勤務日誌:009 〜お巡りさん、自然を破壊する〜
遅くなりました!
かなり遅くなりました!!
ごめんなさい!!!
という事で更新です。
よろしくお願い致します。
m(_ _)m
ザクザクザクザク
「やっぱりコンかな? いや、でも安易すぎるか……。」
頭にタオルを巻き、紺色の作業着に長靴を履いた用務員スタイルで、斧と背負子を背負った俺はブツブツと狐モドキの名前を考えながら脛くらいまで積もった雪の中を進んでいた。
洞窟前の雪原(氷の張った湖)を迂回して崖沿いに森へと向かう俺の後ろからは小さな足音が付いてくる。
サクサクサクサク
この小さな足跡の主は、異世界に来て初めて出会った生き物(スケルトンは生き物と断じて認めない!)の狐モドキ(仮)だ。
さっき誤ってコイツの尻尾を踏んづけてしまい、脚にガッツリと噛み付かれたが、ビーフジャーキーをあげたら懐いて俺の後ろをついてくるようになった。
餌が目的だと分かってはいるが、悪い気はしないので好きにさせることにして、今は歩きながら呼び名を考え中だがなかなか良いのを思いつかない。
狐モドキ(仮)は中型犬くらいの大きさで、狐の特徴である筆先のような形の大きくフサフサとした尻尾をもち、毛の色は全体的に少しくすんだ金色で、腹の毛は少し白くて、頭はモロに狐顔をしている。
狐との違いと言えば、耳と尻尾の先端の毛が黒くなっている程度だ。
正直どっからどう見ても狐なのだが、ココは異世界だし狐モドキ(仮)として名前を考えてるんだけど、呼び名…決まらねぇな…。
そんなことを思いながらタバコに火を点ける。
カキン……シュボッ! すぱぁ〜
「ふぅ〜…こりゃダメだな。落ちてる枯れ枝はみんな湿気ってる。」
洞窟を見失わない程度に雪を冠った針葉樹が生い繁る森の中に入って枯れ枝を探すが、さっきの吹雪で雪に埋もれてしまい、どれも湿気っている。
「そんなに量もなさそうだし…やっぱり薪にするなら切り倒した方が早いし確実だな。」
背負子に括り付けていた斧を片手に持ち、薪になりそうな手頃な木を探す。
この年季の入った背負子と斧は交番のガレージの奥ににあったのを引っ張り出してきた。
なんで交番にそんな物が置いてあるのか?……そんなの知らん。
周囲を歩き回るが、枝葉が茂った高さ15メートル以上で直径が1メートルを超えそうな大木ばっかりでなかなか手頃な木が見つからない。
「お? あの木なんか丁度良さそうだな。」
しばらく探すと、少し森の開けたところに手頃な木が生えている。
地上から3メートルくらいで二股に分かれた、全長6メートル程の木で、葉っぱや細枝は全て落ちて丸坊主になっている。
近付いてみると既に枯れているようで、表皮は乾燥しきってヒビ割れている。
コレなら切ってすぐに薪として使えそうだ。
「ん〜直径は40センチ弱ってところか……よし、君に決めた。」
昔、爺の試練で山籠もりした際に、斧で木を切る方法は習っている。
あの時の俺は何を思ったのか、直径が50センチ以上ある木を選び、半日程かけてヘトヘトになりながら切り倒すという失態を演じた。
まぁ、その時よりも細いし今は謎の獣人パワーがあるからそこまで時間はかからないだろう。
枯れ木の根元に立ち、まずは[くの字]に切れ込みを入れようと斧を振りかぶる。
「ガウ!!」
「んぁ? なんだよ?」
斧を振り下ろそうとしたら、狐モドキが駆け寄ってきて作業着のズボンの裾を噛んで後ろに引っ張る。
まさか……ビーフジャーキーに俺の昼飯まで食っといてまだ足りないのか?
というか、危ないから離れてて欲しいんだが。
ミシミシ…メキョ!
斧を下ろしてその場にしゃがみ込み、裾を噛んで引っ張る狐モドキをどうにかしようとしたら、枯れ木から何かが裂けるような音がした。
音と同時に狐モドキは裾を離し、飛び退くように俺から離れた。
コイツ…何がしたかったんだ?
立ち上がって音がした方を向くと……目があった。
「ガウッ!!」
「あ、うん…目玉が出たね……じゃねぇし!」
俺の顔ぐらいの高さの幹が左右に割れて、大きな目玉が現れ、俺をジッと見つめてくる。
目玉は俺の顔くらいの大きさがあり、白目の部分が緑色に血走っている。(緑色なのに血走るってなんか変だな)
なんで木から目玉が?! うわ、気持ち悪っ!!
ザザクッ!
立ち尽くす俺を、足元から勢いよく生えた木の棘が襲う。
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〜狐モドキ(仮)〜
あの後、気前よく私にお昼ご飯までご馳走してくれた男の人は、背負子と斧を抱えて洞窟の外に向かった。
どうやら薪を集めに行くらしい。
私も一緒に外へ出て、崖沿いに歩く男の人の後ろを歩く。
サクサクサク
深く考えずにこの人について洞窟の奥に入ったけど、あんなに広い空間があって大きな石造りの建物が建っているとは思わなかった。
この人は何者なんだろう。
あんな所に1人で住んで、魔法とは違う不思議な方法でとても美味しいご飯を用意していたし、色々な見た事のない魔導具を使っている。
建物の裏にはお墓みたいなものもあったから、隠れた部族の最後の生き残りだったりするのだろうか。
カキン……シュボッ! すぱぁ〜
男の人は、少し森に入った所で白い小さな筒を取り出して口に咥えて、小さい箱みたいな魔導具で筒の先っぽに火をつけて吸い始めた。
白い筒は煙草のようで、男の人が口から白い煙を吐き出すと、洞窟に入った時に感じた煙の匂いが辺りに漂う。
やっぱりあれは、この人の吸う煙草の匂いだったのだ。
お父さんの匂いがする…。
私のお父さんは小さい頃に死んでしまって顔は覚えていないが、抱っこされた時に今みたいな煙草の匂いがしていたのは覚えている。
私のお父さんもこんな人だったのかな…?
そんな事を考えていると、男の人は斧を手に持って辺りを見回し、しばらくして一本の木に目を留めて近づいていく。
どうやらあの[枝葉の落ちた二股の枯れ木]を切って薪にするつもりのようだ。
なんだか、あの枯れ木…周りの木と比べて不自然に短いし、広場に1本だけポツンと生えてるなんて変だ…昔、どこかで聞いた話が頭の片隅に引っかかる。
(……森の広場にある股の別れた不自然な枯れ木。)
『ソレは森の広場で枝葉を落とし、股の別れた枯れ木の姿をして待っている。』
枯れ木に近付いてよく見ると表皮はカラカラに[乾燥して]所々がヒビ割れている。
(……なんで吹雪の後なのに乾燥してるんだろう?)
『獲物を待つ間、ソレは身体に付く露を飲み飢えを満たす。故に表皮は常に乾燥してヒビ割れている。だから、表皮が乾燥し股の別れた枯れ木には近づいてはいけない。ソレは恐ろしい魔木だから。』
思い出した瞬間に背筋が凍る。
その話は森に入って遊ぶ子供に、森には危険が潜むと教えるために言い聞かせるものだ。
「ガウ!!(その木はダメ!!)」
魔木の下で斧を振りかぶる男の人に駆け寄り、木から離れさせようとズボンの裾を噛んで引っ張る。
「んぁ? なんだよ?」
言葉が通じないのがもどかしい。
男の人は、不思議そうな顔でこちらを見ている。
一刻も早くその木から離れてもらわないと!
ミシミシ…メキョ!
間に合わなかった。
魔木の幹が男の人の頭くらいの高さで裂け、中から大きな目玉が現れる。
『魔木は獲物が掛かると単眼を見開き、物言わぬ瞳で哀れな獲物に神に祈れと告げ、不可避の一撃を放つ。』
私は魔木のそばから跳び退くが、屈んでいた男の人は幹に現れた目に気が付いていない。
「ガウッ!!(早く逃げて!!)」
「あ、うん…目玉が出たね……じゃねぇし!」
男の人が立ち上がり、やっと目玉に気が付いたようだが遅かった。
立ち尽くす男の人の足元から無数の木の棘が突き出しす。
『一撃を受けた獲物の身体は痺れ、二度と動くことは叶わない。 倒れ伏す獲物は生きたまま身体中の水分を吸い尽くされ、吸血鬼に血を吸われたミイラのように成り果てる。その魔木の名は……。』
➖吸血魔樹➖
吸血魔樹は、一般的な魔樹が移動能力を捨てた代わりに、魔法の【ウッドスパイク】と【麻痺毒】を獲得した変異個体だ。
【ウッドスパイク】は、地面から長さ5センチ程の木の棘を突き出す低級の魔法で、威力よりも貫通力を重視した主に敵の足止めに使われる魔法で殺傷能力はそれほど高くない。
しかし、吸血魔樹の使う【ウッドスパイク】は、自らの脚(根)を魔法の媒体として棘に変化させている。
その為、身体と同化した棘が獲物に刺さった瞬間に【速効性の強力な麻痺毒】を注入し、身動きの取れなくなったところで体液を奪う鬼畜な仕様になっている。
早く助けないと!
男の人は、【ウッドスパイク】を受けた瞬間にビクリと震えたまま立ち尽くしている。
既に麻痺毒が回って動けないようだ。
体液を吸い始める前に助けたいが、吸血魔樹と男の人の周りの地面には棘が無数に生えていて迂闊に近付くことが出来ない。
どうしよう…早くしないと手遅れに…。
ガチャッ
「っぶねぇ…こっちの木は攻撃してくるのか…。」
躊躇していたら、麻痺毒で体が痺れて動けないはずの男の人が、何か呟きながら懐から銀色の道具を取り出した。
え?! なんで動けるの?!
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木の幹から気持ち悪い目が現れて、足の下から五寸釘くらいの木の棘が生えたのにはマジで驚いた。
幸いにも、履いていた長靴には鋼鉄製の踏み抜き防止板が入っていて靴底を貫通はしなかったが、普通の靴だったら酷い事になっていただろう。
少しだけ、イラっとした。
ガチャッ
「っぶねぇ…こっちの木は攻撃してくるのか…。」
狐モドキはこうなると知ってて俺を止めたんだな。
懐から念のため持っていたシグを取り出し、遊底を引き初弾を装填してセーフティを解除する。
こういったモンスター(?)は、柔らかそうな目玉が弱点なのがテンプレだ。
殴ろうかとも思ったが、素手で触りたくないから撃つ事にした。
タァーン!! ブチャッ!
『ギィィィィィ!!』
至近距離から目玉に1発撃つ。
木の化け物は目玉に空いた弾痕から緑色の汁を吹き出し、耳障りな奇声を上げる。
この木…鳴くんだな…。
木の化け物は、目玉を幹の中に引っ込めようとするが片手で瞼(というか木の幹?)を掴んで閉じれないようにして、隙間にシグの銃口をねじ込む。
「お? 効いてるな。 ほらほら、まだあるから貰っとけ。 な?」
タン!タン!タン!タン!タン!タターン!!
『グギョボォギィィグギョォォォォ!!!』
取り敢えず、マガジン1本分を撃ち込んだら木の化け物が静かになった。
というか、閉じようとしていた幹の隙間からザラザラと白い砂が出てきた。
もしかして……あ、死んだみたいだ。
空になったマガジンを交換して足元に置いていた斧を手に取ってタバコに火を点ける。
カキン……シュボッ! すぱぁ〜
俺の足元には空薬莢が転がり、生えていた木の棘は木の化け物が死ぬと急激に萎れて枯れてしまっていた。
「キューン……。」
「ん? おう、大丈夫だ。 ちゃっちゃと切り倒すから離れてろよ?」
心配そうに鳴く狐モドキに声をかけながら斧を振りかぶり、木の化け物の死体(?)を切り倒しにかかる。
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〜狐モドキ(仮)〜
ガッ!! コーン! コーン! コーン!
森の中に斧を木に打ち付ける音が響く。
男の人は、懐から取り出した道具を使ってあっという間に吸血魔樹の弱点である目玉を破壊して、殺してしまった。
麻痺毒が効かなかった?
いや、【ウッドスパイク】がテラテラと黒光りする靴に阻まれて足に刺さらなかったみたいだ。
見たことのない武器に、軽装鎧の具足程度なら貫通する【ウッドスパイク】を無効化できる靴……この人、本当に何者なんだろう?
「いよっし! そろそろいいかな?」
タッタッタッ……ドゴォ!! メキメキメキメキ! ドスン!
男の人は、タバコを咥えたまま吸血魔樹だった木の半分くらいまで斧で切れ込みを入れると、一旦木から離れて助走をつけると跳び蹴りでへし折ってしまった。
ええええええ?!
「よし!! 日も暮れてきたし、ロープ掛けて引きずって帰るか。」
もう呆れる事しかできない。
その後、ズルズルと木を引きずりながら夕暮れで真っ赤に染まった雪の中を、意気揚々と歩く男の人の後ろに付いて洞窟の家へと戻った。
私…付いてく人を間違えたのかも……。
だってこの人…滅茶苦茶だもん。
ーNEXTー
誤字や稚拙な文章の中、最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は遅れた分長めになっております。
いやぁ、主人公以外の視点が増えただけでこんなに大変だとは……職業作家の方には感服です。
この後も展開は考えてあるのですが、私の頭で文章にきちんとできるか不安です。
次の更新は…………金曜までに!!(自分を追い込む)
頑張る! 私頑張るから!!
それでは、次話もお読み頂ければ幸いです。