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第37話 精霊

ちょっと1つの戦闘に時間使いすぎかな……?

 アスカの射撃により、またも転倒した刃翼竜は身に纏っていた氷で滑りながらアスカの方に来る。


「よくやったアスカ君! 後は任せろ!」


 転倒し起き上がるのに時間がかかる刃翼竜を見てツカサは言う。

 これ以上のチャンスはそう来ない。だからツカサはこの転倒して変異する前にされたあの回転斬りをされる前に刃翼竜を討伐するつもりでいた。


「滅却の炎を纏いて、奴の身を燃やせ!! 来い、『炎の精霊フレイ』!!」


 ツカサがまるでファンタジーゲームのような詠唱をすると、突然ツカサの周りを回るように炎が現れる。

 そしてその炎の1部がツカサが持っていた何処にでもあるような鉄の剣にまとわりつく。


「あれは……精霊!?」


「あの英雄、契約していたのか!」


 精霊──それはこの世に存在する唯一無から物質を放つことができる生き物だ。人間が銃弾を生成するのとどう違うのかというと、人間は物体を作り出すことはできるが物質を作り出すことはできないという点だ。それに、人間の中でも物体を作り出せる者は極小数である。

 ちなみに、銃を使う転移者には銃弾に限りその物体を作り出すという能力が使える。銃弾以外を作ろうとしても何も起きない。


「『火炎球』!」


 体の周りを回っている炎を球状にして飛ばし転倒した刃翼竜にぶつけ、纏われている氷を溶かしていった。


「氷を操るならば、溶かして内部に炎を送り込んでトドメだ!」


 氷が溶けたことで露出された刃翼竜の毛皮に向かって炎を纏った鉄の剣を突き刺す。精霊を力を使ったことにより強化されたのか、並の銃弾を弾く刃翼竜の皮に炎を纏った鉄の剣は根元まで突き刺さった。


「そのまま焼き尽くせ!!」


 突き刺さった鉄の剣に纏われていた炎が刃翼竜の中で勢いが増し、自身の体が中から焼き焦がされている刃翼竜は痛み苦しんでいた。

 そしてトドメと言わんばかりに炎の威力を一気に上げるツカサ。しかし、簡単に殺られるほど刃翼竜も黙ってはいなかった。


「グルルルル………」


「なっ!?」


 すると刃翼竜は変異した直後にしてきた冷気を放つ技をしてくる。この辺りの温度を一瞬にして下げたその技は、ツカサの精霊を使った攻撃と対等に渡り合っていた。


「負けるか……!」


「グルル………グラァアッ!!」


「くっ、何だ、この勢いは……!?」


 体から放出される冷気は、刃翼竜の掛け声と共に勢いを増す。そしてその勢いは、突き刺し体の中に炎で焼き尽くそうとしているツカサが持つ鉄の剣を押し返すほどの勢いだった。


「『炎の精霊フレイ』、最大出力だ!」


 負けずとツカサも全力で押し返される剣を突っ込む。それでもほぼ同等で、精霊の力を使っているツカサがバテるのも時間の問題だ。

 しかし、それ以前にツカサは1つだけ見落としている所があった。


「……!?」


 瞬間、パキンッと音を鳴らしながら鉄の剣は跡形もなく砕け散った。


 見落としていた点──それは、今自身が使っている剣が精霊の全力に耐えきれる代物ではなかったという事だ。そして突き刺していた剣は精霊の力に耐えられず、遂には剣自体が砕け散ってしまったのだ。

 その瞬間を狙っていたかのように刃翼竜は一気に冷気を放出し、それと同時にその冷気の勢いでツカサをぶっ飛ばす。


「どわっ!?」


 刃翼竜に吹っ飛ばされ、一瞬でも空中に浮いたということはそれは刃翼竜に負けるということを意味している。何故ならば、刃翼竜は人間は空中に浮くとまともな防御ができないことを知っているからだ。

 しかし、刃翼竜はそれを知った上であえてツカサを仕留めずに向きを変えてアスカの場所へと向かう。例え精霊による攻撃をされたところで、結局のところ遠くからちまちまと攻撃されることに対して不愉快であり、また面倒でもあったために刃翼竜は優先的にアスカを仕留めるという考えは変わらなかったのた。


「……いや、これはこれでツカサさんが体勢を建て直せる時間を稼げる。それまで何とか逃げ切れば……」


 攻撃は考えるな。恐らく先程の膝を狙った射撃はもう刃翼竜には通用しないだろう。

 だったら逃げるしかない。幸い優先順位が高いのはアスカだ。他の人達が狙われるということはまずない。


「グルアァー!」


「っ、さっきよりも氷の纏い方が上手くなっている!」


 アスカは持っていたスナイパーライフルをアイテム欄に収納し、後ろを振り返って走り始めた。

 先程までは氷を真っ直ぐにしか作ることができず、纏っていても動きを重視するために所々に毛皮が見えていた。しかし、氷の操り方を少しずつ学んでいる刃翼竜はその欠点を克服し、全身にピッタリと氷を纏っている。これではもうアスカのスナイパーライフルも歯が立たない。

 現時点で唯一勝算があるとすれば、ツカサによる精霊を使った炎攻撃で氷を溶かし、丸出しになった毛皮に攻撃するという方法しかない。


「時間を稼ぐので体勢を立て直してください!」


「っ、了解!」


 アスカはツカサ達にそう言って、自分は逃げることに集中した。


「グオアアーー!!」


「お前技のバリエーションあり過ぎだろ!?」


 確実に仕留めるために刃翼竜は地面に氷を張り、アスカの動きを制限しようとしてくる。幸いにも氷を張れるのは真っ直ぐだけのようで張られる前にそこから離脱すれば特に問題はなかった。


「なんで平原に出るんだよお前は!」


 場所が森ならば多少障害物のお陰で撒くことができたかもしれないが、残念なことにここは平原。撒くなんて可能性はほぼゼロだ。


「よし、もう大丈夫だ! 後はこっちに引き付けてくれ!」


「了解──」


「──! グオオォー!!」


「なっ──しまった!」


 一瞬だった。体勢を立て直せたツカサの指示を聞いてほんの一瞬だけ集中が切れたところを狙って刃翼竜はアスカに向かって地面に氷を張った。

 ほんの少し反応が遅れたアスカはその氷が張り終えた後に急いでその場から離脱しようとするが、地面に張られた氷がアスカの右足を覆うくらいに大きくなり、完全に片足を拘束し動けなくした。


「そうか、この氷は動きを制限するものではなく拘束するものだったのか……!」


 ──しかし、気付いた時にはもう遅い。


 刃翼竜の行動に体勢を建て直したツカサと、ツカサの近くにいたユノスとアリサは刃翼竜の攻撃を阻止しようと向かって来るが、あまりにも距離が遠過ぎる。これはアスカが逃げるのに集中し過ぎて逃げた先のことを考えていなかったのが原因である。

 しかし今思えば、刃翼竜の氷を地面に張る攻撃で思うように逃げられなかったのは刃翼竜の作戦で、できるだけアスカを邪魔されないように3人から距離を離そう誘導されていたのかもしれない。

 ツカサの所まで引き付け反撃するはずが、逆に動きを止められ、攻撃される側になるなんで誰が予想しただろうか。

 そして、動きの止まったアスカを確実に仕留めようと刃翼竜は口を開き、例の一瞬にして木を粉々にしたブレスのチャージを始める。


 ──まずい、まずいまずいまずい!!


「くっそ、外れろ!」


 アスカはスナイパーライフルを右足を拘束している氷に向かって至近距離で撃ち込むが、右足を覆う氷は絶対に逃がさないと言わんばかりの厚さを持っていた。そのため、いくら刃翼竜がまとっている氷にヒビが入るほど高威力の銃弾を至近距離で撃ち込んでもこの拘束を外すことはできなかった。

 選択肢の中には切断というものもあったが、例え右足を切断し高速から逃れたとしても、結局は動きが制限され殺される。結果は変わらないのだ。


 ──そして、刃翼竜はブレスのチャージを完了させた。


「ぁ──」


 瞬間、右足を拘束している氷を砕くことをやめた。もう無駄だとわかったからだ。

 動けないアスカに向かって刃翼竜はブレスを放ち、アスカは反射的に持っていたスナイパーライフルでほんの少しでも防ごうとする。

 しかし、そんなことをしても無意味だとわかっていた。なんせ、たった一瞬で木を粉々にしたブレスが今から自分は受けるのだ。無事でいられるわけがない。それに、もし生き残ったとしても確実に致命傷だ。

 刃翼竜のブレスは徐々にアスカの体を冷やしていく。完全に凍らせないのは刃翼竜のアスカに対する鬱陶しさ故の行動で、楽に殺しては面白くないと考えていたからだ。

 そして、ブレスと同時に放った数十本もの氷柱が動けないアスカに容赦なく襲いかかる。氷柱は小さいものから大きいものもあり、スナイパーライフルで守っていた頭部以外の体の部位に突き刺さる。中にはとても鋭いものもあり体を貫く氷柱もあった。


「──っ……かはっ……!!」


 ──そして、全身に氷柱が突き刺さり血塗れの状態のアスカにトドメの一撃である大きめの氷柱がアスカ腹を貫いた。

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