第35話 戦いは終わらない
コルト・アナコンダとは44口径の銃弾を装填し撃つ回転式拳銃だ。アスカのいた世界ではこのコルト・アナコンダと襲撃者のリーダーが使っており、今はレンが持っているSAAの製造、設計をした会社は同じで、見た目こそにているが、それぞれ違うところがある。
例えば、SAAはシングルアクションという作動機構に対し、コルト・アナコンダはダブルアクションという作動機構である。
そしてコルト・アナコンダは44口径の銃弾の他にSAAと同じ45口径の銃弾も装填できるように設計されており、アリサの構えるコルト・アナコンダにはその45口径の銃弾が装填されている。
「腕吹っ飛びますよそれ!?」
「安心してください。単発銃ですので反動の逃がし方を掴めば片手でも何とか撃てますよ。それに、反動軽減のスキルがあるんですから」
アスカはてっきり後ろに背負っている剣を主体とした攻撃をするのかと思っていたが、まさかのマグナム銃を使うということに驚きを隠せなかった。
女がマグナム銃を使うなんてことは誰しもが無理だと想像するだろう。アスカもそのうちの一人だ。しかし、それを目の前で否定することが起きたのだ。驚かない方が不思議だ。
「そんじゃ、行きますよぉー!」
コルト・アナコンダを構えたままアリサは刃翼竜に突っ込んで行った。
その時、ツカサ達は刃翼竜の翼を使った攻撃を何とか回避し、カウンターを狙って攻撃していた。
「っ、しまった!」
何度もカウンターを狙っていればどこかで集中力が切れるのは当然だ。
ジョルダンの集中力が切れた一瞬の隙をついて刃翼竜はジョルダンを打ち上げ、動きが制限される空中に浮いたところに追撃を入れる。
「ぐはっ!」
「ジョルダン!」
「馬鹿野郎、他人の心配なんてしてる暇ないだろ!」
「チッ!」
追撃を入れられぶっ飛ばされたジョルダンは思いっきり地面に叩き付けられ、その衝撃で気を失う。そしてそれを確認した刃翼竜は、動けなくすればいつでも殺せると言わんばかりに気絶したジョルダンを放っておいてその目をツカサ達に向ける。
「……なるほど、気絶させた人間は放っておくのか」
「それにしても、さっきの連続技は受けると危険だな……」
先程の刃翼竜が行った打ち上げからの叩き付けは、攻撃を防いだとしても地面に叩き付けられた時よ衝撃が来て脳震盪や骨折などの痛みから気絶してしまう。
「次、来るぞ!」
先程の連携攻撃をすれば人間は確実に気絶すると学んだ刃翼竜はもう一度その連携攻撃を仕掛けようと身を引いて片翼をスコップで土を掘る時の角度で構える。これが刃翼竜の打ち上げをする体勢だ。そしてその体勢から刃翼竜の打ち上げ攻撃がツカサに向かって来る。
「……そこっ!」
しかし、刃翼竜の打ち上げ攻撃はアスカの脚部への狙撃によって阻止される。それどころか完全に攻撃態勢だった刃翼竜の体勢を崩し、転倒させることに成功する。
「ナイスだアスカ!」
「よし、今だ!」
転倒したことをチャンスにツカサ達は一気に総攻撃を仕掛ける。しかし、それを易々と許すわけはなく、刃翼竜は片翼を真横に傾ける。
「っ、全員今すぐに伏せろ!」
「何故だ! 今がチャンスじゃあ」
「いいから、死にたくなければ伏せろ!」
ツカサがラドとユノスにそう叫ぶ。その瞬間、ブワッと刃翼竜から殺気が漏れだし、それを感じた瞬間にラドとユノスはツカサの言う通りに伏せる。
2人が伏せてまもなく、刃翼竜は傾けた片翼を体ごと回して所謂回転斬りというものをやる。近くにあった岩はいとも容易く一刀両断され、それが当たっていたのならばただでは済まないという事実を物語っていた。
「その回転、利用させてもらいますよ!」
ツカサ達が刃翼竜の回転斬りを伏せて回避している所に片手にコルト・アナコンダを構えたアリサが突っ込んでくる。
「おいバカ、攻撃の最中に突っ込むとか自殺行為だ!」
「いーやラドさん、心配は無用だ」
丁度翼が突っ込んできたアリサの所に来た瞬間、アリサはその翼を踏み台にして低い姿勢の刃翼竜の頭上まで飛び上がった。
「飛び上がった!?」
ラドはその光景を見て驚いていた。それはラドに限らずツカサとアスカも驚いていた。
「アリサの場合はこんな回転斬りなんて──」
「私の銃弾をその目に焼き付けてくださいね!!」
「通用しないからな」
そのままアリサは構えていたからコルト・アナコンダを上を向いた刃翼竜の片目に反動の都合上2発だけ撃ち込んだ。撃たれた銃弾は反射的に閉じた刃翼竜の瞼を貫通し、目の中にめり込んで行った。目の中に銃弾が入った時点で無事ではない。
「グルァアッッ!!」
目を撃ち抜かれたことでの痛みで刃翼竜は暴れる。
そこにトドメと言わんばかりに背負っていた剣を抜き、刃を真下にして刃翼竜の頭に向かって落ちていく。そして、その剣は刃翼竜の頭に刺さり、刃翼竜は動きを止めた。
「いっちょ上がりです」
刃翼竜の動きが完全に止まると、アリサは刺していた剣を抜き刃翼竜の上から降りてきた。それと同時に撃ち終わった2発分のコルト・アナコンダの薬莢を抜き、新たに作りだした銃弾を装填した。
その動作にアスカは疑問を抱いた。何故ならば、本来リロード不必要の銃弾を何故か態々別に作り出して装填をしたからだ。一見必要ないように見える動作だが、何かそうした理由があるのだろうか。
「めんどうな刃翼竜も討伐したことだ。後は馬車が戻ってくるまで待つだけだな」
「おっと、そういやジョルダンを起こさないと……」
ここにいる全員が刃翼竜を討伐したことで安心し、それぞれのことをしようと移動し始める。頭を刺した。だから確実に死んだという確信があった。
しかし、その油断が命取りになった。
「……グルルルゥ」
「っ!?」
ジョルダンを起こしに行こうとしたラドはその唸り声を聞いて嫌な予感がした。すぐに先程討伐したはずの刃翼竜の方を見る。
そこには、何事も無かったかのように立ち上がっている刃翼竜の姿があった。そしてその刃翼竜は自身を1度倒したアリサの方を見ていた。しかもその目は怒りと憎しみの目であった。
「アリサ!」
「え?」
刃翼竜は打ち上げの体勢に入り、めんどうなアリサを確実に戦闘不能にするつもりでいた。
そこに唯一刃翼竜が立ち上がったことに気がついたラドがアリサを助けようと声をかける。しかし、気がついたところでもう回避する時間が無い。
「くそっ、やるっきゃねぇ!!」
一応アスカ自身もラドの叫び声でアリサの危機を知るが、アリサが回避する時間がないのと同じようにスコープで覗いて狙いを定める時間が無い。適当に撃つと当たらない可能性や味方に当たってしまう可能性もある。
故に、今アリサを救うことができるのはアリサの危機を1番最初に知り近付いていたラドのみだ。そして、この場合ラドにできることとは──
「ちょっと我慢してくれよ!」
「きゃあ!!」
ラドは思いっきりアリサにタックルして刃翼竜の打ち上げ攻撃の範囲外までぶっ飛ばす。このタックル、結構痛いが痛い分ぶっ飛ぶのでこういう時には最適な技だ。
しかし、この場合代わりに刃翼竜の連続攻撃を受けるのは──
「ぐあっ!」
そのまま刃翼竜の打ち上げからの叩きつけ攻撃を受けたラドは意識朦朧としていた。
「ラドさん!」
「……いっ……無事なら……あとは任せたぜ」
そう言い残すとラドは辛うじて保っていた意識を手放した。それと同時に、刃翼竜は猫のように丸くなり徐々に姿と体毛の色が変わってくる。
──変異する前兆だ。
「チッ、このままじゃラドがやばい……。ユノス君、アリサ君を頼んだ! 俺はラド君を安全なところまで運ぶ!」
「了解!」
刃翼竜が変異している最中に攻撃するよりも、変異された後のことを考えツカサは刃翼竜の近くにいるラドの回収を最優先に動く。
そしてツカサはラドの無事に変異が完了する前に回収ができた。
しかし、目の前で自分を助けようとして戦闘不能になったラドを見たアリサはショックが大きく動けずにいた。
「私のせいで……」
「おいアリサ! しっかりしろ!」
「どうして……」
「あーもう、相変わらずめんどくさいな!!」
「ひゃっ」
ショックを受けて動けずにいたアリサをユノスは担ぎ上げて刃翼竜から離れた。
「…………」
ツカサ達が体勢を立て直している最中にアスカは変異している最中の刃翼竜を撃つが、どんどん硬化して言っているのか銃弾が弾かれる。
「やっぱりダメか……」
魔獣が変異すると貫通力があるスナイパーライフルでも効果がない。実際、変異したディアボロスも刃翼竜とは違うが霧によって銃弾自体を無効化した。
しかし、今回の刃翼竜の場合は銃弾が弾かれたところを見ると恐らく並大抵の剣なども弾かれるだろう。
この事実が、アスカにクロとの契約の話を思い出させる。やはり契約すべきなのか。しかし、そのリスクのことも考えるとまたやめておくべきなのかという考えも出てくる。
そんなことを考えていると、変異を終えた刃翼竜が立ち上がる。その姿は黒い体毛から濃い青紫色の体毛になり、所々から氷と見られるものが翼や頭部などに尖って生えていた。
「グルァアアアーー!!」
その咆哮と同時に、変異した刃翼竜から広い範囲に冷気が刃翼竜を中心に溢れ出した。
不必要なはずのリロードをした理由……わかりますか?




