Ⅲ
なんだか一人増えただけなのに食卓が全く別のものに感じるから不思議だ。……まぁ長いこと詩と二人きりで食事をすることのほうが多かったのだから仕方がないことなんだけど。
詩はちらちらと浅葱さんを見ながら落ち着かない様子で、それとは対照的に浅葱さんはなんでもないような顔でスープに口をつけている。さっき俺がジロジロ見てたときはあからさまに不愉快そうな顔してたのに……。
そんな事を考えながらご飯を口の中に放り込む。日本人はやはり白米だ。パンとかよりご飯がしっくりくる。いくら食べても不思議と飽きないしな。
「ねぇ、お兄ちゃん。それでこの人は……?」
静かな食卓の中、浅葱さんを気にしながらも食事を勧めていた詩がついに耐え切れなくなったとでも言うように声をだす。
浅葱さんも手を止めて詩を見て、そしてそのまま視線を俺にずらしてくる。ああ、紹介しろってことね……。
「うんと……この人は浅葱 四季さん。うーんと……」
「その四季さんがなんで家にいるの?」
俺たちを護衛するように母さん達に雇われた何でも屋さんだ、そう続けようとして言葉に詰まる。……詩に伝えてもいいことなんだろうか? 詩は不思議そうな顔で俺と浅葱さんの顔を交互に見ていた。
俺にはあっさりとネタバラシと称して口調を崩した浅葱さんが詩の前では丁寧な言葉を使っている。まだそこまで口を開いていないだけだといわれてしまえばそれまでだが……。
そう考え込む俺の耳に小さく息を吐く音が飛び込んでくる。浅葱さんだ。困ったような笑みを浮かべて詩を見ている。
「僕は今まで両親と海外で暮らしていたのですが、向こうで両親が亡くなってしまいまして……。向こうには親戚もいませんから父と母の知り合いでした黒井夫妻……貴方方のお父さん、お母さんに頼って、ここに住まわせていただくことになったんです。高校卒業までの間、ですけどね」
「そう、なんですか……。えっと、私は黒井 詩、です。何か困ったことがあったら言ってくださいね!」
浅葱さんの言葉に、詩が申し訳なさそうな顔をする。まぁ両親が死んだといわれてしまえばそういう反応をするのもしかたがないのかもしれない。……それが嘘だってことを俺は知ってるんだけど……。
命を狙われてるなんて妹に言ってへんな不安を与えたくないし、俺は特に何も言わないでおく。……俺もまだ浅葱さんの言葉を飲み込めたわけじゃないし。
明るく笑って浅葱さんに言葉をかける詩に浅葱さんが笑みを返しているのを見て、俺はただただため息をつくことしか出来なかった。