〜日常から吹っ飛ばされる〜 その3
5日ほど間が空いてしまいましました。
本当はその2か3で主人公に異世界に飛んでもらおうと思っていましたが、予定通りには行かないものです。
書くのが楽しくて、ついつい長くなってしまいました。
長さ的にはその1や2の倍くらいの7000文字程あります。
あと、やっとストーカー聖女がやっと出ます。
西岡祐太郎
俺は今、生命の危機を感じている。
空調の効いた室内で暑くもないのに汗が滝のように流れる。
(ヤバイ…俺死ぬかもしれない…)
発端はストーカー聖女の手紙だった。
何をトチ狂ったのか手紙に俺の妻だとか書かれてしまい、誤解した蒼二さんにヤバイ斬れ味の聖剣を向けられた。
その誤解は解けたがそれに安心して気が抜けてしまい、うっかりひた隠にしていた彼女の事を言ってしまった。
「……はぁぁrrrるぅぅぅくわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!? キっスぅぅうぅぅぅ!?」
ヤバイ、目の前で抜き身の聖剣を持ち嫉妬に燃えた魔王が誕生した。どうしよう。
俺は蒼二さんの事を尊敬している。趣味と仕事を両立し、とても顔が広くて各課に色々と伝を持っている。
更にいつも冷静(本人は怒るのが面倒なだけ)で、俺のような後輩が相談するとなんだかんだ言いつつ色々助けてくれる(タバコに釣られてる)、面倒見がいい人だ。
「そ、蒼二さん! お、落ち着いて! 剣を置きましょう! ねっ?!」
あと『鋼鉄心臓』と言われる(自分でつけた)くらい何があっても動じない。
ただ一つのコンプレックス以外には。
両手を挙げて降参のポーズをした俺に嫉妬に狂った目をした蒼二さんは口調だけは冷静に告げる。
「大丈夫だ西岡……俺は落ち着いている。 とりあえず、今から目の前のイケメンリア充をぶった斬るからちょっと待て。」
それって俺の事でしょ?! 待てって待ったら死ぬから!
蒼二さんは聖剣を袈裟斬りに振り下ろしてくる。
俺は全力でその場から飛び退いた。
シャン!……バガッ!
「うわぉ! ヤッベェ!! 洒落になりませんって!」
俺の後ろにあった応接セットの1人掛けソファが縦に真っ二つになった。
あのストーカー聖女めなんて物を!!
「このソファ気に入ってたのに…避けるんじゃねぇよ。」
いや! 悲しそうに言いますけど、避けないと俺が真っ二つだから! と思うが言葉が出ない。
恐怖で顔が引き攣った笑みを浮かべる。
振り下ろした姿勢からユラリと正眼に戻りつつ蒼二さんが怒りに顔を歪ませる。
「笑いやがって……お前もオタクで24歳になっても彼女がいない、更に童貞の俺をバカにするのか…」
蒼二さんのコンプレックス。 それは今までの人生で彼女がいない事、そして童貞である事!
それを言われたりすると手が付けられないくらいに怒り狂うのだ。
だから隠しといて時期を見て言おうと思っていたのに最悪のタイミングでバレてしまった。
いや、まだ間に合う! どうにか説得しないと!
「そんな事思ってませんよ! それに俺だってオタクじゃないですか!!」
「ンダリャァ! イメリァァシェヌィリヤァッセァォァ!!!(黙れぇ! イケメンリア充は死にされせぇ!!)」
あ、ダメかもしれない……日本語にすらなってない雄叫びをあげて突っ込んできた。
「蒼二さん! やめ…ちょっ! 」
遥……俺はダメかもしれない……
生きて帰ったら…俺……プロポーズしようかな……。
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《半月前》
俺は今日、隣県にある少し寂れた遊園地主催のそこそこ大きなコスプレ撮影イベントに来ていた。
ガラガラガラガラ…
「なぁ、西岡よ。 俺なんか浮いてない?」
話しかけてきたのはキャリーバッグを引いて俺の隣を歩いている仕事の先輩の筧蒼二郎さん。
今は赤と金色に塗られたパワードスーツ(某アイア◯マン)のコスプレをしている。
「そりゃあファンタジー系のキャラの中にアイ◯ンマンが居たら目立つでしょ。」
因みに俺は、ファイヤー・ファンタジー(通称ファイファン)に出てくる『勇者 アルバイン』のコスプレをしている。
周囲には同じようなファンタジー系の勇者やそのパーティーのコスプレをした人が大半だから目立つに決まっている。
先週、イベントに誘ったら「いや、恥ずかしいし、顔だしたくない。」って言うから「蒼二さん、アイアン◯ン好きじゃないですか。顔も出ないですよ?」って言ってみたらノリノリで、しかもたった一週間で完成度の高いスーツ作って驚いた。
この人、ヤル気を出すとハンパないから……今度お願いしてアルバインの鎧も作って貰おう。
「お前がコレにしろ言ったんじゃねぇか…。」
「いや、まさか本当に作るとは思ってませんでしたよ。 しかも再現度高いですし…あれ? その穴なんですか?」
蒼二さんの作ったマスクは口の横に本物にはない1センチ位の穴が空いていた。
「騙された……穴? あぁ、コレか…ちょっと待て見たほうが早い。」
そう言うと蒼二さんはキャリーバッグからタバコを取り出し穴に差し込んで火をつける。
タバコ吸うための穴ですか、ヘビースモーカーの鏡ですね。
「フハァ〜 こういう事だ。 あとストローでドリンクも飲める。」
そう言ってドヤ顔をしてくる。
いや、顔はマスクで見えてないけどね。 なんとなく雰囲気で。
「…………。」
マスクのいろんな隙間からモクモクと煙を噴き出すくわえタバコのアイアン◯ン……異様です。
ほら、周囲の人も引いてますよ。 一部のお子様は「ロボットだぁ!」って喜んでいますが。
さっきまで浮いてるって気にしてたのに、蒼二さんは子供に手を振ったりポーズをとったりしてる。
そんなノリノリのアイアン◯ンを見ていると、
「おい、西岡。 アレなんだ?」
「え? うわ、何でしょう? 有名なレイヤーさんでも来てるんですかね?」
道の先に、何やら人だかりがあった。
邪魔だなぁ…人混みは嫌いなのに。
「よし、行ってみよう。」
そう言って蒼二さんはマスクから煙を噴き出しながら人集りに突入して行ってしまった。
「あ、チョット! 蒼二さん!」
仕方なく、俺も後を追いかける。
せめて煙出すの止めないと、そんな格好で行ったら。
あぁ、やっぱり……煙を噴き出すアイアン◯ンが向かってきたら避けるよね。
突き進む蒼二さんを避けるように人集りが割れる。
人集りの中心ではコスプレした男女が言い争っていた。
「汚らわしい! 近寄らないで! 」
「なんだよ! 俺はうちのサークルに入らないかって誘っただけだろ!」
綺麗な白髪を腰まで伸ばし、純白に金の刺繍の入った修道女のような格好をした女性と盗賊風の獣人の格好をした男が言い争っている。
声を聞く限りサークル勧誘の揉め事みたいだ。
周りは見ているだけの野次馬ばかりで止めようとしない。
仲裁に入ろうとしたら、先に行っていた蒼二さんが既に男の肩に手を置くところだった。
「まぁまぁ、そんな怒りなさんな。」
「なんだよ! 関係ない奴が…うわっ!?」
うん、振り返ったら至近距離に煙を《以下略》が居たら驚くよね。
「はいはい、解散! 見世物じゃないからな〜 あ、アンタはコッチ。」
蒼二さんは野次馬に声を掛けて散らしつつ、男を女性から引き離した。
そして、俺を見て女性に向かって顎をしゃくる。
俺には女性の相手をしろってことですね…。
俺は乱入した蒼二さんに驚いて固まっている女性に近づく。
「………自動人形? 」
「…………はい?」
離れて男と話している蒼二さんを見てなんか呟いてる…煙を噴いてるからそう見えるかもしれないけど中には人が入ってますよ? 大丈夫ですか?
「あの〜? もしも〜し? 大丈夫ですか?」
「っ!? あ、はい!」
目の前で手を振っていたら女性が俺に気がついた。
近くで見ると本当に綺麗な人だった。
サークルに誘いたくなる気持ちも分からなくはない。
散っていく野次馬が「アイアン◯ンと勇者様の登場!ってどんな組み合わせ?」とか言ってるが聞き流す。
「……勇者…様?」
「え? あ、ちょっと待って下さい。 蒼二さん、どうでした?」
女性が何か言いかけたが、蒼二さんが戻って来たので遮った。
あれ?連れて行った男が見当たらない。
「おう。 なんか話しかけただけで罵声を浴びせられるのは我慢ならないとかいろいろ言ってたな。」
誘っただけで罵声って本当だろうか? どうせ男が下心全開で声を掛けて言い争いになったに違いない。
「それで男はどうしたんです?」
「あぁ、グダグタと鬱陶しいから『運営に突き出してサークルごと出禁にするぞ?』って言ったら走って逃げてった。まったく、意気地のない野郎だよ。」
洋画のコメディなどで見るヤレヤレってジェスチャーをしているが、内心は『俺の前で不埒なナンパをするなど万死に値する。』とか思ってるに違いない。
ナンパにまで嫉妬しなくてもいいのに。
「思いっきり脅してるじゃないですか……マズイでしょ…。」
仮にも非番の警察官が一般市民を脅したとかマスコミにバレたらシャレにならない事になるのに、この人はナンパ野郎を根絶やしにする事しか考えていない。
「ん? 今の俺たちは勇者と動く鎧だ。…ナンパ野郎ブッコロ。」
あ、本心が口に出てる。
俺はジト目をするがどこ吹く風だ。
なんか悩むのが馬鹿らしくなってきた…何かあったら蒼二さんの所為と言って逃げよう。
そう考えていると横で黙っていた女性が俺に向かっていきなり跪いて涙を流しながらお礼を言いだした。
「勇者様! 危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!!」
泣くほどの事なの?! 散って遠目から見てた野次馬が「勇者が修道女のフラグ立てた! 」とか言って喜んでるじゃん! そこっ! カメラ向けるな!!
「いや、どっちかっていうと蒼二さんが……」
蒼二さんの前でフラグ立てたら嫉妬に狂って危ないし、早めに折っとこう。
「ワタシハ、ユウシャサマノ、ゴメイレイデ、スイコウシマシタ。」
何してんのこの人! フラグ折れないじゃん!
あと、さっきまで普通に話してたじゃん!
アイアン◯ンがロボ語とかおかしいじゃん!
蒼二さんの突然の悪ノリに絶句してしまう。
「まぁ! あなたはやっぱり勇者様の下僕の自動人形だったのね!」
「ハイ、ソウデス。 ワタシハ、ゲボくぅっぶふぁ! ………うぅん! ワタシハ、ユウシャサマノ、ゲボクデス。」
笑った! この人絶対に楽しんでる!
マスクの下には悪魔のような笑みを浮かべてるに違いない!!
「あ、あの……2人とも…」
いい加減なんかヤバイと思って2人の話を止めようとしたが、すでに手遅れだった。
女性が急に俺に向き直りとんでもない事を言い始めた。
「勇者様! 実は私はこことは違う世界の聖女なのです! どうか私と一緒に次元を超え、我々の世界を救ってください!」
「「………………はいぃ?!」」
俺と蒼二さんはいきなり話がぶっ飛んでて意味が分からず聞き返したのだが、その言葉を了承したと受け取られてしまった。
「ありがとうございます!」
「え? あの、そういう…」
「はい、勇者様! では早速、次元転移儀式の準備をしますのでお待ちください!」
あ、なんかヤバイ。 そういう意味じゃない!って言おうとしても聞く耳持たない。
「ち、ちょっと待ってください! (蒼二さん! なんかこの人ヤバイっすよ! どうするんですか!)」
準備しますとか言って修道服の中から宝石やチョークを取り出し(どこに入ってたんだ?)地面に何か書き始めた自称聖女から離れて蒼二さんに詰め寄る。
「(よし、逃げよう。)」
「(どうやって!? 絶対逃がしてくれないですよ!)」
サラッと言いましたけど、逃げても地の果てまで追っかけて来ますよ!
さっき悪ノリした責任取ってくださいよ!
「(適当にまだやる事があるからすぐには行けないとか言っとけ。それで車まで戻ったらすぐ帰る。今はイベントどころではない。)」
「(……?! 了解!!)」
なるほど! この場を逃げ切れば名前も住所も知られてないから追いかけてこれない!
車に乗ってしまえば逃げ切れる!!
腹を括って自称聖女のヤバイ女性に話しかける。
「せ、聖女様! お気持ちは分かりますが、今はまだこの世界でやらねばならない事があるのです! 少々時間をいただけないでしょうか?!」
よし! 適当に言ったにしては上出来だ!
「はい!? そ、そうですか…勇者様にも此方の世界での使命があるのですね…。 ただ、状況は一刻を争うのです…。 どれくらいお待ちすれば……?」
と思ったが聞き返された。 どうしよう何も考えていない。
「え…? あ…えっと…(適当に半月とか言っとけ!)は、半月程かと…。」
答えに困っていたら蒼二さんが耳打ちしてくれてなんとか答えたがまだ終わらなかった。
「半月ですか……わかりました! その使命、私も微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「(パス! 思いつかん!)」
憑いてくるつもりだぁぁぁぁぁぁ!
パスぅ?! 蒼二さん! そこで投げないでくださいよ!
「いぃ?! えーっと……いや、それには及びません。 き…危険ですし私達だけで片付けられます。
何やらお疲れのようですし、聖女様には力を温存して欲しいのです。」
「勇者様…そこまで私の事を想って…/// わかりました! では半月後にお迎えにあがります!」
なんとか捻り出したセリフで納得してくれた。
なんか顔を染めて照れてる気がするけどもういい!
兎に角、この場は逃げるしかない!
「お、オネガイシマス。 では、私達はコレで…。」
「あ…勇者様!」
「ひっ! ヒャい?!」
「(あ、車持ってくるわ)」
まだ何かあるのォォォォォォ?! 勘弁してよぉぉ!
あぁぁぁ! 蒼二さん先に逃げた! 置いていかないで下さい!
「こちらをお持ちください。あと名乗るのが遅れてしまい失礼しました。
私の名は《マリアベル・C・グラスハイト》と申します。
マリア♡とお呼びください/// あのぅ勇者様のお名前は…?」
なんか金属製で魔法陣のような模様が刻まれたカードを渡してきた。
名前?! 本名とか論外だし…あ! 今の格好は!
「ど、どうも…。 名前は、あ…アルバインです。 それじゃあ急ぐので!!」
コスプレしたキャラクター名を告げて走って逃げる。
変なカードは適当にポケットに突っ込んどく!
「アルバイン…様……私の旦那様……ふふふ/////」
嘘の名前を聞き、不穏な事を言いながらニヤける自称聖女の地雷女が見えなくなったところで、蒼二さんが運転する車に乗って逃げた。
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その後、アイアン◯ンの格好のまま車を運転した蒼二さんの所為で騒ぎになったり(マスクぐらい取ればいいのに…)色々あったけど、無事に家に帰り着いて逃げ切れたと安心してた。
しかし、終わりではなかった。
次の日から大体3日毎に謎の文字が書かれた羊皮紙や魔導書的な何かが家に届き始めた。
俺が家を留守にする日中の間に郵便受けに入れているみたいだ。
どうして家がバレたのだろう……。
蒼二さんに相談したら「おめでとう。地雷聖女はストーカー聖女に進化しました!」って爆笑してた。
笑い事じゃないですよ!!
そして昨日の朝、家を出るとドアの脇に鎧の入った木箱と剣があった。
しかもご丁寧に謎文字ではなく日本語で書かれた手紙付き。
今日、迎えに来るとか書いてあるし怖すぎるので家は引っ越す事にした。 昨日の夜に荷物をまとめて運び出して実家に避難させて、さっき朝イチで部屋を引き払ってきた。
ストーカー聖女関係の物だけ処分困ったので(斬れる剣や鎧とか盾を粗大ゴミに出したら大事である。)蒼二さんに預かって貰おうと持ってきた。
そうそう、そうだった。
今日はあと新しい家を探さないといけなかったんだ。
あぁ……これが走馬灯ってやつかぁ……23年の短い人生だった…………………………じゃないし!!
「シェリァァァァ!!」
嫉妬に燃える蒼二さんが奇声を挙げながら聖剣を振るう。
斬撃は、全力で縦に真っ二つにしようとしてくる為、単調で避けやすい。
この人、剣道と居合の有段者だから冷静な時に襲われていたら既に斬り捨てられていただろう。
しかし、速さだけはバカにならなくて壁際に追い込まれた。
「ツゥェァァァァ!!」
当たらないから焦れて今度は突いてきた!
俺に向かって蒼二さんが雄叫びを挙げながら突きを放ってくる。これが本当の聖剣突き!
それを横っ跳びで回避しようとしたその時、俺は蒼二さんの後ろで起こっている異変に気付き声をあげた。
「そ、蒼二さん! 後ろ!!」
「アァ?! はぁぁぁ!?」
あ、言葉が通じて突きの途中で剣がぴたりと止まった。
さっきまで奇声を挙げるばかりで話が通じなかったのに。 急に正気を取り戻すなんて…この人、実は遊んでた?
ーNEXTー
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