第34話 刃翼竜
本日2話目!
ゴブリンキングの死体があるリルス平原にアスカ達は馬車を使って向かっていた、
ちなみにこの馬車はギルドの物なのでギルドマスターの許可が降りれば壊さない限りは自由に使える。まあ、と言っても馬を操れない限りは乗ることすら困難だが。
「そのリルスの街からは行かないんですか?」
恐らく、今この場にいる冒険者のほとんどが抱いているであろう疑問を金髪の男のような魔獣の皮や鱗、牙や爪などを使った防具に身を包んだ橙色の髪が特徴の男が質問する。
こういう髪の毛の色が沢山あるという点で流石異世界と言うべきだろう。
「リルスの街にはリルスのギルドがある。馬車を使うには態々そちらのギルドマスターに許可をもらわなくてはならない。めんどくさいであろう」
「あ、そうですか」
まあ確かに、急いでいる所にそんな手間のかかることをするのはめんどうだ。それならば少し道が遠くなったとしてもこっちの方法の方が手っ取り早い。
「よし、折角だから自己紹介しようぜ! なあ冒険者の諸君」
そう提案したのは仲間第一に考える男──ラドであった。恐らくこの自己紹介の思惑も前回の緊急クエストと同様、コミュニケーションを取れるようにするためだろう。
「早速だが、俺はラドというものだ。近接戦が得意だ」
「……ユノスだ。よく金髪やらツンツン頭なんて呼ばれるが正直どう呼んでくれても構わない。そいつと同じ近接戦が得意……というか遠距離武器は使えん」
「ジョルダンです──」
それからそれぞれの名前と得意な戦闘スタイルを合わせて自己紹介をして行った。
自己紹介の内容をまとめると、ツンツンした金髪の男はユノス。戦闘スタイルは近距離が得意。というかそれしかできない。
銀髪の女性はアリサ。戦闘スタイルは中距離と近距離の両方ができる。
先程ギルドマスターに質問した橙色の髪をした男はレアン。戦闘スタイルは近距離が得意。何やら自身の持つ剣にはいろんな仕掛けがしてあるとのこと。
そして最後。未だに何も発していないアリサよりも白いどちらかと言うと白髪の方に近い色をした髪を持ち、険しい表情をしているのが特徴の彼はボソッとシロウと名乗った。名前からして転移者である可能性はあるが決めつけるのはまだ早い。戦闘スタイルは剣を2本背負っているところから二刀流と言うやつだ。つまり、近距離タイプである。全体的に近距離タイプが多めのパーティーだ。
アスカ達5人は既に存じていると思うので省略させてもらう。
「4人ともよろしくな!」
「……1つ提案なんですけども、チームを分けませんか?」
「チーム?」
「はい。もしもこの移動中に魔獣が襲ってきた場合、その魔獣を対処するチームとこのままギルドマスターとリサさんを護衛するチームとでです」
「なるほど、それはいい提案だな」
その提案に1番最初に賛成したのは英雄──ツカサであった。これはツカサの経験上、そうした方が突然襲われた時に誰が行くかという相談の手間を省けるからだ。
「人数分けは戦闘チーム6人と護衛チーム4人でいいな」
「了解です」
何故戦闘チームが6人かのか、という疑問に対してはその方が早く倒せるからだ。質も大事だがやはり質より量な考えだ。
それからよーく考えて話し合いながらチームを分けて行った。
そしてバランス良く別れた結果、戦闘チームがアスカ、ラド、ジョルダン、ユノス、アリサ、ツカサの6人。護衛チームがルイス、レン、レアン、シロウの4人になった。
しかし、やはり近接戦が得意な人が多いためこういう形になってしまう。
「こんなチーム作ったはいいが、魔獣が襲ってこなかったら意味ないよな」
「ユノス君、そういうセリフを言った時に限って襲ってくるんですよ……」
「そうですよ。実際、私が冒険者カードの前に開発した生体反応レーダーに大きな魔獣の反応がこちらに向かって来ます」
「……ほら」
「普通考えて偶然だろ!?」
所謂フラグと言うやつだ。
それはともかく、リサのレーダーによると間違いなくこのままでは馬車ぶつかるとのこと。つまり、戦闘は避けられないということだ。
「でも、馬車からどうやって降りるんだ?」
「普通に止まってから降りればよいだろ」
「あ、そっか」
ツカサがどう降りようかと考えるとギルドマスターが即答で答える。
そう、態々今乗っている馬車の荷台から走っている最中に降りるなんて戦闘前に怪我をして支障をきたすなんて目に見えている。止まって降りるのが1番いい方法だ。
そして馬車が完全に静止すると戦闘チームである6人が馬車から降りる。
「魔獣はあの森の奥から出てきます。サイズは森の上からは見えないので森の距離は小さいはずです」
「了解だ」
リサが戦闘チームの冒険者にそういうとギルドマスターは馬車を再び走らせ始めた。
今回の目的はゴブリンキングの死体の確認とそこから変異の原因を解明させるというもの。そして今はその魔獣討伐よりもそれが最優先だ。だから態々チームを分けて先に馬車をそこに向わせたということだ。
そしてこの道はあの馬車の帰り道でもあるため、馬車が戻ってくるまでにこちらに向かってくる魔獣を仕留め、戻ってきたところで回収してもらう。これも馬車を先に向かわせた理由の1つでもある。
「さて、それじゃあ戦いという名のパーティと行こうぜ」
「英雄と共闘……やったぜ」
「あの英雄ツカサがいるんだ。魔獣相手でも一切手を抜かない」
「……これは少しまずいな」
ほとんどの冒険者が英雄と共に戦えるということでいつも以上に意気込みをいれる。
そしてそれからまもなく、その魔獣は森の中から木を薙ぎ倒して現れた。
「グルァアアア!!!」
突進で木を薙ぎ倒し、その鋭い翼で触れた木を切断しながらこちらに向かってきた。体毛は少し濃いめの黒色をしており、その魔獣の目は獲物を探している飢えたライオンのような獣の目であった。
その魔獣の名は──
「……刃翼竜」
「刃翼竜?」
「アイツの名前だ。正式には刃翼竜ブレイドウィングドラゴンだ。皆長いから刃翼竜って呼んでいるさ」
「えと、まんまですね」
アスカはつい気になってしまった名前を聞くとツカサは刃翼竜から目を離さないまま返答する。
そして、刃翼竜はアスカ達を見た途端にアスカ達の方に向かってくる。
──獲物を見つけた。という気持ちがこっちに突っ込んでくる刃翼竜の目と口から垂れるヨダレからわかる。
「気を付けろ! 刃翼竜の翼は切れ味がよければ人間の体なんてスパッと行かれるぞ!」
「くっ……」
突っ込んでくる刃翼竜を6人は横に回避することで突進を避け、同時に刃翼竜と距離を取る。刃翼竜は突進を止め、アスカ達のいる方向に両手を地面につけて威嚇をする。
「生半端な剣はあの翼ですぐに切断される。魔力で強化すれば何とかなるがそれでも注意が必要だ」
「流石英雄、なんでも知ってますね」
「うろ覚えだ。俺が先頭に出る! ラド君、ジョルダン君、ユノス君は続いて俺に続いてくれ。他は援護を頼む!」
「「「「「了解です!」」」」」
魔力で持っている剣を強化したツカサは刃翼竜に向かっていく。ラド、ジョルダン、ユノスも剣を魔力で強化してツカサに続いて刃翼竜に向かっていく。
この剣の魔力強化は別に転移者以外も使える。ならば何故ラド達は今まで使わなかったのか。答えは簡単で魔力強化をしている間は自身の魔力を継続的に減少させるからだ。つまり、長期戦には向かないという事だ。だからラド達は使用を控えていた。ユノスについてはよくわからないが。
そしてアスカはスナイパーライフルを出し、しゃがみ撃ちの体勢に入る。そしてアスカの横にいるアリサも持っていた銃を構えた。
それと同時に、アスカはアリサの持つ銃とその持ち方に驚いた。
「それは、コルト・アナコンダ!?」
「あ、これ知ってます? だったらアスカさんも私と同じってことですね」
名前からなんとなくそうではないかと思っていたが、やはりアリサはアスカと同じ転移者であった。
しかしアスカはそんなことよりも、アリサがその反動が強い銃を片手で構えていたからだ。




