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変化の果てに  作者: 夜霧_〆
case1 俺と友人と日常と
6/7

 朝食を食べ終えて、食器を食器洗浄機にぶち込んで後はボタン一つ。

 器械が人間の代わりに頑張ってくれている間にさっとダイニングとリビングの掃除をして、学ランの上に袖を通す。

 そうしている間に詩は今日が回収日のゴミ袋を抱えて外へと駆けていく。四季は一応は手伝おうとしてくれたようだが、我が妹の「四季さんはまだここに慣れてないだろうから今日はゆっくりしていてください」との言葉でのんびりと座っていた。

 俺としてもこういうのは追々覚えてくれればいいし、別に口うるさく手伝えと言うつもりはない。最低限自分の部屋だけは自分で綺麗にしろと言うぐらいである。部屋が魔窟と化していたら流石に怒るけどな。

 そうして二十分の余裕を残して朝の家事は終了。ほうっと息を吐いて自分の部屋から鞄を持って来て、リビングのソファに腰を下ろす。弁当は既に包んでリビングまで持って着ている。

 詩は友達と約束してるからーと元気に家を出て行った。数学の勉強を教えてもらうらしい。良い心がけだ。俺の友人に爪の垢を煎じて飲ませたい。飲ませたところでアイツは変わらないんだろうけど。

 四季は床に直接座って凄い速さで文字を打ち続けている。それが誰かとやり取りしているのか、それともただなんでもないことを書き連ねているだけなのかは分からないけれど。

 制服は見慣れた黒だ。と言うか俺と同じものだ。女子なら女子制服着ればいいのにそうはしないらしい。その傍らにはシンプルなスクールバックが置かれている。


 「……制服、それでいいんだ」

 「あ? ああ……まぁ基本男子生徒と同じように扱ってもらうことになってるからな。その辺の希望を聞いてもらえる世の中だ。やりやすいもんだぜ」


 ポツリと無意識に零れていたらしい言葉に四季が顔を上げる。小馬鹿にするような言葉に俺は思わず苦笑いを浮かべる。そんな変な希望を通したのは四季が初めてだろう。

 最近は治安の悪化による影響で、偽名を使ったり性別を偽ったりする家もあるらしいけど今までは回りにいなかったし。そもそも大人たちは治安の悪化だなんだって騒いでいるけれど、俺にはぴんと来ないのが実情だ。平和に暮らしてんだから。


 「……そーいや、そろそろ時間じゃねぇの」


 そういって四季はスッと立ち上がる。その声に反応して壁にかけられた時計を見上げれば、その針は七時五十分を指していた。確かにそろそろ出ないとまずいか……。

 包んだ弁当のうちの一つを四季に手渡して、もう一つを自分の鞄に仕舞えば、弁当を受け取った四季が目をぱちくりさせて俺のことを見てくる。その目が暗になんだこれとでも言っているようにしか思えず俺はため息をついた。


 「弁当だよ。それとも買って食うつもりだったか? 学校の購買はしょっぱいから当てにしねー方がいいぞ」

 「いや……別に。まさか弁当なんて渡されるとは思わなかったからよ。冷凍食品か?」

 「……残念だったな。冷凍という点は否定しねーけど、作り置きだ」


 主婦かよなんて笑って弁当箱を鞄に仕舞う四季にうるせぇと言葉を返して、玄関へと向かう。


 「にしても双葉くんはマメな奴なんだな」

 「は? つか双葉?」

 「頭のてっぺん、昨日も今日も2箇所だけ跳ねてっから双葉。んでまぁ、流石に男子高生に弁当を渡されるとは思わなかった俺の感想な。正直その辺のことはあの妹がやってんだと思ってたわ」


 からからと笑いながら四季はそういう。残念ながらキッチンは俺の城である。というか俺の母さんは何も話してねぇのかよ。半ば呆れながら短い廊下を歩いて玄関へ。妹の趣味で靴箱の上に並べられている可愛らしい小物を見つつ自分の靴を取り出す。スニーカー派の俺に対して四季はローファー派らしい。

 しかも綺麗に手入れされている。靴もこうやって丁寧に手入れしてもらえりゃ幸せかもなぁ。俺だけじゃなくお前もマメ何じゃねぇかなんて内心呟きつつ、玄関の扉を開く。

 扉を開いてすぐに差し込んでくる日差しに思わず目を細めて、四季に外に出るように促す。この時間は井戸端会議の奥様方が増えてくる時間帯で、あちこちに談笑する近所のおば様たちの姿がある。外に出た四季はジロリとそれを見た瞬間、ニコリと人当たりのいい笑みを浮かべた。

 しっかりと戸締りをしたことを確認して歩き出す。のんびりとした町並みは、いつもと何一つ変わらずにそこに広がっている。

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