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変化の果てに  作者: 夜霧_〆
case0 非日常の世界にこんにちは
2/7

 ため息をついて立ち上がる。もう考えても無駄だ。料理に逃げよう。何とかなる、何とかなるさきっと。


 「飯用意するから、好きに寛いでいてくれ。嫌いなもんあるか?」

 「……順応早いのな。もっとテンパると思ってたぜ? 嫌いなもんはそうだな……ファーストフードとかそういうのじゃなけりゃ特にねーよ」

 「正直混乱してるけどまぁ、何とかなんだろ。流石に晩飯にファーストフードはねーから安心しろ」


 後ろから聞こえる楽観的、なんて呟きを無視して俺はダイニングへ。そのままキッチンの中に入り込んで、そういえばと携帯を開く。

 学校帰ってきてから確認してなかったから気付かなかったけど、妹からメールが来ていた。書かれているのは一言。グラタン食べたい。……アイツ面倒くさいもの注文してきやがって。そんな事を考えながらも俺はその注文には逆らわない。

 メニュー決まらずに迷うよりマシだ。とっとと用意してしまおう。グラタンだけだとあれだから付け合せにサラダと、かぼちゃのスープも作るか。うわ、余っても弁当に詰めにくいメニューになった。

 グラタンに入れるのは……ベーコンとマカロニに……あ鶏肉も中途半端に余ってるから使っちまうか。


 「さて、少し急がねーとな」


 時計を見上げ妹が帰ってくるであろう時間を予想する。メールしてきたってことは今日は早めに部活を切り上げて帰ってくるのだろう。腹減ったまま待たせるのも可哀想だから完成させて待っててやらないとな。

 妹に家に着く十分前に連絡しろとメールしてから調理に取り掛かかった。

                **

 そして一時間後。パタパタと音を立ててキッチンに妹が飛びこんで来ると同時、綺麗に焼き色のついたグラタンが完成した。他の料理は既に完成しているので、もういつでも食べられる状態だ。我ながら上々の出来。

 キッチンに飛び込んできた妹に目をやるとその顔一杯に驚愕の表情を浮かべて口をパクパクさせていた。……原因は何となく分かるからあえて触れないでおこう。


 「お帰り、ウタ。ご飯できてるぞ」

 「おおおお、お兄ちゃん!! そんなことより、リビングに超美形さんがいる!!」


 あ、知らない人じゃなくて美形さんって扱いなのね。やっぱり顔がいいって言うのは得だよなぁ。ほら、コレで家に居たのがブサメンだったら取りあえず通報するね。俺なら。妹も多分そうすると思う。

 取りあえず俺の目の前でわたわたと慌てて、何を血迷ったか救急車を呼ぼうとした妹の頭にチョップを一つお見舞いして取りあえず落ち着いてもらうことにする。これじゃあまともに紹介も出来ないからな。

 ……妹の扱いが、映りにくくなった昔のテレビのそれと同じだ? ……否定はしない。


 「取りあえず飯食いながら説明すっから手洗ってこい。オーケー?」

 「あう、チョップとか酷い……。あー、分かったから睨まないでよ! ちゃんと洗ってくるから」


 睨んだつもりは無かったのだが、わが妹にはそう見えてしまったらしい。あわあわと慌てて手を洗いに行く。

 そんな様子を見届けてから俺はため息をついてリビングに浅葱さんを呼びにいく。そういえば寛いで良いっていったけど、何してんだろ? 流石にソファ占領して寝てるとかはないと思うけど。バカな俺の友人じゃあるまいし。

 リビングの入り口から中を覗き込む。浅葱さんは先ほどの場所から動いていない。ここからは詳しくはは見えないけれど、何かを操作しているようだ。その表情は酷くつまらなそうもので。


 「おー理系ゴリラ。ああ、確認した。アレでいいて低燃費系女子に伝えとけ」


 ふと弄っていたらしい端末を耳に当てて電話を始める浅葱さん。……盗み聞きじゃない。タイミングが掴めなかっただけだ、不可抗力不可抗力。

 というか内容よりも理系ゴリラが一体なんなのかを教えて欲しい。低燃費系女子は何となく分かるが理系ゴリラって何だ。電話相手のことか? ただの悪口じゃねぇか。


 「分かってるよ、俺がそんなヘマすると思うか? ……そー言うこと。じゃ後は頼んだぜ、一応お前のことは信用してるんだから」


 くつりと浅葱さんが笑う。アレだ、男を手の上で転がして楽しんでる悪女の顔だ。この前の昼ドラで見た女そっくり。まぁ浅葱さんはまだ俺の中では性別不明なんですけどね。

 そんな事を考えていると浅葱さんが携帯を耳から離してこっちを見た。あ……ヤベ、バレた。いやでもこれ不可抗力だしうん……。大丈夫、セーフセーフ。

 じぃっと俺を見ていた浅葱さんはやがて心底呆れたような顔をしてこちらに歩いてくる。


 「何? ジロジロ見られんのウゼーんだけど」

 「あ、ああ……悪い。飯、出来たから呼びに来たんだ。ダイニングまで案内するよ」

 「……ああ、頼んだ」


 頼んだと言いながらもさほど興味なさ気な表情の浅葱さんにちょっとした不安を覚えながら歩き出す。ちゃんと付いて来てくれてるよな? 迷子になる程広い家ではないけど、ダイニングについた後にはぐれてること発覚したらめんどいからな……。

 後ろから聞こえる足音に気を払いながらリビングまでの短い道を歩いて、そのドアを開く。中に入るように促せば、浅葱さんは深くため息をついた後、ふっと笑みを浮かべた。

 初めのような人畜無害そうな笑み。思わず首を傾げれば席に座っている詩の姿が目に入る。……ああなる程、俺にはネタバラシしたけど詩にはまだしてないってことなのかな。

 この人初めの挨拶とその後の変化具合から見るに相当な猫かぶりの使い手っぽいし。


 「えーっと浅葱さんはそこの席を使ってくれ。詩準備有難うな」


 浅葱さんに席を指定して詩の頭を撫でる。俺が浅葱さんを呼びに言っている間にテーブルの上に料理を並べておいてくれたらしい。

 しっかりとご飯まで装ってある。自分の席……詩の横に腰を下ろして息を吐く。因みに浅葱さんには詩の正面に座っていただいた。


 「じゃあ、いただきます」


 小さく手を合わせて呟けば、戸惑ったような詩の声と柔らかな浅葱さんの声が続いた。

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