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季節屋  作者: 保地葉
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雨月  〈五月〉

雨月屋を任されたため何を売ろうか考えていたが、思い付いたのが「傘」だった。


前任者が扱っていた売れ筋の雨珠は在庫が少なくなっていたから、雨珠を自分で作らないとならないのだが、僕が雨珠の作り方を引き継ぐ前に前任者はどこかへ旅立ってしまったのだ。


雨月屋の開店時期はすぐそこに迫っていて、新たに目玉商品を探すことに決めた。


雨、雨、と飴玉を転がしながら考えていたが、結局思い付いたのが傘だった。傘ならばあらゆる年代にうけるだろうから、失敗する可能性も少ない、…だろう。


流石の僕でも着任早々赤字になるのは好ましくない。



さて。

その傘である。



どのような傘にしようか。


手始めに忘れ物防止でぴったり体から離れない傘を作ってみる。


なるほど、邪魔だ、あまりにも邪魔である。

取っ手を握ったら離れないようにしても、背中に張り付けても、滴が垂れるのが苛立ちを助長する。


差しっぱなしで追いかけてくるタイプも狭いところにつっかえて駄目だ。


ならば小さく小さく折り畳める傘はどうだろう、と畳んで畳んでポケットサイズにまでなったが、急な雨では開くのに手間がかかる上、畳めるように骨が蛇腹に折れるよう作ったので、弱い風でもおちょこになってしまい、使いものにならない。


いっそのこと、町全体を覆ってしまったらどうだろう。


しかしこれは町から苦情がきた。

雨が降らないと町がからっからに乾いてしまう。

傘に覆われない町外れからは少々の雨でも滝のようだと怒られた。


ふむ。



考えに詰まった僕は雨の日に傘を差し町を歩いてみた。

よい考えが浮かぶかもしれないと思い。



季節外れの町並みは開いている店は少ない。

僕のような新任店主か引退したご隠居、もしくは季節屋を経営していない住人たちしかいないから、とてもおっとりとしている。雨の日は尚更だ。


僕の傘はアメジスト、紫水晶から切り出した骨と軸に紅薔薇で織った布を貼り付けたもので、雨を弾く度に薔薇の香りがする。

この傘は前任の店主に就任祝いとして貰った。


なんて傘なんだ、と思った。


水晶で出来ているために傘は開きっぱなしで畳むことが出来ない。

そのため傘は店の隅で置物になっていた。派手なので目の端にすぐに入る。


新商品が傘しか浮かばなかったのはこのせいだろう。


しかしこの傘を商品にしたとして、売れるだろうか?

雨除けという傘の機能はあるが、実用的ではない。



そうか。

僕は思い付いた。


傘が実用的である必要はないのだ。


傘は雨除け出来れば傘なのだ。



それでは、雨除け出来ない傘は?





季節屋雨月支店、新装開店致しました。

ええ、店主を引き継ぎまして。

もちろん雨珠もありますが、新商品を入荷したので見て頂きたくて。


こちらです。

そう、傘です。

何の変哲もない、デザインも普通の傘です。


ですけどね、この傘、実は雨除けにならないんです。


そんなものが傘として役立つかですって?


まあ、試して頂けませんか。


まずこちら、この細い軸の傘、これは霧雨傘です。

差してご覧なさい。

ああ、先に雨合羽を着て下さいね。それと長靴も。


…気持ちのよい霧雨でしょう。

水温も調整出来ますよ、ええ、赤いものが夏の雨、青いものが冬の雨です。


軸の太いものも試してみますか。

この一番太い傘ですか、すごいですよ、しっかり踏ん張って下さい。


…洪水になりそうなくらいの豪雨だったでしょう。

合羽の中までびしょびしょですか、これは失礼しました。



この傘が何の役に立つかですって?いえ、ただ雨が降る傘です。

それ以外は。


…売れませんかね。

ですけどほら、見て下さい。予想外の産物なんですが、ほら、虹が出るんですよ。それも必ず。


虹の見える傘。

売れないでしょうか。


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