水鈴の姫6
水鈴の姫6
色鮮やかな飾り、噴水の水はいつもより輝いてるように見える。そして、道に並んだ出店から食べ物を買い、口一杯頬ばる人、友達や家族とお喋りをする人、様々な人が水祭まで、まだ1週間残しているにも関わらず雰囲気を楽しんでいる中、私は道の端で縮こまっていた。
「きもちわるい……」
コーヒー豆を買うため、また、お兄ちゃんを探す目的で街に出たのは良いものの、何処を見ても人だらけで少し人酔いをしてしまった。元々、インド派の私は外で遊ぶより本を読むほうが好きで、人の多い祭りには指で数えられるくらいしか行った事がない。
「しょうがない。ちょっと休憩しよう」
私は気分を落ち着かせるために人が少ない裏道に入る事にした。
「やっと静かになった」
裏通りに入ると大通りとは大違いで人の姿が見えなく、向こうで騒いでる人達がまるで夢のように静かだった。
壁に寄りかかり、少し気持ちが落ち着いたらまた戻ろう、そう思い大きく溜息を吐いた時だった。
「やあ!」
「ひゃっ!?」
急に目の前に現れた人影に心臓が大きく跳ね上がる。
皆んな祭気分で裏通りには来ないと思い、気を緩めていたせいで心臓の音が耳に聞こるほど驚いてしまった。
「ああ、ごめん。驚かせたかな?」
私を驚かせた張本人は深くフードを被っていて顔が良く見えない。唯一見えるのは楽しそうに笑う赤い唇だけで、声から男だと予測する事しかできなかった。
急に現れた不審者に身構えると彼は自分の両手をふらふらと振ってみせる。
「いやいや、俺怪しいものじゃないからそんなに怖らがらないで」
そう言い放った彼は相変わらずへらへら笑う。
彼はどこかふわふわしていて、喋り方も行動も全て軽い気がした。その言動やフードを深く被った人を怪しくないと思うのは無理だと思う。
「大通りで体調悪そうにしてたからさ、もう大丈夫か?」
「は、はい……」
体調を心配してくれて一瞬いい人かも?と思い、少しだけ体の力を抜いたが、その考えはすぐ訂正される。
「それ、綺麗なブレスレットだな」
「……!!!」
私の右腕のブレスレットを見て今までの軽い感じとは違い、低く、重さのある声に驚く。そしてその時、タイミング良く風が吹き、彼のフードが靡いて隠された赤い瞳と目が合った。その瞳の鋭さに背中がゾクッと震え上がる。
嫌な予感がする。何かは良く分からないけど、今この人と一緒に居ては行けないと脳内が警報を鳴らす。
ここから離れよう。
「あの、私、今御使いの途中なのでこれで……」
「ちょっとくらいいいじゃん。それよりもさぁ、そのブレスレットよく見せてよ」
何故この人はブレスレットにこれ程執着するのだろう。確かに綺麗な色をしているなと思うけど、女の子でもない男の人がこんなに気にするのだろうか。
私へと伸びて来る彼の手に、一歩後ろに下がろうとするが、背中の冷たい壁の感覚に行き止まりだと分かった。
もう逃げる場所はない。そう思うと自然に手足が震えだすが、彼の手は容赦なく私に辿り着いた。いや、正確には辿り着く、ほんの少し手前で止まってしまった。
「動くな」
私の、前にいる彼の声でもない人の声が聞こえる。その声は怠げに、それでも何処か威圧があった。
恐る恐る、視線を上げると其処にはフードの彼の首に鋭く光る刀を当てた、ほんのり緑色が混ざった黒髪の立派な服を着た男性が立っていた。その服には見覚えがあって、確か水鈴の姫の行列の時にディランくんが着ていた物と似ていた。
だとしたら、この人も親衛隊の人なのだろうか。
「ここで何をしてる。問題を起こすな。面倒だ」
淡々と喋る親衛隊の人をフードの彼は少し頭を動かし確認して、何故か笑っていた。
普通の人なら刀に怯えるのが当たり前だと思う。でも、彼は子供が何か楽しそうな物を見つけた様な顔をしていた。そして、両手を上げる。
「いや〜まさか、水鈴の姫親衛隊、2番隊隊長のリアム様をこんな所で会えるとは恐縮ですよ」
「唯の見回りだ。お前みたいな奴がいるからな」
2人の間に張り詰まった空気が流れ、やがてフードの彼が口を開いた。
「リアム様は俺が気に入らないらしいから、これで失礼するよ。またね」
彼は片手をふらふらと振り、大通りの道へと進んで行く。そのまま姿を消すのかと思ったが、彼は振り向き、その赤い瞳と再び目が合った。
「あ、そのブレスレット、絶対無くすなよ?」
その言葉を最後に彼は本当に姿を消した。
私とリアムと呼ばれた男の2人しか残っていないこの場所に静寂が訪れた。
彼は持っていた刀を一周回し、鞘に収め私に近づいた。
「怪我は……無さそうだな。家は?」
「ヘ、ヘァッ?」
あんまりにも急に起きた出来事につい声が裏返ってしまう。まさかの失敗に、恥ずかしさで自分の口を抑えるが、彼は気にしてないようだった。
「送る。まだ仕事は残ってんだ、早く答えろ」
「町外れのコックハです!」
ずっとポーカーフェイスを貫いていた彼が店の名前を聞き、眉毛を潜めた。そして、私を下から上へと、また上から下へと覗き込んだ。
「お前、あのバカ犬が言っていた変人女か?」
「へ、変人……!?」
初対面の人に変人呼ばわりされ、一瞬固まる。
誰かが私の事を変人女と呼んでいたのだろうか。バカ犬と言うのはもしかして……。
「バカ犬ってディランくんの事ですか?」
「ああ、お前が彼奴の言ってた異世界から来たとか言う変人だろ?」
「ディランくんが私の事を変人女だと呼んでたんですか?」
「いや、俺が勝手に呼んでる」
よかったと私はため息を吐く。あの優しいディランくんが変人女なんて呼び方するわけが無い。だとしたら、この人はあんまりにも無神経では無いだろうか。
胸の底から込み上がってくるイライラに我慢できず、つい彼に文句を言ってしまった。
「あの!初対面の人に変人女なんて呼び方酷く無いですか!?」
「んあ?じゃあ、違うのかよ。異世界だなんてバカみたいな話だろ」
た、確かに彼の言う通り、私もこの世界に来た事を経験していなければ異世界だなんてバカな話だと思っただろう。
憎たらしい彼にどう対抗するべきかと悩んでいるとリアムさんは急に歩き出した。
「ほら、行くぞ。俺は忙しいんだ」
来ないなら1人で帰れと素っ気なく言い放ち、大通りに向かう彼の後ろをイライラしながら追いかける事しかできない私だった。
そして、リアムさんとは相性最悪だと思った。




