プロローグ 〜日常から吹っ飛ばされる〜 その1
◆プロローグ◆
「仕方ない……俺が殺る。」
ターン!
静かな雪原に銃声が響く。
眼前に立っていた灰色のローブを着て手に杖を持った魔導師の男が、頭から血と脳漿を撒き散らしながら倒れた。
真っ白な雪原に赤に薄紫色の混じった染みが広がる。
「1人目…… 」
『ーーーーー!!!』
何語かわからない怒鳴り声をあげながら簡素な革鎧を身に付けた男が、腰の後ろに挿した短剣を抜き、かなりの速さでこちらに走ってくる。
ターン!
走る男に向けて発砲する。
弾は右足の付け根付近に当たり、バランスを崩した男が転けて銃創を手で抑えて呻く。
『ーー?! ーー!!』
「2人目……」
俺はゆっくりと歩いて近づき、至近距離から呻く男の頭を撃ち抜く。
ターン!
また1つ、雪原に染みが増える。
「全く、情けない……」
『ーーーーー!? ーーーーー!!!』
見た事のない、武器なのかも分からない物を使って2人の仲間を殺され、唖然としていたリーダーと思わしき槍持ちの男が怒りの形相を浮かべて怒鳴りながら、小ぶりの丸盾を掲げて頭を守るような姿勢で槍を構え、こちらに突撃してくる。
俺は片膝をついて左膝を下ろし、膝撃ちの姿勢をとって突撃してくる男に狙いをつける。
あと数歩で槍の間合いに入る瞬間、男の頭を狙って2連続で引き金を引く。
タターン!!
1発目は男の掲げた丸盾に当たり防がれるが、衝撃で男の盾を掲げた左手を弾く、そして続けてほぼ同じ軌道で撃たれた2発目が男の右目を撃ち抜く。
右の眼窩から頭を撃ち抜かれた男は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「3人目……終わりだな。 戻るぞ。」
立ち上がり、銃をホルスターに戻そうとするが銃を持つ右手は真っ白になる程に銃把を握りしめて離さない。
「あれ? なんで…離れ……あれ? 俺は…何を…何を撃った? え? あ………。」
目の前に血を流し倒れた男がいる。目を見開き、でも右眼は無くポッカリと穴が…穴が開いて…俺が…撃った穴が開い…て? え?
「俺が……撃った? 3人も…う…撃った? 俺が……殺した…のか? 俺が? 人を? 殺した? 嘘だろ?」
その時、頭の中に聞いたことのない女性のような声が響く
《やっと見つけました。 少し乱暴かもしれませんが、我慢してください。》
「え? 何だ今の…それよりも俺は人を……ガッ……ぁ……?」
声とともに頭を鈍器で殴られたような激痛が襲い、目の前が真っ白になり意識が遠くなる。
あぁ……なぜ……なぜこうなったんだろう……。
静寂の戻った雪原には気を失った俺と3つの物言わぬ亡骸、そして近くの草むらから雪原に倒れる俺を見つめる金の瞳があった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◆回想◆
カキン、シュボッ……
「すぅぅぅぅ〜…………フハァァァァァァァ〜……」
俺は筧蒼二郎24歳
身長180㎝越えでイケメンのナイスガイな警察官だ……。
嘘をついた。
身長は175㎝と中途半端、体格も普通、顔も普通(若干目つき悪いが気にすんな!)と全体的に中途半端だ。
趣味は読書(主にラノベと漫画)、あと釣りや料理などなど趣味もインドア派だかアウトドア派だか中途半端でよくわからん。
あ、あとアニメ好きな健全で一般的なオタクである。
朝、俺は出勤して朝礼のあと直ぐに裏にある喫煙所で缶コーヒーを片手にタバコを吸って、煙と一緒に溜息を吐き出していた。
「あっ、蒼二さん〜 朝っぱらからなんで仕事サボってタバコ吸ってんすか」
「あぁ? 西岡か…まぁいいんだよ……すぅぅぅぅ……フハァァァァァァァ〜」
今は仕事するような気分じゃねぇんだよ…
話掛けてきたスーツの男は1年後輩の西岡祐太郎だ。
180㎝越えの細マッチョなイケメンだ……イケメンだ……! 俺と同じくオタクのくせにイケメンなのだ。
まぁ、こんな俺でも頼りにしてくれるいい奴だ…イケメンだがな!!
「いや、トンデモない顔してますって。 あ、タバコ一本ください、車に忘れてきちゃって」
おっと、イケメンへの嫉妬が顔に出ていたようだ。
ポケットから取り出したタバコの箱を見るともう残っていない、今吸っているのが最後の1本だったみたいだ。
空箱を握り潰して、新品を懐から取り出し西岡に投げて渡す。
「ほらよ。 スーツって事は今日は非番なんだろ? 倉庫番の俺に何の用だよ。」
「あざっす。 フハァ〜 いや、ちょっとしたお願いがありまして。 蒼二さんこそため息ついてどうしたんですか?」
西岡は新品を開けて1本を抜き出し、火をつけて紫煙を吐き出しながら聞いてくる。 イケメンは何をさせても様になるよな全く。とりあえず俺は朝っぱらからここでサボってる理由を話す。
「あぁ…………異動になった。 場所は地域(課)のはt……。」
「マジっすか?! やっと戻ってくるんですか?! 交番ですか?!」
俺が地域課に異動と聞いて、余程嬉しかったのか話の途中で声をあげる西岡。 最後まで聞けっての。 グレてタバコ吸ってる時点でいい知らせではないと察しろよ。 たまに人の話聞かないからなコイツは。気を取り直して続きを話す。
「落ち着け。場所は羽出島駐在所だ。」
「え………今なんて?」
笑顔のまま固まる西岡。 まぁ、そうなるよな。俺も聞いた時耳を疑ったわ。だが事実だからこうしてタバコ吸って紛らわせてたんだよ。
「羽出島だよ。 羽出島駐在所に異動だ。」
羽出島とは管内の港から高速フェリーで1時間程かかる離島のことだ。 俺はそこにある駐在所に異動になったのだ。
西岡は急に真面目な顔になり今生の別れのように敬礼する。
「干物島ですか……今までお世話になりました。 蒼二さんのことは忘れません……成仏して下さい。」
「おい、縁起でもないこと言うな。」
異動になった羽出島は水産資源が豊富で名産は干物である。また島民の平均年齢が65歳オーバーでスーパーやコンビニ、飲食店や娯楽施設が一切なく、フェリーも1日に朝夕に2往復しかしないこともあり物理的に、独身の男が赴任すると出会いもなく精神的にも干上がるため《干物島》とも呼ばれている。
「だって干物駐在っすよ? 蒼二さん、俺なんかより各課に顔が効くし、管内の人にも人気あるじゃないっすか。蒼二さんの受け持ち区を引き継いだ斎藤がこの前、どこにいっても「筧さんはどうしたの?」って市民に聞かれるって落ち込んでましたよ? こんな扱いで、悔しくないんすか?」
顔をしかめ、自分の事のように憤りを露わにして西岡が俺に聞く。斎藤には今度飯でも奢ってやらないとな。まぁ別に俺の扱いについては仕方ないとしか思ってない。流石に島の駐在とか色々と不便だし引越しが面倒くさすぎてグレたりはするけどな。
「まぁ今の倉庫番よりは警官らしい事できるだろうな。 ただ、不便だし引越しが面倒くさすぎる。」
趣味の釣りは安泰だが、本屋もないからラノベとかどうするかな…。
まぁ、ネットショップの《熱帯雨林》で手に入るし。 どうせ出会いあっても彼女とかできないしな。 あ……なんかまた悲しくなってきた…。落ち着くために2本目に火をつける。
「はぁぁぁ〜……鋼鉄心臓蒼二は健在っすね。 流石っすわ。」
西岡は俺の答えを聞いて呆れ顔になった。
「その恥ずかしい二つ名付けるのをやめろ、お前しか使ってないからな。 あと俺の名前は蒼二郎だ。 」
「え? そうなんですか? カッコいいと思うんだけどなぁ。」
コイツはいつも俺に変なあだ名を付けようとする。
署内でも口にするせいで俺は「鋼鉄心臓蒼二」と影で言われてるらしい。ま、気にしてないがこれ以上酷くなるのは勘弁してほしい。面と向かって言われたら温厚な俺(そう思ってるのは自分だけ)でもキレてしまうかもしれない。
「カッコよかねぇよ。 あと、俺みたいに上に嫌われたらこうなるんだ覚えとけ。 お前も気をつけろよ。」
「はーい。」
さてと、そろそろ仕事すっかな。
吸い殻を灰皿で揉み消し、二階の俺の部屋へ向けて歩きながら後ろを付いてくる西岡に用件を聞く。
「で? 頼み事ってなんだ? タバコを一箱献上するなら聞いてやろう。」
「どんだけ吸うんっすか……今日だってもう二箱めでしょ? 」
「いや、ゲームで徹夜しながら吸ってたから三箱目だ。 あ、ロッカーに貯めてたカートンそろそろ期限切れるかも…早く吸わねえとな。」
「はぁ、死にますよ? はい、そう言うと思って買ってきましたよ。」
西岡が呆れ顔でスーツのポケットからタバコを一箱取り出して渡してくる。悩みとは無縁そうなコイツがお願いってまさかあの事か? その後も気になってたし聞いてみるか。
「わかってるじゃねえか。 あ、もしかして…アレか? ストーカー聖女(笑)の件か? 『私は異世界の聖女なのです! 私と一緒に世界を救ってください!』ってマジぶっ飛んでるよな。」
「笑い事じゃないっすよ…… 。」
当たりだったようで西岡がゲッソリとした顔をする。イケメンも大変だよなぁ、と思いつつも羨ましい悩みだ全く。
〜NEXT〜
初投稿です。
至らない点などあるかと思いますが、今後訂正していければと思います。
投稿ペースは不定期です。
仕事の合間などで書いてるもので……w