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第22話 黒ドレスの少女

 村に戻ってきてからすぐに冒険者ギルドへと向かいディアボロスの討伐が完了したことを報告しに行く。


「ただいま帰還しました!」


「よくぞご無事でってなんですかこの状況は!?」


「何だろう。こんな感じの展開を昨日見た気が……」


「デジャブというやつですね」


 村に入ってから周りの人達が珍しい光景を見るような表情をしていたのと同様に、ギルドの受付の人には声を出して驚かれてしまう。魔獣と人間(少年)を片手で担いでいるのだから当然と言えば当然だ。


「まずわっと……」


 最初にラドは気絶しているルイスを降ろし、受付の人に見せる。


「負傷者だ」


「この様子だと、外傷というよりかは精神的な面での負傷ですね。ディアボロスの精神攻撃によるものですよね……でも、ここまで衰弱している冒険者を見るのは初めてです」


「それを兼ねて、こいつを見てくれ」


 気絶しているルイスを他の受付の人達に任せ、次にラドが降ろしたディアボロスの変異種を見せる。


「これが俺達の討伐したディアボロスだ」


「これが、ですか。本来よりも大きさが遥かに小さいようです……。それに色まで違う……」


「俺にもわからん。ディアボロスの討伐は初めてだったからそういうの変化もあるのかと思っていたが、どうやら受付を長いことやってるあんたでもわからないってことは相当珍しいかこの変化自体起こったのが初めてかのどっちかか……」


 ディアボロスの変異については誰も知らないらしい。つまり、このディアボロスの変異個体を討伐したのはアスカ達が初めてということだ。

 いつものアスカの場合、新魔獣討伐ということで喜ぶのだが、今回の場合は喜びよりも疑問が生まれた。


 ──そもそも何故変異したんだ?


「……この個体は私達の方で預からせてもらいます」


「そうしてくれると助かる。今回ばかりは素材を売るなんてどころじゃない気がするしな」


 ディアボロスの死体を車輪の付いた小さな檻の中に入れ、ルイスを運んだ部屋があるところとは別の部屋にギルドの奥へと運んで行った。


「まあそれはともかく、緊急クエストクリアおめでとうございます!」


 受付の人がそう言うと周りにいる冒険者達が盛大に拍手をする。拍手をするくらいなら応援に来てくれてもよかったのではないかとアスカは思うが、彼らは全員ダンジョンから帰った冒険者なのだと考えると、同じく無事に帰ってきたということで怒りよりも安心感の方が出ていた。


「報酬金は人数が少なかったことと推奨ランクよりも低い冒険者がいる点でボーナスが出まして、参加された冒険者1名ずつに報酬金25万コルが支払われます」


「に、ににに25万コル!?」


 その額はクエストの報酬としてはとんでもない額だ。言えば、日本の二十代男性の平均月給がたった1日のクエストで手に入ったという事と同じだ。満足しないわけが無い。


「ディアボロスの素材についてはまた後日にお渡しするということでよろしいですか?」


「あ、ああ」


「アスカさん! これでしばらくは贅沢しても問題なさそうですよ!」


「あんまり日頃使わないんだよなぁー」


 ラドが1人受付の人に返事をする中、アスカ達3人は報酬金で何をするかについて話していた。アスカについては考えていた、という方が正しいかもしれないが。


「この度は、緊急クエストに参加していただきありがとうございました!」


 目の前にいる受付の人が頭を下げると先程ギルドの奥に行っていた受付の人達を含めた他の受付の人達も頭を下げる。すると再び周りから盛大な拍手が送られる。


「はい。もう話すことは終わりましたので今からはご自由にどうぞ〜」


「ってことらしいから、今からこの報酬金でたらふく飲むぞォーー!」


「そう叫んでるところ悪いんだが、俺は遠慮しておく」


「ん? どうしてだ?」


「単純に疲れた」


「そうか。ならまた一緒にクエストすることになったらよろしくな」


「うん。それじゃまた」


「ゆっくり休めよー」


 ラド達が盛り上がっているのを背後にアスカはギルドを出た。

 ギルドの外に出るとまだ日は暮れておらず黄昏時であった。あの少女が置いて行った紙に書かれていた『今夜』になるまではまだ時間がある。


「……ただいまです」


「おう、帰ったか」


 アスカは未だに名前を聞いていないのでなんと呼べばいいかわからない男の家に帰ってくる。ここはもはやアスカの家同然のように住ませてもらっている場所である。


「そういや、飯はどうする? 今から作るが……」


「今日はいいです。疲れてるんで」


「そうか。腹減らないか?」


「減った分は明日の朝食で食べるので問題ないです」


「……そう言って朝早くに摘み食いとかしそうだな」


「もう寝ます。おやすみなさい」


 摘み食いせざるを得ない状況に陥るかもしれないことを考え、これ以上話していると摘み食い対策をしてくる気がしたアスカはさっさとアスカ用にしてもらった部屋に逃げるように入って行った。


「摘み食いは非常時のみ……わかってる……うん」


 呪文のようにブツブツと言いながら部屋の窓を開ける。窓を開けるとブワッと風が吹き白いカーテンを揺らす。


「もう日は暮れたか……」


 移動の間に時間が経ったのか、もうとっくに日は暮れており星満開の夜空が見えていた。

 この世界に月というものは存在しないがそれに近いものは存在する。それが今見えている星だ。


「……こんな夜空、初めてだ」


 アスカが前の世界で住んでいたのは田舎か都会か聞かれれば都会だ。そんな都会で成長してきたアスカには、星なんていつも3つか4つしか見えていなかった。

 しかし、この村は都会のようなビルもなければ眩しい電気の光もない。だからこそ、星がよく見えるのだ。こういう光景は知識で知っているのと実際見てみるのとでは結構違う。


「綺麗な夜空は十分見た?」


「──!?」


 突然背後から聞き覚えのある幼い声が聞こえる。振り返るとそこにはあの時に会った黒いドレスを着た少女が机に腰をかけて足をぶらぶらと揺らしていた。


「いつからそこに……って、そもそもどうやって入った」


「想像でお願い」


「……まあいい。約束通り話は聞かせてもらうぞ」


「答えられる範囲でね。私にも秘密はあるから」


「わかってる。まず、どうしてそう転々と移動できる?」


 今回現れた時や初めて会った時も突然ポンッと現われポンッと消える。しかも今回の場合は扉から入ったのならあの男が気づくし窓からはアスカが気づくという状況下で誰にも気づかれずに部屋内に侵入した。

 アスカはその方法がどうも気になるのだ。


「あー、それね。お姉ちゃんって『テレポート』って知ってる?」


「テレポート……確か、座標指定したらその場所に移動できるんだったか?」


「うん、大体あってる」


「じゃあなんだ、それで移動してきたのか?」


「そうだよ」


 以外にも簡単な答えであったが、そもそもこの世界にテレポートという魔法が存在するとわかったことから聞いて正解であった。そのテレポートが()()()()()()はアスカ自身特定の人のみが使えるスキルと同じではないかという考えもあった。


「……じゃあ次、これは俺が最も聞きたいことだ」


「どうぞ〜」


「お前は何者だ?」


 様々な点からこの少女のことを考えても『普通の人間』という考えは浮かんでこない。何かしらの能力を持った人間なのか、そもそも人間ではないのか。

 アスカはその真相が知りたかった。


「深くは言えないけど、少なくとも私は()()()()()()()


「ってことは、魔獣か?」


「んー、少し違うかな。人間の姿をしているのは人間の町や村に溶け込む為」


「本来の姿……いや、種族だけでも言ってくれないか?」


「……いいよ」


 瞬間、少女の目付きが変わった。先程までは柔らかかったのにこの話題になった途端、鋭い目付きになる。


「種族は竜──所謂ドラゴンってやつ。その中でも私は古の竜が使える能力を持ってる個体。この姿は仮の姿で、ギルドには勿論危険視されてる」


「それならあの時に姿を消したのも理解できる。でも、何故俺だけに姿を見せた?」


「お姉ちゃんの精神が他の人とは違ってたから」


「精神が? って、お前精神を見れるのか?」


「薄らとだけ見れるよ。それで、お姉ちゃんの精神はなんて言うか、体に合ってない精神? そんな感じがしたの」


 その原因は間違いなく女の体になったことが原因だ。元々男だったアスカが女になれば同時に中身が女性化することはない。なんたって、体だけが女になったのだから。


「まあ、それは後に回して……」


「……それもそうだね。考えるのは後にするよ」


「それじゃあ最後に、何故俺に力を貸した? 別に力を貸すのは俺以外でもよかったはずだ。そもそも何故助けた?」


 本来ならば勝てなかったはずの相手だ。しかし、この少女の助言や力があったからこそ勝てた。

 そこに理由はあるのか。少女にはアスカ達が失敗しようが死のうがはっきり言って関係ない部外者だ。助ける理由なんてないのだ。


「言ったでしょ。お姉ちゃんに力を貸したのはその諦めの悪さが気に入ったから。助けたのはただの気まぐれ」


「気まぐれで助けられたのか俺達……」


「それと、1つ提案するんだけど……」


 少女はアスカが開けた窓に向かって歩いて行き、それを待ってたと言わんばかりに星の光が窓から射し込んでくる。そして、窓の前に来るとアスカの方を向き手を差し伸べるように前に出す。


「──私と契約しない?」


 少女はまるで、生き別れた親友のような表情でそう言った。

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