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第25話 闇夜の襲来

2日遅れ申し訳ない。忙しいのだ最近。

 それからアスカとレンはセヴィオルナに到着するまでの食料を購入し、馬車に乗って出発していた。

 他のラド達とは道中に会っていないのでどのタイミングで出発したのかはわからない。もしかすると出発すらしていないのかもしれない。


「そういや嬢ちゃん達はセヴィオルナに行って何をするんだ?」


「冒険者ギルドの本部に少し用があるだけです」


「なるほどな。しっかし、まだ若いのによく頑張ってるな」


「そう言う貴方はこうやって御者として頑張っているではないですか。年齢以外どっちも同じようなものですよ」


「おい坊主、一言多いぞ」


 アスカ達は度々こうやって馬車の御者と会話をしたりして暇潰していた。

 ナチュランの村からセヴィオルナまでは到着に1日かかる。もしも現代のような携帯ゲーム機やスマートフォンかあればこういった暇も潰せただろうが、残念なことにこの世界の技術はそこまで発展していない。

 とは言っても、元いた世界とは違って魔法が存在するのでこの世界ならではの便利器具などは沢山ある。

 決して遅れをとっているというわけではない。


「そう言えば、セヴィオルナって普通なら行くのにどれくらいかかるのでしょうか?」


「まあざっと5000コルだ。場所によって値段には差があるが、ナチュランの村からならそれくらいだ」


「うへぇ」


 その値段の高さにレンはこの紙のありがたさに感謝をする。


「……イマイチ安いのか高いのか分からないんだが」


 そんな中、アスカだけは首を傾げていた。

 それもそのはず。アスカはクエスト以外での馬車の乗車をしたことがない。どこからどこまでがどのくらいかかるのかかなんて、そもそもの基準を知らないアスカが知るはずがないのだ。


「ああ、そうでしたね。ナチュランの村の近くには森がありますよね? 降りる場所にもよりますが、森で降りるのなら100~500コルくらいです」


「うーん、それでもイマイチわからん。電車と同じってことでいいのか?」


「まあそんな感じです」


「つまり、この料金は高いってことでいいんだな?」


「そうです」


 その瞬間、アスカにもレンがしたように紙のありがたさに感謝したのであった。

 それから何事も起きないまま日は沈み夜になった。

 夜になるとこんな道中に街灯なんて勿論ないので辺りは真っ暗になった。辛うじて星の光で若干明るいがそれでもまだ暗い。


「最近戦闘ばかりでしたから、こうも何も無いと逆に違和感がありますね」


「そんなことより早く食べろよ。折角作ったんだからさ」


 そう言ってアスカ達が食べているのは、出発前に米を買って作っておいたアスカ特性のおにぎりだ。ちなみに塩だけの味付けで具材は入っておらず、包んでいるものもラップではなく昔ながらの竹皮だ。


「はむ……ん……うん、流石アスカさん。美味しいです」


「よかった。おにぎりなんて子供の頃に作ったきりだったから。美味しいようでなによりだ」


「具材はないんですね」


「いや、あるにはあるんだが……」


「だが?」


「入れ忘れた」


「えぇー……」


 とは言っても、アスカが具材の存在に気がついたのは丁度作り終えてからであった。別に追加で作ってもよかったのだが、もし作れば食べられなくなるほどの量を作ってしまいそうで止めておいたのだ。


「あの……御者の方もどうぞ」


「お、悪ぃな」


 おにぎりの数は1人2個計算で御者の人の分も考えて計6つ作ってきていた。

 運転手がおにぎりを1つだけ受け取ると片手に持って食べながら馬を前へと進ませる。こんなことをもしアスカ達の世界でやっていたのならば真っ先に訴えられるだろうが、今回の場合はアスカ達の理解の上でやっている。ミスさえしなければ特に何も言わない。


「さってと、嬢ちゃんの愛情たっぷり飯を食べたところで……」


 先程までゆっくり落ち着いて馬を進ませていた御者の人が突然馬につけている手綱をぐっと握り競馬選手のような目付きになる。


「どうしたんですか?」


「この辺りはこの時間帯になると賊が襲ってくるんだ。こうやって冒険者を乗せてない時は夜になる前に抜けるか朝まで待つかのどっちかなんだが、今回は嬢ちゃん達冒険者を乗せてる。つまり……わかるな?」


「護衛をしろってことですか」


「そうだ」


 こういう護衛イベントはゲームではよくあるものだ。しかし、本当に起こるとなると失敗=死であってゲームとは違うという意識が浮上してくる。


「嬢ちゃん達は近距離か遠距離どっちだ?」


「えと、両方遠距離です」


「だったらそこのボウガンは必要ないな。その遠距離武器で賊を迎撃してくれ」


 御者の人がそう言った瞬間、アスカが乗っている馬車の荷台に矢が突き抜けてきた。その矢は運良くアスカ達には当たらなかったが、この馬車の荷台に窓が付いていないので矢がどこから来るのかの予測ができない。


「チッ、横から来やがったか」


 唯一後ろ以外の賊の居場所を視認できる御者の人は馬を走らせ、アスカ達が賊を迎撃しやすいように賊が後ろから追うように位置を調整する。

 アスカ達が全員の賊の姿を確認できるとすぐさま銃を構える。


「全員弓持ち……それに馬……」


 アスカが暗視スコープを覗いて賊の武器と何に乗っているのかを確認する。その情報からどうするのかを解析しながら考える。


「アスカさん、今回僕は近付いた敵だけを攻撃します。アスカさんみたいに暗視スコープなんて持ってませんしね」


「了解」


 この揺れる馬車の中、立って狙うのは論外。だからと言ってホフク射撃をすれば間違いなく同じようにブレる。

 そう考えたアスカはしゃがんでスナイパーライフルを構える。まだ多少は揺れるが先程言った射撃の姿勢よりはマシだろう。


「…………」


 ゆっくり狙い、次に何処に移動するかを予測しながら発砲する。

 狙うのは賊の本体でなく馬の足だ。そうすることで馬の体勢を崩させ賊を馬の上から落とすという考えだ。

 そして、発砲した銃弾は馬の足に命中し片足を付いて倒れる。それと同時にアスカの思惑通り、乗っていた賊も急に止まった馬からずっこけるように落ちる。


「まずは1匹」


「それ言うと悪役みたいですよ」


「実際あいつらからしてみたら敵だから問題ない」


 そのまま次の馬を撃っていく。しかし、撃たれるまで近づく賊を1発撃つとボルトを引く手間がある。それに装填数が1発のスナイパーライフルではその1発を慎重に確実に当てなければはらない。

 どう頑張っても近づかれてしまうのだ。


「レン!」


「わかってますよ!」


 レンはアスカが仕留め損ねた賊の馬を攻撃する。

 そうして段々数を減らしていったが、それと同時に賊の攻撃が荷台に幾つか命中しボロボロになっていく。


「もう少しだ。頑張ってくれ!」


 賊を戦闘不能にさせては再びやってくる。その繰り返しだ。

 しかし、これは賊を全て倒すのではなくあくまで迎撃だ。この馬車がこの地帯を抜けるまで耐えればいい。

 そうアスカが思った瞬間、この繰り返しは違う理由で終了するのだった。


「……あれはっ!?」


「うごぁあ!」


「うがぁあ!」


 暗くて何が起こったのかはわからないが、次々に追いかけていた賊が吹っ飛ばされた。


「……な、何が?」


「…………」


「何があった!?」


「わかりません。しかし、賊が全員吹っ飛んだんです」


「何か? 見えなかったのか?」


「僕には何も……。アスカさんなら見ているかも知れませんが……アスカさん?」


「……ああ、見た。一瞬だったが見た」


「……賊が来る地帯は抜けた。ゆっくりしていいぞ」


 御者の人はそう言ったが、アスカは自身が見た()()()に恐怖していた。たったチラッとスコープで見えただけなのに。


「……目が……合った……」


 その生き物の目に丁度自身の目と合ったのだ。

 あのギロっとした目を見た瞬間にゾッとした。アスカにとってこんなにも震え上がる程の恐怖は初めてのことだった。

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