第32話 運命の日
ちょい急ぎめで書いたのでおかしな文面があるかもしれません。その場合申し訳ありません。
アスカが目を覚ますと、またも暗い空間にぽつんと立っていた。しかし、自分の姿が見えたりほんの少しだけ明かりがあったりと違う点もある。
「………」
この空間にいる以上、またあの正体不明の生き物に何かされるかもしれないと警戒する。銃は出せないとわかっている以上、この警戒は攻撃的なものではなく防御的な警戒だ。
「決まった?」
「っ!」
声がした瞬間、アスカは声のする方向に体を向けて正面を向いたところでバックステップをして距離を取る。
しかし、そこにいたのはあの謎の生き物ではなくあの黒いドレスを着た少女であった。
「なんだお前か……」
「なんだとは失礼ね! それと、お前って呼ぶのはやめて!」
「だったらなんて呼べばいいんだよ」
「本名は教えられないから勝手に付けて」
「……シンプルにクロで」
「貴方には私がペットに見えるの!?」
アスカが適当にあだ名を付けた少女もといクロは必死にそのあだ名について反論を出す。
それならば、勝手に付けてなんて言わなければよかったものを。この場合は完全にクロ自身の発言が原因だ。
そして、アスカは声の正体がクロだと知ると警戒を解く。ここにクロがいるということはこの空間は恐らくクロが作ったものだろう。
「まあそれはともかく、話しかけるまでやけに警戒していたみたいだけど、何かあったの?」
「いや、近頃この空間に近い場所で襲われるって悪夢を見てな。見たところ、どうせここも夢の中なんだらろ?」
「ご名答。明日が契約の最終期限日だから様子見ってことで夢の中にお邪魔させてもらったの。それで、どう?」
「……まだ決めてない。なんたってきっかけ1つないんだからな」
もしもこの2日間の間に変異種が町や村を襲っているなんてことがあれば場合によっては契約していたかもしれない。だが、そんなことは無く逆に全くもって平和であった。
「ふーん。それじゃあ今夜また私が来た時に答えを聞かせて? もし緊急の場合は右手を上げて叫んでくれたら急いで行くから」
「何そのカッコいい召喚方法」
「ま、そういうことで。それじゃあそろそろお姉ちゃん自身の意識が戻る頃だから」
じゃあねーっと言ってクロは可愛げに手を振りながら姿を消した。それと同時にパッとアスカの目の前も真っ暗になった。
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セヴィオルナの朝──それは大してナチュランの村の朝とは変わらない。
しかし、アスカの場合は少し違っていた。
「ソニアさん流目覚まし奥義『足之裏似擽李あしのうらにくすぐり』」
「んひゃあっ!?」
アスカよりも早く起きていたソニアがアスカの足の裏をライダーキックもといこしょばし始めたのだ。そしてアスカは声が出てしまうほどに足の裏が弱く、眠気が吹っ飛ぶほどに声を抑えて笑っていた。
ちなみにこの技名だが、ソニアが適当に付けたものである。ただを言葉をひっどい当て字にしただけなのだ。
「ちょっ、やめっ……フフ……て……んん……」
「流石の反応速度ね。爆笑声聞こうと思ったけど瞬時に口を塞ぐなんて」
「だったら……くすっ……んっ……やめて……くださいよ……」
「仕方ないわねぇー」
そしてソニアのアスカへの擽りが止み、ふぅーっと一息つくアスカ。
「隙あり!」
「えっ、ちょっ」
完全に擽りが終わったと油断したところに再度ソニアの擽りが入る。そして、完全に油断していたアスカはその擽りに反応できなかった。
「あっははははは! ひょっとひゃひぇへふふぁははっはは!!」
今までにこの姿で発したことのない笑い声が部屋に響き渡り、必死に止めようとソニアに叫ぶがそれよりも笑い声の方が出てしまいまともに話すことができない。
そして、その擽りはそれから約30秒も続き、擽りが終わった時には朝で寝起きだと言うのにアスカは疲れ果てていた。
「はぁ……もっと普通に起こしてくれてもよかったんじゃないんですかー?」
「起こしても起きなかったからこうしたのよ」
「……それに、今まだ6時半です。いつも俺はこの時間はまだ寝てます」
「偶には早起きしなさいよ。早起きは三文の徳って言うじゃない」
「この状況じゃあ早起きなんて逆効果ですよ……」
アスカは頭を抱えながらベッドから出る。
それに、一体誰のせいで中々眠れなかったのだと思っているのだろうか。確かに大きな理由としては今日への不安だが、細かく言うとソニアも眠れなかった理由の一つでもあったりする。
「まあ、起きたものは仕方がないです。さっさと朝の準備でもしますか」
「あ、ちょっと、まーたそうやって髪を傷めるような整え方するー」
「……髪なんて所詮は髪じゃないですか」
「バカ、髪は女の命なのよ。もっとこうやって──」
それからあーだこーだ言われながら部屋にある櫛くしやら色んなものを使ってソニアはアスカの髪を整えて行った。
この時アスカは女の髪ってめんどくせぇなんて女性に対して失礼なことを思っていたのだった。
「はい、終わり」
「おぉー、見たことがないくらいに綺麗に整ってる」
「はぁ……その言葉遣いと偶に出るがに股とか含めもう少し女の子っていう自覚持ったら?」
「言葉遣いは昔からなので変えるのは無理ですね。仕草は……まあ、できる限りは努力します」
日頃男のような仕草が余りでないよう心掛けているのだが、それでも昔からの仕草というのは赤ん坊が親から言葉を生涯特別難しく感じず自然に話すように自然と出てしまうものだ。それを軽く変えるなんてことはすぐにはできない。それこそ、中身が別人にならない限りは。
それからまもなく朝食の時間になり、その瞬間にコンコンとノックされたドアを開けると昨晩夕食の片付けをしてくれた2人が朝食であろう豪華な料理が乗った食器を部屋に運び込む。そして、部屋の机に綺麗に並べると一礼して部屋から出て行った。
「「いただきます」」
アスカ達はその並べられた朝食を食べ、先程の従業員の人達に回収してもらう。そして、昨晩レンとフレアと別れる前に打ち合わせしておいた集合場所と時間帯に間に合うように宿を出る準備をし、準備ができ次第泊まっていた宿の部屋から出て行った。
部屋から出て向かったのは、昨晩に決めたこの宿の出入口付近にある大きなホールだ。
アスカ達がホールに行くとそこには既にレンとフレアが待っていた。
「遅いぞ」
「仕方ないでしょ。女の子は時間がかかるのよ」
「……まあいい。取り敢えず鍵返してきたらすぐに出るぞ」
「はいはい」
フレアの言うことに従い、ソニアは部屋の鍵を返しに行った。
「アスカさん」
「……何だ?」
「なんか疲れてますよね?」
「ソニアさんに朝から擽られて疲れただけだ。あまりに気にするな」
「そうですか」
ソニアが鍵を返し終えると、4人は宿を出てセヴィオルナの冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに着くと早速中に入る4人。そして、やはり冒険者ギルドの本部と言うべきか、ナチュランの村よりも遥かに冒険者の数は多かった。いや、ナチュランの村は逆に少なすぎるだけだ。ダンジョンが見つかったということで一時的にはとても増えたが、それも近いうちに元に戻るだろう。
「それじゃあ、2人はここで用事があるんでじょ?」
「あ、はい」
「だから私はこの辺りで時間を潰しておくわ」
「私はって、フレアさんはどうするんですか?」
「ん、ああ俺か。俺もここで少し用事があるんでな」
「そうですか」
じゃあねーっとソニアがギルド内の人混みに紛れて見えなくなると、アスカとレンはギルドの奥に向かって行く。そして、途中まで一緒だったフレアは別の場所に向かって行った。
「にしても、人多いですねー」
「そ、そうだな……」
何故かこういう人が密集する場所に強いレンはアスカを先導するように先に行く。アスカも何とか進めているが、もしもこれが1人で行くことになっていたらどうなっていただろうと不吉な考えをする。
「あの、すみません」
「はい、どうかしましたか?」
「変異種の件で呼び出された者なのですが……」
「では、冒険者カードの提示をお願いします」
先導していたレンがギルドの受付の人に質問し、その質問に対し受付の人に言われたことに従い、アスカとレンは冒険者カードを提示する。
受付の人が提示された冒険者カードと何かが書いてある紙を照らし合わせながら確認していき、確認が終えると冒険者カードを2人に返す。
「アスカ様とレン様ですね。それでは、あの階段を使って2階に行き、上がってすぐの通路をまっすぐ進んで1番大きな扉に入ってください」
「わかりました」
受付の人はアスカ達に要件を伝えるとアスカ達の後ろに並んでいた他の冒険者の対応に移った。
そしてアスカ達はその受付の人に言われた階段を上がっていき、上がってすぐの通路をまっすぐと進んでいくとこの扉だとひと目でわかる程に大きな扉があった。扉の先から謎の緊迫とした雰囲気が感じられる。
「……行きますよ」
「…………」
その雰囲気的にとても開けづらい扉を押し、アスカ達は扉の先に入って行った。




