第12話 ダンジョンでトレジャーハント 後編
なんか書いた作品で鎧の騎士(敵)が出るの多いなぁーって思ってます。
動き出した鎧の騎士は走りはしないがゆっくり着実にアスカ達に近付いて来ている。アスカは近づかせないと言わんばかりにスナイパーライフルを発砲する。
しかし、射出された銃弾は鎧の騎士が持つ両手剣で弾かれる。
「今のを見切ったのか……?」
銃弾の飛ぶ速度は秒速900m〜1000mだ。人間の場合、近くから引き金を引く瞬間を見ていたのなら避けられるかも知れないが、あの鎧の騎士の場合は違う。
アスカ達がいる場所から鎧の騎士までの距離はおよそ25m。そこから引き金を引く瞬間を見るなんてことは鳥くらい目が良くなければほぼ不可能だ。
「ソニアさん、スピリット系の魔獣って倒し方あるんですか?」
「あるにはあるけど、今回の場合は難しいわね」
「どういうことですか?」
「スピリット系の魔獣はほんの一瞬だけ実体になるタイミングがあるの。でも、あの魔獣は鎧を着てるからそのタイミングが来てもまず攻撃が当たらない」
「だったら鎧をひっぺがせばいいってことですよね姉さん!」
ソニアの話を聞いたレンは二丁拳銃を構え、回り込むように鎧の騎士に接近していく。
「だから姉さんって呼び方……ハァ、今はもういいわ」
「姉さん! 僕があいつの気を引くんで隙を見つけて爆発キックをぶちかましてください!」
「なるほど、そういうことね」
レンが提案したのは、レンが攻撃して鎧の騎士の気を引き、そこにソニアの魔力を纏った回し蹴りをするというものである。確かに、鎧にその爆発を浴びせれば少なくとも鎧の一部は吹き飛ぶであろう。
「アスカちゃんは鎧剥がしたら実体になるタイミング見つけてトドメさしてね」
「結構荷が重いですが、任せて下さい」
アスカは返事とともに鎧が外れた瞬間に確実に狙えるように鎧の騎士の観察を始める。
「オラオラオラァ! 弾幕の嵐だぜ!」
「貴方、戦闘になると性格変わるわね……」
残り魔力なんて気にせず鎧の騎士に銃を撃ちまくるレンだが、その全てが鎧によって弾かれる。そして、その攻撃が目障りになったのか鎧の騎士はアスカに向かって歩いていた足をレンがいるところに方向転換をする。
「やっぱりするっすね……」
レンは何かを確認したようにも見えたが、そのことにアスカとソニアは気づいていない。無論、鎧の騎士もだ。
「弾幕再開っすよぉお!」
レンは後ろに下がりがなら再び鎧の騎士に銃を撃ちまくる。鎧の騎士は一部を剣で弾きながらレンに近づいて行く。そこでアスカは1つだけ妙なことに気がついた。
「……どうして弾くんだ? あいつの鎧はレンの銃弾を弾くのに」
一定の時間になると鎧が無効化するのかと考えたが、両手剣で弾いてる際に弾き切れなかった銃弾は普通に鎧によって弾かれている。鎧が無効化させるという説はないことが証明されている。
しかし、何か重要な気がする情報なのでアスカはそれを視野に入れた観察をすることにする。
鎧の騎士に銃を撃ちまくるレンだが、後ろに下がりすぎたため背中に壁がついてしまった。そして、鎧の騎士も剣のリーチが届くくらいの距離まで近づいていた。
鎧の騎士はレンにトドメをさそうと剣を振り上げる。その瞬間、鎧の騎士の後頭部にレンの銃弾が命中した。
「……ラ、ラッキー」
レンが先ほど確認したのは、この部屋の壁は跳弾するのかということだ。鎧の騎士に当たるかどうかは完全に運次第だが。
そして命中した瞬間に何故か鎧の騎士の動きがピタッ止まる。
「何故かはわかりませんが、姉さんチャンスです!」
「わかってるって!」
鎧の騎士の動きが止まった瞬間にソニアが魔力を纏った回し蹴りを鎧の騎士の胸あたりにぶつけ、爆発させる。
「どわぁああー!」
何気にレンも爆発の一部にに巻き込まれていた。
鎧の騎士に爆発が命中し、爆煙が晴れるとそこには胸を中心に鎧が無くなっている鎧の騎士がに立っていた。スピリット系の魔獣なので、中身は空っぽだが何か白いモヤモヤが見える。
「……実体化するタイミング……俺の予測では……いや、間違いなくこれだ」
それと同時に、アスカは鎧の騎士が実体化するタイミングを見つけた。
「アスカちゃん、見つけた?」
「ええ、バッチリです」
「それで、そのタイミングは?」
「攻撃する瞬間と一定時間に一瞬だけです。でも、一定時間に一瞬だけは本当に一瞬なので狙うのは難しいです」
「なら、攻撃する瞬間を狙うのね?」
「それしかないです。……囮お願いできますか?」
「倒すためだからね。頑張るわよ」
「ありがとうございます」
向きはアスカが狙いやすい正面、距離はアスカに剣が届かないくらいの距離。これがアスカの鎧の騎士を狙うベストポジションである。
「ほら、ここよ騎士さん!」
鎧の騎士は前に出たソニアに近づき、剣を振り上げる。剣を振り下ろす瞬間にソニアは
サイドステップで回避し、アスカに攻撃チャンスが訪れる。
「ここだ!」
アスカがスナイパーライフルの引き金を引き、その銃口から射出された銃弾が鎧の騎士の鎧が外れた胸に飛んでいく。そして、その銃弾は狙い通りに胸に命中する。
しかし、その時異変が起きた。
「なっ!?」
命中し鎧が崩れ討伐が完了したかと思った瞬間、その崩れた鎧がアスカの横に意思を持っているかのように移動し、元の形に戻ったのだ。
「ま、まさか、当たる瞬間に霊体を移動させたということ!?」
どういうことかというと、鎧を操っていた魔獣がアスカの銃弾が命中する寸前に鎧を捨てて霊体であることを利用し、バレないようにアスカの横に移動したのだ。
操るものがいなくなった鎧はまるで死んだかのように崩れる。それがアスカの銃弾が命中した瞬間に起こると誰しもが倒したと勘違いするだろう。剣に関しても同様だ。
「だったら好都合だ、このまま至近距離で──」
至近距離で仕留めると言おうとした瞬間、アスカは自ら犯した失態に気がついた。
それは、先程の射撃の後にボルトを引き忘れたのだ。
「しまった、やらかした……」
焦りこそ最大の敗因。まさにその通りだ。この窮地において冷静に判断し対処すれば何とかなっていた。
しかし、ほんの少しの焦りがアスカの勝算をガクッと下げた。
「一か八か!」
間に合わないとわかっていてもほんの少しの勝算があるのならばそれに賭ける。何もせずにただやられるよりはマシだ。
アスカは鎧の騎士が剣を振り上げると同時に急いでボルトを引く。そして、アスカが構えると同時に鎧の騎士は剣を振り下ろす。
──あと1秒でもあれば間に合った。
そうアスカが思った瞬間、鎧の騎士の動きが再びピタッと止まった。
「な、何が……」
「……へっ、もう1発跳弾が後頭部に命中するなんて今日は運がいいっすね」
動きが止まった原因──それは、レンの跳弾が後頭部に再び命中したからだ。
「今ですアスカさん!」
「わかってる!」
アスカは後頭部に命中したことで前に出てきたこの魔獣のコアらしきものに銃口を向ける。
そして、この魔獣のコアが前に出てきたと同時に、アスカは何故後頭部に銃弾を当てると動きが止まるのかを理解した。
「実体化したところを切られることまで想定して、自身の弱点を攻撃されにくい後頭部に移動させておくなんてな。そして、そのコアの近くで来た衝撃で一時的に心身的にショックを与え、動けなくなったというところか」
そう、この魔獣は実体化したところを切られることを想定し、一撃でやられないように自身の弱点であるコアを現状で1番攻撃される胸から遠ざけたのだ。そして、偶然魔獣のコアを遠ざけた場所──つまり後頭部にレンの跳弾が命中し、突然の衝撃で思考回路が麻痺したため動きが止まった。
そして、その魔獣のコアは衝撃でアスカからすれば銃弾を1番当てやすい場所に出てきてしまったのだ。
「これで終わりだ」
アスカは銃口を魔獣のコアにゼロ距離で向けたまま、スナイパーライフルの引き金を引き、射出された銃弾は魔獣のコアを貫き、白いモヤモヤとコアは割れた風船のように破裂し鎧も崩れ落ちた。




