俺の学校生活は極彩色!?1
俺こと、山城琉は至って普通だ。容姿も、勉強も、スポーツも、全ての面でノーマルだ、という自負がある。『凡庸』という言葉で表現しても良い。
何でもそつなくこなす。と言っても、それが『何でも出来る』という事にはならない。『何でもやれる』だけで出来はしない。これらは似てるようで、わりと違っていたりする。
まあ、そんな事情などはどうでもいい。大事なのはこれから話すことだ。
これは、普通な俺の異常な日常だ。
5月某日。天気は雲1つ無い快晴。俺は汗を流しながら、だらだらと自転車を押して坂道を上っていた。上は学校指定のYシャツで下も同じように指定の長ズボンを履いている事から分かる通り、今は登校中だ。ついでに言えば、時間は9時を少し回っている。完全に遅刻というわけだ。
まあ、俺はそんなことなど気に止めていない。
坂道の頂上に立つと、自転車に寄りかかり、休憩してしまう。
「まったく。5月だっつうのに暑すぎんだろ」
誰にともなく罵り声を上げると、またぐったりする。
補足すると、この下り坂を下れば学校に到着する。
なので、休憩している、というよりは行きたくない気持ちと葛藤していたのだ。俺は意味もなくうなり声を上げながら、坂の下の学校を見据える。そこにはいつもの、見慣れた学校があった。見慣れない物と言えば、正門の前に停められている、無意味に長く見える白塗りのリムジンくらいか。
「・・・何だあれ?」
そう、リムジンだ。一目見て高級車と分かる車が正門に停車していたのだ。その光景は少なからず異様だった。普通と言っても差し支えが無い母校に、高級車が停まっていれば、違和感は拭えない。
その高級車を間近で見たい衝動にも負けて、自転車に跨がると坂道を下り始める。
心地よい加速感と涼しい風が体を包むが、数秒でそれも無くなる。
ほとんど惰性で自転車を走らせて、リムジンを追い越そうとする。が、突如リムジンの後部座席の、しかも道路側のドアが開け放たれた。
!?
全力でブレーキを握り締め、自転車を軽く横滑りさせて、ドアギリギリで停止させる。
安堵の息を人知れずに漏らす。
「ちょっと君。少し私の為に働いてくれないかしら?」
聞き覚えの無い女性の声が後ろの車の中から聞こえると、自転車の荷台に重量が加わった。
怪訝な顔で振り返る。そこに居たのは一人の『少女』。
頭から流れるように腰まで伸びる金髪に、整った顔立ち。男子の中では決して低い方ではない琉と同じくらいの身長で、手足も見事なまでのバランスだ。見た目だけなら妙齢と評しても良いのだが、彼女が身に纏っているのは俺が通う高校の、女子の制服だった。つまりはこの高校の生徒なのだろうが、彼女が完璧に着こなしていると、それだけで箔が付く気がした。
彼女の薄く緑がかった碧眼が琉の瞳を捉える。
ずっと見ていたい衝動に駆られるが、ドアの開く音て我に返る。
「早く行って!」
「・・・はあ?行けって、どこにだよ」
言って、論点がずれている事に気付く。
「俺はタクシーじゃねえよ」
「良いから!ちゃんとお礼はするわ」
なおも渋っていると、新たに開いたドアから黒服の、いかにもな男性が降りていた。
その男性はおもむろに懐に手を入れる。その動作は見覚えがある気がした。生で見たことは無いのだが、映画などでよく見る動作だった。このままその手が掴むのは、
「なんで、ここで銃が出てくるんだよ!?」
やはり、その手に握られていたのは拳銃だった、ご丁寧に消音器までつけられている。
「このままだったら撃たれちゃうよ?」
殊更愉しそうに言う少女の顔は本当に楽しそうだった。
「くそっ!!分かったよ!しっかり捕まってろよ!」
意味もなく声を張り上げると、ベダルに足を掛けると、力を加えて自転車を走らせる。
ん?ここは逃げちゃダメじゃね?
そうは思いはしたが、ここまで来ては、止まれない。一気にリムジンを追い抜く。その際、憎々しげな黒服の顔が見えたが、黙殺する。
抜き去って数秒後、ドアが閉まる音が響いた。その音だけで怒りの度合いが分かってくる。恐ろしくご立腹な様だ。
また今更思うのだが、自動車に二人乗りの自転車が勝てるわけが無い。どこの、伝説の自転車便だ。内心毒づいてみる。
ただでさえ暑いのに、後ろに人(美少女)を乗せて走るとか、どんだけ青春してるんだ。
半分やけくそ気味に、そんなことを考えていると、その思考を邪魔するものがあった。
今まで気づかなかったのだが、原因は件の少女だ。
彼女は両腕を俺の腰に巻き付けて、ぴったり密着してきていたのだ。その分、色々と青少年にはアブナイものが背中に当たっていた。
だが、やはりそれを意識する余裕はそろそろ無い。現在進行形で強面のお兄さんに追われている最中なのだ。正直な話、全部放り出して、学校に戻りたいのだが、後ろに追随するリムジンがそれを許さないだろう。
仮に後部座席に乗っている少女を振り落としても、なんかそれはそれで後が怖い。
「徐々に近づいてるよ。車が」
後ろではこちらの気持ちになど気づいていないだろう少女がはしゃいでいる。そこで疑問が浮かんだ。
「なんで車が追いつけないんだ?違うな。こうしないといけないのか」
自問自答をして答えを導きだした。
またまた今更なのだが、後ろの少女は『お嬢様』だ。というか、金髪碧眼の美少女がそうでないとおかしい。
独断と偏見と状況証拠でそう決めつける。では、彼女がお嬢様だとして、どうだというのか。
そんなのは簡単だ。ようは過保護なのだろう。
急に自転車が止まってぶつかったらどうしよう、自転車から落ちて轢いてしまったらどうしよう、とかそんな感じだ。だが、その答えだと相当マズイ。非常にマズイ。
今、そのお嬢様を現在進行形で、問答無用でつれ回しているのだ。もちろん、問答無用なのは少女の方だ。
だが、その事実が周囲に伝わっているかはまた別問題だ。そんな訳で、八方塞がりになってしまった。今のところは大丈夫かもしれないが、このままでは終わる。この逃走劇も、俺の人生も。
幸いなのは、これを逃げ切ればどうにかなる可能性がある事か。
だったら、やることは1つだ。
「お客さん、どちらまで?」
「そうだね。ゲームセンターとか行ってみたいかな」
もうどうとでもなれ。
割り切る、というよりも完全にやけくそになった。
ペダルに入れる力も強くなる。それに応じて、自転車の速度も一気に加速する。
大通りに出ると、信号を無視して突っ切る。周囲からのクラックションが鳴り響く。後ろからはしゃぐ少女の声が絶えず聞き取れた。
「君もよくやるね。私の為にそこまでしてくれるとは・・・。私の事好きなのかな?」
「初対面の奴に惚れるほど俺は軽くないんでね。完璧に自分の為に決まってる」
「・・・そう」
必死に漕ぎながら、適当に返したのだが、その返事は聞き取れなかった。小さな路地をいくつも曲がり、リムジンを振り切る。
「わあ、本当に逃げ切っちゃったよ」
他人事のように言う少女は、やはり愉快そうに笑った。
「っと、ゲーセンに行くんだったか?」
「ん・・・あ〜、もう良いや。楽しかったし。君に――――」
その言葉は最後まで言われることはなく、少女は自転車を降りた。
「じゃね〜」
振り返ると、少女は手を大きく振って去っていくところだった。




