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オアハカ湖の花

メキシコの伝説


オアハカ湖の花


 オアハカ湖で永遠の恋を成就させた、サポテカの王子と太陽神の娘である王女の恋物語です。

 スペイン人が来るずっと昔のこと。

 メキシコで盛大に栄えた強大な国がありました。

 サポテカ族の国です。

 その国の戦士は厳格な規律の下、近隣の国との幾多の戦争で勝利を得て、ますます勢いを増していました。

 他国から恐れられると同時に、尊敬もされていた国でした。

 王には一人の強く、容姿端麗な王子がおりました。

 踊りも上手で、且つ武芸にも秀でた王子でした。

 或る日、戦士軍も巻き込んだ重臣たちの反乱が起こりました。

 謀反の陰謀が王子の耳に入り、王子は直ちにその反乱に対する容赦ない闘いを決意しました。

 反乱の動きは拡大していきましたが、敵方の油断を見て、王子と彼の戦士は攻勢に出ました。

 反乱軍も勇敢に戦いましたが、王子方の勝利に終わりました。

 それ以降、王子がサポテカ族の国の真の指導者となりました。

 王も年を取っていたので、彼を王位継承者に指名しました。

 その結果、国の娘という娘は全てこの勇敢で容姿端麗な王子に憧れを持ちました。卑しい身分の娘から、高い身分のお姫様も、全ての娘がこの王子に恋心を持ちました。

 でも、王子はどのような誘惑にも乗らず、且つどんなに美しく魅惑的であったにしても、女には無関心という様子を見せていました。

 天上の星の世界にも、この勇敢な王子の名声は届き、星の世界で一番美しい娘がこのサポテカの王位継承者に激しい恋心を抱くようになり、その人となりを知るために地上に降りることを決意しました。

 その輝く星娘は朝まで待って、彼女の姉妹たちが寝静まるころを見計らって、美しい人間の娘の姿になり、地上へ降りて行きました。

 或る日の午後のことです。

 このサポテカの王子は狩に行った帰り道で、一人の百姓娘に遇いました。

若者は娘のあまりの美しさに目を見張り、彼女に訊ねました。

 「君の名前は何て言うの?」

 「オヤマル」

 と、娘は答えました。

 少し、おしゃべりをしてから、王子は宮殿に帰りました。

翌日も、狩の帰りにその魅力的な娘に遇いました。

そして、若い二人は恋におちました。

或る朝のことです。

王子は娘に求婚し、娘も躊躇なくその求婚を受けました。

宮殿に着くや否や、王子は王、大臣、重臣たちに娘を引き合わせました。

王は娘のあまりの美しさに打たれ、息子の願いを受け入れ、明日の朝、結婚式を挙げよと命じました。

一方、星の世界では、娘たちの中で一番美しい娘の不思議な失踪という事態で大いに悲嘆にくれていました。

彼女の失踪でいろいろと憶測もされました。

結局、娘を探すために誰か地上に降りることが決められました。

その内、容姿端麗な王子と美しい星娘の来るべき結婚式の知らせがこの天の国にも入って来ました。

事態の重大さを前にして、太陽神は星たちを集めて協議し、事態を把握した上で、このように言いました。

人間との結婚を避けるために、このまま王子と結婚するようであれば、残りの生涯は花となって終わるということを、あの娘に知らさなければならない。

結婚式の前夜のこと、オヤマルが寝床に入っていたとき、一陣のそよ風が窓から入って来ました。

彼女の姉妹の一人が精霊の姿で現われ、父親である太陽神の決定を彼女に伝えました。

姉妹が去ったとき、娘は大きな不安に包まれていました。

でも、太陽神を恐れているにもかかわらず、王子に対する愛の方が勝りました。

結婚式は盛大に催されました。

オヤマルは戦士の衣装を纏った王子の傍らで、婚礼衣装を身に纏い、とても美しく輝いていました。

これ以上は無いほどのカップルでありました。

翌朝のことです。

王子が目を覚まし、花嫁が居ないことに気付きました。

数日が過ぎ、王子は愛する人の失踪を悲しみ、泣くほか、すべがありませんでした。

苦悩に打ちひしがれていると、天上の精霊が現われ、花嫁の本当の出自を告げました。

オヤマルは宮殿の傍にあるオアハカ湖の湖水の中で、柔らかく繊細な茎を持つピンク色の美しい花となって今眠りについている、と精霊は彼に告げました。

この恐ろしい打ち明け話で王子は絶望の淵に追いやられました。

王子の苦痛はこの精霊の心を動かし、王子を愛する娘のところに行かしてあげて欲しいと太陽神にひざまずき懇願しました。

翌日、王子の侍者は部屋のどこにも王子が居ないことに気付きました。王子は跡形もなく消え失せていたのです。

この伝説は、ピンク色の花の傍に、ほっそりとした茎を持つ紅い花が新たに生まれたと語っています。

それらの花は、オアハカ湖の岸辺で、お互いの花弁を触れ合いながら咲いていたということです。

このようにして、太陽神は、娘を愛した王子の願いをかなえたということです。



- 完 -


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