第31話 長い1日の終わり
前回頑張りすぎたせいで今回が少ししょぼく見えてしまう
十分温泉を堪能したアスカ達は温泉から上がり、宿の温泉の脱衣所を出てすぐにある休憩スペースにいた。
それぞれ服は朝着ていたたものとは違い、日本のホテルや旅館によくある浴衣を着ていた。この浴衣も恐らくアスカよりも遥か前に転移してきた転移者が広めたものだろう。
「さて、それじゃあダンジョンについての話をします」
「ダンジョンって言っても何を話すの?」
「主にあの襲撃者についてとこの古代武器をどうするかです」
話すと言いながらも中々メンバーが揃わないことで話せなかった内容を話し始める。ちなみにフレアはこの話においては部外者なので少し別のところで待ってもらっている。
「まず、あの襲撃者達の襲撃理由は……俺から話すよりソニアさんから話してもらった方がいいですね」
「あれ、アスカちゃん聞いてるんじゃなかったっけ?」
「裁判起こしたソニアさんの方が裁判の時に理由を聞いていると思っているのですが……」
「あー、確かに聞いたわ。理由としては、ダンジョンの隠し通路から脱出してきたから他の奴らよりお宝を持ってると思ったらしいわよ」
「姉さん、隠し通路ってどうやって見分けたんですか?」
「通常の脱出には赤い魔法陣、隠し通路からの脱出には青い魔法陣ってな感じで見分けてたらしいわ。それと、姉さんって呼ばない!」
そう、あの襲撃者達はアスカ達が隠し通路から脱出していたから襲ったのだ。それと、ソニアは言っていなかったが、あの襲撃者達はダンジョン攻略を諦めて普通に入口から出てきた冒険者に対しては襲うつもりはなかったらしい。
しかし、例えそうだとしてもそれ以外の冒険者は襲うつもりがあったということなので、決して無罪なんてことにはならない。
ちなみにこの裁判の判決は勿論有罪で、襲撃者達は冒険者の資格である冒険者カードの剥奪及び、懲役5年の刑が降った。執行猶予はない。
「襲撃者のことはこれで終わり。次はこの古代武器をどうするかよね」
「そうですね……正直俺が欲しい乗ってないんですよね」
「実際に鍛冶屋に持っていかないとどんな武器なのかはわからないけど……私って武器はあまり使わないのよねー」
「僕もです。この槍ぽい形をしたのならスナイパーライフルって可能性はあるかもですけど、僕の武器はハンドガン。100%使わないですね」
「仕方ない、少しもったいない気もするけどお宝換算日に一緒に渡しましょう。そしたらそれなりの値段で換算してくれるわ」
「なら、それで解決ですね」
「それじゃあ、今からは明日に備えて夕食を食べて就寝よ。あ、就寝の前に歯を磨くことを忘れないでね」
ソニアがそう言うと、皆適当にわかったと返事しそれぞれの部屋に戻って行った。
部屋に戻ると部屋の中にあった少し大きめの机の上に宿にしては豪華な食事が並んでいた。ホテルのような宿なのにまるで旅館のような食事の用意にアスカは少し違和感を感じたが。
「さーてたべるわよー。浴衣汚さないようにねー」
「それくらいは心配しないでください」
うどんを食べる時にも汁が飛ばないように気をつけるアスカだ。浴衣を汚すなんて余程のことがない限り絶対に有り得ない。
アスカとソニアが椅子に座ると、アスカのみ合掌をする。
「いただきます」
「何それ、挨拶?」
「はい。食材とその食材に携わってくれた方々への感謝の気持ちを表した挨拶です」
「そう、なら私も言おうかしら。いただきます」
挨拶を終えたところでアスカとソニアは用意された夕食を食べ始める。アスカは今まで見たことがない料理を先に食べ、ソニアは特に何も無く普通に食べていく。
「ソニアさん、この肉の揚げ物は何の肉ですか?」
「ん? あぁそれね。多分ポコブルの肉だと思うわ。揚げると美味しいのよねそれ」
「ポコブルですか……」
「おっと、あまり想像はしない方がいいわよ。食欲失せるから」
「そ、それなら止めておきます」
それから料理についてや明日のことについてを食事のマナーを守った上で話しながら夕食を食べて行った。
***
「ごちそうさまでした」
「えっと、ごちそうさまでした……でいいのよね?」
「はい」
食べ終えた後の挨拶を済ますとアスカは椅子から立ち上がり、部屋の中にあるベッドに腰を下ろす。ここのベッドには初めて触れてみたが、座っただけでも寝心地はいいと思えるくらいにふかふかであった。
「そういえば、それってどうするんですか?」
アスカは食べ終えた後の皿などを指さして言う。
「近いうちに回収の人が来るわ」
とソニアが言った瞬間、部屋の扉からコンコンとノックの音が聞こえた。噂をすればとはまさにこのことである。
「どうぞー」
「失礼します」
入って来たのはこの宿の従業員であろう女性が2人であった。そのうち1人は食器を入れる箱を持っている。
「食器の回収ならその机に乗ってるからよろしくね」
「了解致しました」
そして従業員の2人は黙々と食器を片付けていき、最後に机を拭くと1度こちらにお辞儀して入ってきた時と同様に「失礼しました」と言って部屋から出て行った。それはたった数十秒の出来事であった。
「速いですね」
「そうでしょ?」
とても素直にアスカは感想を言った。
それからアスカとソニアは洗面所にて歯を磨き、明日の準備をする。とは言っても、準備するものなんて明日の服くらいだが。
「アスカちゃん、明日この服着てみたら?」
「……俺がいつも着てる服と色と飾りが少し違いますね」
「急にいつもと違う格好は動きにくいでしょ? だからいつも着てる服と似てる服も何着か買ってきたの」
「それはどうもありがとうございます。ところでその言い様だといつもと違う服も何着かあるんですね」
「時にはイメチェンしてみるのも良しよ」
そんな感じの会話をしながら着々と服の準備をしていき、準備が完了した時にはもう早い人は就寝する時間になっていた。
ちなみに何故ここまで時間がかかったのかと言うと、明日着ていく服とは別にコートを着るか着ないかで議論になったからだ。議論した結果、あのコートはアスカにとって姿の第一印象になり得るので着ることになった。
「私はもう寝るけど、アスカちゃんはどうする?」
「俺も寝ます。明日早いので」
「そう、なら消灯するわね」
ソニアは部屋の明かりを消し、ベッド横にある小型ライトを目印にベッドに向かう。ベッドに着くとすぐ様上に寝転がって布団を被る。
「ソニアさん」
「何?」
「眠れません」
「どうして?」
「貴方が俺のベッドにいるからです」
ソニアの顔を見ないようにして言う。見てしまうと絶対に噛むか緊張してガチガチになるかのどちらかだ。それがこういう時になってしまえばソニアの思うつぼだ。
「別にいいじゃない」
「人を抱き枕のように扱うのであれば尚更です」
「うーん……あ、明日不安なんでしょ? だったら一緒に寝てあげてもいいかなーって思って」
「絶対それ今考えましたよね? それと、何故上から目線なのですか……」
ソニアという人はいざと言う時には頼りになるがこういう時に少しリラックスし過ぎではないか。まるで修学旅行で一緒に寝ようと言ってくる友達かと言うほど気が抜けているとアスカは思う。
「確かに明日が不安なのかは当たってます。一体何を言われるのかとか……」
「すー……すー……」
「って、もう寝てる……!?」
戦闘と非戦闘の時の切り替えが早いように、ソニアは寝る時の切り替えも早いようだ。しかし、こうも早く眠れるというのには少々羨ましくなる。
「……隣のベッドに移動するか」
流石に一緒に寝るなんてことはアスカにはできないので、眠っているソニアを起こさないようにそっとベッドから出てもう1つのベッドに移動し、そこで眠り始める。
「明日大丈夫かな……」
こういうのは元男とか関係なしに不安になるものだ。恐らく向こうの部屋に泊まっているレンも同じように不安になっているだろう。
アスカは首を横にブンブンと振り、頬をパチンと両手で何度か叩く。
「らしくないぞアスカ。お前はこんなことで不安になるような人間じゃない。自信を持て」
そう自分に言い聞かせ、何とか不安を振り切ろうとするアスカ。よし、と一言意気込むと今度こそと布団を被って目を瞑った。
「……顔叩くんじゃなかった」
しかし、自分でパチンとしたせいで眠気が吹っ飛び、結局眠り始めるのに時間がかかったアスカであった。




