第2話 転移についての説明タイム
アスカの視界が真っ白になってからしばらく経過した。アスカの視界が雲が晴れるように色を取り戻していく。そして、アスカの視界が完全に戻った時、アスカはここが先程までいたはずの自分の部屋ではないことを理解した。その部屋はまるで、テレビ収録の控え室のような部屋だった。なお、扉はついていない。
「……どこだこ……っ!?」
アスカが次におかしいと感じたのは自分の声。超一般的な男の声をしていたアスカだが、この瞬間に聞こえた声はまるで高校生くらいの女の声のようであった。
「それに、この服装……」
声の次に気になったのは服装。アスカの服装は年中全身ジャージ。他の服と言っても洗濯中に着る用の部屋着のみだ。
しかし、現在進行形で着ている服はへそが見える黒色の胸にのみ鉄の鎧が付いているタンクトップに紺色のショートパンツ、アウターウェアとしてパーカーの帽子のようなものが付いているのと抹茶色と緑色が特徴のロングコート、と明らかに元々着ていた服とは違っていた。それに、男が着るとしても少々妙な服装であった。
「……この胸の膨らみは……」
服装を見るついでに見てしまったAカップ程度に膨らんだ自分の胸。男でも肥満による脂肪で胸が膨らんでいるようにも見えるが、アスカの体型は肥満とはかけ離れている。というか、もっと食べた方がいいのではないかと言うくらいの体型だ。
つまりこの胸は、女と同じように女性ホルモンの影響下で膨らんだ胸だ。
『全メール受信者の選択が終了しました。これより転移希望者を対象とした説明会に入ります』
「説明会?」
そのアナウンスが聞こえた瞬間、部屋にあった薄型テレビに黒い人型のシルエットと真っ白な背景が映し出された。
『やあ、転移希望者の諸君。まずは挨拶からだね。僕はタクト。この世界の転生と転移を担当している神様ってところかな』
画面に写っているシルエット──タクトと名乗った自称神がひとりでに話し始める。
『それじゃあ、転移についての説明をさせてもらうよ。今回の転移希望者の全員が様々なアクションとFPSゲームの1番最近のランキングがトップの人だよ。その内の5人が転移を拒否、残りの75人が今僕の説明を聞いているかな?』
「……転移希望者は俺だけじゃないってことか」
『最初に君達の姿がここに来た途端に変わっていたと思う。それは僕が用意した転生する世界に相応しい姿だ。自分の姿は部屋にある姿見で確認できるよ。性別は名前で判断したから、もしも本来の性別と違ってたらゴメンね!』
タクトが言った通りに、アスカは部屋にある姿見で自分の姿を確認する。
そこに写っているのはボサっとした短髪黒髪と先ほど説明した服装を着た身長が165センチくらいの少女であった。
「ゴメンね、じゃねぇよコノヤロー……」
自分の性別がまさかの名前によるタクトの勝手な判断がこの姿にしたのだとわかった瞬間、アスカはタクトに対して一瞬の猛烈な怒りを覚えた。それと同時に、この名前をつけたアスカの両親に対してもほんの少しだが怒りを覚えた。
『まあそれはさておき、君達には転移先の世界でも十分生きられるように能力を与えたよ。能力は君達がトップになったゲームに関連している能力だよ』
転移時に能力が与えられるのは異世界転生や転移ものでのテンプレだ。大体の作品を見る限り、その『能力』のほとんどがチートで最強と言われるものが多い。
『ファンタジーアクション系なら魔法と使用回数が1番多かった武器の技量とスキル。FPSゲームなら1番使用回数が多かった銃の技量と使用者の体が耐えられるくらいの反動補正などの能力が君達に与えられる能力だ。他にもいろいろあるけど、ここでは省略させてもらうよ。もし知りたかったら右手を右にスワイプしたら装備している武器とかが書いてある画面が出てくるからそこで確認してね』
タクトの一方的な話を静かに聞いていたアスカ。試しに右手を右にスワイプすると半透明の画面が出てくる。
「装備、持ち物、能力の3つの欄……押したらそれについての詳細が確認できる、と。まるでゲームのようだな」
それぞれのボタンを押し、確認するアスカ。アスカの装備は見ての通り何もなし。持ち物にはアメリカのボルトアクション方式スナイパーライフルであるM24とその附属装備品とコンバットナイフが1本のみ。そして能力は『反動補正』と『技量(SR)』の2つであった。
『それでは次に魔法について説明するよ。魔法とは、体の内や空気中にある魔力を利用して使用する技術みたいなものさ。君達が転移する世界では様々なことに使われているよ。言わば電気みたいなものさ。そして、その魔力は君達の肉体にもあって、剣の一時的な強化や銃弾を作り出すなどのことに使うよ。あ、もしも剣を主軸にしてる人が銃弾を作り出そうとすると魔力が逆流して死ぬから気をつけてね。銃を主軸にする人も同様に剣などの強化を使用とすると死ぬよ』
タクトが言うことを簡単に解釈すると、魔力は剣を強化したり銃を撃つ為の必須品である銃弾を作り出すなどのことが出来る。そして、剣を主軸にして戦うのなら銃弾を作れず、銃を主軸にして戦うのならば剣などを強化することは出来ない、ということだ。
そこらのチート能力よりはちゃんとした差別化ができているようだ。
「結構えげつないことを楽しそうに言うな……」
タクトはまるで、遊びを楽しみにしている子供のような神様なのだ。アスカは可愛いところがあると思うが、恐怖の感情も同時に抱いた。
『それじゃあ話も長くて飽き飽きしてるだろうから、そろそろ転移について説明をしようか』
「やっとか」
やけに長い説明から、学校の校長先生の話を思い出していたアスカ。恐らく、他の転移希望者もそう思っているに違いない。
『転生はこの説明が終わり次第開始する。座標については街の近くでランダムにテレポートする仕様だよ。出来るだけ転移希望者とは違う所にテレポートするようにはしてるけどランダムだからもしかしたら近くにテレポートするかもね』
転移希望者が同じ場所にもしもテレポートしたとしよう。両者が冷静かつ友好的だとしたら問題は無いだろうが、片方か両者共が傲慢な性格さ故に戦闘になってしまうかもしれない。
──そうはならないようにしたい。
『それじゃあ最後に、異世界に転移したとしてもこれは現実。死ねば生き返らないし、コンティニューだってできない。自分にとって都合の良い世界なんてないってことを忘れないで』
「……俺は理解している。他の奴らが理解するかどうかは知らないけどな……」
『それでは、待ちに待った転移開始だよ。君達にとってこの転移がいい結果になることを願ってるよ』
タクトがそう言った途端、アスカの体が再び光り始める。同時に、アスカの視界も白くなっていく。
『転移開始』
その言葉を最後に、アスカの意識は視界が白くなるのと同時にプツッと途切れた。そして、この部屋に来た時と同じように光が増して行き、その光が消えていく。部屋中に広がっていた光が完全になくなった時、既にそこにはアスカの姿はなかった。
運動不足は執筆だけで足がつる。3分ほど痛みに耐えてました。