ファンタジー探偵先生 2
「先生! 先生仕事ですよ!」
朝、寝ぐせも直さずに部屋でコーンフレークを食べていると衛兵くんが血相を変えて居間にやって来た。暇なのか忙しいのかわからないが、僕にはまあどっちでもいい。
「……いいかね衛兵くん。僕は今一日のうちで三番目に重要な食事である朝食を摂っているんだ。どうせ僕が行ったら全部解決するんだから急がなくていいのでは?」
「それがですね、先生」
まるで世界の終わりがやって来ましたみたいな顔をして、衛兵くんは青色の目を伏せながらなるほど大事なことを僕に告げた。
「被害者、後ろから殴られたみたいなんですよ」
「それで、被害者の顔はわからないと?」
『ええ、俺着替えてたら後ろから殴られて死んじゃったんですよ……』
そうだよね、と僕は思う。部屋の状況から察するに、寝る前にパジャマから着替えている時に後ろから花瓶で殴られているのぐらいわかる。誰でもわかる。誰でもわかるから、僕は衛兵に朝食を邪魔された訳で。
「犯人の顔は見てないのかね?」
『ええ、後ろから殴られましたから。おかしいですねえ、鍵はかけていたはずなんだけどなあ』
「……まぬけ」
思わず言葉が漏れる。仕事を増やしちゃって、もう。
「先生、それはちょっとひどいんじゃあ……」
『ごめんなさい……でも、そうなんですよ。俺、婚約者にも間抜けって言われてて』
「へえ、婚約者がいるんですか。いいですねえ」
何が嬉しいのか、衛兵くんがニコニコしながら話に割って入る。
『いやほんとう、可愛いくてよく気がつく子なんですよ? この間なんて部屋の合鍵渡したら、部屋の隅まで掃除してくれていて』
「いいなあ、合鍵渡しちゃうような仲なんですかあ?」
『ええ、世界で一人彼女だけです』
「えっ、じゃあその婚約者が犯人じゃん」
僕は当然の結末を、なんともまあどうでもいいことみたいに言い当てた。
「それで、犯人は婚約者だったのかね?」
「ええ、あっさり白状しました。他に好きな人が出来たとか」
まあ、よくある話である。僕がわざわざ出向く必要が無かったと思うが、それでもまあお金が貰えるんだから良しとするしか無い。
「しかし悲しいですね。信頼している婚約者に裏切られるなんて……」
だからこそ、よくある話。誰よりも死人という裏切られた人たちと会っているからこそ、僕にはそう言い切れる根拠がある。
だから僕はそんな話の総評より、ずっと気になることがあった。
「ところで衛兵くん、どうやって僕の部屋に入ったのかね?」
そう尋ねると衛兵くんは一目散で逃げ出して、もう見えなくなってしまった。
――帰ったら、大家さんに相談しよう。