずにサイズ測定が終わった。
サイズ測定が終わるとアスカはふぅ、とバクバクしていた心臓の鼓動を抑えるために心を安心させる。
「このサイズですと……」
そう言いながら女性店員は、Mと書かれた紙が貼られているアスカが先程購入したデザインとは少し違う防具を手に取ってアスカの元に戻ってくる。
その防具のデザインは、店の表に置かれていたものよりも若干肩やお腹などに露出があり、少し肩周りが小さいものだった。
「防具はどの部位を購入しますか?」
「あ、全てでお願いします」
「了解です。それではまず、この胴と腕、腰に靴をそこの更衣室で着替えてください」
「なんという完璧な設備……」
防具屋と言えば、ただ防具を売っているだけの店だというイメージがあるが、この店にはそれがない。言えば、アスカの世界にあった服屋のようなイメージがある。購入した時限定だが、店の中で着ることもできる。
「えっと、普通に着ればいいんだよな?」
更衣室に入ったアスカは少しだけどう着ればいいか迷ったが、この防具自体のベースが鎧ではなく服なので普通に着ることで防具を着ることができた。
こんな刃翼竜の鱗がほんの少ししか付いていない防具に防御力なんてあるのかと思ったが、布の部分にも手が加えられており簡単には破けない。それに、服の上から思いっきり叩いてみたが衝撃が全くと言っていいほどなかった。
どうやら、この防具には何らかの加工がされており、衝撃を和らげる他、防具自体の耐久性も上がっているようだ。
アスカが更衣室で防具を着終えると、この防具を装備している状態では付けられないパーカーと元々履いていた靴は消し、アイテムボックスの中に収納する。
「どうですか?」
「似合ってますよー。サイズとかに何か問題はありますか?」
「いえ、特には……。あ、1ついいですか?」
「はい」
「あの、表に出てた防具と、少しデザインが違うのは何でかなーなんて……」
「簡単なことです。表に出ているのは男性用のデザインです。というよりも、一応女性用のデザインも置いていたはずなのですが……」
店員の発言を聞いて、アスカは静かに思い出す。
自分が見ていたのは男性用のデザイン。確かその横にもうは1着同じものがあった。その時はサイズが違うものなのかなと思って触れていなかった。
思い出した結果、結局はアスカの勘違いであった。
「あー、思い出しました。……えっと、すみません?」
「謝る必要はないとは思いますけど……。あ、忘れないうちにこれを」
「何ですかこれ……。結晶?」
「テレポートの魔具を流用して製作された金額支払い結晶です。ちなみに結晶といっても原料はガラスのように透き通る鉱石であるスキライトを使用したものなので、多少落としても破損はしません」
「……えっと、使い方はどうなんですか?」
「下のスイッチを押すと金額投入口が開くので、今回購入した分の金額をお支払い下さい。使用し終えた物差し上げます。生産コストは低いので」
使い方を教えてもらったところで店の表に戻る。女性店員の持ち場は店の奥だけらしく、出入口までは店長が案内してくれた。
「またのお越しをお待ちしています」
「あ、えと、ありがとうございました」
そして店長は頭を下げてた上げ、店の中に戻って行った。
店の外にはソニアとレンが待っていた。少々見せるのが恥ずかしいが、隠してもどうせ戦闘時には見せることになるのでさっさと見せてしまうことにする。
「似合ってますか?」
「少々露出が増えたわね。主に肩が。だけど、それがいいのよ」
「一気に迷彩柄というかは夜間戦闘時にむく服装になりましたね」
「ちょいちょい鱗のせいで反射が凄いんだけど」
「……おかしいわね」
ソニアはアスカの発言に少し疑問を持ち、アスカの着ている防具に付いている刃翼竜の鱗を見る。
至って普通の鱗だというのに一体何がおかしいのか。
「こういう鱗って防具に付けると輝きが曇るんだけも、何故かアスカちゃんが着てるそれの鱗は輝きが消えてないのよねー」
「たまたま上手く作れただけじゃないですか?」
「……それもそうね。考え過ぎたわ。今のは忘れて」
そしてソニアはアスカの防具から目を離し、まっすぐギルドの方へと歩き始めた。今ギルドに行く必要はあるのかとアスカは思ったが、ソニアにはあるのだろう。
「また貯めないといけませんね」
「どうせまた使い道に困る気がする」
「それならば、次はそのお金で遊んでみるのもいいかもしれませんね」
「そんな勿体ないことはしたくない」
そんなことを話しながら、アスカとレンもソニアと同じように特に行く必要も無いギルドに向かって歩いて行った。




