第42話 私がついてる
アスカとソニアはそれぞれ服を着て脱衣所から出るとソニアが泊まっている部屋に向かう。その途中、先に上がっていたであろうユノスがソニアに向かって手招きをしていた。
「何かしら……?」
「少しソニアさんに話がありまして……」
「……そう、わかったわ。アスカちゃんは先に部屋に行っといて」
「わかったー!」
元気よく返事をしたアスカは先にソニアの部屋に向かって行った。そして、アスカが見えなくなったのを確認すると、ソニアを連れて少し近くにある小さな休憩スペースまで案内する。
その休憩スペースには先程一緒に湯船に浸かっていたアリサの他、レンとフレア、ユノスの仲間であるレアンとシロウが座って待っていた。
「これは?」
「まあ、とにかく椅子に腰を下ろしてください」
「──?」
何も事情を話されていないソニアには今のか状況が全く理解できなかった。
ソニアが椅子に座るとユノスも椅子に座り、腕を机に両肘を立てて寄りかけ、両手を口元に持ってくるという所謂ゲン〇ウポーズというものをする。
「さて、無事に揃ったということで本題に入ろう」
「あの、これは?」
「今回集まってもらったのは他でもない。アスカの性格変化についての話をするためだ」
「見事な無視ね……」
しかし、ユノスの言った今回の集まってもらった理由であるアスカについての話にはソニア自身も興味があった。
戦闘の場合はレンといる時間の方が長いが、非戦闘時の時はソニアが1番一緒にいる時間が長い。だから、ソニア自身アスカの性格が何故急に別人のように変わったのかの理由が気になっていた。
「まず、あの性格に変わった時のことを話そう」
「しかし司令、それを話すのならば先にレンさん達に話すべきかと」
「それもそうだな。それとアリサ。俺は司令ではなくユノスだ」
この明らかに某アニメの会議シーンのような雰囲気だったので、アリサはついノリに乗ってしまった。だが、そもそもアニメという言葉を知らないユノスにはノリに乗ってもらえず普通に返された。しかし、ユノスがゲ〇ドウポーズを止めない限りこの雰囲気は続くだろう。何気にユノスも普段よりも声を低くして話しているので、より雰囲気とマッチしている。
「ソニアさん、レン、フレア様には話をする前に1つ言わなければならないことがあります」
「様……?」
「様付けは止めろ。さん付け同様あまり慣れない」
ユノスがフレアのことを様付けして呼んだことに疑問を持つレンであったが、今はそこではなくユノスの話の方が重要だと思いその疑問を心の奥底に仕舞う。
そしてユノスは少し顔を上げ、両手によって隠れた口を開く。
「アスカは1度、魔獣の攻撃により腹を貫かれ死亡しています」
「え!?」
「………」
「じゃあ、今生きてるアスカは何なんだ?」
「わかりません。確かに私がアスカさんの頸動脈や心臓の動きを調べて見ましたが確かに死んでいました」
「……あの血はアスカちゃんのだったのね」
ソニアはアスカと遭遇した時にアスカの服が若干破れている所と、何者かの血が付着していることに気がつていた。その時は服の破れは魔獣の攻撃が服に掠ったからで、付着していた血は返り血だと思っていた。
だが、実際は攻撃をまともに受けたことで服が破れ、アスカ自身の血が付着したのだと知り、ソニアは甘い考えをしていた自分自身を殴りたくなった。
「しかし、腹を貫かれたというのならその傷はどこにあるんですか?」
「なくなった」
「はい?」
「そのまんまの意味だ。明らかに助からない程大きな穴は、再び立ち上がったアスカにはなかった」
「急に治癒力が活性化したとでも言うのですか?」
「可能性としてはそれが1番有り得る。だが、何故急に治癒力が活性化したのか、俺はそれを知りたい」
「………」
理由は定かではない。だが、この治癒力の活性化と性格の変化は何か関係しているのではとユノスは推測する。
「性格が変わったのもその時なんでしょ?」
「はい。それどころか、私の魔力をより込めて作った銃弾でも剥がせなかった刃翼竜という魔獣が纏う氷を簡単に貫通させました。つまり、息を吹き返したと同時に何か強力な力を手に入れたということです」
「何? じゃあ貴方はアスカちゃんが死んで、誰かが死んだアスカちゃんの魂に力を与えて元に戻したって言うの?」
「そうかもしれません。ですが私の推測では、先程ソニアさんが言ったことに加え、その力を与えた何者かがアスカさんの体に入ってしまったというものと、死んだと同時にアスカさんのリミッター的な感じのトリガーが外れて。あれだけの力を手にして目覚めたか。この2つが可能性としては有り得るかと思っています」
アスカの目覚め、強力な力の入手、性格の変化、治癒力の活性化など、いくら考えても何も出てこない。
いくら可能性を考えても所詮は可能性だ。それが正しいということなんてわからないその可能性を決めつけてはアスカに対して申し訳がない。
「ユノスさん。やっぱり、アスカさんに直接聞いた方が早いと思います」
「……そうだな。結局はここで話し合うよりも直接聞いた方が早い」
「だったらなんで呼んだのよ」
「先程のアスカさんに何が起こったかを伝えるために呼びました。他の理由としては、まあ一緒に考えるとなにか出てくるかなと思いまして……」
「そう言えば、レアンとシロウは何かあるか?」
この話に入ってこなかった2人に意見があるかを問う。しかし、シロウは横に首を振り同じようにレアンと首を横に振る。
「すみません、僕にはこの話が難しすぎてちょっとわかんなかったです……」
「そうか。まあともかく、アスカに聞きに行くぞ」
そして、ここに集まった全員がアスカがいるソニアの部屋に向かおうと椅子から立ち上がる。しかし、立ち上がってからユノスはしばらく考える。
本当に今聞きに行っていいのか。アスカは身体的にも精神的にもかなり疲れているはずだ。そんなアスカに、その性格の変化を聞きに行くのは少しタイミングが悪く無いだろうか。
「……やっぱり明日にでも聞こう」
「どうしたんですか急に」
「今日のことを考えてみろ。あれだけの事が起きてアスカに身体的な疲労とか精神的な疲労がないわけが無い。そんな状態で聞けば更に疲労を酷くしてしまうんじゃないか?」
「……確かにそうですね」
「それと、個人的にもう眠い」
「その言葉のお陰で一瞬でもユノスさんを尊敬した私に後悔しました」
人の言葉というのは言葉の選択とタイミング次第で言うかによって人に与える印象はガラリと変わる。これが最もわかりやすい例だろう。
そして結局、今日はアスカだけでなく他の人達も忙しく疲れているということでまた後日聞くことに決めた。
「結局集まる必要ありました?」
「あるにはあっただろ。集まって話したからこそこうやって決めることができたんだ」
そう言うとユノスは休憩スペースから自分の部屋に向かって歩いて行く。もうここで話すは終わったのでさっさと飯食って寝ようという考えだろう。
「ま、とりまこの話は終わりだ。レン、ソニアさん、フレア様、態々集まってくれてありがとうございました」
「おい、お願いだから様付けは止めてくれ。反応しずらい」
「……いえ、大丈夫よ。それに、少し自分の考えを改めるきっかけにもなったしね」
「それでは、いい夜を過ごせるよう祈っています」
そしてユノスは自分の部屋へと戻って行った。それからまもなくアリサも、おやすみなさいと一言言って部屋に戻って行った。
「シロウさんはどうしますか?」
ユノス達の仲間でここに残っていたレアンがシロウに質問する。
「……俺はもう少しここにいる。先に戻っておいてくれ」
「了解です。あ、だからってここでは寝ないでくださいよ!」
「流石にねぇーよ」
シロウに冗談を言った後に、レアンはシロウも一緒に泊まっているユノスの部屋へと戻って行った。
「俺も明日早いから早めに戻っとくわ。レン、結構遅く戻ってくるなら静かに入ってこいよ。多分寝てるから」
「それなら僕も一緒に戻りますよ。静かにするのは無駄に体力を使うので」
「そうか」
近くにあったウォータークーラーで水分補給をしたフレアはそう言ってレンと共に部屋へと戻って行った。
ほぼ全員が部屋に戻ったところでソニアも流石にこれ以上アスカを1人で待たせるのは悪いと思い、少し早歩きで戻って行った。
ソニアが部屋を開けると、そこには既に運ばれて来ていた晩御飯を食べ終え、1人ベッドで可愛らしい寝息を立てて眠るアスカがいた。起こすのはよくないと思いできる限り物音を鳴らさずに晩御飯を食べる。そして、回収時に何も知らない宿の人が音を鳴らしてしまうと考え、食べ終えた食器を食器が乗っていたお盆に乗せて態々調理室まで持っていく。
ソニアが食器を持って行くと宿の人に感謝された。とてもいい気分だ。
部屋に戻って来ると明日の準備を済ませ、部屋を消灯しアスカとは違うベッドに寝転がる。少しアスカと一緒に寝たいとソニアは思ったが、今日くらいはゆっくり眠って貰いたいという思いがその考えを打ち消した。
「……いやだ………死ぬのは……」
「……!?」
今から寝ようとした所にアスカの寝言が聞こえてきた。その寝言は助けを求めるものだった。
その寝言を聞いた瞬間、ソニアは見た。アスカが涙を流しているところを。その涙は決して喜びだとか笑いからではなく、恐怖から流れているものだ。あの苦しそうな表情を見ればわかる。
「……誰か……」
「大丈夫、アスカちゃんは生きてる。そして、助けてくれる人がいる」
「………助けて……」
「だから、安心して……」
ソニアは自分が寝ているベッドから立ち上がり、アスカの眠るベッドに寝転がり、アスカの横に行く。
そして、安心させるためにギュッと抱き締めた。
「──私がついてる」
「……1人に……しないで……」
「これからは、アスカちゃんが怖がらないように、安心させるために、ついていてあげる。もし、全世界がアスカちゃんを敵として見たとしたとしても、私はずっと味方だから」
聞こえていないのはわかっている。だが、話せば少しは安心するんじゃないかと思った。抱き締めれば味方がいるという安心感を与えられるのではないかと思った。
「………ん……」
すると、ソニアの思いが通じたのか、アスカは眠っているというのにソニアの行動を答えるように抱き締め返す。
──まるで、怖い夢を見た子供のようだ。
そしてアスカが抱き締め返してからは、苦しそうな表情が和らいで行き、いつもの可愛らしい寝顔に戻った。
「おやすみ、アスカちゃん」
アスカのその表情を見て安心したソニアは、そのままの状態で目を閉じ眠り始めた。
GL注意タグつけるべきかな……?




