水鈴の姫7
水鈴の姫7
「あっ、す、すいませ……っ!!」
ガヤガヤと煩い道を人にぶつかりながら前を歩くリアムさんの後ろを追いかける。
私より長い足で、どうやってこの人混みをスタスタと歩くことが出来るのか不思議だった。時々、周りから挨拶をされ近況報告をされている所を見ると一様仕事もしているらしい。
その姿に辿り着くため、足を早めるがやはり誰かと肩がぶつかり、挙げ句の果てには脚まで絡まったしまうと、そのまま地面へと一直線に落ちて行く。両目を瞑り、訪れるはずの痛みを待っているが、痛みではなく誰かの体温を感じた。恐る恐る顔を上げると其処には私を情けなさそうに見ているリアムさんが居た。
「お前、本当にとろいな」
「うっ……面目無いです……」
彼の言い方に反論しようと試みるけど、返す言葉が見当たらなく肯定するのでしかできなかった。
何て悔しいこと。
「早く立て、変人女」
「は、はいっ!!」
悔しい気持ちで彼に受け止めて貰ったことを忘れていたので、はっと立ち直り、彼から離れた。すると、彼はまた歩き進め、離れないように急いでその後ろを追いかけ、彼の隣を歩き、私より身長が高い彼を恐る恐る見上げた。
「あ、あのリアムさん……」
「なんだ」
「私のこと、変人女っていうのやめてもらえますか。私には小笠原水羽と言う名前があります」
「オガサワラ、ユウ?変な名前だな。変人女でいいだろ」
「変人女の方が変です!!」
なんで頑固な人なんだ。
このままじゃ埒が明かない。私が諦めるべきかなと考えると自然と溜息が出た。
「そう言えば、お前、何で俺のこと名前で呼んでる。ファミリーネームで呼べ」
「えっ、この世界も苗字があるんですか?」
私の発言に当たり前だとでも言いたい様な、私のことを馬鹿にしている表情のリアムさん。
でも、私にはそう思う原因があるのだ。
「ディランくんもギルさんも名前しか教えてくれなくて」
キリッ。
私を鋭い目線で睨んでくるリアムさんに自然と足が止まる。
「俺をあんなバカ犬と一緒にするな。俺は誇り高きパウエル家の次男だぞ。何処かの馬の骨かもしれない人狼族と一緒にされたなんて反吐が出る」
「なっ!!」
リアムさんが自分の名前に誇りを持っていることは良く伝わった。しかし、それはそれで、ディランくんはディランくんだと思う。何で苗字がないだけで酷いことを言われないといけないのか。
ディランくんへの暴言に我慢できず、声を荒げてしまう。
「言い過ぎじゃないですか。苗字が無いだけで、そこまで言われる筋合いはディランくんにだって無いはずです。ギルさんも苗字を持ってないですし」
「ギルさんは元水鈴の姫親衛隊隊長で、その時のご活躍は今でも知らない人がいないくらいだ。バカ犬と比較する方が間違ってる」
何故かギルさんの話をリアムさんが胸を張って自慢気に話をする。
ディランくんとは全く違う正反対の反応に、彼はディランくんが嫌いだと理解した。
「大体、このファヴールは貴族しか苗字を持つことは許されないのは常識だろ。お前、演技上手いな」
彼の呆れた言い方に又もイラっとする。
この人、未だに私が異世界から来たと信じていない。どんだけ人を信じれないんだろう。
今までの私の発言や行動を全部演技だと思ってたことに私は呆れつつ何処からどう話せばいいのかと一瞬考え込み、口を開けた。
「何でそこまで信じられないんですか?」
「先も言っただろ。馬鹿みたいな話だって。異世界なんて子供が喜ぶお伽話だ。その話を直ぐ信じるバカ犬がバカなんだ」
自分の言葉に間違いなど無い。そう言うかの様に彼は私を真っ直ぐ見つめる。
多分、リアムさんは私が何を言おうとも聞き入れもらえないだろう。
しかし、私は嘘なんてついていない。だから、負けずに彼の視線を受け止めた。
「でも、ギルさん、あの方がお前を置いとくには理由があるんだろ。よく聞け変人女。もし、ギルさんに迷惑がかかる事をしたら……」
彼の腰に掛けてある刀が少しだけ姿を見せ太陽に当たり鋭く光る。まるで、今でも私を斬りそうな彼の行動に無意識に唾を飲み込んだ。その時だった。
「ああ!!!この冷血鬼!!水羽に何しやがる!!」
聞き覚えのある声にその方角へと振り向く。
そこには器用に人混みを走りながら駆け抜け、こっちへと向かって来るディランくんが目に入った。
そして、その姿を見たリアムさんが小さく舌打ちをする。
「ちっ。あのバカ犬、動物性感覚だけは良いぽいな」
「あっ!お前またバカ犬って言ったな!このっ……!」
あっという間に私達の所へ辿り着いたディランくんがいきなり刀を取り出し、素早くリアムさんへと振り下ろした。
急な出来事に私は呆然としたけどリアムさんは直ぐに自分の刀を出し見事に受け止めた。
「バカ犬にバカ犬って言って何が悪いっ!」
「俺はバカでも犬でもねーよ!人狼だ人狼!狼なんだぞ!この冷血鬼!」
「おい、俺のことはパウエル様と呼べって言っただろ!」
「パウエルさまぁ?お前みたいな血も涙もない奴は冷血鬼で充分だ」
「……おい、バカ犬。今日をお前の命日にしてやる」
「やってみろ!お前なんかが俺の速さに付いて来られないだろうけどな」
ギシギシと二人の刀が悲鳴をあげる。
二人の激しい言い争いに止めることもできず、私はただオロオロしていた。
周りの人達も足を止め、また始まっただの、誰かが止めるべきではと話している。だけど自ら出てくる人はいない。それもそうだと思う。こんな殺気溢れる二人に近づきたいと思う人は居ないだろう。
やっと周りの騒めきに気づいたのか、リアムさんが二歩くらい私達から離れ、刀を収めると軽く咳払いをした。
「バカ犬と一緒にいると俺までバカになる。そこの変人女はお前が送れ」
「お前に言われなくてもそうするわ!……って変人女?」
それって水羽のこと?と、私やリアムさんを交互に見てくるディランくんを無視してリアムさんは歩き出すが、突然脚を止めて私を見てきた。
「……先の言葉、ちゃんと覚えてろよ」
その言葉だけを残し、人混みの中へと消えて行ってしまった。




