表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水鈴の姫  作者: キャンティ
16/16

水鈴の姫16








水鈴の姫16









監獄を出て導かれるがままに広い廊下を歩く。早朝だからか、もしくは人影が少ない所をわざわざ歩いているのか、まだ一人も人に出会ってなかった。木材で作られた廊下だけが踏み出すたびにギシギシと音を鳴らした。今はその音だけがとても心地良い。


気まずい。流石にこれは気まずすぎる。


私の前を歩く、一人は漆黒が似合う普通の人間、もう一人は美しい金色の耳、そして尻尾が付いた人狼族。その二人の漂う空気が痛いほどピリピリしていて、ここで話しかけたら彼らの腰に掛けてある剣で斬り落とされそうだ。


ずっと足元を見つめていたせいか、背中から首まで凝ってしまって、少しだけ、ほんの少しだけ顔を上げたのに、後ろにも眼が付いてるのかすぐにばれてしまう。



「下向け」


「は、はい……」



圧を感じて再び視線を元に戻す。


怒られてしまった。人もいないしちょっとくらい良いだろうに、と口では出せない愚痴を心の中で溢した瞬間、こちらへと走って来る足音に身体が自然と強張ってしまった。それと同時に彼らが私を隠すように立つ。もしかしたら、私の脱獄がもう知られたかもと緊張感でごっくんと唾を飲み込んだ。



「隊長!こんな所にいたんですか!今、大変なことが…ってリアム隊長と一緒だったんですね」


「なんだ、俺がいたらまずいのか?」


「いいえ、そんなわけではなくて……」



二人の隙間から見える毛並みの良い尻尾と話の内容からその人が親衛隊の人狼族だと分かる。

焦っていた彼がリアムさんを発見すると気まずそうで、それが気に入らなかったらしいリアムさんをディランくんが足先で軽く蹴るのが見えた。



「おい、俺の部下苛めるな。それで、何があった?」


「あっ、そうだった!大変なんです!水が、全ての水が無くなりました……!」



全ての水が。その言葉の意味は深く考えなくても耳を傾けばすぐにわかった。だって、聴こえるべきそれがーーー聴こえないから。

ここ、ファヴールは水に恵まれている。何より、私が立っている場所は神と崇められる水鈴の姫の神殿。周りは勿論水で囲まれているはずなのに、奏でられる水声が聴こえないのだ。

それもそうだろう。そのいのちは全て私の右手で朝日に反射されて美しく輝く、ブレスレットの中にあるのだから。


予想していたはずなのに、それが目の前の現実になると力が抜け、今にもこの場に座れ込んでしまいそうだ。そんな私に気づくわけもなく、会話はどんどん進んでいく。



「それを知っている人は?お前以外誰かいるか?」


「僕も今日はいつもより早く目が覚めて顔でも洗おうと外に出たら井戸の中身が無いし、神殿の周りも水が無くて、すぐ隊長を探しにきたんです」


「………」



彼を最後に静寂が訪れる。ディランくんの尻尾がゆっくり左右に揺れていて、どう言うべきかと考えているようだった。悩んでいる彼の代わりに静寂を破いたのは、相変わらず一人だけ余裕ぶっているリアムさんだ。



「俺たちもその事で姫様から命令を受けてここの女と調べに行く途中だ」


「そうなんですか?それで下女が……」



白々しい彼の嘘を信じたのか、納得して私がいる意味もなんとなく、彼なりに理解したらしい。

私はなるべく顔を見せないようにもっと頭を下げる。


私を隠していたディランくんが一歩進んだ。



「俺がいない間、一番隊はお前に任せるよ。もし、騒ぎになってしまったら対処も頼む」


「ですが、神殿をどうにかしても街までは……」


「それは他の隊長が対処するだろ。任せたぞ」



任せる。隊長からの信頼が嬉しかったのかはっ!と靴を合わせる音が心なしか軽快に響いた。察するに彼がディランくんに対して敬礼をしているんだろう。

その会話を最後に歩き出す彼らを付いて行こうとするが、脚が動いてくれない。重りでも付けているみたいに指一つ動こうとしなくてもどかしかしくて、速くここから去らないと怪しまれると言うのに。そう心だけが焦ていく。


動け…!動けっ…!!



「ほら、捕まって」


「……あ、ありがとう」



私より一回り大きい手がいきなり目の前に現れた。


無意識的に上がっていく目線は優しく微笑むディランくんを捉えた。久々の彼らしい表情に心の底が暖かくなり、ホッとする。でも、その後ろなら私を不思議な目で見ている人狼族の彼に、はっ!と急いで再び目線を戻した。そして、安心したはずなのにまだ震えている手で差し出された彼の手を握る。すると彼は強く握り返してくれた。

私と違って骨ばったゴツゴツした手。彼の努力が伝わる手の豆。その長い指先が私の手を包み、彼が男の子だと自覚させられ、顔が熱を灯した。そんな事実前から知っていたはずなのに。



その手を頼りに親衛隊の彼を超えて、先へと歩みだした。

















「大きい……」




あれから渡り廊下を渡って、また歩き始める。随分歩いたはずなのに、まだこの先があるとは信じられないと呆れていたら、やっと廊下の突き当たりに到着した。そこには場違いと考えられる、地下へと続く階段があった。その階段は螺旋階段みたいになっていて、先が見えなく、怪しい感じがする。まさかここを降りるのかなと、私の予測を裏切らないで二人とも階段を降りて行く。私も勿論付いていくことしかできなくて、ゆっくりと一つずつ外さないよう丁寧に降りて行った。


その先で私たちを待っていたのは自分の身長を遥かに回る大きい扉。銀色の扉に色鮮やかな装飾が埋められてある。他とは違う、見るからに高級なその飾り付けが、大事な場所だと教えてくれていた。


重くないのか、ディランくんが軽々と扉を開けてその奥へと入って行くので、私も中に入る。

その中は洞窟のようで、真ん中にポッカリと大きい穴が空いていた。ここは、あの女の子と一緒に居た泉があった場所だと私は慌てて視線を外し、さらに奥へと進んでいく彼らの後ろに立つ。


奥に置いてある淡い青色に輝く水晶玉の銅像にふーっとリアムさんが息を吹くと不思議にその色を無くした。


キィィィ……


鈍い音と一緒に隣にあった大きな岩が動き、ドラマで出てく?秘密通路が現れて「わあっ……!」と一瞬感動してしまった。

なんで逃げ場所の無い、こんな所まで来たのか疑問に思ったけどこれで納得した。



「ここから急ぐぞ。ちゃんと付いて来いよ変人女」


「な、なるべく頑張ります……」



正直、もう脚がパンパンで結構キツイ。だけど私を逃がそうときてくれている二人の前で我儘を言えるわけもなく、棒になる直前の脚を動かした。

少し歩いた時にディランくんが入り口の方で止まっていることに気づいて、何かあったのかと心配して彼に近づくより先に彼が声を上げた。



「俺は、戻るよ」



暗くて彼の表情がよく見えない。低い声だけが彼の心境を伝えてくれる。


彼は戻りたいのだ。自分の大切な人を守る為に。そう思うと少し寂しい気持ちになる。



「……わかった。俺もこいつを連れて戻る」


「は!?」



いきなりリアムさんに腕を掴まれたと思ったらそのまま入り口へと連れて行かれる所をディランくんが彼の前に立ち、通せないようにする。



「なんだよ。戻るんだろう?元々俺はこの変人女を助けるなんて嫌だったんだ。異世界で来たなんて最初から信じていなかったからな。こいつを差し出せば全てが上手く治る」


「それだと水羽が……っ!!」



言葉を繋げられなかった。それはリアムさんが彼の胸ぐらを掴んで壁へと打つけたからだ。



「いい加減にしろ。先からくよくよと考え込んでいると思ったら、そんなくだらない事を考えてたのか。姫様も助けてこの変人女も助けたい?ふざけるな。自分を過信しても程がある」



刺々しい彼に言い返そうともしないで奥歯を食いしばるディランくんの姿に心が痛くなる。


私がいなかったら、この世界に来てなかったのなら、こんなことは起きてなかったんじゃないだろうか。何も変わらない今日を迎えたんじゃないだろうか。

もし、お兄ちゃんがこの場にいたら拗れた運命を行動一つで解決したかもしれない。



「どちらか選べられないなら、大人しく命令に従え、バカ犬」



ポイッとディランくんを捨てるように投げ飛ばし、時間を無駄にしたと舌打ちをして彼は闇へと消えて行く。ディランくんも下唇を痛いほど噛み締めてその後を続いた。


ちゃんと考えなきゃ。これはもう起きてしまったことで後悔したって、誰かって考えても何が変わるわけがない。だから、私なりに考えなきゃ。


私はその秘密通路を歩きながらずっと何ができるのか、ブレスレットを思いっきり握りしめて、頭を働かせた。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ