02:終わり
「テレスさん、ちょっといいですか?」
ギルド員に声をかけられる知らない人だ、ウィリアムさんは、、居ない。
「PTの指名依頼が来ているのですが、受けて頂けませんか?」
「PTの指名依頼?」
意味が分からない。
「貴族の方からの依頼なのですが、有名な冒険者のテレスさんとイリスさんに、今度探索に行く迷宮のPTの一員になって頂けないかと」
「その貴族の方のPTに入ればいいんですか?」
「はい」
「今回だけの一時的なものと考えていいんですか?」
「ええ、先方が気に入れば今後も指名依頼としてお願いする事もあるかもしれませんが、今回は取りあえず一時的なPTです」
「貴族からの依頼って凄い!」
隣にいたイリスが喜んでいる、そうだね貴族なんて別の世界の人達だもんね、ウィリアムさんに確認してから返事をする事にしよう。
「ウィリアムさんに確認してからになるけど、受ける方向でいい?」
「うん!」
「ウィリアムは隣町へ特別な仕事で出ていますので、しばらく戻りませんよ?」
ギルド員が説明してくれる、しばらく戻らないのか、断ったほうがいいかな?
「貴族ってどんな人なんだろうね?、楽しみだなあ」
そういえば、イリスは王子様が迎えに来るようなおとぎ話が好きだったなあ、
イリスなら貴族のお嫁さんになってもやっていけそうな気がする。
「どうしますか?、ギルドとしても貴族の方からの依頼は断りづらいので、出来れば受けていただきたいのですが、、」
「わかりました、お引き受けします」
ずっと一緒にいたいけど、イリスが幸せになれるなら、、いいかなあ
世の中と言うものを、知らなすぎた。
「フリーザ・ウォーターだ!」
「フリーザ、平民に家名まで名のるなよ、コールドだ」
「ドリアンだ」
「ザボンといいます、よろしくお願いします。」
感じが悪い、ああ、同じなんだ、不遇職として見下されていた時と同じ感じだ。
平民、貴族にとって私達は取るに足りない存在、相手にしない存在なのか。
「テレスです、お願いします。」
「イリスです!」
「お前が水魔法と光魔法を使う娘か?」
コールドがイリスに聞いてくる、目つきが、、あいつ等と同じだ!
冒険者として依頼を受けた以上、反故にするわけにもいかない。
彼等、水の一族と言うらしい、が所有する迷宮へと向かう。
どうやら火属性の魔物の出現する迷宮らしい、水魔法との相性は良い。
「取りあえず、戦い方を見せてもらおうか」
フリーザが言ってくる、腕試しと言うことか、いいだろう。
火に包まれた魔物が出てくる、熱そうだな
「イリス!」
「うん、水よ!」
イリスが私の籠手に水属性の付与を行う、そして
「水の壁!」
ジュッ!
魔物と同じ位置に水の壁が出現し、まとっている火を一瞬だが消す。
「ふっ!」
気合と共に接敵し、ドンッ!
浸透系の打撃に付与された水魔法を乗せ、魔物の体内に叩き込む。
「ほぉ、一撃か」
「た、たいしたこと無いな!」
「おい、今の水魔法の付与をもう一度見せてくれ」
「え、はい」
イリスが説明をする。
「ふむ、ドリアン来い、、こう、か」
フリーザがドリアンの武器に水魔法を付与する。
「お見事です」
「一度見ただけで出来るなんて凄い!」
「流石フリーザだ、その程度の魔法なら一度見れば出来て当然だがな!」
このコールドと言うやつは駄目だ、口では偉そうな事を言っているが本人は実力が無い、戦力として期待しないほうがいいか。
「食事の準備が整いました」
ザボンと言う男は雑用担当らしい、戦闘が終わるたび騒ぎ出すコールドの要求に答える為、色々と動き回っている。
順調に探索は進む、、少し体の調子が悪い。
おかしい、、
「、、ちゃん、、丈夫?」
イリスが回復呪文を唱えている。
「、物だ、、、法の準備を、、」
「、、で休ん、、、」
ドンッ、、背中に衝撃が走る、、攻撃された?
振り返ると、コールドがこちらを見て笑っている、、、、
隣で見ているザボン、、ああ、、食事か、、、
眩い光が差し込んでくる、、眩しい
「お姉ちゃん!」
イリスが抱きついてくる、ここは?
「良かったですね、生き返れて」
イリスの後ろで微笑んでいるザボン、ああ、こいつ等に殺されたんだ。
「良かった、お姉ちゃん、良かった!」
イリスが強く、強く抱きついてくる、その首に首輪がはまっている。
「イリス、これは?」
ビクッとして、固まった後に顔を上げるイリス
「へへへ、なんでもないの、大丈夫だから!」
どう見ても大丈夫ではない。
ザボンが、その微笑を張り付かせた顔のまま説明を始める。
「あなたの蘇生にお金が必要でしてね、所持金と家を売っても足りなかったようですので、コールド様が立て替えてくれたのです。ただと言うわけにはいきませんので返済が終わるまでイリスさんがコールド様の元で働くと言うことになりました」
「この首輪はなんなのかの説明になっていない!、それ以前に私を殺したのはお前とコールドだろうが!!!」
「何を言っているのです?、何か証拠でもあるのですか?」
最初からこのつもりだったのか、、、
「大丈夫だから、頑張って早く戻れるように頑張るから!」
イリス、頑張って頑張るからって、自分で言ってておかしい事にも気づいていないの?
「いくらなの?」
「...」
「いくらなの?」
ザボンに聞く。
「金貨5000枚です。」
私とイリス二人で稼いだとしても十年はかかる。
「大丈夫だから、心配しないで、ね」
「イリス行きますよ、コールド様がお待ちです」
「は、い」
不自然な動きでイリスが離れていく。
「イリス!」
体が思うように動かない、、ちきしょう!、イリス!
家は取り壊されていた、お父さんとお母さんとイリスと私の家。
「テレス、、」
「ウィリアムさん」
イリスから預かった荷物とお金を渡される。
最初から全て仕組まれていた事を聞かされる。
ウィリアムさんはあの日何者かに呼び出されしばらく席をはずしていた事、私たちに話しかけたギルド員は存在しない事、ザボンは奴隷商と言う事、コールドは同じような手口で何人か冒険者を奴隷にしている事。
イリスは奴隷になったと言う事。
私を助けるために奴隷になったと言う事!!!
私は、何回、間違いを犯したのだろう?
なんでイリスがこんな目にあわないといけないのだろう?
「ああ、けどこれはイリスと父さんと母さん、そしてテレスだけの秘密だぞ!」
ごめんなさい、約束を守れなくて、ごめんなさい
ごめんなさい、イリスを守れなくて、ごめんなさい
冒険者ギルド受付:
「お早うございます、これとこれとこの依頼を受けます」
同じ迷宮で達成できる高額の依頼を受ける。
「テレス、この依頼は六人PT推奨です、PTを組んでから受注してください」
「では、この依頼は抜きで他の依頼を受けるのでお願いします」
PTを組んだら報酬が減る。
「テレス!」
ウィリアムさんはいい人だ、心配してくれるのは嬉しい、けど邪魔だ!
「お願いします」
依頼の魔物を狩る、受けれなかった分の魔物の沸く場所へも行き狩る、PT推奨だけあって数が多い、攻撃を受ける、痛くない。
ボスの部屋にも寄る、先客が居るので順番を待つ間に回復薬を飲む。
順番が来た
「なあ、仲間がまだ来ていないなら、俺らが先に入っていいか?」
後ろの順番待ちのPTが聞いてくる。
「仲間は居ないから大丈夫」
ボス部屋へ入る。
背後で何かを叫んでいるが、扉が閉まる。
そのまま歩みを止めず部屋の奥へと進む、目の前に魔物が湧く。
一番近い敵に拳撃を打ち込む、手首まで埋まったその体を一番遠くの敵に投げつつ震脚!
ズンッ!
周囲の敵に衝撃が入り動きが止まる、敵は全て人型、右の敵の顎を拳で砕きつつ体当たりで背後の敵へ吹き飛ばす、左の敵が剣で斬りかかって来たのを避けつつ頭に腕を絡め捻る。
見えない刃が迫る、音のみで速度と位置を判断し手刀を振り下ろす。
ザンッ!
そのままダッシュで魔法を放った敵に近づき血まみれの拳でその頭を砕く。
混乱している敵に歩み寄り、下から掌底で、ゴッ!、敵を浮かし頭を掴み床へと叩きつける。
脱出用の魔法陣と宝箱が沸く。
回復薬で体力を回復しつつ、格闘術のスキル金剛を発動し、宝箱の蓋を蹴り飛ばす。
毒針が宝箱を中心に広範囲へと噴射される。
毒消しを飲みつつ宝箱の中身を回収し、部屋の外へと向かう。
既に依頼の品は回収できている、ウィリアムさんが居なければPT用の依頼も受けてその場で納品しよう、後は回復薬が尽きるまでボス部屋を周回する。
「まじかよ、、、」
「ソロ?、嘘でしょ?」
「あいつ格闘家だろ、宝箱開いてるぞ、罠解除スキルを持ってるのか?」
内勁で体力を回復しつつ順番を待つ。
誰も話しかけるものはいない、彼女がテレスだと言うことを分かっている冒険者も居るが、話掛けられない。
真っ赤なのだ、どのような戦い方をしたらその様になるのか、どれだけ戦えばその様になるのか、尋常じゃない。
狂っている。
彼女がボス部屋から出てくるたびに、冒険者が減っていく。
一緒に居たくないのだ、扉が開くたびにボス部屋で彼女が何をしているかが何となく推測できる。
敵とまともに殴り合い、宝箱は罠の発動を気にせず開けている、どんな方法かは分からないが明らかに爆発の罠を発動させて戻ってきた事もある。
正気ではない、狂っている。
狂気は伝染する。
冒険者はそういうものには敏感だ、一緒に居るべきではない。
しばらくすると迷宮にはテレスのみになる。
効率よくボスが狩れて丁度いい。