双子の星は王を想う〜2〜
双子が国王に引き取られ、既に数年の月日が経った。
そしてその間に二人について調査や今までの資料で解ったことは、想像以上に恐ろしいことばかりだった。
「魔法使い…か……」
資料を見ながら、改めて国王は重々しい溜め息を吐いた。
二人を引き取ったあの時――彼は自分の能力により、二人の能力を封じ込めた。
これにより、あの二人の能力が発動することは絶対にないはずだった。
……………はずだったのだ。
「陛下?」
「何をしていらっしゃるんですの??」
「ん?おぉ、ルイとレイか。またテレポートを使ったな?」
しかし結果はこのザマである。
どうやら余りにも強力過ぎた彼らの能力は、国王である彼の能力すらも上回るらしい。
威力が落ちたものや、出せないものもあるが、彼らは未だにこのテレポートとそこそこの火の玉、光の玉を自在に操れた。
国王の血筋が尊ばれるのはそれ相応の力があるからである。
この事実が世間に知り渡ることがあるならば、正直なところ、何が起こるか判らない。
よってこの二人は『門外不出の問題児』という位置付けになっていた。
しかし、子供に恵まれないこの王には、もうこの二人が自分の息子、娘と同じような感覚になっていた。
この二人が煙たがられているのを、「自分の不甲斐なさが原因だ」と自身を責めるほど、王はこの二人に愛着を持っていた。
「だって…」
「退屈なんですの」
「だからといってだな…」
苦笑いしながら国王は二人の頭を撫でる。
能力以外の事については実はかなり順調で、血筋さえ合っていれば、きっと王の望むように親子の関係だと思われてもおかしくないだほど、三人の中は良好なものになっていた。
まぁそこに辿り着くまでには多少の小細工が使われてしまっているのだが、そこは触れてはいけない禁忌である。
「相も変わらず、お前たちは小さいなぁ」
国王のからかいに、二人は同時に頬を膨らませる。
「失礼ですわ!!!」
「僕達、ちゃんと背が伸びました!!!」
「少数第一位の数字が一つ上がっただけでこうも責められなければならないのか」
国王は苦笑しながらも、どこか愉快げに二人を見た。
そう。成長期であるはずのこの二人は、あの日から見た目も中身も、時を止めたかのように何の変化も見られない。
正確にはもっとずっと前――あの案内人曰く二十年前から、ずっとこの姿なのだそうだ。
「いつかは王様みたいにおっきくなりますから!!」
「勝負です王様!!」
「ははは!ルイはともかく、レイは私ほど大きくなってはダメだろう!」
――強力な能力の代償…私も苦しんだものだが、ここまで来ると同情すら非情なのだろう…
王は、今度は寂しげに二人の頭を撫でながら何処か遠くを見ていた。
✽✽✽
「なんでですのー!!」
「王様のとこに行きたいです!!」
時は流れ十年後、双子は見知らぬ塔にその身を移されることになった。
「王様からのご命令ですよ。二人にお勉強をしてほしいと――」
「つまらないことは嫌いですわ!!」
「おーうーさーまーのーとーこーにーいーきーたーいーでーすー!!!」
「その王様からのご命令です!!!将来役立つ人間になるためにも、しっかりと教育を受けるようにとのことですよ」
「「えぇえええ!!!」」
王の死去は唐突なことだった。
流行り病に倒れて、彼は僅か一ヶ月でこの世を去ったのだ。
しかし、その報せは――意図的に――双子の元へは届かず、二人は何がどうなっているのかも解らぬまま城の塔へと移されることになったのだ。
「王様を病を治すために別の場所へ移っていますから。ルイ様もレイ様もお勉強をちゃんと頑張りましょうね?」
「ぶーぶー」
「ぶーぶーじゃありません!!」
金切り声を上げながら、五十そこそこの女家庭教師は塔へ着くなり、双子を無理やり部屋に押し込めた。
大人たちは、二人を王国の道具にすることしか頭になかったのだ。
✽✽✽
「ねぇルイ」
「なぁに?レイ?」
寝起きのレイは欠伸をしながら、既に着替えを終えたルイの方を向いた。
「今日は王様の夢を見ましたの。ただの夢かしら?王様のご病気は治ったのかもしれないわ」
「本当?それなら嬉しいなぁ。今日は会議、あったっけ?」
五芒星に指名され、会議に出るようになったのは、教育を施されてから百年以上過ぎたときだった。
そこで彼らは、長い年月を経て王と再会したのだ。
「自分のことをアルトスなどといってらっしゃいましたけど…何故あのような嘘をつくのか理解できませんわ」
「うんうん。王様、僕達のこと病気のせいで忘れちゃったのかなぁ?前はあんなに冷たくなかったよ。それに、王女様に敬語をつけることもなかったのに」
「自分の娘なのに敬語なんて、おかしな方ですわ!」
勿論、本人との再会ではない。
しかし五芒星の第一星・アルトスは、驚くほどその目鼻立ち、背丈、声、何もかもがそっくりだったのだ。
似ていないのは性格だけで、百年を超えるほど昔の記憶だけが判断する材料である幼い二人が彼を王と認識してしまうのは致し方ないことだったのかもしれない。
だからこそ、双子は彼が自分たちが慕う王であることを疑っていなかった。
ただ、彼にはやめろと言われてしまったので、本人の前では渋々『アルトス様』と呼んでいる。
「今日は何のお仕事かしら?」
「また村の一つでも吹き飛ばすようなものがいいなぁ」
「この前のも王女様からのご命令だったからな〜。王様、何時になったら僕らに直接お願いごとをしてくれるんだろう」
彼らに任される仕事は大体、村や街の破壊だ。
細々とした交渉はできないだろうと判断した大人たちは、自分の手を汚したくないがために、その行為に疑いを持たない双子をよく駆りだしていた。
既に潰した村は三十を超え、これからも増えていくだろう。
そして双子たちは、それが王の役に立っていると、純粋に喜んで仕事を引き受けていた。
勿論、罪悪感など微塵も感じずに。
「もしかしたら今日してくれるかもしれないわ!うふふ!楽しみ!」
「イレーナ様もクッキーを作ってくれるって言ってたよね。早く行こうレイ!」
キャッキャとはしゃぎながら、遊園地に行くような足取りで双子は部屋を出て行った。
目覚ましのオルゴールは双子を見送るように、その場で不安定な調の余韻を残して静かに止まったのだった。