第19話 悪魔と呼ばれし魔獣
あれから他の冒険者達と共に馬車に乗り、ディアボロスが最後に目撃された場所付近まで移動する。到着するとすぐに馬車を降り、馬車がこれ以上ここに留まらないようにと少年の冒険者が急かす。
「ここは危ないのですぐにここを離れてください」
「そうさせてもらうよ」
忠告を聞いてすぐに馬車は村の方に戻って行った。
「さて、まず誰かディアボロスについて情報を持っている奴はいないか?」
馬車がある程度離れた時を見て、がたいのいい冒険者が全員に質問する。しかし、その質問に対し答える者はいなかった。
「情報なしか。仕方ない、ここではそれぞれの名前だけでも覚えておこう。その方がコミュニケーションを取りやすい。ってなわけで、俺の名前はラドだ。まあ気軽に呼んでくれ」
「僕はルイス。お子様だからって甘く見ないでね」
「私はジョルダンと言います。以後お見知りおきを」
「僕はレンです。中距離が得意なのでよろしくです」
「お、俺はアスカ……です。えと、遠距離戦が得意です」
「1人不安な者がいるが、取り敢えずは名前を覚えた。これからディアボロスを探すぞ」
不安な者というのは明らかにアスカのことであろう。
それもそうだ。こういう高難度クエストで大事なのは強さとコミュニケーションだ。幾ら強い力を持っていようと人とのコミュニケーションが取れなければ本来ならば5分で終わるクエストでも時間がかかってしまう。
そう、コミュニケーションとは長期戦に持ち込まないための必須事項なのだ。
「手分けして探すのが手っ取り早いのだが、今回は相手が相手だ。全員で行動しよう」
「それは反対だね」
「何だと?」
「手分けして探す方が手っ取り早いならそうすればいいじゃん。もし誰か見つけたら合図でも何でもすればいいし、最低2チームに別れればもしも発見して全滅なんてことにはならないじゃないか」
「ルイスだったか。お前は一つ勘違いをしている」
「僕が勘違い?」
「俺達は全滅しない。全員生きて帰る。犠牲が出ればクエストに成功したとしても冒険者としては失敗だ」
そんな物語の主人公のような決めゼリフを言うラド。全員生きて帰るなんてただの綺麗事だと言うかもしれないが、この状況において逆に死にたいだなんて思う人はいないだろう。
「あっそ、なら好きにすれば?」
「そりゃどうも。それじゃあ早速──」
行動しようと言おうとした瞬間、辺りにドンッという音が聞こえたと同時に揺れが起こった。地震かもしれないが、こんな一定のリズムで音を鳴らしながら起こる地震なんてあるのだろうか。
否、そんなものはこの世界には存在しない。つまり、これは地震ではなく誰かの足音だということになる。
「これは、足音ですか?」
「バカな、こんなでかい音する足音があるか!?」
「……あ、あの、段々近付いて来ていませんか?」
「……確かに、音が大きくなっている」
「全員、戦闘態勢に入れ!」
ラドがそう言うと、全員が自分の戦闘スタイルに適した場所に移動し武器を構える。
ラドは両手剣、ルイスとジョルダンは片手剣のためその場で音のする方向を向いて武器を構え、レンはその3人の後ろで銃を構える。そして、アスカは4人よりも少し遠くにある段差の上にホフクして銃を構える。
それから次第に音は大きくなっていき、遂にその正体が目の前に現れる。
「こいつが、ディアボロス……」
ディアボロス──ギリシャ語で悪魔という意味だ。
そして、今目の前にいるディアボロスはその名の通りに二足歩行で悪魔のような漆黒の体と翼、そして2本の角が特徴の魔獣だ。しかし、それ以上の特徴がこの世界のディアボロスにはあった。
「なんて大きさだ……!」
ディアボロスの大きさ──それはこの中で1番背が高いラドが5人分の大きさであった。しかし、これもあくまで予測であり、実際は軽く10mを越えているだろう。
「とにかくやるしかない!」
「3人は足を中心に攻撃してください! 僕のこの武器なら足より上を攻撃できますので!」
「了解しました!」
レン達がディアボロスの足や体を攻撃しはじめた瞬間、遂にディアボロスが攻撃の体勢に入る。しかし、攻撃態勢の目立った行動の9割が上半身なので上を見ているレンとアスカしか気づけなかった。
「攻撃きます! 攻撃目標は左足──ルイスさんです!」
「了解!」
レンがルイスに攻撃のことを言い、ルイスがディアボロスの左足から退いた瞬間にディアボロの闇を纏った拳が先程までルイスがいた場所にぶつかった。拳が地面にぶつかるとブワッと風圧が4人を襲い、それと同時に拳で殴った場所に禍々しい色をした池のようなものが発生した。
その池はそこに生えていた木や草を飲み込むように沈めていく。
「なるほど、こいつが通って来た道に木や草が生えていないのはこいつ自身が作るこの池が原因ってことか」
「あれに人が入るのは危険ですね」
「見りゃわかる。それと、俺達が攻撃したはずの足だが……」
「完治……いえ、これは元々効いていないのでしょうか」
ジョルダンの言う通り、先程攻撃したはずの足には傷一つなかった。確かに足に攻撃した3人には手応えはあったのだ。
「……攻撃が効かないってことなら僕らが勝てる見込みあるの?」
「諦めるな! こういう敵にこそ致命的な弱点があるはずだ!」
「だからって、それをどうやって見つけんだよ」
「次、来ます!」
4人がディアボロスの攻略に苦戦している中、アスカはスコープを覗きながらディアボロスの観察をしていた。そこで一つ妙な点を見つけた。
「……レンの攻撃だけ効いてる」
レンの攻撃──銃による上半身の攻撃だけは何故か撃たれた傷が残っている。もしもディアボロスがどんな攻撃をも受けつけないというのならおかしな話だ。
「もしかして……」
アスカはそのもしかするとに賭けてとある場所に銃弾を発射した。その銃弾の向かう先は先程レンが攻撃した部位ではなく、光が当たっている部位であった。
そして、その部位に銃弾が命中すると攻撃が効かないはずのその体にめり込んで行った。
「やっぱり、ディアボロスは光の中では攻撃が当たる!」
闇を操る魔獣というのならば光に弱い、ということだろう。光の中なら攻撃が当たる、その事がわかっただけでも十分だ。
「早くこのことを伝えないと」
この戦いにおいて重要なことを伝えようとアスカは立ち上がる。そして大声で言おうとした途端、自分の服をチョイチョイ引っ張られるような感覚に襲われる。そんなホラー現象がとても気になったアスカだが、今はこの重要な情報を伝えることが最優先という考えた。
「皆さん、ディアボロスには光が当たっているところを攻撃してください! そこを攻撃すればダメージが入ります!」
「確証はあるのか!?」
「先程俺自身が攻撃して確かめました!」
「よし、それならばまずは光をこいつに当てれるようにしないとな!」
アスカの情報を聞いたラドは大剣でそこらの木を薙ぎ倒し始めた。この深い森の中、戦うのは不利だと考えたラドは木を倒し、光が入りやすい空間を作り始めたのだ。
木を数本薙ぎ倒すと、ギリギリだがディアボロスの足まで光が当たるようになった。
「皆、光が当たってるところだ! そこなら当たる!」
「了解!」
それから光が当たっているところを攻撃し、着実にダメージを与えていく。そして、何度も足に傷をつけられたことでバランスを崩したディアボロスは遂に膝を付いて倒れる。
「倒れたのならチャンスだ! レンは頭の攻撃、俺達はよじ登って頭を攻撃だ!」
「言われなくてもわかってるよ!」
「よじ登るなんて珍しい戦い方もあるんですね」
3人がよじ登り、地上からでも攻撃が届くレンはそのまま頭を攻撃しに行く。
誰もか勝ちを確信した瞬間であった。
「念の為見ておくか」
アスカはその確信を持ったとしても万が一の時に備えてスコープを覗く。すると、またしても服を引っ張られる。それも今回はかなり強く。
「もーう、何だ?」
こんなにも強く、何が服に引っかかっているのだろうと思いながらアスカは振り返る。
しかし、そこには服が引っかかっているわけではなく、黒いドレスを着た黒髪の少女がいた。
さすがに10mは盛りすぎたかな?




