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第27話 セヴィオルナにて

 アスカ達が起きてからは特に何も起こらず無事にセヴィオルナに到着した。そして、持ってきていた荷物を持って荷台から降りる。


「ありがとうございました」


「いいってことよ。そんじゃ」


 レンがお礼を言った後、御者の人は馬車をアスカ達がいる街の入口とは別の馬車専用の入口に向かって馬を走らせて行った。

 馬車が行ったのを確認するとアスカ達は荷物を持って街の中に入って行く。


「さて、まずは宿を探さなければなりません」


「……そうだな」


「……ずっと気になっていたんですが、その手袋はどうしたんですか?」


「今朝の手を隠すためにな。本来は銃を持ちやすくするために買ったものなんだが」


「まあ、アスカさんも女の子ですからね。見られたくない気持ちはわかりますよ」


 そうじゃない、と言いたかったアスカだがこの手の痣がアスカ以外に見えていないのであればどれだけ話したところで理解はしてもらえない。この右手についての話をしたところで無駄だろう。

 それに、女の子という発言に対してももう何も思わない。今の自分を見て男と言う方も中々におかしい。

 だが、それが今の自分に対して慣れてきているという証拠でもある。


「おーい!!」


「ん、あれは……」


(あね)さんもといソニアさんですね」


「あー、確かここに来てたんだっけ」


 ここでアスカ達は数日前に裁判のため来ていたソニアと偶然合流する。

 ソニアの持ち物である大きな巾着袋を見る限り、裁判も終わって帰る頃であったのだろう。


「ふぅー、やっぱり重いわ」


「今から村に戻る予定だったのですか?」


「そ。貴方達はどうしてここに?」


「少しここのギルドマスターに呼び出されまして、態々1日かけて来ました」


「……呼び出されたのは変異種についてよね?」


「知ってたんですか」


「そりゃね。昨日それについてで結構騒がしかったから」


 変異種についての説明が省けて楽だった。なんて考えているアスカだが、それは同時にアスカの予想を遥かに超えるほど大問題になっているという事だ。

 そんなことはわかっている。だが、ここで大事なのは大問題だからこそいつもより気を引き締めなければならない。


「ソニア、この人達は?」


 アスカ達がソニアと話していると、黒髪が特徴の男がソニアに近付いてくる。ソニアの名を知っているということは、恐らくソニアの知り合いか何かだろう。


「昨日話したアスカちゃんとレン君よ。偶然ナチュランに戻ろうと思ってたら遭遇しちゃって」


「なるほど、君達がソニアの言っていた2人か」


 そう言うなり男は2人をまじまじと見つめる。


「あの、貴方は誰ですか?」


 見つめられることに関しては別にどうでもよかったアスカは男の名前を聞く。

 向こうだけ名前を知っていてこっちは名前を知らないというのは何かズルい。


「俺か? 俺の名前はフレアだ。本名はもっと長いんだが俺自身言うのが面倒なんでな」


「フレアさんですか」


「さん付けは止めてくれ。できればその敬語も。あまり慣れない」


「あ、すみません」


「フレア……この名前どこかで見たことが……」


 フレアという名前を聞いてレンは何故か見覚えがあった。どこかに載っていた気がするのだが、この時のレンには一体どこに載っていてどんな内容だったのかを思い出せなかった。


「フレアはソニアさんとはどういう関係?」


「まさか、恋び──」


「友人よ」


「あ、そうですか」


 レンの恋人ではという予想をソニアに秒で否定される。実際それが事実なのだが、それはそれで傷付いたフレアであった。



***



 あれからアスカ達はソニアが泊まっていた宿まで案内してもらい、無事に寝床をゲットする。

 ソニアについてはダンジョンについての話をこの歳しておきたいということでこの街に残ることになった。


「にしても……」


「いらっしゃいませー」


「これって宿というかはホテルですよね?」


「ほてる? 何それ新種の虫か何かしら?」


「そうだった……この世界にホテルはないんだ……」


 アスカがソニアに案内された宿はよくある西洋チックな宿ではあるのだが、まるで豪邸のような大きさの宿であった。そしてその宿には噴水があったり宿の建物が大理石を主体に使われていたりと、言えばホテルであった。

 流石、この世界の中心とも言われる街だ。


「4人で2部屋お願いできるかしら?」


「はい。宿泊代は1部屋2人以上で1名半額になっておりますので、2部屋ですと1泊計11万5000コルです」


「はいはーい」


 やはりこの豪華さもあってか普通に止まる宿よりは遥かに高額だ。しかし、そんな大金をはいはーいと軽く支払うソニアも中々である。


「確かに金額ぴったりお預かり致しました。お部屋についての要望はありますか?」


「そうねー、両部屋隣ってできる?」


「……今現状ですと可能です。3階と7階が2部屋隣合って空いています」


「なら7階の方でお願い」


「わかりました」


 受付の人がソニアが言ったことをパソコンのような魔具でカタカタと入力していき、入力し終えると後ろに掛けている部屋の鍵を2つ取り、ソニアに手渡す。


「705号室と706号室です。上へはここを真っ直ぐ行った所にある転送装置をお使いください」


「ありがとね」


 ソニアは鍵を受け取ると、片方の鍵をフレアに手渡す。


「フレアとレン君、私とアスカちゃんってペアで1部屋ね」


「え!?」


「うーん、そこまで驚くことじゃないと思うんだけどな〜」


「いや、まぁそうですけども……」


 今まで1人で寝ていたこともあってかそこまで意識はしていなかったが、アスカは今はただの17歳の少女。こういう場合に男2人と一緒の部屋というのは世間的には少しばかりおかしい。それについてはまだいい。

 しかし、アスカがこうも乗り気ではないのはソニアという1人の女性と一緒の部屋だということだ。

 本来それが普通なのだが、アスカの精神は男だ。言わばアスカにとってこの事態は、すこーし仲がいい女性と一緒の部屋で過ごし一緒に眠るということなのだ。

 そういう系が大歓迎な人ならまだしも、アスカはどちらかと言えばそういう系の人間ではない。何気に過呼吸とまでは行かないが少なからず緊張している。


「それじゃあ各自部屋に荷物を置いて夕方まで自由行動。夕方には温泉に入った後に夕食よ」


「温泉!?」


「そうよ。それも天然のね」


「近くに山があってそこから汲んでいるらしいぞ」


「この宿の食事は夕食と朝食が付くわ」


 温泉、食事と来ればもう完全にホテルである。

 しかし、アスカにとってはまた温泉という言葉に悩みを感じていた。

 ここだけの話、アスカはこの世界に来てから1度としてお風呂というものに入っていない。勿論シャワーも浴びていない。汗などはそこらのタオルでふき取っていたくらいだ。

 この世界においてお風呂とは日本とは違い毎日入るのが当たり前なんて考えはない。故に、どの家にも絶対にバスルームが付いているなんて家は珍しいのだ。

 そしてこれが本題。アスカはお風呂に入ったことがないということで自身の裸体を見たことは無い。温泉に入るということは自身の女になった裸体を見ることは確定しているも同然。

 それに、恐らくソニアも一緒に入ろうだなんて言い出すに違いない。そうなってしまえば自分の裸体どころかソニアの裸体をも見ることになってしまう。

 そう、アスカにとっては温泉に入るということは試練なのだ。


「それじゃあ、私とアスカちゃんは705号室だから」


「おう、そんじゃまた夕方に」


 転送装置を使って宿の7階に移動し、部屋の前に着くとソニアとアスカはフレアとレンと別れる。

 ソニアとアスカは部屋に入るとアスカはその部屋の広さに驚きを隠せなかった。


「ひっろ……」


 部屋の広さはアスカがいつも寝ていたあの部屋の倍はあった。ベッドもふかふかで枕ももふもふ。宿としては十分すぎる部屋であった。


「さて、アスカちゃん。荷物を置いたら出掛けるわよ」


「どこにですか?」


「勿論、買い物よ」


「……あー」


 この瞬間、アスカにまた新たな試練がやってくるのだとわかった途端、もういいやとアスカは男としてのプライドを一瞬投げ出した。

 その光景を見ていたソニアにはアスカが何故これほどまでに何かを投げ出したような表情になっているのかがわからず、10秒もしないうちにソニアは考えるのをやめた。

次回か次次回はお風呂回かな?

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